アリの世界の不思議
世界には非常に多くの種のアリがいて、その食性、行動、生息場所、生態など非常に多様です。ここではアリの社会の不思議
についてトピックを紹介しましょう。
1. アリの社会のカースト制度
アリはハチと同じく膜翅目に属し、その社会にははっきりとしたカースト制度が存在します。複数の雄と空中で交尾を終えた女王
アリは単身で土の中などに巣を作り、産卵、子育てを行います。その間は自分の翅を落として食べ、エネルギー源としています。
受精卵(二倍体、2n)からは雌のみが生まれ、一部は将来の女王となりますが、大部分は働きアリと兵隊アリとなり、ひとたび
役割が決まると他に変わることなく一生をその職について終えます。働きアリは最初は内勤で子育てにつきますが、年をとるにつれ
て、外勤となって餌を求めて外を歩き回ります。
一方、受精していない卵からは雄のみが生まれます。従って、雄は染色体が半分しかない半数体(n)となります。
このようなカースト制度はミツバチやシロアリなど社会性昆虫一般に見られますが、シロアリは分類学上もカーストも全く
違いますので、シロアリと共生する原生動物のところで詳しく説明します。
アリの生殖
前に述べたように、受精卵からは雌のみが生まれ、一部は女王に、他の全ては働きアリになります。受精卵は潜在的には全ての卵が
女王になり得ますが、女王が死んだときなど、環境が変化したときにだけ新しい女王が誕生します。それ以外は全部働きアリになりますが、
どのようなメカニズムで女王が作られるのか?はなぞにつつまれています。非受精卵(無性卵)からは雄のみが生まれます。
従って、雄は染色体が半分しかない半数体です。
通常女王アリは複数の雄と交尾しますが、ハキリアリ(Acromymex echinatior)の巣に寄生する
近縁種(A. insinuator )
の女王は、時々浮気をするものもいるようですが、単雄のみと交尾します。寄生するアリは生殖虫のみを生産し、働きアリを
生産しないで、寄主のアリに全てを託しています。一妻多夫では働きアリの生産にコストがかかるので、肩身の狭い寄生者にはこんな
コストはかけらません。そこで産卵数を減らしたため、一匹の雄の精子で十分になり、一匹の雄との交尾に変えてしまったのでしょう。
ところが最近、雌は雌から、雄は雄から、クローン繁殖のような風変わりなアリが見つかりました。
コカミアリ(Wasmannia auropunctata)は、熱帯地方に普通に見られる小型のアリで
、これまでの遺伝学では説明できないような、変わった生殖をします。
女王は雄と交尾し、受精卵を産みますが、これらは全部働きアリになります。決して女王アリは誕生しません。では、女王アリは
どのようにして生まれるのでしょうか?女王と次の世代の女王の遺伝子を較べてみると、両者は同じで、
交尾した雄の遺伝子は全く受け継いでおりません。雄の遺伝子を受け継いでいるのは、働きアリのみなのです。働きアリは生殖
能力がないので、雄の遺伝子は子孫に伝わりません。そこで、雄は独自の能力を開発しました。すなわち、受精後、母親由来の遺伝子を
全部追い出して、父親由来の遺伝子のみの個体、すなわち半数体の雄、になります。このように、雌は雌の遺伝子をプールし、
雄は雄の遺伝子をプールして、決して交換し合はない進化は他にはみられません。コカミアリの雄と雌は、あたかも別種のように
振舞っています。何故このような進化を遂げたのでしょうか?自然界にはまだまだ解明されていない多くの不思議が存在するものです。
ハリアリの一種のDinoponera quadricepsは進化の過程で、形態的にはっきり分かる女王アリを失い、
全ての雌が働きアリで、交尾し産卵できる能力を持っています。しかし、実際に生殖できるのは、最上位のα位の雌のみです。
このアリのコロニーは、平均して約80匹の雌成虫と3-5匹の高いランクの
雌からなります。この高いランクの雌からなる支配階級の
最上位にいるのがα位の雌です。
α位の雌以外の高いランクのアリ達は、ほとんど働かず、常に生殖の機会を狙っています。通常は、
α位の雌が死んだときに、その次のβ位の雌がこれに取って代わります。下位ランクの働きアリたちは働くだけで、支配階級の権力闘争に
は加わりません。雄は、他の膜翅目同様、コロニーの中での役割は何も持っていません。雄たちは交尾の時期になると、
このコロニーから出て、他のコロニーのα位の雌と交尾します。
β位の雌は、α位の雌が自然死するのを待つよりは、α位の雌をその地位から引きずり落としたほうが、自分の適応を高める
(子孫の数を増やす)ことができるので、しばしばα位の雌に戦いを挑みます。両者が激しく争っているとき、α位の雌は腹部の
針から分泌する化学物質を挑戦者にこすり付けます。すると、挑戦者は下位ランクの雌たちの激しい攻撃を受けて、動けなくなって
しまいます。
動けない状態は数日間続き、その間に挑戦者は高いランクの地位を失ってしまいます。これは動けなくなったストレスと
動けない間、自分の優位を誇示する行動がとれなくなることによるものと考えられています。時には殺されてしまう場合もあります。
実験的に、α位の雌、β位の雌および下位ランクの雌の腹部にあるデユファー腺(通常は、アリの道しるべフェロモンを分泌する腺)
の内容物を、β位の雌にこすり付けてみると、α位の雌の分泌腺が、他のβ位や下位雌の分泌腺よりも、動けなくする効果が大きく、
しかも動けない時間も長く、ダメージも大きいことが確認されました。他のコロニーの雌たちから採取したデユファー腺の内容物を
用いたので、これらの雌が持つ化学物質はコロニーに特異的なものでもなく、そのコロニーのα位の雌に特異的なものでもありません。
化学分析の結果、デユファー腺に含まれる化学物質は主に炭素数15-30の炭化水素から成り、α位の雌は
下位ランクの雌よりも有意に多くの炭化水素を持ち、さらに分子量の大きい炭化水素を多く含んでいました。β位はその中間にあります。
このことから、これらの化学物質は相手を動けなくする作用を持つフェロモンなのでしょう。そして、α位の雌のみが十分量の
フェロモンを持つのか、あるいは化学物質の適切な構成比をもつのか、あるいは両者なのでしょう。
では、何故β位や下位の雌たちはこの化学物質を十分に作らないのでしょうか?
