第7回
(H14.4.6)
第1次大戦と飛行機
前回からだいぶ間があいた。ここらで少し硬い話をしてみようか。
多くの人にとって、飛行機の歴史はライト兄弟の発明から、一気に第1次大戦の末期あるいは大戦間時代──飛行機の黄金時代と呼ばれる──にとんでしまい、あとは第2次大戦とその後の時代っつうくらいの大雑把な把握に終わる。だからというわけでないが、飛行機は複葉レシプロ機(WWI)、単葉レシプロ機(WWII)、そして単葉ジェット機と段階を追って発展してきたように思えるのだが、それは正しくない。ライト・フライヤー号を始めとし、1次大戦前夜、そして大戦中に活躍した多くの機体は確かに複葉機であったが、大戦初期において軍用機史に新たなページを加えることとなった両陣営の制空用飛行機(戦闘機)は、単葉機だったのである。しかし最低でもエンジンとパイロットのふたつだけでも飛ばすには、当時のエンジンは非力に過ぎた。まっすぐ飛ぶ以外に空中での運動──それも激しい運動を機銃を担いで行うことが要求され、結局、もっとも設計者を悩ませていた操縦性の問題において、主翼を2枚にすることが手っ取り早い解決策だったのに過ぎない。
すでに1次大戦でその全種類が登場した飛行機の基本形態、単葉機、複葉機、それに航空機史の異端児でもある三葉機は、それぞれMonoplane、Biplane、Triplaneと云う。大変判りやすい造語である。これにSesquiplaneという単語が加わるのだが、この極めて専門用語じみた言葉は一般の辞書には載っていない。sesqui-は1.5倍を意味する接頭辞であり、1.5倍の平面を持つ飛行機とはつまり、一葉半式の飛行機(ニューポールやアルバトロス)のことである。だが、複葉機が乱舞する1次大戦中にあってドイツがフォッカーE.IIIで始めた単葉戦闘機の意義は、休戦間際に再びフォッカーD.VIIIとユンカースD.Iでその優れた能力を証明され、やがて大戦間時代という狂騒時代Les annes foliesを挟んで、本格的な全金属製単葉機の全盛期へつながってゆくのである。
ということで今回は、言葉の方から飛行機、特に軍用機の話をしようと思う。しばしば忘れ去られることだが、言葉は生きており、時代のはやりすたりによって新語が生まれ、旧語は消えてゆく。同じ単語でも別の意味が付加され、やがて後付けの意味が主流となることも多くある。
当たり前のことだが「飛行機」というのは日本語で、空を飛ぶ装置の大部分を包含しており、英語ではAeroplaneとかAirplaneと綴る。これは乱暴に云ってしまえば「空中の平面」であり、これからもヘリコプターや飛行船は含まれないことが判る。よく「飛行機」の訳語をあてられる単語にAircraftというのがあるが、こちらこそが「飛行機械」であって、空を飛ぶ人工物ならなんでも含む(飛行船もUFOもエアクラフトだ)から、言葉の厳密な意味においては、こっちのほうが正確な応対である(一番正確なのは、近代航空史のもっとも初期に存在したFlying machineという言葉である)。しかし、ふつう日本人は「飛行機」という言葉から、オートジャイロや気球を想像はしない。われわれにとっての「飛行機」とは、翼を持たない「飛行機械」を語感として含んでいないので、最初の応対が意味上正しい訳となろう。
いっぽう「航空機」という言葉があって、これも空飛ぶ機械を意味しているのだが、こちらはより現代的な語感で使用される。これに応対するべき英語はAviationだ。Aviationは「航空」一般を指し、特に産業や軍用機を意味している。フランス語ではAviation(アヴィアシオン)といい、より「航空機」に近い言葉としてはAvion(アヴィオン)がある。もはや死語であるAeroplane(アエロプラーン)はむしろ、「ひこうき」であろう。ちなみにわたくしがここのサイトで飛行機Aeroplaneと航空機Avionをわざと区別しているのは、別に言葉の厳密な意味からそうしているのではなく、ただ単に言葉を文意伝達の記号Signifiantでなく情感を伴った対象そのものSignifieとして扱う困った性癖のせいであるので、あまり気にしないように。
さて、ここからは、主に1次大戦時のドイツにおける飛行機の軍事運用用語を見ていこうと思うのだが、書いててあんまり長くなったので次回からとする。前説だけでおわっちまったな。
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