抗菌薬   その3  



抗生剤使用の一般的注意事項
品質保証(未使用時および溶解後の安定性と安全性)

医薬品は品質が保たれることが絶対的な条件です。
個々の医薬品には必ず添付文書があり、そこには保管方法や有効期限などが詳細に記載されていますので、それに従った保管と使用が必要です。

医薬品は光、温度、湿度などの環境要素の影響を受け質的変化を起こします。

光は抗生剤や消毒薬に対して化学反応を促進する作用があります。波長が短いほどエネルギーは増加するため、人工光よりも自然の直射日光と紫外線のほうが薬物分解を早めます。
一般に使用前は遮光包装になっているためあまり問題にはならず、むしろ開封後の保管場所が重要です。

温度は10度上昇すると化学反応は2倍の速度となるため、温度管理は重要です。
ただし温度が低ければ低いほど良いといえず、例えば0度以下で凍結した場合には結晶ができて薬効を失うこともあります。
とりあえず冷暗所に保管すれば安心、とは限りません。
保存温度の規定は、
「常温は15〜25度」、
「室温は1〜30度」、
「冷所保存は別に規定するもの以外は15度以下で保管」
と定められています。

例えば、
・15度以下:グルカゴン(膵臓ホルモン)
・凍結を避けて10度以下:エポジン(エポエジンβ、ヒトエリスロポエチン)、グラン(フィルグラスチム、顆粒球コロニー形性刺激因子)、ハプトグロビン(人血漿分画製剤)
・10度以下:ハンプ(カルペリチド、α型心房性Na利尿ポリペプチド)、シグマート(ニコランジル、狭心症治療剤)
・凍結を避け2〜8度: インスリン
・凍結を避け5度以下:ウテメリン(塩酸リトドリン切迫流早産治療β刺激剤)
・5度以下:パルクス(アルプロスタジル、プロスタグランジンE1誘導体)、デスモプレッシン(酢酸デスモプレシン、バゾプレシン誘導体)

また間違えやすい例として、同一成分でありながら保存方法が違う薬があります。
・アスコルビン酸(ビタミンC) 
100mgアンプル=室温保存。
500mgアンプル=冷所保存。

・キシロカイン

キシロカイン=室温保存。 
キシロカインE(エピネフリン添加)=冷所保存。

また湿度については、一般に水に溶けやすい薬剤は湿度が上昇すると外観の異常または加水分解が促進されます。
特に抗生剤のドライシロップは吸湿性があって湿度に不安定です。メーカー保証の包装容器に保存し、調剤後は外気と触れないようしっかりと封をします。
高湿度の時期には冷蔵庫に保管する方法も有用です。


医薬品の有効期限
これは、医薬品が「品質の規格値を維持できる期間」のことで、長期保存安定性試験データで設定されます。
試験環境は「気温25度・湿度60%」(日本の風土にあわせた設定)です。
この条件下で、1年後の測定で95%以上の含量が保証されていると室温1年の有効期限となります。さらに3年あるいは5年と測定しながら有効期限を延ばしていきます。
さらに過酷な条件下での品質の安定性を示す「過酷試験」もあり、詳細は各医薬品の【インタビューフォーム】という資料に記載されています。

特に抗生剤は「薬事法」によって有効期限の記載が義務付けられ、容器または外箱に記載するように定められています。
また、抗生剤は溶解後の品質と効き目(力価)が重要な問題となります。
一般的に添付文書には、「抗生剤溶解後は速やかに使用すること」、と記載されています。
そのように記載される理由は以下です。
@時間とともに抗生剤の含量や力価が低下する。
A溶解液が細菌で汚染される可能性がある。

@抗生剤の溶解後の力価や安定性は個々の薬剤と保存条件で異なります。その詳細は添付文書またはインタビューフォームに記載されていますので必ず確認して使用期限を決定する必要があります。
A細菌汚染については、アンプルやバイアル(瓶)の抗生剤は溶解時に針を刺すため空気混入とともに雑菌混入の可能性があります。容器への針挿入部の消毒は十分に行い、溶解液は空気に触れさせないように注意を要します。
ほとんどの菌は「中温菌」(最適増殖温度;30〜38℃)であるため、溶解後は冷蔵庫保管が有効といえます。(リンク参照)
針で吸引したり希釈したりする際の手間と感染リスクを軽減するため、最近は抗生剤と生理食塩液が隔壁で分けられたツインバッグ製剤が増加しています。
体重の重い動物で1回使用量が多い場合は便利です。
さらに、抗生剤がすでに溶解された液体としてのバッグ製剤もあり、保存・使用に有用です。
(パズフロキサシン、シプロフロキサシンなど)

ところで、実際の医療現場では溶解後一定期間保存しながら使用される例が多数みられます。
「溶解した抗生剤のアンプルやバイアルを1日で使い切れない」という単純な理由から、同一溶解液を何の根拠もなく数日間にわたって使用することは絶対に避けなければなりません。
バイアルの蓋(ゴム製)に頻回に針を刺すとゴムの微細破片が混入する可能性と、空気中細菌が混入する可能性が増えます。
時には溶解した抗生剤を2〜20ml注射器に入れて保存し、必要時その注射器から直接注射又は間接的に吸引する例もありますが、血液や他剤が混入するリスクや、他剤と間違う可能性があり推奨されません。
薬効と安全性が保証されていなければ抗生剤本来の治療効果を発揮できず、むしろ有害な副作用や合併症を引き起こす原因になりえます。
もし感染症が改善しない場合、細菌感受性の問題であるのか抗生剤濃度(力価)の問題であるのかの鑑別ができずに治療戦略が困難になります。