一つの可能性は、十分に成熟した個体のみがこの化学物質を作ることができるのか
もしれません。β位の雌は大抵の場合、卵巣が十分成熟しきっていません。β位の雌がこの化学物質を容易に作ることができるならば、
α位の雌は、しばしば交代し、遺伝的な近縁関係が薄れるので、進化的に受け入れられなかったのでしょう。
このように、ハリアリのα位の雌は、化学物質によって、下位の雌たちにライバルを攻撃させるという間接的な懲らしめ
を採用することによって、戦わずして生殖の優位を保っています。
カースト制度
アリのコロニーは中央からの指令なしで組織されていますが、餌探しや巣作りなど多くの仕事を分担してやらなければなりません。
従って、その仕事についている働きアリの数を条件変化に対応して調節しなければなりません。
砂漠に住み、植物の種子を食べるアカシュウカクアリ(Pogonomyrmex barbatus)の
巣は、1匹の女王アリと1-1.2万匹の働きアリから成り、働きアリに
は内勤アリ、毎朝餌場を
見回るパトロールアリと餌を集める働きアリの3種がいます。パトロールアリが無事に巣に帰って
こなければ、働きアリは餌を求め
て巣を離れることはありません。内勤アリは活発に働いていても、餌を求めに行くのを促すことはありません。
パトロール隊が巣に帰る途中で捕まえてしまうと、外勤の働きアリは巣の出口付近でうろうろするだけで、決して出かける
ことはありません。パトロールアリの体表抽出物をビーズにつけて、このビーズを出口の内側に連続して落とすと、外勤アリは
いそいそと餌を求めに外出します。ビーズを10秒間隔で連続して落とさないと、行動を起こしません。
ということは、ある数のパトロールが帰ってこないと行動を起こさないのです。
このように行き会った仲間がどんな仕事についているか、仕事の配分はどうなっているかなどの情報を知るのに、アリたちは体表の
炭化水素を用いています。この情報を基に、内勤→パトロール→外勤と、数を調節しながら、変わっていくのでしょうが、
逆に進むことはありません。
熱帯に棲むハダカアリの仲間(Cardiocondyla obscurior)の雄には攻撃性の無翅の
雄と、おとなしい有翅の雄がいて、両者が巣の中で、処女女王アリに接近し交尾をしようと争っています。無翅の乱暴雄アリは
サーベル型の上顎が発達していて、無翅雄同士の死闘が繰り返されますが、有翅のおとなしい雄を襲うことはありません。
これは若い有翅雄は処女女王と似通った体表炭化水素を持っているからですが、処女女王との交尾に成功する率が、無翅雄に劣る
ことはありません。ただ無翅雄が間違えて、交尾を試みることはあります。このように、有翅の雄は化学擬態によって、雄にも雌
にも魅力的に振舞っているようです。
一般に弱いものが強いものに擬態して身を守るのはよく知られています。例えば、ハネカクシの雄は
化学擬態によって立派な雄との争いを
避けようとしますが、雌との交尾をする機会も少ないようです。これに対して、ハダカアリの場合は、身を守るとともに、ちゃっか
りと交尾にまで成功するのですから驚きです。どうしてこのような不思議な進化を遂げたのでしょうか?
