香港国際警察(2004・香港)

 この作品は、見る前から肩入れしたくなる気持ちを抑えきれなかった。「カンフー・ハッスル」を見てジャッキーのカンフー映画への郷愁が甦ったこともある。最近のジャッキーのハリウッド出演作がどれもこれも胸ときめかないこともある。しかも、この作品の上映館の少なさ。かつてのジャッキー映画といえば、大規模な公開が当たり前であった。それが、この作品は都内の繁華街でも上映しているところが少ない。新宿でも渋谷でも池袋でも上映されていない。このことがまた、私をこの映画に肩入れさせる。

 同時に不安もあった。1954年生まれのジャッキー・チェンは、この映画の公開当時50歳である。恐らく往年のアクションは見られず、活きのいい若手をフィーチャーして、ジャッキー自身は前面に出てこないのではないかと。映画が始まる。酔っ払ったジャッキーが道に嘔吐するシーン。この演技にまず驚いた。きちんとゲロを吐いている。こんな痛々しい演技をジャッキーが見せてくれるとは思わなかった。驚くと同時に新たな不安も芽生えた。もしかしてジャッキーは演技派の称号が欲しいのではないか?コメディ俳優が、年を重ねて欲しがるように。

 しかし、不安はすべて杞憂に終わった。CGに慣れきった私は、人間の肉体を駆使したアクションに無我夢中になった。手に汗握り、スクリーンを食い入るように見つめ、終わったときにホッと息をつく。それが「アクションシーン」であったことを思い出させてくれた。決して、「これはCGだ」と思うものではなかったことを。確かにジャッキーも年をとった。アップになれば、目尻を始め、寄る年波を感じさせる。アクションもかつてのようなキレと比較すれば落ちている。だが、それはジャッキーの軌跡として、むしろ映画にプラスの効果を与えている。ジャッキーが50歳になってもなお、並のアクション映画など及びもつかないアクションを見せてくれることが私たちに証明してくれる。そして、何よりも映画としておもしろいアクションであることがひたすらうれしい。

 映画は時の流れを感じさせるものとなっている。戦う相手は自分の子供といってもいいくらいの連中だ。ゲーム感覚で警官隊を殺す彼らと対決する冒頭のシーンでは、ジャッキーはこてんぱんにしてやられる。スクリーンに映し出されたゲームの画面を無我夢中で撃つジャッキーの姿は悲しい。それはまるでCG全盛になった世界のアクション映画にジャッキーがしてやられる姿をみるかようだ。そんなジャッキーを励まし、立ち上がらせるのもまた、自分の子供といってもいいくらいの男だ。彼は、無条件にジャッキーを応援し、アクションシーンではジャッキーの見本を踏襲するようにアクションをこなす。

 この映画はジャッキーのすべてを肯定している。悪役の子供たちが、親の愛情を得られないために悪の道に走っていったのとは対照的に、ジャッキーを父親のように慕う男は、ジャッキーに憧れて今に至っている。ジャッキーを慕う男は、バスを使った最高級のアクションシーンが終わった後、ジャッキーに向かって叫ぶ。「さすが俺のヒーロー!」と。このバスを使ったアクションシーンの素晴らしさに、久々にアクションの楽しさを満喫した後に出てくるこのセリフは、まるで私の気持ちを代弁してくれたかのようだった。

 ジャッキーの素晴らしさを称えるこの映画が、ただそれだけであったならば、それはただの自己満足なだけに終わっていたことだろう。この映画はそうではない。そのことが最も重要なのだ。この映画は、素晴らしいのだ。

 アクションシーンの素晴らしさはすでに書いた。50歳の俳優が見せてくれるアクションシーンは、過去のジャッキーの映画と比較すれば劣るが、現在の世界のアクション映画の基準からすれば、群を抜いている。というよりも、ジャッキー以外に出来る人間がいないのだから、唯一無二の存在として光っている。ジャッキーの映画といえば、コメディの要素も強い。この映画ではコメディの要素は抑えられているが、ある。お約束的なギャグは、シリアスな展開ゆえに、やたらと面白く感じられた。そして、何よりもストーリーである。ジャッキーの映画といえば、アクションシーンと、ギャグは覚えているが、ストーリーは3ヶ月くらい経てばすっかり忘れてしまうようなものが多かった。この作品のストーリーはよく練られている。

 たとえば、婚約者に爆弾を仕掛けられるシーンだ。詳しくはこれから見る人もいるかもしれないので書かないが、ここにはサスペンスと、ドラマがある。いや、サスペンスがあるからこそドラマは高まり、ドラマがあるからこそサスペンスも高まる。しかも、ここでの結末は、ラストの伏線となる。このラストでは、私は涙した。まさか、ジャッキー・チェンの映画で泣くことがあるとは思いもしなかった。もし、あるとしたら、ジャッキーのアクションの素晴らしさに感動してだろうと思っていた。だが、私は映画の内容そのものに見事に泣かされてしまった。

 ジャッキーの新境地。この映画はそう言いきっていいだろう。しかもそれは、演技派に転進してとかいったものではない。今まで出演してきたアクション映画、いやジャッキー・チェンにしか作り得ない「ジャッキー映画」の延長線上にある新境地だ。今出来うる限りのアクションと、お約束のギャグに加えて、心を揺さぶるストーリーをプラスした新境地である。

 私たちは映画人を簡単に「終わった」とか、「もうだめだ」とか言って片付ける。しかし、この映画のジャッキーにはそんな言葉を寄せ付けない強さがある。あらゆる肩入れも必要とせず、あらゆる不安も一掃させる強さがある。これまで積み重ねてきた映画の数々(それだけで、もうジャッキーは永久に称えられるべき存在だ)に、50歳にして新境地を開いてみせた姿は、感動的といわずしてなんと言おうか。かつて、ジャッキーの映画が好きで見ていた人にはこの映画を是非見て欲しい。見終わった後、こう思うだろう。「さすが俺たちのヒーロー!」と。ヒーローは現在進行形だ。

 映画を見た後、ロビーで同じ回を見ていたと思われるグループが会話をしていた。映画のおもしろさについて語っていた彼らの1人が言った。「俺、ジャッキーのDVD全部買うわ!」。なぜだかとってもうれしくて、その日2回目の涙をこぼすところだった。