題本
 題本は,明朝から制度を引き継いだ正式な上奏文書であり,上奏者の官印が捺されます。上せられた題本はまず,内閣大学士が票擬(決済案の作成)を行い,それを踏まえて皇帝が最終判断を下し,官員によって諭旨が書き込まれます。決済を受け諭旨が記入された題本を,紅本といいます。紅本は六科が預かり,抄録を作成して関係する機関等に送付した後に,内閣へと戻されます。また,六科はその他に,史書と録書というふたつの抄録を作り,史書は内閣に送り届け,録書はみずから保管しました。奏摺のように上奏者・機関によって処理過程や最終保管場所が細かく異なってくるということはありません。
 題本史料は,現在,北京の中国第一歴史档案館と台北の故宮博物院および中央研究院歴史語言研究所に分かれて所蔵されています。以下では,清代貨幣政策史の研究に直接関わる題本史料について,史料へのアクセス方法に重点を置いて,若干の解説を行いたいと思います(学術的利用に際しては,書誌データ等をご自身で確認して下さい)。


名称 内閣漢文題本北大移交部分
分類 内閣−題本−原件
所蔵 中国第一歴史档案館
形態 同館所蔵マイクロフィルム
概要  かつて北京大学に収蔵され,後に故宮に移管された題本です。基本的に,順治・康熙・雍正三朝の題本を収めています。国内で見ることはできません。档案館の閲覧室前スペースに詳細な目録があり,1件1件の題本の概要や収録リール番号・コマ番号を知ることができるので,比較的容易に必要な題本を探し当て閲覧することができます。
 第29-30リールに収録された順治朝の貨幣関係の題本のうち,破損のない34件は,漢文部分のみ「順治年間制銭的鼓鋳」と題して活字化されています(『清代档案史料叢編』7,中華書局,1981,所収)。破損があり未収録となったものは7件存在します。康熙・雍正両朝の関係档案はほとんどありません。


名称 内閣漢文題本原館蔵 戸科
分類 内閣−題本−原件
所蔵 中国第一歴史档案館
形態 同館所蔵マイクロフィルム
概要  もとより北京の故宮で保管されていた題本のうちの戸科題本を収録したものです。国内で見ることはできません。これも档案館内に詳細な目録があり,比較的容易に必要な題本を検索・閲覧できます。目録を見る限り,所収題本は全て乾隆元年以降のもののようです。
 収録順は年次順で,各年次のなかで項目ごとに並んでいます。よって,貨幣関係題本の収録場所をみると,乾隆元年は第7-8リール,同2年は第21リール,同3年は第35リール,同4年は第53リール,同5年は第66-67リールというように,飛び飛びになっています。
 それらの貨幣関係題本とマイクロフィルム「内閣漢文題本戸科貨幣類」との関係については,次項をご覧下さい。

【補記】2008年9月現在,上述の目録は撤去され,新しい目録が並べられています。それは,あらゆ題本を区別せず上奏日順に配列したものであり,個人的な感想としては,自分に関係のある題本を検索する上でかえって不便になったように思います…。


名称 内閣漢文題本戸科貨幣類
分類 内閣−題本−原件
所蔵 中国第一歴史档案館
形態 マイクロフィルム(全13リール,1997)
概要  中国第一歴史档案館に所蔵されている題本のうち,戸科の貨幣関係題本を収録したマイクロフィルム,とされています。国内では,筑波大学に所蔵されています。目録はありませんので,時期を絞って片っ端から見ていくしかありません。
 しかし,戸科の貨幣関係題本を収録したマイクロフィルムとされていますが,第1リール収録の乾隆元〜5年の題本を「内閣漢文題本原館蔵 戸科」の目録と照らし合わせると,同マイクロフィルムに収録されていない多数の貨幣関係題本が「内閣漢文題本原館蔵 戸科」中に存在することがわかります。その未収録題本の数は収録題本の約3倍,つまり,「内閣漢文題本原館蔵 戸科」所収貨幣関係題本のうち約4分の1しか同マイクロフィルムには収められていないのです。どのような基準で取捨選択したのか,現段階ではわかりません。今後の調査で調べてみたいと思います。