2. アリの社会の居候
アリに似た昆虫やクモは多くいますが、何故アリに似なければならないのか?その意味はよく分かっていません。アリは昆虫
など小動物にとって、最も恐ろしい存在ですから、アリの目につかないようにしているに過ぎないのかもしれません。逆に、
この獰猛なアリの巣の中には多くの居候が棲んでいます。しかも彼等は体の構造はアリとは全く違っています。アリの巣の
中は真っ暗なので、構造は違っていても、化学的に擬態すればアリを騙すことが可能なのでしょう。
アリは相手の識別を体表の炭化水素(ワックス)で行います。種が違えば体表ワックスの構成成分が異なり、同種でも巣によって、
構成比が異なります。巣によって炭化水素の構成比をどのように一定に保つのか?についてはまだ分かっていませんが、女王
アリを巣から取り去ると構成比がばらばらになることが報告されています。これがヒントになり、解明が進むものと思われます。
アリヅカコオロギはアリの同居人で、いろんな種のアリの巣を棲みかとしています。トビイロケアリの巣にいるアリヅカコオロギ
をクロヤマアリの巣に移すと、最初は猛烈な攻撃を受けますが、彼は逃げるでもなく、反撃するでもなく、ただじっと耐えて
います。しばらくするとアリたちはアリヅカコオロギを舐めたり、さすったりして、受け入れるようになります。どうしてそう
なるのかよく分かりませんが、体表ワックスを分析すると、組成がアリのものに近くなることが知られています。アリのワックス
を盗むのでしょうか?それとも自分で作るのでしょうか?不思議です。さらにこのアリ
ヅカコオロギを獰猛なクロクサアリの巣に移しても、全く同じ経過をたどって、最終的には受け入れられます。
ショクガバエはさらに巧妙な居候で、アリの幼虫を食べて育ちます。だからこれを「羊の皮をかぶった狼」といいます。
羽化と同時に化けの皮がはがれて攻撃を受けますが、ショクガバエが存在するのですから、何らかの方法でこの攻撃をかわして
いるのでしょう。
ゴマシジミ類(シジミチョウ科、Maculinea属)はアリを食い物にしていますが、
これにも、2つの違った進化が見られます。Maculinea属のシジミチョウは
ヨーロッパとアジアに生息し、孵化幼虫は2-3週間は花を食べ、その食草の根元でアリ
(Myrmica属)に見つけられるのを待ちます。アリの持つ体表ワックスと同じような物質を分泌して
働きアリを騙し、巣に運び込まれます。Maculinea属の多くの種は捕食性で、自分でアリの
幼虫を食い漁りますが、2種の「カッコウ種」では、働きアリがアリの幼虫をかみ殺して、シジミチョウの幼虫に与えます。
カッコウは托卵して里親の子を殺し、カッコウの雛のみを育てさせることに因んで「カッコウ種」と呼ばれていますが、種名では
ありません。このカッコウのような給餌は、アリを利用するには効率的な方法なので、捕食性の種よりも多くのチョウを育てること
ができますが、Myrmica属のアリ1種のみにしか受け入れられ
ません。捕食性の種
はMyrmica属の多くの種によって受け入れられます。
日本にいるクロシジミ(Niphanda fusca)はクロオオアリ
(Componotus japonicus)に育てられますが、クロシジミ幼虫も蜜を出して、アリに与えます。
この蜜はアリにとって酒のようなものなのか?あるいはアリにとってまずくて食べられないものを、クロシジミに与えて蜜を出させ
ているのか?その意味はよく分かっていません。
ムモンアカシジミ(Shirozua jonasi)も
クロクサアリ(Lasius nipponensis)と共生していますが、巣の中に運びこまれることは
ありません。ムモンアカシジミの幼虫は
アブラムシを食べますが、アリを騙してボディーガードにしています。その代わり、羽化と同時に化けの皮が剥がれて、猛烈な
攻撃を受けます。
3. アリの奴隷狩り
アリが白い卵のようなものをくわえて、列をなして行進しているのを見たことがありますか?これはアリが奴隷狩りを行って
いるもので、くわえているものは卵ではなく、アリの蛹です。
サムライアリ(Polyergus samurai)の女王アリは単身で、
クロヤマアリ(Formica japonica)の巣に入り込み、クロヤマアリの女王を殺し、
この巣を乗っ取って女王におさまります。サムライアリの女王は、クロヤマアリの働きアリから餌をもらったり、身の回りの世話
をしてもらったりして、せっせと産卵に励みます。ところが、生まれ育ってくるアリはすべてサムライアリで、サムライアリの
働きアリは徒食で全く働きません。従って、巣の中にはクロヤマアリの
働きアリの数が減り、サムライアリの働かない働きアリばかりになってしまいます。
そこで、サムライアリたちは大挙して他のクロヤマアリの巣を襲い、「混乱させる物質」を発散します。混乱したクロヤマアリ
がうろうろしている間に、サムライアリたちは蛹をくわえて巣に持ち帰るのです。卵や幼虫を持ち帰ったのでは後の世話が
大変なので、すぐに働きアリになる蛹だけを持ち帰るのです。実にずる賢いアリたちです。
4. アリのスカイダイビング
熱帯林の林冠には多くの動物が棲みついています。その中でも、アリは林冠動物相の重要な一員です。林冠のアリは樹上
生活を送るために、表面にしがみつくのに適した体の構造を持っているにもにも拘わらず、風や樹上の動物、鳥に追われて、
木から落ちことがあります。左図
