身も心も、魂さえも奪われてしまったわ


映画『白いカラス』

       2004.7.22. Wac@映画生活に投稿  改稿2004.9.8.

   


本当に素晴らしい至福の一時。
初めて観た時は、とても緊張して、どこかゆとりがなかったので、2日おいて2回目を観た。
この作品、ややサスペンス調である。
だから、一回目は、次々と明かされていく事実を追うその時の流れに陶然とした。
2回目は、すべての事(この映画で明かされた事に関しては)を知っている。だから、じっくり、その細やかな芝居、演出に酔った。
わたくしにとって、映画で観たいものとは、まさしくこれだ。

わたくしは3、4年に一本、こんな映画に出会えたら、これから後、また3、4年はアメリカ映画のことをいくらか信頼して見続けることができる。(ヨーロッパ、アジア、その他の地域は別枠。)
今年は、『ミスティック・リバー』が確かに出来が良くて、めっぽう面白かったが、いかんせん後味が悪すぎた。しかも、あの世界観を丸ごと引き受ける器量はない。だから、今年は、『ミスティック・リバー』がマイベスト1になっちゃうの?と不安だったのだ。やっと不安が解消された。

この映画、いろんなところで、人種差別についての映画、または老年のラヴストーリーと捉えられているようだが、わたくしは、そうは思わなかった。
人種差別も老年の性も、虐待もそれは単に物語の設定に過ぎない。

登場人物の心がどのように移ろい、癒され、ある地点に落ち着いていくのか。それを複数の旋律で織り成していく。

それは、人間のかなり普遍的な部分に触れている。
主要な登場人物の抱えている、心の闇や、消せない過去といった、特殊な事柄は、実は事の大小、深刻さなど、誰にも比べようがないことが、見事に明かされていく。

あなたより、わたくしの方が不幸だ、などということは決してありえないのだ。

登場人物全員に救いが訪れるわけではないけれど、主要旋律同士は複雑に絡み合いながら和声的解決を迎える。

こういうのをわたくしは交響曲的映画だと思う。
構造美が素晴らしい。
しかも、監督が頭で考えたものではなくて、キャメラが、役者が、現場で考えたものを映し出していく。

個々のスタッフ、キャストについて語りたいことは山のようにあるが、長くなるので別稿に分けたほうがいいだろうが、どうしても書き留めておかねばならぬのは、この作品がレオス・カラックス監督の初期3本のイメージを決定付けた撮影監督ジャン=イヴ・エスコフィエさんの遺作となってしまったこと。あまりにも若く、惜しい。かつて名コンビだったネストール・アルメンドロスさんを失って以来、信頼できる撮影監督を探し続けてきたベントン監督にとって、こんなに無念なこともなかろう。途方に暮れているに違いない。しかし、本作は、撮影監督エスコフィエ氏の名人芸が凝縮されていることは間違いない。スコープサイズとはこうやって撮るのだというお手本のような見事な撮影だと思います。流れるように揺蕩いながら、画面の隅々まで気が張っている恐ろしく密度の濃い映像だ。

俳優さんの中では一人だけ。ゲーリー・シニーズさんこそ、この物語の真の主人公だと言っても過言でないとわたくしは思う。
かれの演技が絶品だ。シニーズさんのファンだけには必見だと言っておいてあげたい。

また、レイチェル・ポートマンさんオリジナルの劇伴音楽も見事な上に、劇中に引用される楽曲の数々が素晴らしい。主人公の出自や思想を事細かに描写していくのが、まず第一にこの劇中音楽なのである。この選曲だけでも様々な物語が頭を駆け巡る。この「粋」について、わたくしに語れるだけの器量があろうか。いずれ、チャレンジしたいテーマではある。

わたくしの全く個人的なツボなので、万人に薦めたい気持ちなどさらさらないが、この映画が愛らしくてたまらない人とは、いつまでも語り合いたい。
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映画『白いカラス』(2003、ロバート・ベントン監督 The Human Stain
2004.7.16/19 新宿武蔵野館1にて






早くもDVD情報に疑問点



既に公表されている本作のDVD化情報によると、日米2ヴァージョン2枚組み(結末が違うらしい)となるようです。それ自体は大歓迎なのですが、なんでヴィスタサイズなんでしょう?劇場では正真正銘スコープサイズでしたよ。IMDbのテクニカル・スペックによるとSuper35なので、アモルフィックレンズを使いつつも上下少しマスキングしてたのでしょうが、どこもかしこも全く隙の無い完璧な構図だと思っていたのに意外です。
何しろ、ロバート・ベントン監督がスコープ・サイズで撮ったのは、データで確認した限りでも、これが初めてなのだから。

わたくしは、90年代のベントン監督の傑作『ノーバディーズ・フール』(94)を何ヴァージョンかで見比べた結果、これは劇場公開版のマスキングヴィスタより、ヴィデオ使用の上下をカットしていないヴァージョンの方が、より構図が完璧だという結論に至りました。何故そうなったのか?もしかするとこれは、もともと劇場公開よりヴィデオセールスを意識して撮られたのかな、とも思いました。
ところが、これがDVDになればテレビサイズのヴァージョンは無視され、劇場公開時のヴィスタで収録されるでしょう。

これは、80年代末期から、90年代のヴィデオユース全盛の特有の問題点です。


しかしいったい、『白いカラス』はどう観られるべきなのか。
勿論、監督の意思が重要だけれど、撮影監督の意図を監督はよく分かっているはずだ。

もし、かれらの意図に反した形でDVD化されるとしたら、残念です。





さて、音楽のことなども含めて、ネタバレの感想は、また改めて挑戦したいと思います。
       

       
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