●後ろ姿美人(2003.11.7)
街中をぷらぷら歩いていると、顔はわからないが、後ろ姿からはいかにも美人そうな女性が歩いていることがよくある。いわゆる「後ろ姿美人」というやつである。すれ違いざま、ほのかな香りを漂わせ、スカートはやや短く、あるいは曲線美を強調するかのようなタイトなパンツを履いて闊歩でもすれば、男は誰でも振り向くに違いない。振り向くというか、振り向いたときには、後ろ姿しかわからないのだから。
最近、俺は妙にこの手の後ろ姿美人をよく見かける。後ろ姿美人には、高いヒールか黒のブーツがなぜかよく似合う。網タイツを履いている場合も珍しくない。髪は、どんなに短くても肩あたりまでかかっていたりする。当然、髪の色も茶髪か金髪で、風が吹くと、ラックススーパーリッチのCMのごとく、ふわりとなびく。
女の顔は、どういう感じなのが美人なのかは、かなり意見が分かれるところだろう。しかし、後ろ姿だけであれば、美人の基準は極めて一定している。どういうわけか、体の線が強調されていて、少し派手めなほどよいのだ。
とはいうものの、後ろ姿美人については、正面の顔に関して欲を求めてはいけないという暗黙の了解のようなものがある。はっきり言えば、顔は見てはいけないのだ。というより、出来る限り見ないほうがよい。後ろ姿美人を見たとき、ほとんどの人には、後ろ姿を見た時点で既に自分の都合のいい妄想の美形が加わっているからだ。そんな妄想を抱く人が、後ろ姿美人の正面の顔など見たら、詐欺にあった気分になるだろう。もっとも、後ろ姿美人にさせられてしまっている女性にとっては全くいい迷惑だが。
悲惨な例を挙げよう。だいぶ前だが、知人がスーパーに買い物に行くために、自分のアパートから歩いて商店街に向かっていたときのことだ。歩いている道がやや狭く、少々人込みもあったせいか、道を通る自転車も歩くのと大して変わらないスピードで流れていた。
そこへ、ゆらりゆらりと自転車が知人のすぐ横をすり抜けて前に出て行った。知人の目に飛び込んだとき、その自転車に乗っていたのは、ほんの少し流れる風に長い綺麗な栗色の髪をなびかせ、ウエストは締まり、短めのチェック柄のスカートを履き、やや暗めのタイツを履いてママチャリのペダルを漕ぐ後ろ姿美人だった。知人はその姿に一瞬見とれ、思わず声をかけた。
「なーなー、キミどこ行くのー?」
半分からかいで半分ナンパのつもりもあったようだが、声をかけると、後ろ姿美人はすぐ止まり、キョトンとした様子で後ろを振り向いた。知人は、振り向いた後ろ姿美人の顔を見るなり、こうつぶやいた。
「あ、オバハンや…」
悪夢の瞬間である。顔はどう見てもまさにオバチャンだったのだが、格好が少しギャル系が入っていたのと、正面の顔を最初に見ていなかったばかりに、後ろ姿だけで妄想が出来上がっちまったらしい。少なくとも、ママチャリに乗っているという時点で、「異変」に気づくべきだったかもしれない。最近は40代でもミニスカの人たまにいるしね。
知人はいたたまれなくなってその場をすぐUターンし、ショックでその日はメシも食えなかったらしい。ホンマかいな…(^_^;)
ちなみにこの知人は、以前にも似たような目に遭ったそうだ。同じように街中を歩いていると、すぐ前をピンクの服を着た可愛らしい感じの漂う後ろ姿美人が歩いているのに気づいた。やはり後ろから、
「どこ行くのー? 時間ちょっとだけでいいんやけど」
とかなんとか声をかけた。すると、肝心の後ろ姿美人は立ち止まらず、全然関係ないすぐ横を歩いてた明らかにあんたオバハンやろという感じの女性が立ち止まり、知人のほうを振り向いたらしい。オマエが振り向いてどないすんねん!と文句の一つも言いたくなったかもしれんが…哀れよのぅ〜(T_T)
極端な例もある。この間俺が梅田のホワイティという地下街を歩いていたとき、すぐ横を早足で俺の横をすり抜けていった。長い黒髪をなびかせミニスカートに黒のブーツを履いたギャルっぽい後ろ姿美人を見かけたのだが、このときはすぐに異変に気づいた。反対側から歩いてくる人たちの反応が変なのだ。反対側からはその後ろ姿美人の顔を見るなり、笑い出すか不思議そうな顔をするかのどちらかなのだ。
しばらくして、その後ろ姿美人がUターン気味に横の道にそれていったときに、顔と正面の姿がはっきり見えたので、すぐに異変の正体がわかった。その後ろ姿美人は、女装した野郎だったんである。髪は正面から見ると明らかにヅラで、ひげも完全には剃ってないし、むしろ体毛が濃そうだった。やっぱし、後ろ姿美人は妄想の一種なのだとつくづく思ったよ。(-_-;)