レイ(2004・米)
この映画で最も印象に残るのは何か?それは音楽である。レイ・チャールズ自身による数々の曲は、何よりも私の胸に残った。ジェイミー・フォックスのそっくりぶりも、レイ・チャールズの抱えていたトラウマも、女好きも、ドラッグ中毒も、人種差別への抵抗も、それぞれもちろん印象に残っている。しかし、「最も」印象に残ったのは音楽だった。
映画は、幼い頃から成功を収めて、トラウマと麻薬中毒を同時に克服するまでを描いている。それ以降は、レイ・チャールズの晴れの舞台ともいえるジョージア州議会で、「我が心のジョージア」が州歌に選ばれるシーンを除いて描かれない。それは、誰もが知っているレイ・チャールズの部分だからなのだろう。レイ・チャールズの抱えていたトラウマも、麻薬中毒も映画で描かれてきた話としても、その描かれ方も凡庸だ。描かれてはいるが、ドラマとしては機能していない。同時に描かれている女好きの部分はドラマとして機能している。その違いは何か?それは、トラウマや麻薬中毒が音楽と直接関わっているように描かれていないが、女好きは音楽と直接関わっているからだ。
後に妻となる女性と出会った喜びをもとに、「アイヴ・ガッタ・ウーマン」は作られる。愛人との関係の状況によって、新曲の内容は変化していく。実際にどうだったのかはわからない。ただ、この映画の中では、レイ・チャールズの女性関係と音楽はリンクして描かれており、それゆえに女性関係の部分が面白く感じられた。
物語の中盤で、これまでのヒットした路線ではなく、カントリーを中心にライブを行うシーンがある。ライブ当日、客席からはヒット曲をリクエストする声が場内に響く。それは、レイ・チャールズが演奏を始めても続く。客席を静めようと、スタッフの一人が客席側のライトを落とす。すると、客席は静かになり、レイ・チャールズの歌声に耳を傾けるようになり、やがて喝采へと変わる。ライブ後、レイ・チャールズはそのことを知り、言う。「これこそが、仕事だ!」と。レイ・チャールズの音楽を聞かせるためには、命令されていないこともする。それこそが仕事なのだと。
監督・製作を努めたテイラー・ハックフォードは、レイ・チャールズの大ファンらしい。もちろん、レイ・チャールズ自身のファンでもあるだろう。だが、それ以前にレイ・チャールズの音楽のファンだからこそ、企画から15年もの歳月がかかっても映画化したのだろう。そんな、テイラー・ハックフォードはこの映画で観客の目が(耳が)レイ・チャールズの音楽に向くように作っている。もしかしたら、それは意図した上でのことではないのかもしれない。たまたまなのかもしれないが、レイ・チャールズの人となりの部分のドラマは薄く、音楽に関する部分は厚く作られているように思える。何よりも、レイ・チャールズはミュージシャンだ。だから、当然のこととして、彼に興味を持ってもらうためには、彼の音楽に興味を持ってもらわなければならない。そのことに、ハックフォードは成功している。その意味で、ハックフォードがやったことは、「これこそが、仕事だ!」といえるかもしれない。
ミュージシャンが主役の映画は、本人よりも音楽がメインでなくてはウソなのかもしれない。その意味で、この映画は真にミュージシャンが主役の映画といえるだろう。だから、ジェイミー・フォックスはこの映画においては助演といってもいいだろう。主演は?レイ・チャールズの音楽だ。
日本のミュージシャンであるYOSHII LOVINSONは、自らの歌の中で「ジョン(レノン)は、天国にいるんじゃない。レコードの中にいるんだよ」と歌っている。それは、1つの真実であるのだろう。ミュージシャンだから歌や曲があるのではなく、歌や曲があるからミュージシャンなのだとしたら、ミュージシャンはすべからく歌や曲が存在するところにいるのだ。その意味で、この映画の中には確かにレイ・チャールズの音楽がある。ということは、レイ・チャールズがいるということだ。「レイ・チャールズは天国にいるんじゃない。『レイ』の中にいるんだよ」といっても良い。
この映画は、レイ・チャールズを取り上げて、何か別の事を語ろうとした映画ではない。レイ・チャールズは語っている。「ソウルは生き方だ。だが、それはいつでも困難な道だ」と。レイ・チャールズが歌ったソウルはこの映画に息づいている。ということは、レイ・チャールズの生き方を語ったということになりはしないだろうか。伝記映画とは、ただある人物の生きた道を辿ることではないということをこの映画は教えてくれる。
成功作だろう。レイ・チャールズの音楽をこれだけ詰め込んで、その魅力をいかんなく描いてみせたのだから。だが、この映画の本当の成功は、サントラやレイ・チャールズのCDの売れ行きによって決まるのかもしれない(私は買った)。それくらい、この映画はレイ・チャールズの音楽に満ちている。すなわち、レイ・チャールズに満ちている。
(2005,4,10)