三橋達也さん追悼


映画『CASSHERN』

        2004.5.20. Wac@映画生活に投稿  改稿2004.9.7

   


観たのは少し前だが、ぼやぼやしているうちにえらいことになってしまいました。三橋さんの遺作として記憶されることになるでしょうね。最近、『忘れられぬ人々』『Dolls』と活躍が続いていただけに残念です。

この作品での三橋さんも忘れがたい印象です。何故、日本人が演じているのか基本的な疑問は拭えませんが、この温かいキャラクターはいいですね。

さて、作品全体の印象ですが、わたくしにはなかなか整理できないがしかし非常に強い情動を感じ、いまだに魅力を感じています。
それにしても、分かりにくい話ですね。本当にそれでいいのかと疑問に思うところも多々あるのですが、わたくしが理解した範囲では、この物語を描くには、せめて3時間は必要ではないでしょうか。
前半はテンポもよく、巧く乗っていけましたが、それこそ、三橋さん登場シーン以降は、いくらなんでも端折り過ぎで、コンセプトを骨抜きにしてしまっているように思いました。
かといってアクションシーンを削るのもいかがなものかと思うので、ここはそれこそ『キル・ビル』式に2部作にしていたら、この大胆なアイデア(まさにそれこそ、この作品の原作が「キャシャーン」でなくてもよい理由なわけですが・・・)を存分に活かせたかもしれません。

最も印象深い点は、大構図から細部に到るまで、執拗に繰り出される全体主義的な意匠の数々であり、そのキッチュさに監督の揺ぎ無い美意識が感じられることです。ブルーバックによるCGと実演の合成も意図的にスクリーンプロセス風に感じられ、キッチュ感を増しています。この辺りは、ゴダール氏によるマオイズムのポップカルチャー化や、かつてのYMOや、ピンクフロイドの『ザ・ウォール』辺りを思い出させもします。あるいは、ベルトルッチ監督の描くファシズムの甘美な倒錯なども。(何故かソク−ロフ監督の『モレク神』も思い出した。)

紀里谷和明監督は、あるいはこうした全体主義的意匠への生理的な偏愛を自己批判をする型で示さんがため、一見反戦的なメッセージを語っているふりをしているようにも思えます。
しかし、一見反戦的メッセージともとれるストーリーですが、物語の展開は全く埒のあかない類のもので、むしろ争いの連鎖に対する諦念の方が強くなって、終幕に向かうほど無力感に苛まれます。
しかし、この諦念の中にグラグラとたぎる熾(オキ)とか石炭の火のようなものが心に残り続けるような気もします。

物語の重要な要素であるオリジナル・ヒューマンという優生思想のようなものは、あまり深く考えられているとは思えず、物足りないが、第七管区の風景描写には何故か心惹かれるものがありましたね。(河瀬直美監督発見!)

さて、役者さんについて。
伊勢谷友介さんは、キャシャーンとなってからより、悲惨な一兵卒の場面にリアリティがあったと思うのですが、これはどうなんでしょうねぇ。及川光博さんは案外意外性は少なかったように思いますが、わたくしは西島秀俊さん、宮迫博之さんが結構なかなかのはまり役だったように思います。

いや、キャスティングには全面的に賛成なんです。
誰もがそうお思いでしょうが、豪華すぎるくらいですからね。
そこを上手く活かせたか?

唐沢寿明さんはわたくしもご贔屓なのですが、残念ながら、またかれのキャリアの決定的代表作映画にはなりえなかったように思います。これは、台本そのものが生硬なこともあるけれども、映画自体が、役者さんを駒のように見せてしまう造りになっているので、役者さんが映えないのは致し方ないことでしょう。
麻生久美子さんは、雑誌「INVITATION」の見出しにもあったように、現在日本映画最強のヒロインであることに最早異論はありません。他の映画でも見せたことのないような近寄りがたいまでの美しさと輝きを放っています。しかし、そのせいでかえって、監督のやや浅薄なヒロインイメージ、女性観を図らずも露呈してしまっているようにも思えるのです。キャラクター的にはたいへんなパッションがあるにも拘らず、体温が感じられない。これは、樋口可南子さんについても同じです。

大滝秀治さんはこのキッチュな世界にいるというだけで楽しいのですが、どうか遺作にしないでくださいね。(誰にお願いしてるんだか?)

それにしても「月光価千金」との謂れもありますが、ヒロインの名前が上月ルナで、映画全編に渡って執拗な月面描写、そして音楽は「月の光」(ドビュッシー)、「月光ソナタ」(ベートーヴェン)とこれでもか、の月尽くしに少々辟易。lunaticというよりreflectionというイメージを強調したかったように思われますが(好意的に解釈すれば、だが。)、に、しても少しくどくないですか?

宇多田ヒカルさんのエンディング曲は稀代の名曲だと思いますが、あまり、というかほとんど相乗効果は感じなかったですね。この饒舌な映画の後に、あの研ぎ澄まされた歌詞が耳に入ってくる余地など、最早なかったということ。

最後に、謹んで三橋達也さんの業績を偲びたいと思います。
わたくしの印象深い三橋さんの出演作ベスト3=『暗黒街の牙』『夜の流れ』『悪い奴ほどよく眠る』(若い時のばかりになってしまった。)


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映画『CASSHERN』(2000、紀里谷和明監督 )
2004.5.10.新宿ピカデリー1にて














『忘れられぬ人々』(00、篠崎誠監督)
『Dolls ドールズ』(02、北野武監督)

















































































暗黒街の牙』(62、福田純監督)
『夜の流れ』(60、成瀬巳喜男、川島雄三共同監督)
『悪い奴ほどよく眠る』(60、黒澤明監督)

       

       
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