第6回(H14.1.26)
    呪われた表徴の帝国


     第6回だよ、なに書くんだよ。

     今回は過去の亡霊の話をしよう。ヴィルケの乗機を作るきっかけにもなった事件だ。いや、事件なんてもんじゃないんだけど。ああもちろん、ヴォルフがわたくしの夢枕に立って、おれのエミールを作れえ、と呟いたわけでもないよ。そっち系統のお話を期待した人にはすまんが、相変わらず政治的な話だ。
     すべての話は、マルセイユの乗機を作ろうとしたことから始まる。最初タミヤのBf109-E4/7 Trop.を買ってきたのだが、手許の資料にヨッヘンが使ったエミール(E型)の塗装図がなかった。しょうがないのでF型を探してみたのが、意外と見つからない。エクスペルテンのなかではマルセイユは一番の有名どころだから、捌けるのが早いんだろうか。ハセガワのエミールとグスタフ(G型)は各種揃ってるのに、フリードリヒ(F型)だけ抜けている。そうしたらロシアのAモデルってとこがずばりF4型熱帯仕様マルセイユ乗機ってのを出していて、とりあえずこいつを買ってみた。制作の顛末はマルセイユのところに書いた通りだ。
     問題はここからである。いや、問題、なんてでっかい話じゃなんだけどさ。あるときタミヤのエミールの組立説明書を眺めていて、違和感を感じた。なんか変だ。アカデミーという韓国メーカーのグスタフキットも入手してあったので、そっちの説明書を眺めてみると、やっぱりおかしい。Aモデルの説明書を見て気が付いた。タミヤとアカデミーのマーキング説明図では、垂直尾翼のハーケンクロイツが図示されていないのだ。あとで調べたら、ハセガワにもなかった。そして示し合わせたように、完成写真はおろかパッケージアートですら、鉤十字を描いていないのである。デカールにはちゃんと鉤十字があるのにも拘わらず、図では菱形で貼り位置を示しているだけ。エアフィクスに至ってはデカールすらなかった。キットはガーラントの乗機だってのに、尾翼だけのっぺらぼうなのだ。ハーケンクロイツのないルフトヴァッフェなんて、つまのない刺身ではないか?
     つまり、ヨーロッパのナチスアレルギーは、ここまで重症だってことだ。とりわけドイツでは、ナチスを想定する徽章・標章を公の場で掲げた場合、豚箱確定、焼き鳥ご祝儀もつこうというもの。勲章ですら正当な理由(歴史研究目的)なくしては所持することも許されない。純粋なコレクションは御法度なのだ。だからかの地でネオナチに参画するってのは、本邦で極右武闘派や赤色過激派に所属するよりも重大な反社会行為なのである。ハセガワやタミヤ、そしてアカデミーも、欧州圏に販売している以上、そんなかれらの細やかな神経を引き裂くわけにはいかない。そりゃそうだよな、企業だもん。ナチスを文字通り力ずくで粉砕したソビエトロシアのAモデルだけが、堂々とキットにもマーキング図にもハーケンクロイツを描いているのを見るにつけ、文明は人間の精神を確実に蝕んでいくと思わざるを得ない。西欧は没落しつつあるのではなく、もはや病床にあって末期の水を待つばかりの重篤患者なのである。
     なお、かつてのフィンランド空軍の国籍標識は青い鈎十字であり、これは独立戦争の義勇兵フォン・ルーセン伯爵家の幸運の印だった。もちろん、ナチスとはまるで関係ないのだが、戦後見事に禁止されて現行の標識(ラウンデル)に変わっている。ハセガワのキット(ブファロー)で見た限り、デカールには入ってはいるものの、やはり取説図ではただの白円で表示されており、パッケージイラストでも描かれていない。

     ところでタイトルはロラン・バルトのもじりなんですが、判りましたか? いや、それこそなんも関係ないんだけどさ。
     左の上からタミヤ、アカデミー(韓)、ハセガワ、Aモデル(露)の塗装図。Aモデルを除き、みんな菱形で図示しており、厭でも具体的な絵は描きたくないようだ。アカデミーのデカールには黒い菱形だけがあり、エアフィクス(英)とイタレリ(伊)に至ってはデカールにも鈎十字は存在しない。日本が愚かなのか、ほかが神経質なのか。
     右上のアカデミーのイラストでは、ハーケンクロイツの収まるべき場所にバルカンクロイツを描いてお茶を濁している。その下のハセガワの完成写真はハルトマンの1943年秋の乗機だが、鈎十字がすっぽりと抜け落ちている。右下の写真が実機のスナップで、ハルトマンのよりかかっているのが、モデルになっているメッサーシュミットG6だ。ハーケンクロイツが垂直尾翼にはっきりと描かれているのが判る。当たり前だよな。

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