暗闇の中、下から照らされた光に、ただ一人ゴーグルか、バイザーのようなものを"取り付けた"老人が、机に手を組み、目の前に立ち並ぶモノリス達と"会話"をしていた。彼らは世界を影から操ってきた者達。その存在は、ごく一部のものにしか知られていない。
「"鉄の乙女"は我らの願いの妨げとなったか。」
「あの娘は、我々の望み通りにならないばかりか、逆に牙を剥いてきましたからな。」
「元より、あの娘が"使えるモノ"と、期待していわけではありますまい。」
「たしかに。所詮小娘如きに、我々が期待するような働きが出来るはずもあるまい。」
「しかし、初号機パイロットがあのような行動に出るとは。」
「儀式に支障が出ますな。」
「いや、それはまだ早計ですぞ。我らがしもべたるエヴァシリーズの完全なる沈黙はない。」
「左様。それに、まだ、初号機とそのパイロットが完全に使い物にならなくなったわけではない。」
「確かに。一時的なものですな。」
「ならば、"鉄の乙女"には、我らの願いの妨げとなった報いと共に、"彼"への生贄とすればよい。」
「あの娘の自身の血を以ってして、初号機のパイロットの魂に楔を打ち込むのですかな?」
「欠けた魂でなくては、この儀式は完遂されぬ。」
「では、罪の購いと共に、儀式の生贄に"鉄の乙女"の血を。」
「…シンジ?」
何がどうなったのか、分からない。
ただ、目の前に、槍で腹部を貫かれた初号機の姿があった。
初号機は、槍に貫かれたまま、膝をつき、そのままうな垂れるように、その目から光を失った。
『し…初号機、活動停止…。』
マヤが動揺しながらも、モニターの結果を報告する。
その報告と共に、弐号機も力を失ったように肩を落として、その動きを止める。
「…なんで…なんで、シンジが…。」
初号機が槍で刺しぬかれて、その姿を見た直後に内部電源が切れ、突然、力を失ったように暗くなった弐号機の中で、アスカが呟く。
あまりに突然のことで、頭の中が空っぽになったような、そんな感じで、何も考えが浮かばなかった。
今、現実に起こった事は、シンジが、ロンギヌスの槍に貫かれそうになった弐号機を突き飛ばした。そして、代わりに初号機が槍に貫かれた。
しかし、アスカにとってそれは、現実味がなかった。彼女にとって今起こった事全てが、幻か何かのように感じた。
「アイツが…。そんなはず…ないわ…。」
操縦レバーを握り締めたまま、アスカは呻いた。
ミサトは発令所の中で、ことの様子を見ながら、慙愧の念に駆られる。
彼らを戦場に追い立てたのは自分だ。
しかし、今、戦場に送った一人が、倒れた。
たしかに余裕も何もなかった。この戦いは圧倒的にこちら側が不利だった。しかし、他にも手立てがあったんではなかったのか?
ミサトは司令塔の上部で直立不動に立っている冬月を見た。
彼は顔色を変えずに、モニターの映像を見つめている。
『…何これ?』
マヤが、モニターに映る"何か"を見て、虚を衝かれたような、そんな声を上げた。
『…エヴァシリーズが…』
マヤの声色が変る。
『…エヴァシリーズ、活動再開…!!』
アスカはマヤからの通信でハッと我に返った。
…活動再開!?そんなはずは…。
確かに自分は、確実に量産機を仕留めたはずだった。
使徒であっても、致命傷を与えれば、それ以上は侵攻しないでそのまま自爆するか、停止してしまうか、どちらかだった。それが動き出すなど…。
アスカはハッとした。
何時か何処かで聞いた事がある。"生命の実を得たモノ"は、"不死身"になると。S2機関を備えた量産機なら…。
さらに、"ヤツラ"は、ヒトの心を持ってない。ダミープラグ。ただの人の考えのフェイク。人の本能の部分に、戦うイメージと老人達の思惑のみが刷り込まれただけのモノ。老人たちの願いの妨げになるものや、不要なモノをなんの躊躇もなく排除する。
排除されるとしたら、初号機と自分…。いや、裏切り、そして悪あがきをした、彼女の方を、だ。
「…ダメぇっ!!殺られるっ!!」
アスカは操縦レバーを何度も引っ張りあげた。しかし、弐号機はびくとも動かない。アスカは何度も何度もレバーを引っ張り上げ、喚く。