熱帯林の樹上に巣を作るアリ(Cephalotes atratus)の働き
アリには翅がないし、30mも下の林床に落ちると自分の巣に戻れる見込みは極めて低いにも拘らず、
外敵を逃れて自ら落下することも
あります。落ちたアリはどうなるのでしょうか?私などは「そんなのアリの勝手でしょ」で片付けてしまいますが、これを実験で
試した研究者達がいます。彼らの探究心には驚かされます。
マークを付けた120頭のCephalotes atratusの働きアリを、
棲みかとしている木の低い枝
(約27m)から、無風条件で落下させ、彼らがどのような降下行動をとるかをビデオテープで定量的に
測定した結果、落ちていくアリは、自分の巣のある木の幹に戻れるよう、きまったJ字型の軌道をと
ることが分かりました。
この軌道は3つの段階に分けることができます。
(1)垂直降下(方向性をコントロールしない落下)
(2)木に向かって体の配置をすばやく方向調整する:定位
(3)木に向かって滑空をする
このようにアリは方向を見定めて巣のある木まで滑空し、85%のアリ
が10分以内に巣に帰りついたという
ことです。アリの目にエナメルを塗って、目かくしをすると、無事に巣に戻ったアリは10%であった
ことから、
彼等は落下中に木の幹を視覚的に知る能力を持っていると考えられます。
方向を見定めて降下するのは、樹上生活性のCephalotini科
とPseudomyrmecinae科の大部分の種に見られますが、同じように樹上生活を
するDolichoderinae科などでは見られません。
方向を見定めた空中降下をするアリに共通するのは、樹上に巣を作り、枝先の花粉や蜜を集め、比較的巣が小さく、働き
アリを作るのにコストがかかる種です。進化的には、太古の昔、林床が水に浸かり、下で魚が待ち構えていた森林に棲んでいた
ものと考えられます。
5. 農耕をするアリ
約5,000万年前、南米でアリの1種が狩猟生活を捨てて、農耕生活
を始めました。すなわち、キノコを育てることを学んだのです。この先祖から、Attiniグループ
のアリが進化し、現在約200種が熱帯林に棲んでいます。
キノコを育てるハキリアリ
ハキリアリ(Atta sp.)は代表的な農耕アリです。コロニーには800万頭
のアリから成る大きなものもあり、これは牛1頭に相当します。従って、ハキリアリは
牛1頭が食べる量の葉を毎日切り出していますが、アリはこの葉を直接食べるのではありません。
これを噛み砕いて、かび(Leucocoprini)を育て、このかびが作るキノコを食べます。
女王アリは母親からこのかびを受け継ぎ、新しい巣を作ると、このかびでキノコ園を作ります。
ところが、
右図のように、
このキノコ園を荒らす菌(Escovopsis)がいて、キノコの健康状態が悪くなると繁殖して、
キノコ園を破壊します。これに対抗するため、アリは胸部に別の細菌(Streptomyces)
を住まわせて抗生物質を
作り、キノコ園を荒らす菌、Escovopsis、の繁殖を抑えています。
人間が抗生物質を使用するようになって、100年も経っていないのに、抗生物質耐性菌が出現し、
また新しい抗生物質が出るといった「いたちごっこ」を繰り返しているのに、アリのキノコ園では5,000万年
も同じ抗生物質を使っているのはどうしてでしょうか?
ハキリアリに学ぶ
ハキリアリとキノコの関係は前述の通りですが、アリに共生しているバクテリアが作る抗生物質が、最近分離・同定され、
dentigerumycinと名付けられました。この抗生物質は人のカンジダ症の原因となるCandida albicansの生育を抑える作用があります。
また、ハキリアリのキノコ園にはセルロースを分解できる多くの種のバクテリアが存在することも明らかになってきました。現在のバイオ燃料の原料として、サトウキビやトウモロコシなどの糖が用いられていますが、地球上に大量にあるセルロースを原料として用いれば、もっと安価に大量生産ができるので、これらセルロースを分解する微生物が注目されています。
もちろん、今すぐにこれらの抗生物質やバイオリアクターが実用化されるわけではありませんが、ハキリアリとキノコ園の研究から、さらに優れた抗生物質や酵素が見つかることが期待されています。
共生関係を安定化させるネットワーク
ハキリアリの仲間にキノコアリがいます。このキノコアリのコロニーは小さく、10頭程度の働きアリ
から成り、僅かばかりの葉を集め、これでキノコを育てています。アリーキノコを作るカビーキノコ園を荒らすカビ
(Escovopsis)ーEscovopsisを抑えるバクテリア
(actinomycetes)の4者の関係は、ハキリアリと同じですが、
最近これに第5番目の共生者(black yeast)が見つかりました。
ウイスコンシン大学のCurrie博士がキノコアリ
(Apterostigma sp.)に寄生しているバクテリアを培養したとき、白い
バクテリアのコロニー以外に、黒いイースト菌のコロニーが現れることを見つけました。さらに、このイースト菌はアリに
共生しているバクテリア(actinomycetes)の繁殖を抑えることがわかりました。すなわち、
このイーストは、キノコ園を荒らすEscovopsisに対する重要な防御機能をアリから奪って
しまうことになります。では何のためにこのイーストは存在するのでしょうか?アリとキノコが共存共栄するためには、お互いに相手
