第39回(9.6配信)440
ぼくたちのテーブルは、あっという間に男性2人に対して、女性9人。周りから見ても異常なアン・バランス。そのうえ、ガヤガヤ、ワイワイの盛り上がり。
女の子は、9人とも、みんな個性豊か。可愛い子もいれば、美人タイプもいる。ロング・ヘアもあれば、ショート・ヘアもある。髪の色も服装もさまざま。いっちしているのは、若さがあふれ、個々に美しく輝いていることだ。
どんどん食べ、グイグイ飲む。その間に質問がくる。
「あなた、バルコ(船員)?」
「ノ(いや)」
「じゃあ、ビジネス・マン?」
「ノ、ツリスタ(旅行者さ)」
「すごーい、お金持ちなんだ!」
この手の内容に答えるのは、たいへん難しい。彼女から見れば、遊んで暮らしているから、金持ち。でも日本的感覚からすると、すごく貧乏になる。
「フィリピンでしょ」
おきまりの質問が来た。スペイン語を操るアジア人となるとフィリピン人とすぐに浮かぶのも無理はない。
「ノ、チリーナ(チリ人)」
彼女らは、一瞬キョットンとした顔をし、すぐに冗談とわかって、ゲラゲラ笑いだした。旅行中、よく中国人とか東南アジアの人と間違えられた。始めは、どこか面白くなくて、ハポネス(日本人)だぞ、日本人なんだとムッとして反発したが、いまは、滞在している国の名を名乗ることにしている。
「セニョール、1枚いかがですか」
カリマス髭の男が貫禄のあるカメラを首からさげ、笑い顔で迫ってきた。返事をする前に女の子たちに、ウワッと取り囲まれた。フラッシュが
光る。つぎつぎと女の子が入れ替わり、キャキャ騒ぎながら写真におさまる。ひととおり撮り終わったころ写真屋が何か女の子たちに言った。
ウノ(1)、ドス(2)、シエントス(100)、ミル(1000)などの数字がみだれ飛ぶ。何を言っているのか、よくわからない。しばらくもめた後、女の子のひとりが、
「パガール、ポルファ ボール(お金を払ってあげて)」
と、ぼくを見たので、状況が飲み込めた。写真代の交渉をしてくれていたのだ。1枚150エスクードで10枚分、1500エスクードを払う。
写真屋は、お金を受け取るとそのまま別の客の方に行ってしまった。ヒロによれば、撮影した写真は、今度来たときに渡してくれるらしい。もしもう来なかったら、一緒に写っている女の子がもらうという。
それにしても、値切るのがなかなか困難なチリにあって、500エスクード(日本円で1000円。ヤミ交換の紙幣だと100円弱)の写真代を3分の1くらいにしてしまう女の子たちのパワーはすごい。敵にまわしたら恐ろしい連中である。
第40回(9.9配信)438
7月25日(水)・・入国12日目・・正午過ぎに目覚めた。ディスコ・ホリブルからホテルに帰ってきたのは、午前さま。ディスコで金をいくら使ったのか、よく覚えていない。じゅうぶんに楽しかったからよしとしよう。
及川を誘って、ホテルの1階にある中国レストランで昼食。散歩がてら街なかにくりだした。今日も晴れてて気持ちがいい。
ビクトリア公園のわきにしゃれた感じのブテックがあった。店内は、若い女の子たちでごったがえっている。品物はかなり豊富。及川が、この店は、かなり安くて、いいものがそろっている(彼は、日本で高級衣料関係に勤めていた)というので、ほんとうにそうなのであろう。
及川は、パンタロンを作るため、布地(記憶では、ライト・ブルーとワイン・レッドのストライブ?)を買った。
そのとき、偶然、同じ布地を抱えている女性と目があったのである。
お互いに同じ時間に同じ布地を手にいれたことに驚いていた。
