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あえて、ディープなシネフィルにも観てほしいな
映画『トントンギコギコ
図工の時間』 2004.5.19. Wac@映画生活に投稿 改稿2004.9.7.
とても愉快な映画。美しくて、美しくて愛おしさ溢れる世界。
だから、勿論誰にでも薦めたいけれど、このタイトルだと、感応する層が限られてきそうな気がします。
でも、そんなことないのですよ。中身は。
野中真理子監督の前作『こどもの時間』(2000)*は名作ですし、子どもの世界に肉薄していく力は凄まじかったのですが、それでもどうしても「子育て」というテーマからは逃れ得ないような気もしました。
それゆえ、子どもを持たない人を少し遠ざけてしまうようなところが。
しかし、この作品は「子育て」からも解き放たれているし、もしかすると「子ども」からもすでに、解き放たれているかもしれません。
一つの世界観。社会そのもの。だからこそ映画としての力をとてつもなく感じます。
会場に監督がいらっしゃったので、「この作品をハイヴィジョン・スペシャルとしてではなく、映画として撮っていただいて、とても嬉しいです。」と率直に伝えました。
でも、こんな企画、ハイヴィジョン・スペシャルで通る訳ないか。
『ヴァンダの部屋』に匹敵する贅沢な企画だもの。
(監督と撮影監督と音響監督の三人による自主制作ですよ。)
本当に濃密な時間です。しかも愉快だから、顔がほころびっ放し。
子どもたちの図工の様子だけでなく、挟み込まれる情景の見事なこと。
また、『こどもの時間』で一切なかった一人ずつのインタヴュー・シーンが鮮烈な印象です。これを入れると全体の構成が乱れる可能性もあったかもしれませんが、わたくしはこれは大成功だと思います。
あえてキャメラの前でしゃべる子どもたちの名役者ぶりにうっとりさせられる。(この人為こそ演出の力。)
ちょっとした仕草や、眼遣いの何と優雅なこと!
頼もしい子、優しさの溢れる子、巧まざるユーモア、思いもよらぬアイデア、ペーソス、何故か切ない内に秘めた思いを垣間見せる子。役者が揃っています。
子ども映画の歴史。『みかへりの塔』(41、清水宏監督)、『手をつなぐ子等』(48、稲垣浩監督)、『アニキ・ボボ』(42、マノエル・デ・オリヴェイラ監督)などのシーンが脳裏をよぎる。こんな観方をしてしまう自分が相変わらず不甲斐ないが、でも、まさにこの作品が過去の偉大な作品を凌駕するようなインパクトを見せるので、ついつい想起してしまうのです。
ハイヴィジョンによる映像は、やや色がきつく感じられるところがありますが、こんなに奥行きがあるとは思いもよりませんでした。
また、立川智也さんによる音楽は、こうした小規模映画の音楽の可能性として、特筆すべき成果だと思います。映像の密度も濃いですが、一方で音響のミックスも極めて細やかで、音が描き出す世界だけでも心が軽くなり、改めて「見つめる」、「耳を澄ます」というドキュメンタリーの根幹に触れる思いです。
以下全くの蛇足。
最近観た映画たちと比較したところで、別に何だという訳でもないけれど・・・・
●DLP撮影、及び上映だった『eiko』よりはるかに映像に奥行きがある。
●木工の描写という点からも『息子のまなざし』よりダイナミックでワクワクする。
●作業の音と、打楽器のリズムの音響ミックスは、『座頭市』より繊細で洒落ている。
●ディジタル技術による小規模映画の試みとして、『ヴァンダの部屋』より支持したいな。これはわたくしの趣味の問題。少なくとも撮影監督としては、ペドロ・コスタ監督よりも夏海光造さんの方にシンパシーを感じるのです。(『ヴァンダの部屋』はコスタ監督自身による撮影)
なんてことは、一応言っておきたい。
補足:
「創造」「作ること」。氾濫するこれらの言葉たちに今一度、よく向き合わねばならないのではないか。現在の「ものづくり」の教育の中には、「著作権」思想の排他的側面が色濃く反映しているように思える。勿論、「創造物」が知的財産であることを、なるべく幼少の頃から教えていく必要性もわからないではない。ただ、今では幼少期から自ら作ったキャラクターなどで、商売をすることが可能な時代だ。何事も職業に結び付けて考える発想をもつことは、確かに現代において必要とされているある一面ではある。
しかし、「ただ作る」。そのことの喜びを感じることがまずあってもよいではないだろうか?身近に溢れる既成のキャラクターなども全部材料にしたっていいじゃないか。
「創造」の喜びと、「労働」の喜びを同時に教える必要が、果たして必要だろうか?
この映画を観て、日頃から感じているこのような問いを改めて考えさせられた。
わたくしは、この映画は、まさに「創造」の喜びのみを描き出すことに成功していると思うからである。(2005年1月12日加筆)
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映画『トントンギコギコ
図工の時間』(2004、野中真理子監督 )
2004.5.4.ポレポレ東中野にて
公式サイト
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*『こどもの時間』は、わたくしも大好きな作品です。作品のねらいはこの作品と同様に、子どもの世界に肉薄していくものだったと思います。ですから、一つの世界観のように観られなくもないのですが、わたくしには何箇所か視点のブレのようなものを感じたことも事実です。特に最後のクレーンショットにたいへん違和感がありました。
そのため、少し混乱してしまうところもある、と思っています。こどもたちのアナーキーなまでの命の輝きに肉薄すればするほど、その環境に対する興味が湧いてしまうのです。最早、観る事が出来ない作品を引き合いに出すのは、少し気が引けますが、この『こどもの時間』の元になったTV番組:ドキュメンタリー人間劇場『こどもの時間 いなほ保育園の冬春夏』(1996年8月、テレビ東京でOA)の方が視点がはっきりしていて、わたくしには安心して観られました。この番組は野中監督のプライベートな部分に言及している為、比較的対象を見る視点が理解しやすかったのです
身も蓋もない話だとは思うのですが、作品としてのまとまりとしてはTV版の方がよいとわたくしは思っています。しかし、野中監督の結論として、映画になったことはたいへん重要で、TV版には、映画ではなかなか使用困難な楽曲が使われていたこと(映画版にも用いられたクレーンショットには、何とコルトレーンの「マイ・フェイヴァリット・シングズ」が鳴り渡っていた)なども考え合わせると、現在『こどもの時間』という作品は映画版のみと考えた方がよいでしょう。
これは書くべきかどうか迷いましたが、わたくしの極めてパーソナルな気持ちとして、やはり、書き留めておきます。
映画『こどもの時間』
ホームページ
『こどもの時間』も
『トントンギコギコ 図工の時間』も、
自主上映活動によって上映されている作品です。
おそらく当面DVD化される可能性は低いと思われますので、上映されている機会がありましたら、ぜひご覧になられる事をお薦めします。
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