を裏切ることは許されません。もし一方のみが利を得るならば、両者の共生関係は崩れてしまいます。両者のバランスを保つためには、
共生・寄生関係にある他の生物の存在が重要なのかもしれません。
これまで珊瑚と藻類あるいは大豆と窒素固定菌など、2生物間の共生がよく知られていますが、
これらの中にも第3あるいは第4の
共生・寄生者がいるかもしれません。これからは、生物の相互作用を対ではなく、3者あるいは
ネットワークで考える必要があるのかもしれません。
ハキリアリ女王の寿命と産卵数
ハキリアリ(Atta colombica)の女王は昆虫の中では最も長寿な昆虫で、十から数十年生き
続けます。女王アリは成虫になるとすぐに
結婚飛行のため巣を飛び出し、空中で交尾した後、単身で穴を掘って巣つくりを始めます。巣が完成すると、最初の産卵を行い、
子育てをすると同時に、自分の生まれ育った巣から花嫁道具として持参したカビを栽培します。
ハキリアリはこのカビが生産する「キノコ」を食べます。働きアリが育ったあとは、子育てとキノコ栽培は働きアリにまかせ、
女王アリは産卵に専念します。働きアリが育つまでは単身でこの過酷な労働に耐えなければならないので、
95%以上の女王アリが巣づくりの途中で命を失うことになります。
女王アリはこのように長年生き続け、産卵を続けますが、交尾は生涯に一度限りで、再度交尾することはありません。では、
精子はどこから入手するのでしょうか?それは結婚飛行中に貯蔵器官(貯精嚢)に蓄えた何億という精子を使用します。
勿論精子の活性を一生涯維持させなければなりません。
一方、雄アリは交尾により、活性のある精子を女王アリの体内に残すとすぐに死に絶えます。
このように、女王アリは精子を生かしたまま貯蔵しなければならないので、これには多大のコストがかかります。
働きアリが出現するまで、女王アリは腹部に蓄えた脂肪や飛翔筋をリサイクル利用して栄養としますので、免疫力が低下し、
病原菌の攻撃に対して非常に弱くなり、この間の死亡率が高まるのです。従って、少量の精子を貯蔵すれば、コストが下がり、
生き残る確率は高くなりますが、長期間に亘って産卵を続けることはできなくなり、コロニーは衰退します。逆に、
大量の精子を貯蔵すると、コロニー形成期間中の死を覚悟しなければなりません。もしこれで生き延びることができれば、
長期間の産卵が可能で、このコロニーはおおいに繁栄します。コロニーを完成することのできた女王アリが貯蔵している精子の
数は、交尾直後の女王アリの貯蔵精子数より平均して少ないことが確認されています。
通常コロニー中の働きアリは数百万匹からなり、毎年何百匹の有翅の女王と雄アリを育てています。
また女王アリは複数の雄と交尾します。これはできる限り、遺伝的に違った形質をコロニーに導入するためです。
しかし、これにもコストがかかり、同じ数の精子を一匹の雄から得るよりも、複数の雄から得た方がコロニー形成の
確率は低下します。通常は2-3匹の雄と交わり、それ以上の雄と交わると免疫力は著しく低下します。
6. 罠を作って獲物を狩るアリ
樹上生活のアリは棲んでいる植物のみに餌場が限られるので、窒素源の要求を満たすために、集団で罠を作って昆虫を捕らえる
戦略をとるものがいます。
アマゾンにいるフタフシアリ亜科のアリ(Allomerus decemarticulatus)はアリ植物であ
るHirtella physophora(ばら目、クリソバラヌス科)と特別な関係にあり、葉柄の膨れた部分
に巣を作ってコロニーを形成します。職蟻は自分たちの住んでいる木の幹に沿って植物の毛を切って道をつけ、
次に左図のように、
残した毛を柱にして、切り取った毛を口から出る物質で固め、細長い回廊に無数の穴のあいた丸天井をつけます。最後に、
この構造物にすす病菌を接種します。そうすると、このカビが穴の周りから構造全体に増殖し、図に示したようなスポンジ状の
回廊ができあがります。アリだけははこの穴から自由に出入りすることができます。
アリを取り除いてしまうと、回廊のカビは全く無秩序に増殖するので、このカビの増殖もアリがコントロールしていることが分かります。
職蟻は回廊の中に隠れていて、回廊の穴から口を大きく開けて、回廊に昆虫がやってくるのを待ち構えています。
回廊に昆虫が留まると(右図)、肢、触角、翅などに噛み付き、穴の内側と外側から逆方向に引っ張って昆虫を伸ばし、
毒液を刺して弱らせ、この餌食を巣の方に移動させて、そこで解体します。
このように、アリー植物ーカビの3者の共進化により、獲物を待ち伏せして捕らえ、蛋白源として
の要求を満たすようになったのでしょう。
7. アリと幾何学
アリの道の幾何学構造
多くの種のアリは餌場を見つけ、餌を巣に持ち帰る時に腹部のデユファー腺から出すフェロモン(道しるベフェロモン)で帰り道に
マークを付けます。従って、餌場の情報を得た他のアリたちは、この道しるべのついた道に沿って、迷うことなく、餌場にたどり着くことが
できます。しかし、フェロモンの匂う道からはずれるアリもしばしば見られ、彼等は道を探しあちこち歩き回ります。やっと探し当てて、
この道に戻ってきたとき、今度はどちらが餌場で、どちらが巣なのか分からなくなってしまいます。例えば、餌を持ったアリは巣に
向かって歩かねばならないのに、反対方向の餌場に向かったのでは時間がかかるし、外敵に襲われるリスクも多くなります。では、
どうやって、両極(巣と餌場)の方向を知るのでしょうか?
