植物多様性を保つための生態系の保全
人間と他生物との間に起こっている生物学的衝突が生物の多様性の縮小を招いています。現在までに記載されている生物種は
およそ200万種で、昆虫が最も多く、その55%を占めています。
昆虫以外の動物が21%、被子植物が16%、その他の植物
2%、その他微生物など7%となっています。しかし、
記載されている生物種はごく一部に過ぎず、熱帯林やさんご礁の調査から、地球上の生物種は3,000
万種以上であろうと推定されています。人間による無謀な開発を止めなければ、多くの生物種は日の目を見ることなく、
葬り去られてしまいます。これを防ぐために、国際生物多様性条約が締結され、生物種の保護が実施されていることは、
皆さんも十分ご承知のことと思います。
ここでは、身近な生態系での植物種の保全のために行われている試みについて、簡単に説明しましょう。
1. 動物が草を食べることによって、植生は多様化する
植物種の多様性を高めることは、生態系の保全にとって最も重要な目的の一つです。植物の多様性について調べてみると、
今まで考えていたのと反対の事実があることに驚かされます。すなわち、動物が草を食むのは植物種を多様にし、草刈りは、見かけは
自然を破壊しているように見えますが、植物種の豊富な草地を作り上げているのです。
TansleyとRankinは、1911年に
「何世紀にも亘って羊やウサギが草を食べてきたことが、ある地域から木や低木を取り除き、
結果として植物種の豊富な草地を作り上げた」と述べています。後に、土地を囲って、動物が食べる影響を取り除くと、
植物の多様性が減ずることを実験的に示しました。これは、動物が食べたり、機械で草を刈ったりすることによって、繁殖力の
強い種の優先度が減り、競争力のない種の増殖が導かれるためです。
イギリスでは、草地の生産性を高める管理をした結果、植物の多様性が失われてしまいました。そこで、植物の多様性を取り戻す
ために、家畜に食べさせる草地管理の方法を採用しています。機械による草刈りは、効率的で、家畜の世話をしないですむなどの利点
はありますが、家畜に食べさせるほどには満足できるものではありません。草食動物が好みの植物を選択的に食べ、植物バイオマス
を、ある限度内で、除去すると、小さくて生長の遅い植物にも生き残る機会が与えられます。
その結果、生息地の多様性が高められます。
2. ある種の植物を導入すると、植生は多様化する
最近もう一つの選択肢として、特定の植物種を用いて多様性を高める試みが行われています。
すなわちゴマノハグサの1種
(Rhinanthus minor)
を導入すると、植物種が増えることに注目が集まっています。この植物は種子繁殖の1年草で、
他の草やクローバーに根を介して寄生しますが、葉緑素を持っているので光合成もします。従って、部分的な寄生です。
この植物が、たくましく繁殖力の強い宿主から栄養を奪うので、宿主の活性が弱まり、他の多くの植物種の生長を助けます。
スイスの草地で行われた実験で、R. minorが宿主のバイオマスを減少させ、多様性を高めたことが
確認されました。
Pywellらは、1988年に、
Oxfordshireの牧草地にランダムに実験区を設け、長期に亘る実験を行いました。
彼らは実験区に違った量のR. minorの種子を播き、2年後
に10種の草本の種子を混合して播き、4年後、
R. minorが育っている区
と播いてない対照区を較べると、前者の植物種の数が後者に較べて多かったことを確認しています。
R. minorは播種後すぐに個体群を作るので、最初播いた種子の量は結果にはほとんど影響
しませんでした。ただ問題は、R. minorが家畜に有毒で、大量に食べさせると危険なことです。
従って、これに代わる無毒の植物を探すか、
R. minorが生長している間は、家畜を放さないようにしなければなりません。
3. ナメクジを導入すると、植生は多様化する
羊、牛、馬などの草食動物が、草地の植物種の多様化に重要な働きを持つことは、上に述べましたが、草食性の無脊椎動物は
どうでしょうか?草地には、アブラムシ、バッタ、ナメクジなど小型の草食昆虫や動物が沢山住み着いています。これらの小型の
草食動物も生息地の植物構成に影響しているでしょうか?この疑問に答えるためにBuschmannら
が行った実験の結果が、Functional Ecology
に「スイス、チューリッヒ近郊の草地の植物の生長に及ぼすナメクジの影響」として出版されています。
草食動物が好みの植物を選択的に食べることが、植生の多様化には重要です。草食の無脊椎動物も、それほどはっきりはしていま
せんが、食草の好みをもっているようです。ナメクジの1種Arion lusitanicus