【補記】上記「戸科題本」とこの「戸科題本貨幣類」との関係については,こちらをご覧下さい。


名称 明清档案
分類 内閣−題本−原件・掲帖
所蔵 台湾中央研究院歴史語言研究所
形態 一部影印本(全324冊,1992-1995)
電子ファイル:インターネットで検索可能,同院にて検索・閲覧可能
概要  台湾中央研究院歴史語言研究所所蔵档案の一部を影印したもので,多くの題本および掲帖(内容は題本と同じ)が含まれています。国内では,東京大学・京都大学・筑波大学など,いくつかの大学に所蔵されています。
 貨幣関係に限って言うと,順治朝は多数の題本があり,前掲「内閣漢文題本(北大移交部分)」との併用が求められます。康熙朝は関係史料がありません。雍正年間は多数の掲帖が収められています。乾隆年間は関係題本が散見されますが,前掲「内閣漢文題本戸科貨幣類」の分量には遠く及びません。その「内閣漢文題本戸科貨幣類」さえ,前述したように「内閣漢文題本原館蔵 戸科」の貨幣関係題本の4分の1程度しか収録していないわけですから,乾隆朝の貨幣関係題本を調べようと思ったらまずもって北京側の題本の概況を把握するのが望ましいでしょう。


名称 戸科史書
分類 内閣−題本−史書
所蔵 中国第一歴史档案館
形態 同館所蔵現物(2008年9月現在,閲覧停止中
概要  中国第一歴史档案館が所蔵する史書の戸科の部分です。雍正朝の吏科史書は既に影印出版されていますが,戸科史書は影印出版もマイクロフィルム化もされていないので,利用するには同館で現物を閲覧しなければなりません。簡略な目録があり,何年何月の史書が存在するかはわかりますが,題本1件ごとの内容を知ることはできません。また,存在する档冊でも,状態が悪く閲覧できないものも多いです。
 史書とは,六科が作成した題本の抄録です。とはいえ,録副奏摺の題本バージョンってわけね,と捉えるのは適切でありません。録副奏摺は軍機処から内閣に貸し与えて該部の官員に通達するための抄録をつくらせるなど,政策処理過程そのものを体現する文書ですが,それに対して史書は,紅本(諭旨の記入された題本)を抄写して該部の官員に渡すものとは別に,文字通り「史書」の編纂に備えるために作成した複写という性格のものです。そのためか,明らかな写し間違いが結構頻繁にみられたりします。なお,史書を作成した六科は,初め独立した機関で,後に都察院に隷属しましたが,史書は六科から内閣に届けられ内閣で保管された文書なので,今日中国第一歴史档案館では「内閣全宗」に分類されています。
 史書は誤記や省略の可能性がありますが,なんといっても,現存しない題本の代わりに利用できる点が大きいです。康熙後半は残念ながら史書さえほとんど残っていないのですが,現存する題本は皆無に近いが史書は比較的残っている康熙中葉をはじめとして,順治・康熙・雍正三朝の研究における史書の史料的重要性は極めて高いといえます。乾隆以降になると,題本そのものが豊富に現存していますので,史書も大量にありますが利用する必然性はほとんどないでしょう。もちろん,乾隆以降でも原件題本が現存しないが史書が残っている,という事例はゼロではないでしょうから,特定の時期・案件の題本がどうしても見たいのに現存しないということがあれば,史書に手を伸ばしてみるのも一つの選択肢としてはありえるでしょう。

参考: 順治康熙雍正三朝「戸科史書」所蔵状況 

【補記】2008年9月付で,広西師範大学出版社より,『雍正朝内閣六科史書・戸科』(全105冊)が出版されました!


名称 戸科史書
分類 内閣−題本−史書
所蔵 台湾故宮博物院
形態 同院所蔵現物
概要  台湾故宮博物院の戸科史書です。影印出版もマイクロフィルム化もインターネット公開もされていないので,利用するには同院で現物を閲覧しなければなりません。が,同院の戸科史書はほぼ乾隆以降のものなので,前項で述べたような理由からアクセスする必要性は低いと言えます。


名称 康熙八至十二年有関鼓鋳的御史奏章
分類 内閣−題本−史書
所蔵 中国第一歴史档案館
形態 『歴史档案』1984-4,20-23頁
概要  康熙8〜12年の戸科史書から制銭鋳造に関係する4つの上奏をピックアップして掲載したものです。『歴史档案』は多くの大学図書館に所蔵されていますが,この84年のものは入っていないところも少なくないので注意が必要です。


凡例
名称:所蔵機関が当該史料に付した名前。
分類:当サイトにて便宜上付した分類。原蔵機関−文書系統−文書種類。
所蔵:所蔵機関。
形態:当該史料に研究者がアクセスする場合の形態。
概要:当サイト管理者(上田)が利用者の観点から記した当該史料概要。