僕の愛を君に
僕の愛を君に
胸いっぱいの愛を
ステージは大成功だった。
最後に乱入した僕らは、
「あたしの古い仲間を紹介するわ!」
というアスカのMCで、大歓声を持って迎えられた。
演奏自体の最後はめちゃくちゃになったけれど、最近では珍しくカヲルは弾きまくるし、アスカはそこらじゅうを跳ね回るし、観客には楽しんでもらえたようだった。
僕らの充実感は言うまでも無い。
そのハイテンションを維持したまま、メンバー全員で反省会になだれ込んだ。
「乾杯!」
「いやあ、面白かったなあ。どうしたんだよ、カヲル君、最近珍しいじゃないか。あんなに弾きまくるなんて」
「フッ、ギターはいいねえ。リリンの生み出した楽器の極みだよ。そう思わないかい、シンジ君」
「それにしても、アスカちゃん、随分綺麗になったなあ」
「何言ってるのよ、昔からでしょ。あたしの美貌に参らない男なんていないんだから」
「そうかい?そうでもないんじゃないのか、なあ、シンジ君」
「ブッ」
「何を赤くなっているんだい?」
「な、何よ!」
「もう時効だから、いいだろ。俺たち、このバンドに加入するときにさ」
「そうそう。アスカちゃんがさ、言うんだ」
『いいこと、このバンドはあたしとシンジのバンドなんだからね。いくら実力あるからって、勝手な真似は許さないわよ!』
シゲルがアスカの口真似をする。
「どわははははは・・あああっ何を!」
シゲルの頭上で、なみなみとビールを充たしたジョッキが逆さにされた。
「乱暴な人・・」
焼きそばから豚肉だけを器用によりわけながら、レイがつぶやいた。
ほとんど泥酔といっていい段階に突入しつつあるアスカが言った。
「大体ねえ、悪いのは全部シンジなんだから」
「そうそう、そうだよねえ、大体、鈍感すぎるんだよね」
調子を合わせるマコト。
「あたしがソロになる時だって、電話したのに、引きとめもしないんだからぁ」
「だって、あれは・・」
「そりゃ、シンジ君が悪い!」
長髪からビールを滴らせながら、シゲルがうなずいた。
「そうよぅ、あたしだってねえ、寂しかったんだから・・」
「そ、そりゃ、僕だって・・」
「よし、決めた!あたし、あんたのバンドに戻る!」
「えええええ!?」
「・・もう駄目なのね・・」
空のお銚子を山ほど、目の前に転がしたレイがつぶやいた。
「そ、そうだ!綾波はどうなるんだよ!」
「このバカシンジ!あたしが戻るって言ってるのに、嬉しくないわけ!?」
「それとこれとは話が・・」
「あんた!まさかシンジとデキてんじゃないでしょうね!」
びしっとレイを指差すアスカ。
「多分私で、3人目だと思うから・・」
「なっ、何ですってえええええ?」
「なっ、何を・・セリフ、間違ってるよ!」
「ヴォーカリストとして、よ?」
「そ、そ、そうだね。最初がケンスケで、次がアスカで、3人目がレイだから・・」
トロン、とした目で、レイがシンジにもたれ掛かった。
「私は・・碇君とひとつになりたいの・・心も体も、ひとつになりたいの・・だって、それはとても気持ちのいいことだから・・」
「おおおお、衝撃的な告白!」
無責任な外野がはやし立てる。
「何度も押し倒されたし・・」とレイ。
「それは違あああう!」
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!」
アスカの目が、凶悪な光を宿して、シンジを見据える。こうなっては量産型エヴァンゲリオンが束になってかかっても敵わない事をシンジはなぜかよく知っている。
「あなたは死なないわ。あたしが守るもの」
レイがますます密着の度合いを強める。
「あああ綾波ぃぃ、また、余計なことを・・」
「この浮気者おおお!」
アスカはもはや、生身で護衛艦でも持ち上げかねない勢いだ。
「無茶苦茶だよ!付き合っても無いのに、浮気も何もないじゃないか!」