「動けっ!!動けぇっ!!動けぇぇっ!!こんちくしょぉっ!!」
しかし、弐号機は動かない。
「こんな所で終るのは、イヤぁっ!!」
アスカが叫ぶ。
倒されたはずの量産機は、切断された胴体も、腕も、まるで最初からそんな傷がないかのように、それぞれ動き出す。
首を切られた機体は、切り落とされた頭部は不気味に笑い、胴はぐねぐねと蠢く。
胴を切られた機体などは、上半身のみでその背にある羽根を広げ始めた。他の量産機も同様に、背の羽根を広げる。
そして量産機達は、一斉に飛び発った。
「…まさか、留めをさすつもりなの?」
ミサトが呻く。そしてマヤに向かって叫んだ。
「…初号機と弐号機のエントリープラグを強制射出!!なるべくこの場所から離れた場所にプラグのロケットを飛ばせるだけ飛ばして!!」
マヤがモニターから排出信号を送る。
ミサトはマヤから日向に向き直り、静かに言った。
「…もう、終わりよ。ここの起爆装置を作動させて。」
「…分かってます。サードインパクトを起こされるよりマシですからね。」
「ありがとう。」
「こ、これは…!?」
モニターとコントロールパネルを確認していた青葉が突然声を上げた。
「どうしたの?」
「エヴァシリーズ、全機、弐号機に向かっています!!」
「…何ですって!?」
ミサトが目を見開いて声を上げた。
「…駄目です!!初号機、弐号機共に、排出信号を受け付けません!!」
マヤが追い討ちをかけるように、報告をする。
「?!」
ミサトが声も上げられず、愕然とする。
量産機の巨大な身体には、ヒトではとても耐えられないような痛々しい傷が残っていた。しかし、その身体全体が、中枢神経を持った動物と違った、まるで軟体動物のように蠢き、彼らの傷の存在を忘れさせるような動きをさせる。
羽根を広げた一機が、初号機の前に降り立ち、腹部に突き刺さった槍を引き抜き、そのまま弐号機の元へとやってくる。
他の量産機は、ロンギヌスの槍に貫かれた初号機の存在などなかったかのように、それまで各々が手にしていた"剣"、今は形を変えて"槍"になったモノを拾い上げて、弐号機の周りに集まる。
『アスカっ!!逃げて!!早くっっ!!!』
モニターしていたマヤが、回線に向かって叫ぶ。
量産機は、動かなくなった弐号機の首を掴み上げる。
エネルギーが切れて外の風景を映し出さなくなったエヴァ弐号機のエントリープラグの中で、エヴァと繋がった感覚も、何もかもなくしたアスカに、突然、首を掴まれるような感覚が沸き起こる。
暗くなった弐号機のエントリープラグの中で、にわかに、外との風景が蘇る。アスカの目の前には、凶悪に身体を蠢かした量産機の群が、彼女の周りに集まって、その一機が自分の首を掴み上げている様子が映し出される。彼女の視覚的な感覚が弐号機の目と繋がる。
自分は囲まれている。目の前には、彼女の表情と心を歪め、絶望させる凶悪な白い獣達の顔…。今、奴等に自分の首が押さえつけられている。そして…。
「あぐぅっ!!うっ…あああああ!!」
周りに集まっていた量産機の一機が、弐号機の"左目"に、剣を槍の形に変えたモノで突き立て、貫く。アスカの左の頭部に、今まで感じたことも無いほどの激痛が走る。咄嗟に左手で左目を抑える。彼女の目を押さえた左手の間から、おびただしい血が、腕を伝って流れる。
「あ…ううう…ううう…」
アスカがエントリープラグの中で、呻く。
量産機は弐号機の機体を地面に押さえつける。
「…殺してやる…殺してやる…殺してやるぅっ!!」
アスカが激痛に耐え、押さえつけられる感覚に逆らうように、呻いた。
他の量産機が、槍を構え、弐号機を刺し貫こうと構える。
「ひっ…!!」
モニターをしていたマヤが、刺し貫かれそうになった弐号機の姿を見て、両目を覆う。
ミサトが巨大モニターに映し出されたる映像から顔を背ける。
青葉が操作していたキーの手を止めて目を瞑る。
日向は目を見開いたまま、硬直する。
量産機が弐号機を槍で貫こうとした瞬間、彼らが動きを止めた。
同時に、遠吠えのような、ケモノの叫びが響き渡る
「しょ…初号機、再起動…!」
