第3回(H13.12.12)
    まずニッパーを持って!


     さて、複葉機である。なにが問題なのか、モデラー以外にはさっぱりわからんだろう。モデラーでもわからんかもしれん。世の中にはこれに手を出したら人間おしまい、てゆう模型のジャンルがあって、それはフィギュアでもなければ鉄道模型でもない(後者はそうかも)。五重塔と帆船模型だ。五重塔ってのはよく模型雑誌の後ろに載ってるアレである。全パーツ木製で接着剤を一切使わないアレである。ガラスケースつきでどこに飾んだよと突っ込みたくなるようなサイズのアレである。金閣寺とか中尊寺金堂とかバリエーションもあったりするけど、基本はどこのだかわからんがとにかく五重になってる塔のアレである。帆船模型は説明するまでもない。ロープ張りで一生を棒に振るんじゃないかと思うくらい、あれは恐ろしいものである。ボトルシップに至ってはマゾじゃなきゃできんだろう。ロープとマゾ。当然と云えば当然であるな。
     複葉機モデルの問題は、この帆船模型に通じるところがある。なんて書くと帆船模型ファンにバカにされるだろうが、複葉機には張線張りってゆう儀式があるのだ。当時の写真やレプリカを見ればわかるが、鋼鉄の時代が訪れるまでのヒコーキは、補強のために支柱間に張線を張り巡らしていた。さらに操縦索(主に補助翼の操作で使うワイヤ)が機体の外側に出ていたりするのだから、モデラーにとってはたまったものではない。2次大戦の空軍機ではせいぜい無線アンテナ用に1、2本ワイヤを張るだけで済むけども、20年前となると張線の比較的少ないドイツですら20本余り、やたら操縦索をむき出しにしたがるイギリス機にいたっては平均で40本を超える。
     こーゆうのはまじめにとりあっては命がいくつあっても足りないものなのだが、まったく無視するとえらくしまりのないモデルができあがってしまうので、いかに手を抜きながら雰囲気を出していくか、が鍵となる。ついでに云えばこの時代の資料は少なくて、カラーリングやマーキングで悩むことが少なくない。わずかに保存されている実機のペイントや、海外では割と豊富に出ている文字資料とモノクロ写真の濃淡をつきあわせてカラーリングを再現していく。これはもう考古学の世界だ。そこを詰めていくモデラー連中もいることにはいるが、まあはっきり云って、粘液質と鬱病持ちにはおすすめできない。ところでわたくしは原則的に脳天気だが、いっつもA型だと間違われるタイプなので、何度うどんで首括ろうかと思ったことか。