(上図)は、体長は約10cmと大型のナメクジで、
ヨーロッパの西部および南西部にいます。
園芸家によると、このナメクジにも好みはあり、苗木の時に被害を受け易いそうです。
だから、このナメクジが植生構成に及ぼす影響は、植物コロニーが形成される初期に最も顕著であろうと考えられます。植物が生長して
しまうと効果は劣るでしょうが、それでもバイオマスをある程度減少させることによって、草地構成に影響を持つでしょう。
これらの仮説をテストするために、もともとは耕地だった所に、ライグラス(Lolium perenne)
とホワイトクローバー(Trifolium repens)
を播種して、実験草地としました。実験装置内に2 X 2mのプロットを多数作り、各プロットはナメクジ
が出入りできないようにフェンスをめぐらしました。このプロットの内のいくつかに、
初年度は22匹のナメクジを放し、次の年からは10匹を追加しま
した。殺ナメクジ剤を用いて、ナメクジの侵入を防いだ区を対照区としました。
その結果、最初の2年間は植物種数(多様性)とバイオマスはともに、対照区に比して、
ナメクジを放した区の方が低かったのですが、3
年目では、ナメクジを放した区の植物種数(多様性)は対照区に較べて23%増加していました。
これらのことから、ナメクジも植生の多様化にとって好ましいものであることが分かります。
のどかな田園風の景色を眺めたり、感動を詩に現す上では、ナメクジは羊の代わりにはなり得ませんが、保全生態学者の望みには
答えることができるでしょう。足元で、音もなく草を食むナメクジは、放牧や草刈りの代わりの方法として採用されるかもしれません。。
4. 絶滅危惧植物の出現は燐酸過多が原因
温暖陸地の生態系では、窒素が豊富であると植物種が消失し、多様性が縮小すると広く考えられています。すなわち、
種が多様であるのは、高い生産性や窒素が豊富であることとは負の相関があることを示しています。種の多様性がピークに達する
生産性には臨界レベルがあり、これを超えると、早く成長する背の高い植物以外の全てが太陽光の奪い合いに負けるために
、多様性は急激に減少します。低あるいは中位の肥沃度では、生長の早い背の高い種が低い種との競合で有利になるのを減少させる
ことが、そのメカニズムであると考えられてきました。
最近、燐酸過多が植物の多様性を減少させる要因であることが報告されました。
温暖ユーラシア大陸にあって、生産性の高いオランダ/ベルギーから、中位の東部ポーランド、低い西部シベリヤに至る地域の湿地の
生産性(バイオマス)と植物構成種を調べた結果、生産性の高いオランダ/ベルギーでは、バイオマスが
200-600g/m2で、植物種数は最も
多く、絶滅が危惧されている植物は燐酸が不足している場所に残存していることがわかりました。生産性の中位から低レベルにある
ポーランドやシベリヤでも、燐酸が不足する場所に絶滅危惧種が多く残っていることも観察されました。
飲料水や工業用水に大量の地下水が使用され、カルシウムや鉄に富んだ地下水が湿地へ流れ込むのが減った結果、これらの金属
イオンと燐酸との結合が減って、植物が利用する燐酸の量が増したと考えられます。これに加えて、生活水から燐が流入して、
富栄養化したことなどが燐酸過多の原因となっています。地球規模では、人間活動が、
燐酸の流出を400%にまで高めているとのことです。これは炭素、窒素、硫黄よりもはるかに高い
レベルにあります。
絶滅危惧種の保全には、生態系が燐酸過多にならないようにすることが重要です。
5. 外来種の問題
外来種の移入は、海外旅行や国際物流が盛んになるに連れて加速されるので、世界中で関心が高まっています。
これに関して、興味深いレポートがNature誌
(Nature 438, 272, 2005)に掲載されていましたので紹介しましょう。
バージニア州のチェサピーク湾は英国からの最初の移住者がたどり着いた所として有名です。ここにもう一つ
厄介な侵入者がいます。ヨーク川の土手沿いに勢力を伸ばし、在来植物を追い出して大群落を作っている
ヨシ(Phragmites australis、イネ科)
(左図)がそれです。
このヨシは1世紀ばかり前にヨーロッパから導入されたと考えられ、今では侵略種として根絶の対象と
なっています。米国連邦政府は2000年に専門のチームを作って、このヨシの撲滅に当たっています。
このチームの最終目的は、ガマ(ガマ科)などの在来植物を保全して、この公園を
外来種が入る前の状態に戻すことです。そのため、チームの専門家たちは、ハイテク装置
(global positioning device)を使って
公園中を駆け回り、ヨシを刈り取ったり、焼き殺したり、除草剤を使って枯らしたりしています。
