後輩へ


オックスフォード留学の心得

これからオックスフォードで学ぶ人へ

留学に際し、皆さんそれぞれに課題を持っていると思いますが、修学終盤を迎えた私自身の限られた経験と反省を踏まえて、これから留学を控えた皆さんが新鮮な気持ちで学習に臨まれることを期待し、以下所感として記します。

まず、「イギリス留学」ということの贅沢について。

既にある程度使える言葉の学習をするということは、語学のさらなる向上を目指す、ということのみならず大学(それも「国際大会」レベルの)での勉学から得られるものを付加価値として体得することを期待されているわけで、家庭教師や語学学校で学習をするのとは違う苦労を覚悟する、ということです。また、世界中の人間が使う言葉を話すというのは、すなわち、イギリスの人間だけを相手にするのではなく、オックスフォードのように世界から集まる人間を相手にしなければならない、ということです。いずれにしても、楽ではありません。

また、同じ英語の学習でもアメリカ留学と異なるのは、世界の中心かつ重要な同盟国を斜めから相対視できる、という利点です。色々な意味でアメリカからは見えにくい「ヨーロッパ的」センス(交錯した歴史・文化に対する感度、マルチへの繊細さ、哲学・政治思想史の理解、地政学のセンス、第三世界への視点、英語の訛りetc)を学ぶのは、今後アメリカと仕事をするうえでも、大切なことだと思います。

基本的なスタンスや環境について。

留学を始めるにあたって「適応」能力ということを実感されたと思いますが、その後さらに要求されるのは「軌道修正」能力です。ある程度の年齢になると、子供のように無邪気・柔軟に現地適応するわけにはいきません。物事に対する自分なりの態度や方法論がある程度確立している我々の年齢の人間にとっては、新しい環境に面して、新たな問題を発掘し、自分の設定する目標の適切さを見直し、現実的な手段を試行錯誤する、という絶えざる「軌道修正」が必要だと感じています。現状に甘んじることなく、また自分の限界を見切ることなく、常に新鮮な気持ちをもって、それでいて達成可能なゴールを設定する…という姿勢をこれからも大切にして下さい。

もう一つ、基本的なことで大切かな、と思っているのは、留学地で安定した社会的ネットワーク(友達、地元の知り合いetc)を持っておく、ということです。故郷の家族・友人から遠く離れているばかりか、大学街というのはとても人工的な空間で、学期と休業期間での生活の変化は大きく、また派遣された留学生という自分達の特殊な身分のせいもあり、安定した人間関係を維持することが案外容易ではないな、という感想を持ったことがあります。この地で培った友情や地元の知り合いを大切にして、大いに深めて下さい。

イギリスから何を学ぶか。

高坂正尭はイギリス的資質として「会話の巧みさ」と「孤独への強さ・忍耐力」というのを挙げていて、僕は共感しています。

落ち着いて配慮があり、相手の言い分も一応聞いて、建設的に、できればウィットも交え…という絵に画いたような会話ができ、それでいて鳥肌が立つようないやらしさを感じさせないのは、その人、個人としての核・強さというものがきちんと見えるからだと思います。会話というのは、表面的なものでも、またもちろん独白でもないので、当然、自分の主張と謙虚さ、相手に対する思いやりや建設的な態度というバランスを必要とするわけです。

孤独への強さ、忍耐力というのは、酒池肉林?状態の学生生活を見ると首をかしげたくなりますが、戦中派あたりの人間と話していると、肉体的な屈強さだけでなく、精神的な強さ、というものを感じると思います。「stiff upper lip」というやつです。植民地経営のため任地に単独で赴任しまたは戦線に赴く、そういうことのできる人間を育ててきた国だと感じさせます。この辺はやや体育会贔屓ですが、こういうself-disciplineの強さ、しぶとさも大事だと思います。そういうバランス感覚と、black-tieの見せかけの上品さに還元されない質実な強さを学ぼう、と僕は思っています。

大学で何を学ぶか。

オックスフォードで学ぶことというのは、専攻科目の他にもこれまた沢山あると思います。参考までに、大学のあるstudy skillでは学部生に求めることとして


1. initiative; 2. intellectual curiosity; 3. argumentative flair;
4. fluency; 5. responsiveness; 6. originality; 7. efficiency; 8. team work

