適性

(夢と妥協のさなかに)


適性・・・ここで言う適性とは、自分の人生と言うものの理想と現実との境目にあたるものをかいたものです。

有島武朗の「生まれいずる悩み」を読んでみるといたいほど、私が望んだり、思っている事がつずってあった。昔、「少年」だった登場人物。

少年は、本当は絵の道へすすみたかったが、家計を助けるために断念し、著者と始めて会った10年後、たくましいすがたで、立派な漁師として存在し、なおかつ、そんな慌しい日常の中でも、絵に対する思いを失う事はなかった。厳しい暮らしから、絵の具を買う事さえ出来なかったが、魚くさい脂ぎった手で、たまに、自然の風景を学童用の安い画用紙と鉛筆だけで書き上げて、つずったものを著者に送った。そして、会った。

私は小さい時、絶対に芸術家になりたいと思っていた。しかし、理想と現実は厳しく、少なくとも、私ぐらいの世代までの幼少時代、将来の夢を持っていない子供はいなかったであろう。それが、実際、達成できた人は本の一握りに過ぎないと思う。現実に飲みこまれて、いつしか夢への情熱も失い、流され・・・。

私は今、統合失調症と言う病気になり、作業所で、猫の額ほどにもならない工賃で作業をして、傍ら、母親を早くなくしたので家事をして暮らしているが、父が倒れた時、この、再発しやすい、社会に出る事が難しい病気を抱えながらも、自分の足でしっかりたって生きていきたいと思っている。

完全に自分の収入だけで暮らすのは無理な事であろうから、障害基礎年金を受給しながら、生活に足りない分だけ、細々と、何か、芸術とは全く異なる道で、例えば掃除とか、工場や、軽作業など病気の再発が私にとってしにくい仕事で掛け持ちしたりして、一見はたからはすさんだポジションにたって見えるかもしれないが、仕事は生きるための手段ときっぱり割りきって、たった一枚の手に入れた、「美術学士」とかかれた紙切れを胸に抱き、本職は芸術家よと自分を騙し、またそうであるとおもいこみ、てのすいた時間に絵をかきためたりしながら人生を最小限にでも心豊かに生きていきたいと思っている。

そのいき方は、上に述べた有島武朗の「生まれいずる悩み」に出てくる、元少年のような物で、私はむしろそんないき方を潔く、立派だと解し凄く共感を覚えている。かのゴッホだって、生前売れた絵はたった一枚だけだった。かれもまた晩年は、統合失調症だったと言われている。

すべからくして、私は、自分の人生を惨めだとか、負け犬などとは微塵にも思っていない。私はたくましく、正しく生きていくのだ。

人生は思いこみでどうにでも素晴らしくなる物。だから、私はこうだから・・・とかつての夢を捨てる事は好んだりしない。

同じく、病気でやりたかった事が途絶えてしまった人も、決して諦めて欲しくないのだ。大人になるという事は、夢を捨てる事ではなくて、人生を自分で作り上げていく物だと思っている。だから私はオリジナリティーに自分の人生をいきるのだ。ましてや、今は、インターネットなんてものが存在するから誰でもにわかにその中で夢をかなえることが出来る有りがたい社会だと捕らえる事も出来る。

本と言う物は有りがたい物である。昔は理解できなかった事も、大人に成ってから読み返せばよくみにしみてわかる事がある。

私は体当たりして自分でいたい目に会わないと人に言われてもわからないので、体当たりの人生を歩む事にもなるのかもしれない。

百聞は一見にしかず、なのである。

人は生きている限り、可能性に溢れているのだ。自分で負けをみとめない限り。

希望だけは捨てて欲しくない。

そして、私が凄く共感した抜粋を書いておこう。ここから---------

こうして2年3年と月日がたった。そしてどうかした拍子に君の事を思い出すと、私は人生の旅路の寂しさを味わった。一度とにかく顔を合わせて、ある程度まで心を触れ合ったどうしが、いったん別れたが最後、同じこの地球上に呼吸しながら、未来永劫またと巡り合わない・・・それはなんと言う不思議な寂しい、恐ろしい事だ。人とは言うまい、犬とでも、花とでも、塵とでもだ。孤独に親しみやすいくせに何処か殉情的で人なつっこい私の心は、どうしたか拍子に、このやむをえない人間の運命をしみじみと感じて深い憂鬱に襲われる。君も多くの人の中で私にそんな心持を起こさせる一人だった。

(中略)親身な、優しい、そして男らしい心に生まれた君は、黙ってこの有様を見て過ごす事は出来なくなった。君は君に近い物の生活のために、正しい汗を額に流すのを悔いたり恥じたりしてはいられなくなった。そして君はまっしぐらに労働生活の真っ只中に乗り出した。

(中略)パンのために勢力の有らん限りを用い尽くさねばならぬ十年-それは短い物ではない。それにもかかわらず、君は性格の中に植え込まれた憧憬を一刻も捨てなかったのだ。捨てる事が出来なかったのだ。

-----------ここまで-------(有島武朗「生まれいずる悩み」から抜粋。

 


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