これすなわち苦行なり


映画『パッション』

        2004.7.21. Wac@映画生活に投稿  改稿2004.9.8.

   

恐ろしく退屈な映画でした。ちょっとショックでもあります。
わたくしはキリスト者ではありませんが、キリスト教の下に生まれてきた文化には親しんできました。
この映画で描かれる話と同様の題材の作品に触れて大いに感動、啓発されてきました。
だから、このお話が嫌いという訳ではないはずです。
しかし、この映画には見るべきところがない。
美しくない。痛くない。悲しくない。伝わってくるものがない。
リアルな描写と聞いていたけれど、どこがリアルなのだろう。
スローモーションや、クロースアップの連続で、演技はほとんどただわめいているようにしか見えない。
画面が大きくて、音も大きいものだから、退屈だが寝るに寝られない。
それじゃまるで、ルドヴィコ療法(from『時計じかけのオレンジ』)じゃないか、と考えてみたが、実は生理的嫌悪感もさほど感じないので、ただ退屈なだけなのです。

比較例を出すと嫌な方もおられようが、話を分かり易くするために比較例を出します。
少なくともわたくしは『奇跡の丘』(64、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督)に感動し、何度もみました。今でも素晴らしい映画だと思います。
『ベン・ハー』(59、ウィリアム・ワイラー監督)の主人公の話ではなく、イエス・キリスト様の描き方も好きです。何度観ても胸にこみ上げてくるものがあります。
J.S.バッハ『マタイ受難曲』はレコードで実演で繰り返し聴きました。深く聴き込めば聴き込むほど、強く惹かれます。
古今のピエタ図も様々なものを観たと思います。どれが好みかとかいう問題ではなく、心に普遍の図像として残っています。
そのどれと比較しても『パッション』は、同じ題材を扱ったものとは思えません。
しかし、例えば、『マタイ受難曲』をある演奏で聴く時には、冒頭から心奪われるのに対して、全く何の感興も湧かない退屈な演奏というのも聴いたことがあります。
これと同じことでしょうか。
単に描き方が、わたくしの波長に著しく合わなかったというだけでしょうか。
メル・ギブソンさんの監督作を今まで一本も観た事がなかったので、わたくしはよもやこういうものだとは予想もしていませんでした。
『ブレイブ・ハート』もこんなタッチなのですか?

しかし、ジム・カヴィーゼルさんが全くイエス様に見えないというもの致命的でした。
かれは、容姿、演技力、信仰心、などの要素で選ばれたのでしょうが、
本当に役作りはあれでよかったのでしょうか?
わたくしは、『シン・レッド・ライン』『モンテ・クリスト伯』での、かれの真面目な演技に共感していたので、今作での役作りには戸惑いました。
何より、体作りが疑問です。あれでは現代の飽食の時代の比較的裕福な人間の体つきにしか見えません。
007シリーズの前作で、ピアース・ブロスナンさん演じるジェームス・ボンドが悲惨な拷問を受けるシーンがありましたが、容貌があれとそっくりでした。
いくらなんでも、イエス・キリスト様が、現代の堕落したヒーロー像であるジェームス・ボンドを想い起させては、失敗ではないでしょうか。

残酷な拷問シーンは観ているものに痛さや苦痛を感じさせるために描かれているらしいのですが、単なる演技にしか見えませんでした。
恐らく役者さんたちも一生懸命演技しているのでしょうし、特殊メイクのスタッフも頑張ったのでしょうが、何の痛さも伝わってきません。

キリスト教会による異端審問や魔女狩りの話もこれまで数多く描かれてきました。
苦痛の描写としても、それらを凌ぐものが何もありません。
かつて、『肉体の悪魔』(1971.ケン・ラッセル監督)という映画がありました。フランスの時の宰相リシュリューによる新教弾圧を描いた映画ですが、ここでの新教の司祭を炙り殺すシーンなどあまりの痛さに、声をあげそうになりました。

これらのキリスト教会(新教でも旧教でも)によって弾圧された人々の痛み以上のものが、イエス・キリスト様の痛みとして描かれねば、それはあまりにも救いが無さ過ぎます。

ともかく、他人様の作ったものですから理解を超えたものもあろうと思いますので、またいつか観ることがあればまた違った感想になるかもしれませんが、今回は縁が無かったとしか思えません。とにかく、これほど失望した映画はこの5年位でも特筆すべきものがあります。

それとも、わたくしのキリスト教に対する理解が間違っていたのでしょうか?
キリスト者でなければ、キリスト教芸術に触れる意味もないのでしょうか?

そう、こどもたちがクリスマスに演じるページェント劇にもとても感動したことがあります。

これらのわたくしの感動は何だったのか?
それらを否定したくはありません。

だから、この映画の退屈さには、どうしょうもなく腹が立つのです。


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映画『パッション』(2004、メル・ギブソン監督 The Passion of The Christ
2004.7.19.テアトルタイムズスクェアにて





       

       
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