Welcome To Machine
by しムす
初出:2004/10/13
改訂:2004/10/30

Welcome To Machine

ようこそ、わが息子
ようこそ、マシーンへ

「赤木リツコ君。君のレポートは読ませてもらった」

NERV司令官、碇ゲンドウの無駄に広い執務室。ゲンドウは顎の下で手を組むいつものポーズで赤木リツコに話し掛けた。
副司令は忙しいのだろう。姿は見えなかった。
「なかなか興味深い内容だった」
「ありがとうございます」
返事をしつつ、リツコの頭脳はフル回転する。
真意が読めない。そんなことを言うためだけに、わざわざ呼びつけたとでも言うのだろうか?
いや、碇ゲンドウに限ってそれは有り得ない。

「脳のシナプス結合を組替えて、人格そのものを変更する試みの原型は、セカンドチルドレン救出の時に利用したアイデアに遡ります。今回の装置の眼目は、外部からの物理的刺激を利用しても、同じ結果が得られるところにあります。サードチルドレンを被験者とした実験では・・」
「サードチルドレンの実験結果については既に読んだ」
説明が聞きたいということではないらしい。

珍しく、ゲンドウが言い淀んだ。
「これは・・・成人にも応用可能なのか?」
「成人の場合、ハードルが高いことは確かです。成人の場合、人格は安定していますが、これは即ちシナプス結合が強固であるということです。ただし、理論上は不可能ではありません」
「変更する人格パターンのパラメータはどう設定するのだ」
「それは任意に変更可能です。人格を構成する因子を仮想的に20に分けて、それぞれ因子ごとに設定が可能です」

たっぷりと一分間の沈黙が流れる。
退出の合図を見逃したかしら。
リツコがそう考えたとき、ゲンドウが再び口を開いた。

「つまり・・私でも大丈夫なのか?」

「はぁ!?」
リツコは動転した。

「司令・・・正気ですか?」
リツコはつい口走ってしまった。

ゲンドウは、何も答えなかった。

リツコの研究室。
「必要となったら射殺した女でも利用する。エゴイストな人ね」
「私、馬鹿なコトしてる」
「ロジックじゃないものね、男と女は・・・」
「そうでしょ、母さん」
リツコの思考は行ったり来たりして纏まらなかったため、準備には手間取ったが、指定の時間までには完了した。

時間丁度になって、ゲンドウが現れた。
リツコはゲンドウが無言で差し出したデータディスクを受け取る。
「前もって申し上げておきますが・・」
「何だ」
「この機械は痛覚を直接刺激します。かなり・・・痛いですよ」
「ふっ、問題ない」
ゲンドウはリツコの顔がやや歪んだことに気付かない。

リツコはゲンドウの体を装置に括りつける。
電極を手際良くゲンドウの体に貼り付けていく。
まずは、MAGIによるゲンドウの脳の走査を開始する。

走査中に、副司令である冬月が現れた。
「副司令!どうしてここに?」
「ああ、碇に頼まれてな。実験の立会いというわけだ」
「あとは頼みますよ、冬月先生」
安堵のためか、わずかに頬がゆるむゲンドウ。それなりに心配していたらしい。
唇を噛むリツコ。

「では、まず、碇の指定したデータから、見せてもらおうか」
「これです」
「こ、これは!」
「ええ」
思わず機械の上部に括りつけられたゲンドウを見上げる冬月。
「そ、そいういうことなのか・・?」
ゲンドウはうっすらと顔を赤らめて、答えない。

「それでは」
一転、厳しい表情になった冬月が尋ねる。
「リツコ君。君が実際に入力しようとしているデータはどれかな」
「!」
「隠さなくてもいい。これなのか?」
リツコはデータ設定画面を判りやすいインターフェイスにしておいたことを悔やんだ。
冬月は、データ確認画面へのボタンを自分で押した。
「こ、これは!」
「元に、戻します」
消え入りそうなリツコの声。
「ふっ、シナリオ通りだ」
ゲンドウがぼそりとつぶやいた。

「・・・いや、その必要はない」
冬月の返事は意外なものだった。

「私は、碇から、実験に立ち会えとは言われたが、その具体的内容まで踏み込むつもりも権限も無い」
「!」
「思う存分、やりたまえ!」
「副司令・・・」
涙で潤む目を、冬月に向けるリツコ。

「!!!!!」
顔面蒼白になったゲンドウが何かわめいているが、二人とも聞こえないふりをしている。

MAGIがREADYのサインを出した。
リツコは間髪入れずにスイッチを入れた。

がこん。

ゲンドウの顔色が、真っ赤になり、真っ青になった。
高電圧電流が、痛覚を直接、容赦なく叩く。
それでも、さすがに世界を敵に回しても動じなかったNERVの司令。唇を、血がにじむばかりに噛み締めて、ゲンドウは耐えていた。

「ぬるいな」
「そうですね。でも、これならどうかしら」
怪しいダイヤルを右に回すリツコ。

「・・・・・!」
ゲンドウの表情が苦痛に歪む。髪の毛が逆立っているのがここからでも判る。
「いいのか、実験中に」
冬月の言葉には、毛ほどの心配も含まれていない。
「ええ、大丈夫です。MAGIは被験者の状況を常にモニタして、フィードバック制御をかけていますから、ちょっと痛みを大きくしたくらいでは問題ありません」