種によっては、視覚的に環境の手がかりを記憶しているものもいますが、幾何学を用いて、この問題を解決する賢いアリを紹介
しましょう。
巣から餌場へ通じるアリの道は一本と考えられがちですが、実際には、道しるべの付いた道を作るアリたちの多くは、餌場に通じる
枝分かれした複雑なネットワークを作っているのです。このことは、ネットワークの幾何学構造が方向性を示す情報を提供していること
を示唆しています。Acostaらは、3種の
ハキリアリ(Atta sexdens、A. capiguara、
A. laevigata)、イエヒメアリ(Monomorium pharaonis)、
シュウカクアリ(Messor barbarus)の
ネットワークについて研究した結果、彼らのネットワークは共通の幾何学構造を持つことを発見しました。すなわち、巣から餌場
に向かう道に枝分かれを出すとき、二股の角度を50-60度にしています。
この二股の情報が道の方向性を決定するのに重要な働きをしています。例えば、巣から出て行ったアリが、60
度の二股に遭遇すると、進行方向に対して左右に30度の角度で二つの道があるので、そのどちらかに
進みます。逆に餌場から戻るアリたちも二つの選択肢を持ちますが、出て行くアリたちと違って、進行方向に対して一つは小さい角度
(30度)で、他は大きい角度(120度)となります(確かめてみてください)。
すなわち、大きい角度を持つ道は巣から遠ざかり、逆に小さい角度は巣に向かうのです。そして彼等は間違いなく、小さい角度の道を
選び、正しく巣に向かうのです。
実験的に、イエヒメアリの働きアリを、道のネットワーク上に、間違った方向に向けて置くと、そのままの方向に歩きますが、二股に
さしかかると、そこでUターンし、正しい方向に向かうことが証明されました。
すなわち、彼等は直線では、方向性を知ることは
できないのですが、二股の角度で正しい方向を知るのです。二股の角度を60度より大きくすると、成功率
は低下し、120度では、全く方向性を失ってしまいます。
これが理解できない人は、アリよりも劣ることになります。一生懸命考えてください。
アリの交通整理
トビイロケアリ(Lasius niger)も、巣と餌場の間に、道しるべフェロモンでマークされた道を
1本作りますが、道が込み合ってくるとバイパスを作ります。しかも、彼等は上り線と下り線を
作って、一方通行を行い、混雑を緩和するのです。ではどのようにして、一方通行ができるのでしょうか?
実験的に、巣と餌場を結ぶ道の一部にバイパスを作って、アリを歩かせます。混雑していない間は、彼等はどちらか一方のみちを
行き来しますが、多数のアリを歩かせると、一方通行が始まります。
巣から餌場に向かったアリが、バイパスの二股にさしかかった時、
反対から餌を持ったアリと鉢合わせすると、前に述べたように、前者は二つの選択肢を持ちますが、後者は狭い角度の道のみを
選択しますので、前者が道を譲り、もう一方の道を歩きはじめます。次々にやってくるアリたちが、同じような「譲り合い」を
行う結果、見事な一方通行ができあがるのです。私たちもトビイロケアリを見習わなければなりません。
8. アリが作る「悪魔の庭」
「悪魔の庭」とは、アマゾンの熱帯雨林にある樹林で、ほとんどがアカネ科のDuroia hirsuta
という木(左図)1種から成っています。
熱帯雨林は植物種が豊富なのが普通ですが、何故「悪魔の庭」だけは、ただ1種の植物に独占されているのでしょうか?
言い伝えによると、「悪魔の庭」はこの森に住む悪霊が作ったものだそうです。「悪魔の庭」が形成された原因について、
従来は、このD. hirsutaが作る物質が、他の植物の成長を抑制した結果と考えられていました。
すなわち、アレロパシー(他感作用)によるものと考えられていました。ところが最近、
Federicksonらが
「悪魔の庭」の詳細な研究を行った結果、Myrmelachista schumanniというアリ
(右図)が
このD. hirsutaの木に巣を作り、この木以外の木を全て蟻酸の毒で殺すことによって、
「悪魔の庭」を作ったことが明らかになってきました。
「悪魔の庭」の中に、アマゾンでは普通に見られるヒマラヤスギ(Cedrela odorata)の若木を
植えると、たちまちアリが若木に蟻酸を注入して、枯らしてしまいます。しかし、アリが自由に近づけないようにすると、
「悪魔の庭」の中でも、ヒマラヤスギはすくすくと育っていきます。
では、このアリはどのようにして、D. hirsutaと他の木を見分けているのでしょうか?