及川は好みが共通で親近感を感じたのであろう。こっちも二人、むこうも二人連れ。気安くお茶に誘ったが、彼女の女友達の方が気乗りがしない様子。お茶は一緒に飲めなかったが、立ち話はできた。
彼女は、女子大の学生で高級避暑地、ビニア・デ・マルに両親と住んでいる。バルパライソには、布地を買いに、たまたま来ただけ。
ビニア・デ・マルに住み、大学に行けるのは、金持ち玲嬢のあかし。なるほど、そう思えば、着ているものも垢抜けているし、気のせいか雰囲気が、いままで会って来た女の子たちとは、どことなく違う。
別れ際に、彼女(マリア・エレナ)は、住所と電話番号を気軽るに教えてくれた。思いがけず連絡先を手に入れた及川の上気した顔がいまも思い出される。
第41回(9.13配信)434
7月26日(木)・・入国13日目・・夕方5時過ぎ、ヒロとビニヤ・デ・マルにあるカジノに向かった。
ビニヤ・デ・マル(外国の要人を歓迎する大統領の別荘をはじめ、チリの著名な財閥、大金持ちの豪華な別荘、最新の設備を誇る野外音楽堂、美術館、博物館がある。住むことがステータスとなる緑り豊かな場所、ときの政治もここから始まるといわれるほど、チリの経済に関係が深い)の入り口は、タクシーで20分ほど海岸線を走ったところだ。
森に包まれた小高い丘の上が、ポッと明るい。近づくにつれ、暗い夜空にスペインの古城を思わせる宮殿風の建物が浮かびあがってくる。カジノは、まさにその中で行われている。
古城に着くと、圧倒された。モザイク模様の舗装が施された、だだ広い駐車場には、サンチャゴでもあまり出会わなかったベンツ、プジョ、ファイアット、ルノー、オメロ、ジャガー、トヨタ、日産、名前のよくわからない高級車がひしめきあっている。あでやかにドレスアップした婦人や正装の男性が、つぎつぎと入り口に吸いこまれていく。
大理石の階段を登る、回転ドアを押すと金モールのボーイが笑顔で迎えてくれた。
「あまり派手に賭けるなよ」
ヒロの忠告にうなずいたものの、ふところはさびしい。なんとか補てんしたい。気持ちは高ぶっている。
第42回(9.16配信)430
天井の豪華なシャンデリアが眩しい。ギャンブル場は、不思議な活気に満ちていた。ハイテンポな曲が絶え間無く流れる。カラーライトが、回転や点滅を繰り返す。カクテル・ガールがワインやウィスキーのサービスにいきかう。
背広をパリッと着こなした男たちに寄りそう女性たち、派手な化粧、おしげもなく露出した肩や背中の白い肌が目をひく。
ラフな服装の外国人(ぼくたち)を除けば、すべてが高級感があふれている。
ゲーム台はルーレットが3台、ブラック・ジャックが十数台、バカラが2台。透明なガラスの大きな球の中に、80までの番号をつけてピンポン玉をいれ、空気で吹き上げて、はきだされたピンポン玉の番号で当たりを決めるキノ・ゲームが1台。なかなかの設備だ。
これらにスロットル・マシンとクラップス(サイコロを2個ふってでた目の数で勝負を決める)が加われば、ヨーロッパの一流カジノに劣らない。
チップを握ってゲームを覗く。若いディラーが象牙の小玉を入れ、ルーレットの台をまわしている。1から38の数字の上には、赤、青、黄色を始めとする7色のチップスが積み重ねられ、数字がでるたびにどよめきが起こる。太い首に金のネックレスを何重にも巻いた婦人が片メガネの奥の瞳をこらす。扇状に並べられたブラック・ジャックの台には、水兵やナイトドレスで着飾った婦人たちが群がっている。勝負がつくたびに歓声やため息が沸きあがる。
「オッ、やっぱりいる」
ヒロが小さくつぶやいた。