「なかなかしぶといわね!」
じれてきたリツコが、ダイヤルを目一杯、右に回した。
機械の発生するブーンというハム音が、最大出力であることを訴える。
ゲンドウは額に血管を浮き立たせ、体中の血液を顔面に集めているように見える。
ゆっくりした周期で首を斜めに振っている。口の端には血さえ滲んできている。
それでもゲンドウは、声を漏らさない。

「おかしいわね。出力は最大。常人に耐えられる出力ではないはず」
「まだ物理的な衝撃だ。心理的アブソーバーを最大にすれば耐えられる」
冬月の独白に応えて、完全に手段と目的を取り違えているリツコは、その優秀な頭脳をあさっての方向に向けてフル回転させる。
おもむろにキーボードを叩くリツコ。
「これでどう?」
「!!!」
ゲンドウが、一瞬、ありえない角度で、背骨を反らしたのが見えるが、それでも歯はしっかりと噛み締められたままであった。

「たいしたものね。でも、これならどう?」
「!!!!!!!」
今度は弾けたように反対に丸まったゲンドウ。高速で背骨を反らしたり丸めたりと忙しい。しかし、ああ、それでも、耐え抜くゲンドウ。

さすがに心配になってきた冬月だったが、リツコはもはや鬼のような形相になっており、口を挟めるような雰囲気では無い。
「・・ヒトは新たな世界に進むべきなのだ。そのための科学なのだ」
独りうなづき、自分を納得させる冬月。

「トドメよ!」
何をするつもりなのか、ついにMAGIに必殺のコマンドを入力したリツコ。
目にもとまらぬ速さで打ち込まれたコマンドが即実行されるはずだったが・・。

海老のようにぴちぴち踊っていたゲンドウが、いつの間にか、肩で息をしながらも、安らかな表情を浮かべている。
「どうした!リツコ君!もう一息だったのに!」
「?」
「あっ!カスパーが裏切った!」
モニタ上に点滅するMAGIのアラート。

「母さんは娘より、自分の男を選ぶの?」

MAGIは実験の続行を危険と判断したらしい。
ちなみに、赤木ナオコの科学者としての心をインストールされているはずのメルキオールは、実験中止を進言するカスパーの提訴を否認していた。
さすが、この親にしてこの子あり。

「もう・・終わったのか?」
声はいつものゲンドウなのだが、その声には威圧を感じさせる成分が含まれていない。
肩を上下させながら、よろよろとゲンドウが降りてくる。

「冬月、裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!リツコ君と同じに裏切ったんだ!」
冬月に怒りの眼差しを向けるゲンドウ。
「碇・・なのか?」
冬月は戸惑った。
「僕は、NERVの司令、碇ゲンドウだ!」

「実験は中断したんじゃなかったのかね。ものの見事に成功しているぞ」
「もともとの脳の遺伝的な部分で似通ったところが多かったんでしょう。筋道をつけてやりさえすれば、自律的に・・収まるべきところに収まった、と」
「しかし」
ゲンドウが部屋の隅で、体育座りのポーズでいじけているのを見て、冬月はため息をついた。

「僕は・・ダメだ。ダメなんですよ。
ヒトを傷つけてまで、殺してまで司令をやってる資格なんてないんだ。
僕は補完計画に乗るしかないと思ってた。でもそんなのごまかしだ。
何もわかってない僕には人に命令するなんてできない。
僕にはヒトの為にできる事なんてなにもないんだ。
シンジにひどいことしたんだ。沢山の人も殺してしまったんだ。
やさしさなんかかけらもない、ずるくて臆病なだけだ。
僕にはヒトを傷つけることしかできないんだ。
だったら何もしない方がいい!」

「まあ、碇、ほぼお前の言う通りなんだがな」
他人事のように冬月がつぶやく。

「人格は、ほぼシンジ君そのものです。MAGIもその見解を支持しています」
「君が面白がって、シンジ君の人格を移植したりするから」
「あら、副司令も、思う存分やれ、と仰いました」
「そうだったな。すまん、忘れてくれ」

「で、どうする」
冬月の問いに、何故か、頬を染めて、リツコが言った。
「あのままじゃあ、困りますから、私が引き取って・・・」
「元に戻すのではないのか」
「それも、ちょっと惜しくなってきましたので・・・」
「つまり、その、何だ、元の鞘に収めたい、と?」
「あら、鞘だなんて!」
小娘のようにリツコは冬月を小突いた。
「何を想像しておるのかね?」
「いえ、人格はああでも、記憶も・・・テクニックも碇司令のままの筈ですから」
再び、何かとんでもない方向に向かって転がるリツコの思考。
「・・・しかし、体力も碇のままだぞ」
その言葉がリツコに聞こえたのかどうか。

潤んだ目で、ゲンドウを見つめるリツコ。

その視線の意味するところが理解できず、冬月に向かって叫ぶゲンドウ。

「冬月先生、僕を見捨てないで!僕を殺さないで!」

おしまい

あとがき

ええっと・・。
このネタを使って、もっと面白くできるという方、ネタの流用は大歓迎いたします。但し、私にもその話は教えてくださいね。