しかし、一時的にはその生長を抑えることができても、すぐに蘇り、その成果はあまり芳しくないようです。
生態学者の中には、この方法自体に疑問を持つ者もいます。
ペンシルベニアからバージニアに
至る550 kmに広がる広大な中部大西洋地域を受け持つ外来種管理チームは、ヨシ以外にも
中国から導入されたシンジュ(Ailanthus altissima、ニガキ科)
(左図)、
鳥の餌として
東アジアから導入されたアキグミ(Elaeagnus umbellata、グミ科)
(右図)、密生した茂みを作る
生垣植物のイボタ属の樹木(Ligustrum spp.モクセイ科植物)や
タデの1種(Polygonum perfoliatum*)なども
根絶の対象としています。
シンジュは「大蓮公園自然ウオッチ」、アキグミは梶本興亜さんの許可を得て掲載しました。
*:イシミカワの古い学名です。現在はイシミカワ
はPersicaria perfoliatamです。なお、Polygonum属は
ミチヤナギ属です。Polugonum perfoliatumはミチヤナギ属の1
種かもしれませんが、よく分かりません。

これまで、米国に最も被害をもたらしたのは、ハギクソウ
(Euphorbia esula、トウダイグサの1種、
左図左)と
ギョリュウ(Tamarix spp.、ギョリュウ科、
左図右)で、ハギクソウは西部牧草地を放牧に適さない草地に
してしまい、ギョリュウは地下水をどんどん吸い上げるために土壌表面に塩を集積させたということです。
チェンソウでギョリュウを切ると喉が塩分でひりひりするそうです。
これらの侵略植物による損失は年間何十億ドルにもなるため、1999年クリントン大統領は、
侵略種の絶滅計画書にサインし、現在連邦政府は侵略種駆除に年間10億ドルを使っています。
しかし、こんな大出費が本当に必要でしょうか?過去多くの動植物が人や物の移動に伴って新天地に侵入してきましたけれど、
その多くは在来種と共存しています。ほんの僅かな種のみが侵略種となり、既存の種を押しのけ、その土地の生態を変えているに過ぎ
ません。
侵略種は取り除かなければならないという風潮は広がっていますけど、全ての生態学者がこれに賛同しているわけではありません。
侵略種を取り除くということは、科学的根拠のあることというよりはむしろ人の好みによるものであると断言する生態学者もいます。
侵略種は生息地がなくなることに次いで2番目に他の種に対する脅威と考えられていますが、文献を調べてみると、この考えを支持する
確かな証拠はほとんどないようです。侵略植物が直接栄養を奪い合うことによって在来植物を絶滅に追い込むことは滅多にない
ようです。
では侵略植物に対する脅威の念は度が過ぎているのでしょうか?そうでもありません。侵略種はその土地の
土壌の組成や水環境を変えたりすることで、局部的な絶滅を起こさせます。
問題となる侵略種は莫大な量の種子を作ったり、根の生長が著しく早かったり、その土地の病害虫に強かったり、有害物質を出して
他の植物を枯らしたりするなど、いくつかの共通の性質を
持ち、それらの性質が魅力的に自然を飾っていた植物を横暴な独占者に変えてしまいます。
ヨシもその一つで、種子でも根茎からでも増殖し、200本
/m2以上からなる株を作ります。この攻撃的な戦略のために、
除草剤の攻撃を受けることになっているのです。
The US Fish and Wildlife Serviceは野生生物保護区を設定し、保護区内の在来動植物相を
保全するために侵略種を駆除しています。例えば、
アルカトラッツ島やグランドキャニオンのように、米国にとって文化的に重要な場所を保全するために外来種の管理を行って
います。ではヨーク川の周りのヨシは在来種ではないので、殺してしまっていいのでしょうか?
そうではありません。外来種を取り除くのは美観だけの問題ではありません。歴史的に存在していた植物群落を保全するだけでも
ありません。生態的な変化は必ず起こるので、それに耐えうる生態系を保つことなのです。
共進化種を多く持つ生態系は、病気の蔓延や気候の変化などに対して、外来種の小さな群落よりも、
ずっと安定なのです。攻撃的な侵略種はその土地の生物多様性を減じ、生態系を不安定なものにすると考えられます。
里山を散策していると、園芸種として導入された外来種をよく見かけます。庭に植えてあったものが、逃げ出して、野生化した
ものです。我が家の庭のスミレ(Viola mandshurica)はアメリカから導入された園芸種に
追い出されて、道路の脇にひっそりと生息しています。動物や昆虫でも外来種が問題となっています。
その多くは在来種と共存して、新しい生態系を形成すると思いますが、かといって、むやみに外来種を導入することは慎むべきでは
ないでしょうか?