M. schumanniは、D. hirsutaの茎の膨れた部分
に穴をあけて、棲んでいます。ヒマラヤスギの若木に、人工的に膨らみをつけたものと、つけていないもの、
およびD. hirsutaで膨らみのあるものとないものを植えると、全てのヒマラヤスギは、アリの
攻撃を受けましたが、D. hirsutaでは、膨らみの有無に関わらず、全ては健全に育ちました。
従って、自分の寄主となり得る木とそうでない木の区別に、膨らみの有無を用いていないと結論されます。
多分化学物質で認識しているのでしょうが、まだ解明されていません。
このアリの毒腺には蟻酸のみが含まれ、他の物質は検出されません。蟻酸をヒマラヤスギに処理してみると、確かに葉にネクローシス
(壊死)が現れます。一般にアリは蟻酸を生産し、細菌やかびの防除あるいは他の昆虫を
弱らせるのに用いていることはよく知られていますが、蟻酸を除草に用いているのはこれが初めての発見です。
「悪魔の庭」はこの研究が行なわれた熱帯雨林の4.5%を占め、年々0.7±0.3%
増えています。この成長率から計算すると、最も大きい「悪魔の庭」
(351本のD. hirsutaから成る)は、807
年前から存在することになります。
1つの「悪魔の庭」は1つのコロニーで形成され、このコロニー
は300万頭の働きアリと15,000頭の女王から成るそうです。
「悪魔の庭」は1頭の女王が1本の
D. hirsutaに巣を作ったことに始まりました。
D. hirsutaの若木は病害虫や他の植物に生長を
邪魔されることなく育って森を形成し、そしてアリはこの森を独占してコロニーを広げていったという見事な共進化の例を見る
ことができます。
9. 火星からやってきた雄アリ
通常、雄と雌は遺伝子を子孫の中で混ぜ合わせ、遺伝子プールを形成していますが、
雄と雌とが各々無性生殖のような形で繁殖し、各々独立した種のごとく別の進化系統樹を持っているアリが見つかりました。
この驚きのアリはコカミアリ(Wasmannia auropunctata、the little fire ant)
で、熱帯地方にごく普通に見られるアリです。
アリやハチなど社会性昆虫に見られる半数倍数体の種では、雄は受精していない卵(無精卵)からできるので、
雄は半数体となります。従って、雄は父親あるいは母親由来の遺伝子を1コピーしか持っていません。雌は受精卵から生まれ、2つの遺伝子コピーを持っています。さらに、環境によって雌は2つのカーストに
分化し、1つは生殖力のある女王に、
他は生殖力のない働きアリになります。
コカミアリでは、コロニー内で作られる新しい女王の遺伝子は、それを産んだ女王の遺伝子構成と同じです。すなわち、雄の
遺伝子を受け継いでいません。従って、雄は不妊の働きアリのみの父親です。では、雄はどのようにして、生まれるのでしょうか?
受精後、父親由来のゲノムが母親由来のゲノムを取り除いて半数体にし、それで雄になったものと考えられます。
すなわち、雄と雌は働きアリで遺伝子を結合させますが、決して互いに遺伝子を交換しあわない雄、雌別々のラインに分かれてしまった
ことを意味しています。このように、コカミアリの雄は火星からやってきたかのような奇妙な生殖をするのです。
もっと研究が進んで、雄と雌の遺伝子交換がなく、全く違った進化系統樹を持つことが確かめられれば、これらは別種として分類
できるでしょう。もし、雌にWasmannia auropunctataの学名を残すなら、雄には他の惑星から
やってきたような風変わりな学名を
付けてはどうかと、著者らはWasmannia mars(Marsは火星の意)
という学名を提唱しています。
10. アリの万歩計

砂漠に棲むアリ(Saharan desert ant、Cataglyphis fortis)
は広い砂漠を、餌を求めて曲がりくねった道を歩きます。しかし、
餌を見つけた後は、真っ直ぐに巣に向かって行進します。彼等は巣の方向を太陽の方向との角度で測り、何らかの方法で巣までの
距離を測ります。それでは、どんな方法で距離を測っているのでしょうか?
