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カウフマン監督、その心は?
映画『ツイステッド』
2004.10.25. Wac@映画生活に投稿 改稿 2004.10.31.
評判が悪いので、観に行くのを少しでも躊躇していたわたくしは、大馬鹿者だ。自分で観ずして何が分かる。
冒頭から、(ガラガラの映画館で)、身を乗り出して画面に釘付け。
一瞬も見逃す事の出来ない、この心地よさ。
紛れもない、唯の一篇のミステリーだ。
特にこの作品の場合、犯人探しなどはこの際、どうでもよろしい。
形式としてのミステリー映画に徹すること、語りの豊饒さを撒き散らしながら、恐ろしく無駄のない時間を紡いでいく。
いつも個性的な撮影監督と組むフィリップ・カウフマン監督。
今回は、あの『マルホランド・ドライヴ』を撮ったピーター・デミング氏だ。
しかし、こんなにストイックでいいのだろうか?主人公の昏倒の表現に一部トリッキーな映像を見せるだけで、後のほとんどのシーンは極めて覚醒しているし、非常に単純な構図で構築されている。およそ、撮影的な遊び心を徹底的に退けて、淡々とした画面構成に一片の迷いもない。
編集は前作『クイルズ』(2000)に引き続き、名手ピーター・ボイル氏。天才的フィルム裁き(死語かもしれないが)は、いつにも増して鮮やかだ。
これら全てがただひたすら、ストーリーテリングに奉仕している。
サンフランシスコが舞台だから、当然『めまい』を意識しただろうが、『めまい』のような構成美には、決然と距離をおいている。
むしろ思い出すのは、『めまい』よりも前の、古典的ミステリー群である。ところが、今時の擬古典調とか、パスティーッシュなどには目もくれず。どこからどう見ても、ただいま現在の戦時下アメリカ映画である。
これにはまず登場人物たちの造型が見事なことに注目したい。
アシュレイ・ジャッド氏扮する昇進したての刑事は、導入部からただならぬ存在感を示していて、輝き方はまさに古典的ミステリー映画の主人公のそれだが、男性社会の只中で、次第に壊れていく脆さの土台に、芯の通ったタフネスを備えている。
わたくしは、少なくとも『羊たちの沈黙』シリーズのクラリス捜査官よりも、興味深く思った。いやもうクラリス的なものでは描き切れないものに、ジャッド氏はチャレンジしたと言ってもよい。勿論、カウフマン監督の仕組んだ罠でもある。
女性が主人公であることの必然性に、密かに疑問符が隠されている。
脇が、皆、実に細かい演技で見ごたえがある。アンディ・ガルシア氏の得体の知れなさが物語の流れを見事に撹乱し、誠実そのもののデイヴィッド・ストラザーン氏が主人公の心の均衡を揺さぶる。また、警部補役の人や、鑑識役の女性など、脇を固めるというのは、まさにこういうことである。
サミュエル・L・ジャクソン氏にあまり目立った見せ場を与えないのも、この場合、巧いところだ。
それにしても、異色の題材で知られるカウフマン監督が、何故今このようなシンプルでケレンのない映画を撮ったのか。真意が知りたい。次にまた異色の題材を準備しているための、「繋ぎ」、なのか?
あるいはまた、「今時のアメリカ映画」に徹底的に抵抗するための孤独な戦いを始めたのか?
いずれにしても、わたくしには心地よい、理想的な唯の一本のアメリカ映画である。
潔さに関していえば、それぞれ、有望な監督の出世作となった『NARC』とか『コップランド』とかにも近い。どこか、ジョン・マクノートン監督などのシンプリシティとも共犯関係がありうる。
ここはもう一度、『ライト・スタッフ』(83)や『存在の耐えられない軽さ』(88)などのカウフマン監督ではなくて、『SF/ボディ・スナッチャ−』(78)や『ワンダラーズ』(79)のカウフマン監督のことを思い出しておいた方がよさそうだ。
ああ、それにても、極めて冷静に、落ち着いたフレームに捉えられたアシュレイ・ジャッド氏の、何と艶めかしいこと!それも、キャメラに対する一切の媚態を回避しているにも関わらずだ。
特別な一本でないとこには間違いないが、こんな映画こそが、何故か、一生忘れられない映画になりそうだ。
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『ツイステッド』(2004、フィリップ・カウフマン監督 Twisted)
2004.10.24.新宿東急にて
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『マルホランド・ドライヴ』
(2001、デイヴィッド・リンチ監督)
『めまい』
(1958、アルフレッド・ヒッチコック監督)
特に深い意味はないが、ジャッド氏の演ずる女性刑事には、あのアブグレイブ収容所で、『ソドムの市』風の写真に納まった女性兵士の風貌を思わせるところがある。そのせいで、余計に感情移入しにくい主人公となっているように思われる。
『NARC ナーク』(2002、ジョーカーナハン監督)
『コップランド』(1997、ジェームス・マンゴールド監督) |