    エアフィクスの1/72キット「アルバトロスD.Va」の全パッケージ。大味である。
     今回の敵は外国産のモデルである。複葉機のモデルで国産ものは極めて少ない。つうかソードフィッシュと赤トンボ以外にあるのか?(注:あとで探したらそこそこあった。)
     日本のプラモデルというのはたいへんよくできていて、ランナーからパーツをむしり取って接合面にセメントを塗りたくり、組立説明書の図解通りにべたべたはっつけていけば、一応、それらしいモデルができあがる。これは極めてガキっぽい、早く完成型がみてえっつうせっかちな態度であって、およそモデラーの風上にもおけない人種なのだが、わたくしぴったしその手合いで、色塗りを覚えてからも組立前に塗装するクセはほとんどつかなかった。ましてバリ取りヤスリ掛けなんて技術は、第1次モデラー人生が終わる寸前に知ったことだ。その感覚で複葉機モデルに手を出した。15年ぶりとはいえ、大体の作業手順は覚えている。外国製モデルのいい加減さも大体わかってる。そんな了見でとりかかってみれば、なにもかもが懐かしい、じゃなくて新しい発見の連続なのであった。
     ここで外国のプラモデルに手を出そうとしているわたくし並みにあまちゃんのモデラー諸氏にわたくしの経験を伝えておきたい。まず部品点数が少ない割に値段が張るのは致し方ないとして、射出の甘さにびっくりする。どこまでがランナーでどこからがパーツなのかわからんくらいだ。もちろんバリはデフォルトでもれなくついてくる。型抜きかよと悪態もつきたくなる。次に解説書を見てびっくりする。組立工程が段階を追って図示されていれば君は幸運だ。なかには完成図から3次元方向に全パーツを離して描いてるだけの判じ物みたいなやつ1枚だけってのもあって、恐ろしいことに取付の矢印はもちろんパーツ番号すら振られてない。これは立派なパズルである。
     気を取り直してパーツを切り離し、仮組みをしてみよう。合わない。合わないのである。だいたいダボがついてることさえ稀である。おまけについてても役に立たないことが多い。胴体ならまだしも、ふつう、垂直尾翼を取り付けるのにダボ穴くらいあってもよさそうなものだが、それもない。幅1mm程度のてきとーな平面(当然デフォで平面ではない、自分で平面にするのである)に、これまたてきとーな裁断面をもった尾翼を立てるのだ。接着剤があるっつっても、十円玉を立てるより難しいぞ。なんとか接合したところであっちが飛び出りゃこっちも飛び出てんだから、パテとヤスリがお友達だ。ヒコーキの場合、そう再生に手間のかかるモールドは少ないから(航空機は別だ)、成形を優先してがんがん削ってしまう。長さや比率が現物と違うのはよくあることで、なかにはこれをスクラッチで修正する向きもあるが、俺にそんな余裕はない。モデルのなかにはわざと比率を現物と違えたものがあって、そのほうが本物っぽく見えるのだそうだ。これはスケール差による立体視の変化のためだが、ここで詳しく話しているあたまも余裕もない。
     そのモールドだが、これが目の玉が飛び出るくらい省略されてたりするので、よけい惜しい感じがしないのには泣けてくる。前にビッグワンガムの話をしたけれど、あれくらいのモールドさえついていないこともあるのだ。エンジンや機銃などのメタルパーツってのが別売されている理由がよく判る。まあ、モールドの甘さには目をつむるとして、コクピットの中ががらんどうだったり、翼間支柱が1本もなかったりするので腰を抜かす。前者はキット自体がフォローしてないのだから、気になる場合(だいたいキャノピーなんてない時代の飛行機だ、フィギュアでも乗せない限り気にはなる)プラ板等で自作する。後者は後者なりに曲者で、説明書の隅っこに支柱のテンプレートなるものが描いてあったりして、要は自分で切り出せってことだ。この支柱、成形されていたとしてもダボがついてないことが多く、ただでさえか弱い支柱に重い上翼を固定するのは至難の業だ。もちろん、ダボがあっても変な位置や角度にあけられたりして、結局役に立たなかったりする。どのみちタミヤやハセガワのセメントでは用を為さないので、文字通りの瞬間接着剤を片手に、必要に応じてパテで補強しながら合わせてゆく。
     そんな代物をなんとか切り貼りしてヒコーキの面影がでてくるとこれはこれで気持ちがいい。もとよりヒコーキなんだから、胴体に羽をぶっちがいに重ねればでかたちにはなるんだが、そんなつまらない茶々を入れる前に張線を張る。これは穴をあけてテグスや釣り糸を通すのがセオリーである。わたくしは手抜きで0.3ミリピアノ線なんか使ってみたりするが、1/72スケールだと実機になおして直径2サンチ強はちと太いかも。まあ、雰囲気なのだからそれでもいい。張線を張って塗装(これは組み上げ前に大体やっとくのが基本ではある。ではあるのだが・・・)でおしまい。まあ、すこしくらいはウエザリングなどやってみる。墨入れにしろウエザリングにしろ、通は下地と別系統の塗料(例えば下地がアクリル系ならエナメル系で)で丁寧にやるものだが、わたくしにそんな根性はないのでモノホンの墨と水彩絵の具を使う。これだと失敗してもすぐに拭き取れるので便利である。どうせ完成品は丁寧に扱うのだから、油性塗料じゃなくてもなんとかなるもんだ。

     こうして15年ぶりの復帰第1作目はできあがったわけである。まあ、三つ子の魂百までという理由がよく判る。下地づくりや仕上げにちょっと精を出してみたものの、結果から見りゃあんまり進歩してないんだものさ。タイトルはレンブラントのもじり。

    同じ1/72フォッカーDr.Iのキット組立説明図を比べてみる。
    上は老舗のエアフィクス(イギリス)で、下がローデン(ウクライナ。この国のトーコーというブランドも番地は違うがキエフ市所在で、パッケージングがローデンとまるきり同じなので、元締めは一緒だと思われる)。同じ機体でもこんだけパーツ分けが違う。特にコクピットの作りが雲泥の差だ。1/72スケールでラダー操作フットバーまで再現するかふつう。ローデンのは日本製品並に細かいので、割と新しいメーカーかも知れないし、もしかすると日本製の金型を使っているのかも知れない。

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