6. 病害虫の大発生を予測する
19世紀、ハーバードの天文学教授、Trouvelot博士、
は熱心なアマチュア昆虫学者でもありましたが、
彼は科学の経歴を、ガによって失ってしまいました。
1868年、マイマイガ(Lymantria dispar)を用いた実験で、
ボストン郊外の彼の家から
数匹の昆虫が逃げ出したのが災難になってしまったのです。

マイマイガは外来種で、最初のうちは増殖がゆっくりでしたが、
20年後には莫大な数になり、北米の森林を食害しはじめました。
Trouvelot博士は非常に失望して、故国フランスに帰り、無名の人となってしまいましたが、
マイマイガは森を破壊する害虫の一つとして今でも米国に留まって、経済的、生態的に大きな被害をもたらしています。
右図は名古屋市衛生研究所 生活環境部 衛生動物室
のホームページから拝借しました。
マイマイガは周期的に大発生する害虫の一つです。
昆虫の大発生の原因の一つは降水量や温度などの気候因子で、他は競争や捕食などの生物的因子が主な原因と考えられています。
北米の森林には、約80種のガやチョウ(鱗翅目あるいはチョウ目)に大発生が見られますが、
そのうちの少なくとも18種は平均8-14年の周期で大発生します。
何故周期的に大発生を繰り返すのでしょうか?その原因はまだよく分かっていません。
マイマイガの生息密度は、シロアシハツカネズミのような小型の哺乳類によって、
低く保たれていますが、餌不足からネズミの数が減ってくると、低密度が保てなくなり、大発生になり高い平衡レベルを保ちます。
このような高い密度では、病原菌、特に核多角体バイラス(NPV*)、
がマイマイガ幼虫に感染して死亡率を高め、大発生は終息します。
でもこれだけでは、周期的な大発生の原因の説明には不十分です。
従来、昆虫の大発生を予測するのに、害虫密度に依存する複数の因子の平衡を取り入れ、これをモデル化する方法がとられて
きましたが、最近、Dwyerらは、幼虫が病原菌に感染してから死に至るまでの時間、感染シーズンから次の
感染シーズンまでの病原菌の生存率、
幼虫ステージによる感受性の差など、大発生に不可欠な要素を取り入れ、新しいモデル作りを試みています。
残念ながら、詳しい内容は私には理解できませんが、このモデルは実際のマイマイガの個体群密度の変化とよく一致しているとの
ことです。これが完成すれば、生態系を荒らす病害虫の発生を的確に予想できると期待されています。
*:昆虫に感染する代表的なバイラスで、
バキュロバイラスに属す二本鎖DNAで、
核の中にきれいな正20面体の封入体を作ります。多くの種類の昆虫、特に鱗翅目昆虫、の
重要な病原体で、比較的高い種選択性を持つので、特定害虫を防除するのに農薬として実用化されています。
7. 新天地への植物の侵入
自生地以外の場所に意図的あるいは偶然に導入された植物が、新しい生息地の優先種となり、生態的にも経済的にもその生態を撹乱すことはしばしば見られます。侵略種は先ずコロニーを作り、次に新しい環境に定着しなければなりません。これらの植物のうちの少数が数を増やし、そこの植生の優勢種になります。
例えば、ウマノチャヒキ(イネ科、スズメノチャヒキ属、Bromus tectorum)
(左図)はアジアから偶然に世界中に広がり、今では世界各地で大きなコロニーを作っています(左図はMINATO氏の許可を得て掲載しました)。

ハナウドの1種(Heracleum mantegazzianium)
(右図)
は観葉植物として庭園に植えられていたものが、庭園から逃げ出し、今では“giant hogweed”の名前で、世界各地で大問題となっています(右図はWikipediaから引用しました)。
マツの1種(Pinus radiata)は、米国西部の一部にのみ自生していましたが、木材生産のため世界中に植林されて、今では多くの地域で有害植物とされています。わが国から持ち出された
イタドリ(タデ科、Reynoutria japonica japonica)が米国や欧州各地で大害草となり、逆に日光ではオオハンゴンソウ(キク科、Rudbeckia laciniata)が大繁殖しています。