と挙げています。

色々とカレッジのフェローを捕まえて訊ねてみてもよく返ってくる答えはintellectual agilityというものです。知識の習得のみならず、自分の足で考え、創造性のある発想を、できれば美しい英語で、かつ俊敏に応答することがチュートリアルで要求されていることを誰も実感していると思います。秀才を量産する(はずの)日本の大学とは異なり、膨大な情報を要領よく咀嚼し、部下をorchestrateできる植民地官吏、官僚、経営者、法律家…を育てるためのシステムで学べることも貴重な経験だと思います(「階級」の是非はともかく)。

オックスフォードで得ることのもう一つの大切な側面は人的コネクションです。情報は人を通じて入ってくる、ということを実感します。直接仕事で役に立つかはともかく、個人的な知り合いのつながりを大切に育てて下さい。カレッジ単位での知り合いにはやや偏重がある気がしますが(例:我がSt Edmund Hallのundergradはラグビー専攻のイギリス人とシンガポールの官費留学生ばかり…)、イギリスの将来の指導層がどういう人間なのか、実感をつかんで下さい。St John’s, Magdalen, Merton, Balliol, University, etc.出来のいいカレッジでのセミナー等に顔を出すと雰囲気が分かると思います。

イギリス人のみならず外国からの留学生とのつながりができるのもまた大切なことです。多くはRhodes, Marshall等の奨学生や官費留学生で、有能なばかりか人格的にもバランスのとれた人間が(案外)います。こういう連中同士はつながりが広く(かつ強く)、コスモポリタンなエリートの世界がいかに狭いか実感すると思います。それだけにexclusiveでもあり、常に「品定め」の目で観察し合うのは(自分の頭の悪さを見せ付けられるだけでなく)疲れるときもありますが…。また、アメリカを始め、英語圏諸国とのつながり、西欧各国、東欧・旧ソ連諸国、中東・アジア・アフリカ…という広い文脈の中でイギリスを理解することにもつながると思います。

人とのつながりを得るうえで大切なのは、「contributeできる人間」であることだと感じています。接点を活かしてオリジナルかつ建設的な付加価値を生み出せる人間というのが存在感もあり、一目置かれるようです。こういうのは、「ぬるま湯サークル」に所属していれば済むという日本の雰囲気とは、少なくとも外国人の我々にとっては、随分違います。

大学での生活というのはやはり学業が中心で、人間関係もそれが中心にまわりがちです。知的好奇心に応じて様々な分野の講義、セミナー、著名人の講演なども、時間の許す限り、参加することを勧めます。

大学で勉強する科目については、コース毎に学ぶことが多くあると思います。アカデミズムのアメリカ化が浸透する中、オックスフォードがどうやってraison d’etreを再構築しようとしているか、演出しようとしている「イギリスらしさ」をよく観察し、その真髄に触れて色々と考えてみて下さい。

その他注意すること。というか僕の反省。

オックスフォード大学というのは、’Rhodes House’に見られるように「英語圏」のハブでありながら、それでもやはりイギリスの一側面にしか過ぎません。イギリス社会の他の様々な側面にも親しむ機会を持つといいと思います。

日本との接点を失わないこと。イギリスは日本のみならず、東アジア情勢との接点があまり濃厚ではなく、(特にオックスフォードでは)「英語圏」だけが世界のような発想につい順応しがちですが、一方で日本で起こっている変化についても注意を払うようにして下さい。

イギリスと欧州との関係を学ぶこと。上記の点と関連して、通貨統合、CFSP等が大西洋の対岸とのバランスをとりながらどう進展してゆくか、イギリス人がヨーロッパ大陸をどう見ているか、歴史的変遷、文化の微妙な違いなど関心を持つといいと思います。余裕のある人はフランス語を学ぶ(=さらに斜めからアメリカを見る?)、EUについて勉強する、ブリュッセルに見学に行くetc。

語学の勉強という観点からは、ある程度滞在期間が経過すると、語学の上達が「頭打ち」になるのと生活環境が軌道にのり落ち着くのとが相俟って、次のレベルを目指す努力が殊更必要になると思います。大学のコースの枠内に留まらず、様々な環境に出てその都度違う質の英語を試す、というenterpriseを維持して下さい。社会人の知り合いを作るとか、フォーマルな状況で話す場を作るとか、人前で話す機会を増やすとか…。

というわけで色々書いてみましたが、留学期間をさらに充実したものにされることを願ってます。僕らの同世代の人間は、普通は誰も実社会の第一線で悪戦苦闘し、あるいは職を探していたり徴兵されていたりしているわけで、…留学期間の自由は本当に貴重です。このprivilegeを是非活かして、ますますパワフルになって下さい。

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