距離の測定にはいろいろな仮説があります。「エネルギー説」では、静止状態と移動の時では必要なエネルギーに差があるので、
この差に基づいて計算するというもので、多くの節足動物で信じられてきましたが、働きアリたちは重い荷物を背負った時も、
荷物を持っていない時も、正確に巣に帰るので、この説では説明がつきません。「視覚説」では、歩行中あるいは飛行中、移り行く
景色を手がかりにするもので、ミツバチなどのハチやある種のアリで証明されています。ノーベル賞学者のティンバーゲン博士
が行ったハチの帰巣に関する研究でこれが詳しく説明されています。
アリの移動速度はほぼ一定であることから、経過時間を測っているという「経過時間説」も考えられましたが、これも
否定されています。これらに対して、歩数を測るという「万歩計説」が100年も前に提唱されましたが、
誰もこれを証明する人がいませんでした。最近、Wittlingerらがこのアリの肢を長くしたり、
短くしたりして、万歩計説を見事に証明しましたので、これを簡単に説明しましょう。
長さ10mの金属製の直線の廊下(学習用チャネル)の片側に巣の出入り口を、他の側に餌場を置いて、
アリが自由に巣と餌場を行き来できるようにして、少なくとも1日学習をします。また別に、
学習用チャネルと平行に、もっと長い金属製の直線廊下(テスト用チャネル)を準備します。学習用チャネルの餌場に到着して、
餌をくわえたアリをテスト用チャネルに移すと、このアリは巣の方向に向かって歩き始めますが、ある地点に来ると
Uターンし、少し歩くとまた
Uターンするといった行動に移ります。これはアリが巣の入り口があるべき所に来た時、入り口を探して、その地点を
行ったり来たりするためで、その地点までの距離は平均10.20mでした。すなわち、
学習用チャネルの餌場―巣の入り口の長さとほぼ同じ長さの距離となります。
次に、学習用チャネルの餌場に到着したアリを捕らえ、肢を脛節(4番目の節で、最も細長い部分)
を切って、その間にブタの毛を糊付けして肢を長くします(上図の左2つ)。逆に、肢を短くするために、脛節の中央で断片を切り
取ります(上図の右)。
(上図はドイツUlm大学のWittlinger博士から提供を受けました。)
このような手術を受けたアリに餌を与え、テスト用チャネルに移すと、これらのアリは巣に向けて歩きだしますが、
長肢のアリは巣に至る距離を越えてしまい(平均15.3m)、逆に短肢のアリはその距離まで
達しない距離(平均5.75m)で巣の入り口を探す行動に移りました。すなわち、
正常な肢で巣から餌場に到着したアリは、そこで手術を受けたあと、同じ歩数だけ巣に向かって歩いたために、長肢では行き過ぎ、
短肢では達しなかったと考えられます。
この手術を受けた長肢あるいは短肢のアリを再び巣に戻し、1日間餌場に行く学習をさせた後、
再び上と同じテストを行った
ところ、肢の長さに関係なく、ほぼ10m付近で巣を探す行動に移ることが確かめられました。
これらの結果から、このアリは距離を測るのに万歩計を用いていると言う仮説は正しいと考えられます。皆さんは
歩く時に歩数を数えていますか?アリが歩数を数えているとは考えられません。体内のどこかに「万歩計」機能を持っている
のでしょうが、そのメカニズムについては明らかではありません。
11. 女王アリの音を真似るシジミチョウ
アリが地球上のあらゆる生態系を支配できるのは、彼らが高度に発達した情報交換システムを持ち、複雑な社会を形成する能力を持っているからと考えられています。彼らの情報は主に特定の化学物質を介して伝えられますが、これに物理的な接触が加わり、コロニーの仲間、コロニー仲間の上下関係(カースト)、侵入者などを識別し、それに応じた行動を起こします。化学物質や接触以外に、腹部から摩擦音を出して情報を伝えるアリも知られております。
一方、この情報システムを悪用してアリの社会に侵入し、アリに育てられる無脊椎動物は、約1万種が知られています。その中でシジミチョウはアリの巣の寄生者の代表として知られています。
シジミチョウの1種(Maculinea rebeli)の幼虫はリンドウの葉を食べて育ち、終齢幼虫になるとクシケアリの1種(Myrmica schencki)
の働きアリによってアリの巣に運ばれ、そこで育てられ、11-23ヶ月後に蛹化します。幼虫の最終体重
の98%はアリから与えられた餌を食べて得たものであるといわれています。このシジミチョウの幼虫は、アリの幼虫のように餌をねだり、働きアリから口移しで餌をもらいますが、これはシジミチョウ体表の炭化水素(ワックス)がアリ幼虫の体表の炭化水素に非常に似ているので、アリがシジミチョウを自分の仲間と認識しているからです。しかしアリの巣を破壊すると、アリはまず第一にシジミチョウの幼虫や蛹を守ります。また、餌が乏しくなると、育児アリはアリの幼虫を殺し、これをシジミチョウ幼虫に与えます。逆に女王アリはシジミチョウ幼虫や蛹に対しては、ライバルであるかのように攻撃的になります。このように、シジミチョウはアリの社会で、高い地位を得ているのですが、これは、体表の炭化水素だけでは説明できません。
クシケアリの女王も働きアリも腹部から摩擦音を出して、さまざまな情報を交換し合っています。一方、シジミチョウの幼虫や蛹も腹部から摩擦音を出し、これが女王の出す音に似ていることがわかりました。シジミチョウの出す音を録音して、働きアリの群れの中で再生すると、働きアリはスピーカーの周りに集まって、女王アリに接する時と同じ行動をとることが観察されました。これらのことから、シジミチョウがコロニーの中で、高い地位を得たのは、女王アリの発する音を真似るからであると結論されました。
このシジミチョウは、第一段階では化学的な擬態によりクシケアリの巣に侵入し、メンバーとして受け入れられると、女王アリの音を真似て、コロニーの階層の上位にと地位を高めると考えられます。
他のMaculinea属でも、M. rebeliに似た音を出すシジミチョウもいますが、アリを騙すためにこれを用いているものはいないようです。従って、高い地位を保つために音を利用することは、シジミチョウ科に共通の特性とは思えません。しかし、数多くいるアリの共生者の中には、侵入やアリを騙すのに音を用いるものもいると考えられ、音を真似る擬態は、
1万種以上の寄生動物がアリを騙して侵略する方法の一つであると結論されました。
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