これまで、侵略種の多くは人手が加わったり、自然災害などで環境が変わった場所に日和見的に侵入すると考えられてきました。この場合、光、水、窒素やリンなどの栄養素の供給が十分な環境には、侵略種は容易に入ってきますが、これらの資源供給が不十分な環境には、侵略種も容易には入り込めないと考えられてきました。しかし最近の研究から、葉あるいは窒素当たりのエネルギー生産効率が高い植物が、資源供給が不十分な環境にも侵略することが明らかになりました。これらの侵略種は短期的には自生種よりも生長が早く優位になります。自生種も葉を大きくすることによって不利を克服するので、長期的には侵略種の優位性はなくなりますが、侵略種が初期の段階で栄養を奪うために、自生種の生長は抑制されることになります。侵略種が種子の生産や生存率で、自生種よりも優れていなくても、資源の乏しい環境で侵略種が生存競争に勝つのはこのためです。草地を刈り込んだり、表層を焼き払ったりして、侵略種の侵入を防ぎ、自生種を守る戦略は、必ずしも正しいとは限らないようです。
現在、ハワイでは、ピラカンサ(Pyracantha angustifolia)
(下図左)とヒメヒオウギスイセン
(下図右)
(Crocosmia pottsii x aurea)が侵略種として問題になっています(下図はそれぞれ「季節の花」の山本純士氏および「阿蘇望亭アルバム」の稲益氏の許可を得て掲載しました)。
侵略種はおおまかに2つのグループに分けられます。第一のグループは雑草などで、豊富な資源を活用して、旺盛に繁茂し自然界に広まりますが、資源を使い尽くし、環境が悪化すると自生種との競争に敗れ、優先種になることはありません。第二のグループは、新しい環境に侵入する過程で天敵から逃れるか、あるいは土壌微生物など他の生物との共生関係を得たもので、もともとの自生地よりも新しい環境の方が生長に適しているため、優先種として定着します。
ハワイのピラカンサやヒメヒオウギスイセンは資源の乏しい環境に広まりつつあります。
8. 草地やサバンナに侵入するビャクシン
北アメリカ西部の乾燥あるいは半乾燥地帯では、この何十年間、ビャクシンのような灌木が草地やサバンナに侵入し、樹林が形成されつつあります。
その結果、牧草が減り、野生生物にとっての環境が変わり、利用可能な表面水が減り、野火も起こりやすくなるなどの悪影響がではじめています。このような現象は南アメリカ、アフリカ、オーストラリアなどでも見られます。どうしてビャクシンが、このような乾燥した環境に侵入するのか、どれくらいの地下水を吸い上げているのか、どのようにして樹林化を防ぐかなどの研究が盛んに行われています。
樹林の拡大が水の流れに及ぼす影響は非常に大きいと考えられています。アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、ヨーロッパで進められている森林造成事業のデータを調べてみると、森林や灌木の生長により、川の流れの1/3
から3/4が失われているのが明らかになりました。年間降雨量の10%にも満たない量の水が川に流れ込む地域では、植林すると水は全く川に流れ込まなくなるようです。
アメリカ、テキサス州のEdwards Plateauは年間降雨量が63.5cmで、
150年前この地域は草地とサバンナでブナ科の木が散在する土地であったそうですが、野火、家畜の過放牧、乾燥などの気候変化により、ビャクシンが侵入し樹林を形成し、川に流れ込む水は1滴もないとのことです。ビャクシンのみが繁茂する単純な生態系になったため、この地域に生息するズグロモズモドキとキホオアメリカムシクイの2種の鳥は絶滅危惧種になってしまいました。
ビャクシンが水を取り込むメカニズムは、他の樹木のそれとは基本的に異なってはいません。より効率的なだけです。ビャクシンは長い根を持つので、土中のいろいろな層から水を採ることができます。葉の気孔を開き水を蒸散させると、仮導管に強力な真空ができて、これで水を吸い上げています。
これはストローで水を吸い上げるのと同じ原理です。水が不足すると仮導管に気泡が生じ水の流れが阻害されます。これを空洞現象と言いますが、ビャクシンは空洞現象に強く、容易に気泡を取り除いて水の流れを取り戻すので乾燥に強いのです。ビャクシン以外にも、マメ科
のmesquiteやナンキンハゼなどが乾燥に強く、草地やサバンナに侵入することが知られています。
牧場からビャクシンを取り除き、元のような草地を取り戻し、池や沼を蘇らせた例も報告されています。ズグロモズモドキとキホオアメリカムシクイの数も4倍に増えたということです。
樹林を増やすことは、大気中の炭酸ガスを減らすための最良の方法であることは間違いありませんが、表面水の流れに対しては負の効果があるとは一寸驚きました。地球温暖化防止のための植林事業であっても、十分に調査した上で行わないと、思わぬ逆効果を生じるかもしれません。やはり自然は昔からある姿に復元することが最良なのでしょう。
トップへ戻る