突然の雄叫びのような叫びに、我に返ったマヤがモニターを見ながら、抑えつけられたような声で、報告する。
レイの目が見開いた。
「…碇君が…初号機が呼んでる。」
ゲンドウの前に立っていたレイの身体が浮き上がる。
リツコは肩を押さえて荒く息をしながらその様子をじっと見る。既に彼女に何かをする力は残っていない。
「…"彼女"が目覚めたの?それとも、"彼"?」
リツコが暗闇に覆われた天を仰いで言った。
「ま…待ってくれ、レイ!!」
呼ばれるように浮き上がるレイを、ゲンドウが呼び止めようと叫ぶ。
「駄目。」
レイは突き放すようにそう言うと、そのまま一気にセントラル・ドグマの最下層、"リリス"の本体へと降下していった。
「…し…シンジ…?」
初号機の叫びに、痛みと絶望に、最後の足掻きをしようとしていたアスカが正気付く。
量産機は一斉に初号機の方に顔を向けた。
初号機は、顎部のジョイントを引きちぎって口を大きく開け、唸り声を上げながら量産機を、怪しく輝く目で見据える。
そして、身を屈め、吼えながら量産機の群に一気に突っ込む。
『…初号機、暴走…!!』
マヤが畏怖の念を込めて生きている全通信回線に報告する。
量産機の内、弐号機の上に屈んでいた一機がそのまま初号機に突き飛ばされる。
初号機は、そのまま突き飛ばした一機の首を片腕で掴み、弐号機に群がっている量産機に叩きつける。群がっていた量産機の中のニ機が、初号機に叩きつけられた一機と共に、地面に倒れる。
そのまま初号機は倒れた三機に飛び掛り、腕を振り上げて三機まとめて胴を貫く。骨の砕ける音が聞こえ、初号機の拳が地面までめり込み、地響きを立てる。
初号機はそのまま腕を引き抜き、残った量産機を見据える。
一番側に居た一機の肩を、半ば握りつぶすように掴む。量産機が卑小な獣のような叫びを上げる。そのまま肩の"骨"を掴むようにして、その量産機を横殴りに突き飛ばす。そのまま周りに居た三機が横から突き飛ばされた量産機に押しつぶされるように倒れる。何かが潰されたような嫌な音が周りに響いた。
アスカは見える右目で、呆然と初号機の戦いぶりを見ていた。
量産機が為す術もなく、それどころか、抵抗する事も出来ないほど、一方的に叩き潰される。
アスカは、その姿を一度目の当たりにしたことがある。初号機をディラックの海に飲み込んだ使徒と、圧倒的な力で自分と弐号機を完敗させた使徒の戦いでだ。
あの戦いでは、アスカは負けた後に、自分に対して悔しさを、シンジに対して憎しみを感じたが、あまりにもの初号機の戦いぶりに、エヴァに対し、恐れ慄いた。
今の初号機に、シンジの意思が働いているのかどうか分からない。
ただ、彼の意思がある時も、意思があるのか分からない時も、"初号機"はこういう戦い方をすることを思い出した。
最後のニ機を、初号機が片腕で地面にまとめて叩きつける。
地響きと共に、潰れたような音が響いた。
初号機は完全に量産機を圧倒し、沈黙させた。
その戦いは、既に"戦い"にすらなっていなかった。
初号機が潰した量産機を前に、天高く吼えた。
激痛のする左目を押さえながら、アスカは残った右目を見開いて、初号機を見つめた。
『え…エヴァシリーズ…沈黙!!』
日向が、ジオフロント中に散らばる量産機の体液と残骸を、モニター越しに見つめながら報告した。
皆様お待ちかね、AzusaYumi(あずさゆみ)様から、IronMaiden 3rd.Stageを頂戴しました。シンジの見せ場が欲しいよう、という管理人の勝手なリクエストに快く応じて頂きまして、3部作の予定だったものを延長して頂いてます。もし、皆さんもリクエストがあれば、AzusaYumi様のサイトにGo!
『The Number of the Beast』は、IronMaidenのサードアルバムにして出世作の、同タイトルのアルバムからですね。最近、リメイクされているようです。 Six,six,six,the number of the beast /Sacrifice is going on tonight!
(2005/07/17)