第9回(H14.4.22)
    洋書を読んでみよう


     2次大戦の航空機に関する邦文資料は星の数あれど、1次大戦ものとなるとこれがないというに等しい。確かに前大戦にも参戦したとはいえ、それは大陸のはしっこや南太平洋でドイツ植民地軍を虐めただけのことだし、だいたい当時の日本軍がろくな飛行機も持ち合わせていなかった以上、この時代の飛行機に愛着が湧かないのも肯ける。今も昔も航空少年が憧れるのは銀翼の荒鷲であって、ジェットの時代は知らないけども、サカエとかホマレといった響きに、またナカジマやカワサキという言葉に、胸躍らせるのが至極まっとうなのだ。しかし、日本に飛行機がもたらされた当時、あるいはツェッペリン飛行船が霞ヶ浦に寄港したとき、イナガキ少年のように空飛ぶことを(と同時にそれが墜ちてゆくことをも)夢想した稚けな存在と同じ感覚を有つ存在が、21世紀を迎えたこの現代にも生きていないと誰が云えようか。
     前にも書いたが、わたくしは飛行機と航空機を恣意的に使い分ける。とりわけ「ヒコーキ」はただ空を飛ぶだけでなく、常に落下・墜落の必然性を伴った脆弱な存在でなくてはならない。と同時に「飛翔」という語感がわたくしたちに与える軽やかさ、風に乗りまた風を切るこの感覚を肌で感じ取れる存在、当然にも風に乗れなかったとき、あるいは風が止んだとき、重力に抗うすべもなくただ墜ちてゆくだけの存在、それが飛行機なのであり、飛行機とはそうでなくてはならないのだ。安全性を高めた航空機、重力に敢然と立ち向かう鋼鉄の鳥は、飛行機械ではあっても飛行機ではないのである。もちろん、そうは云っても便宜上、航空機を含めて飛行機と呼んでることもあるのだが――

     例によって観念的な前書きが長くなりそうなのでもう止める。今回は、海外文献を読んでみようのコーナーである。なんだ、結局硬い話かい。んまあ、そう面倒なことは書かないつもりなんだけどね。

     一番最初に書いたが、日本語で読める複葉機時代に関する文献は驚くほど少ない。もちろん一般の興味が薄いのだからして、「驚くほど」少ないわけじゃなく、少なくて当たり前なんだけどね。特にマーキング(カラーリング)に使える資料ともなると、最近ではグリーンアローから1冊、かつてはモデルアート誌の別冊で1冊あったに過ぎない(乱暴に云うと、だ。刊行年代の古い、探しにくい図書ならそこそこある)。だからとゆうわけでもないが、その昔から日本で複葉機模型を作ろうって連中の資料は、キットと同様海外ものと相場が決まっていた。なかでもウインドソックWINDSOCKのデータファイルやプロファイルのシリーズが定番中の定番で、まず誰でもこいつを手許において模型制作に取りかかったものである。ものであるって、その時代からやってたわけじゃないんだがな。
     講釈師見てきたような嘘をつき
     ウインドソックをはじめとする主要な1次大戦機資料本は、実機の写真のほかカラーリングの再現図、機体図面を掲載しており、わりにいい加減なキットが多かった当時はもちろんのこと、その生き残りか東欧の新生メーカー製キットが目に付く現在でも、大変便利で質の高い資料である。しかしいずれも第1集が最初に刊行されてからもうだいぶ長くシリーズを続けているため、バックナンバーを探すのに一苦労するし、見つかってもやけに高いという問題がある。模型一個作るのに何年もかけて資料を探すようなまねは絶対にしたくない、すーぱーお気楽もでらーのわたくしにはとうてい向いてない。そんなわたくしがお気楽な資料として現在利用しているのが、大日本絵画という出版社が2年前から邦訳を出し続けている、オスプレイの戦闘機エースシリーズAircraft of the Aces/Osprey Publishingである。2002年3月時点ですでに46冊が発行されているこのシリーズ、うち7冊が1次大戦関係だ(さらに2冊が夏までに刊行)。とはいっても、邦訳された巻(3月時点で20冊)はことごとく2次大戦関係で、しかも5月からはCombat AircraftとAviation Eliteの2シリーズと合わせて「オスプレイ軍用機シリーズ」に改題されるというから、前大戦ものはまず訳本にはならないだろう。かくて原書にあたらざるを得ないことになる。とまれこのシリーズは、まだ始まって10年も経たないものだから、バックナンバーも入手しやすいし、なにより小難しいシリーズではないので読み易い。写真・図版もウインドソック等に比べれば少ないし、そちこちに誤りが散見されるけれども、モノクロの写真からいちいち色彩を推定する必要もなく、カラー図版に並べられた各機体からお好みのカラーリングを選べばよいのがなんともお気楽だ。まあ、コクピット内部だとか、張線の張り筋、ラジエータや機銃周りなど細部詳細は写真から判断するしかないのだが。
     ところで、お気楽もでらーのくせに海外文献漁るなんてどこがお気楽やねん、と思うひともいるだろうが、わたくしにとっては伸ばしランナーを作ったり主翼のスパンを詰めたりするよか、洋書(英文)読む方がずっとお気楽なことなのだ。別段、英語が人よりできるわけではないよ。しかし言語ってえのはカンと慣れでどうにでもなるもので、単語の意味なんかわかんなくても読んでるうちに文章の意味は理解できるようになるもんだ。よく云われるように、米国のインテリ源ちゃん(っていまどき云わねえよな。知識層のことだ)の語彙数は1万語オーバーだが、平均的ホワイトカラーで7000語、いわゆる労働階級の語彙数に至っては2000語余りなのである。この最低ラインは実のところ、日本の中学校で習う単語数より僅かに多い程度だ。それでも日常会話が成り立っていることを考えると、いかにわがほうの英語教育がいい加減なものかがわかるが、本題はそこにはない。要は高校を卒業した程度であれば、気張らずとも英文なんざ読めるってことだ。確かに飛行機の、また軍用機の文献だから専門用語は多々出てくる。しかし小説じゃないのでそんなに凝った文体は使わないし、いくつか読んでるうちに記述のパターンとゆうものが判ってくる。あとは必要に応じて辞書をひいてみるだけで、ねっころがりながらでも読めるようになるだろう。頻出する専門用語や略語は別に一覧表を作ってみたから、機会があったら本にしろウエブサイトにしろ一読してみることをお勧めする。なんたって1次大戦の飛行機ものを扱っているところは、国内、そうないのだから。

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