「よおおおし、わかったわよ。あんたは今からあたしのモノ。あんたの全部、あたしのモノよ!」
「おおおおおおお、ひゅーひゅーどんどんどん!」
どうやら理性を保っている者は、もはや1人も居ないらしい。
「さあ、シンジ、キスするわよ!」
どんがらがらがちゃん、と食器やグラスを押わけてアスカが体を起こそうとするが、明らかにもう足に来ていた。
「ぶざまね」
レイの一言で再びアスカの闘志に火がついた。
「負けてらんないのよぉ!!あんたなんかにい!!」
それでも無理やり立ち上がったアスカだが、顔色はもう真っ青である。
「パターン青!来るぞ!」シゲルが叫ぶ。
「気持ち悪い・・・」
「シンジ君!急いで!」これはマコト。
「・・ううっぷ!」
僕はあわててアスカを抱えて、トイレに走った。
座敷の隅で、カヲルがレイの湯呑に、お銚子を注いでいた。
「君は僕と同じだね」
「私はあなたとは違うわ」
湯呑になみなみと注がれた日本酒を水のようにすすりながら、レイがつぶやいた。
「ごめんなさい。こういうときどんな顔をすればいいかわからないの」
「・・泣けばいいと思うよ」
間一髪で間に合った。
トイレについたとたん、アスカは僕を突き飛ばして、盛大に吐いた。
涙と鼻水と吐瀉物で顔をぐちゃぐちゃにしたアスカが、便座に向かってつぶやいた。
「最低だわ・・あたしって・・」
5分後、よろよろとアスカが出てきた。
顔を洗ったらしく、化粧も落ちていたけれど、相変わらず綺麗だった。
「まったく、とんでもないところ見せちゃったわね・・」
「問題ないよ・・ちょっと外の空気を吸おうか」
アスカが、僕の腕に体を寄せた。
「さっきのことは・・本気なんだからね」
「・・・」
外は満天の星空だった。
晩秋の空気は澄んで、ほてった肌を急激に冷やした。
「大丈夫?」
「頭、痛い・・」
自動販売機を見つけて、スポーツドリンクを買った。アスカに渡す。
「飲む?」
「うん、少し」
「アスカ、あの、さ」
「?」
「・・僕も・・アスカにずっと、会いたいと思ってた。・・その時の気持ちは本当だと、思うから」
「ね、さっきの続き、しようか」
「え・・」
「目を瞑って・・」
言われたとおりにしたとたん、アスカが体ごと、飛び込んできた・・
「私には他になにもないもの」
「そんな悲しいこと云うなよ」
というわけで、レイも頑なに脱退を拒んだため、なぜか僕のバンドは、2人の専任ヴォーカルを抱える、ハードロックバンドとしては前代未聞の編成になってしまった。
アスカのマネジメントとは揉めたけれど、ビジネス上のことは全部アスカが強引に押し切った。
機材車の後部座席は、僕とアスカの定位置になったので、体の大きなシゲルが助手席に移り、レイとカヲルは荷台に押しやられてしまった。それでも、レイとカヲルには不満はなさそうだ。
「なあ、そろそろ俺たちも、身を固めたほうがよさそうだよなあ」
ルームミラーをちらっと覗いたマコトが、シゲルにつぶやく。
「全く。・・でも、お前とは嫌だぞ」
「・・・」
「・・おい、黙るなよ!」
この奇妙なバンドに興味を示すレーベルもあり、再び契約が見えてきた。
そのあたりの交渉は、僕らのマネジメントを担当してくれることになった、アスカの元マネージャー、ヒカリが取り仕切ってくれているので安心だ。
それでも、まだまだ道のりは長そうだ。
僕らを乗せたポンコツ機材車は西へ東へ、今日も走っている。
おしまい
これは第2作です。第1作を作った後、それなりに好評をいただいたのでいい気になって書きました。
これはHelter Skelterの続編という形をとっておりますが、作者としては、「Helter Skelter」自体はあれで完結した話のつもりです。なので、このお話は作者自身による海賊版というか・・全く蛇足というほかない物語です。趣を変えてドタバタを目指しましたが、さて、いかがだったでしょうか。