以上の理由から、抗生剤は1回ごとに使い切りが推奨されます。
最小単位のバイアルを使用して余った場合でも、安全性と効果を最優先し、残りは破棄するべきです。

溶解後の安定性について (参考として実例を記載)
(各薬剤のインタビューフォームより抜粋)
@メロペネム(メロペン、カルバペネム系抗生剤) 
大日本住友製薬株式会社
2005年10月(改訂第3版)

適用上の注意及び薬剤交付時の注意
調整時
1)溶解後は速やかに使用すること。なお、やむを得ず保存を必要とする場合でも日局生理食塩水に溶解した場合、室温保存では6時間以内に、5C保存では24時間以内に使用すること。
2)本剤溶解時、溶液は無色から微黄色透明を呈するが色の濃淡は本剤の効力には影響しない。

製剤 溶解液 温度 試験項目 測定時間(H)
24
メロペン
点滴用
0.5g
(キット)
生理食塩液
100ml
25℃ 力価 100 99.1 97.0 94.4 88.2
外観 微黄色 微黄色 微黄色 微黄色 黄色
pH 7.7 7.7 7.7 7.7 7.7
5℃ 力価 100 99.7 99.1 99.5 98.2
外観 微黄色 微黄色 微黄色 微黄色 淡黄色
pH 7.8 7.9 7.9 7.9 7.8
メロペン
点滴用
0.5g
(バイアル)
生理食塩液
100ml
25℃ 力価 100 99.2 98.2 92.4
外観 無色 無色 無色 無色
pH 7.9 7.8
生理食塩液
10ml
25℃ 力価 100 95.5 91.4 69.1
外観 微黄色 微黄色 微黄色 黄色
pH 7.7 7.7 7.7 7.6
5℃ 力価 100 98.2 98.7 94.6
外観 微黄色 微黄色 微黄色 淡黄色
pH 7.9 7.8 7.9 8.1
5%ブドウ糖
100ml
25℃ 力価 100 91.5 84.9 59.5
外観 無色 無色 無色 黄色
pH 8.0 8.0
5℃ 力価 100 99.2 95.5 82.5
外観 微黄色 微黄色 淡黄色 淡黄色
pH 7.94 7.85 7.84 7.80
5%ブドウ糖
10ml
5℃ 力価 100 96.0 94.4 84.6
外観 黄色 黄色 黄色 黄色
pH 7.94 7.76 7.73 7.73


Aピペラシリン(ペントシリン、PIPC、ペニシリン系系抗生剤) 
(大正富山製薬株式会社
インタビューフォームより抜粋。2006年11月改訂第8版)
製剤に関する項目
〔適用上の注意〕
溶解後は速やかに使用すること。なお、やむを得ず保存を必要とする場合でも、冷蔵庫中(約5℃)に保存し、24時間以内に使用すること。

溶解後の安定性
製剤 溶解液 温度 試験項目 測定時間(H)
溶解直後 12 24 48
ペントシリン
注射用
1g
生理食塩液
10ml
25℃ 力価 100 99.4 94.7 90.8 84.7
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 6.08 5.91 5.68 5.42 5.07
5℃ 力価 100 100.4 99.4 100.3 99.1
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 6.08 6.02 5.98 5.90 5.72
5%ブドウ糖
10ml
25℃ 力価 100 100.3 96.1 93.1 86.7
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 6.12 6.07 5.81 5.72 5.21
5℃ 力価 100 98.7 99.7 100.5 99.8
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 6.12 6.16 6.10 6.02 5.87
ペントシリン
1g
筋注用
0.5%リドカイン
3ml
25℃ 力価 100 99.1 97.2 93.7 88.4
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 5.91 5.26 5.10 5.02 4.91
5℃ 力価 100 101.4 99.2 100.7 99.7
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 5.91 5.90 5.82 5.80 5.74
上記力価測定法:P.aeruginosaNCTC10490による生物力価法
製剤 溶解液 温度 試験項目 測定時間
溶解直後 12 24 48
ペントシリン
1g
静注用バッグ
生理食塩液
100ml
25℃ 力価 100 99.8 99.5 98.5 97.4
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 5.1 5.0 4.9 4.8 4.6
5℃ 測定時間(H)
溶解直後 24 48 72 168
力価 100 100.6 99.6 99.5 99.3
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 5.0 4.9 4.8 4.8 4.7
上記力価測定法:液体クロマトグラフィ法


Bビクシリン(アンピシリン、ペニシリン系抗生剤)
明治製菓株式会社
2006年5月(改訂第4版)

溶解後の安定性
〔取り扱い上の注意〕 
本剤溶解後はすみやかに使用すること。

注射用ビクシリンの各種溶解液中の経時的変化
製剤 溶解液 温度 試験項目 測定時間(H)
溶解時
注射用
ビクシリン
2g
注射用水 100ml 25℃ 力価 100 99 100 94
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 8.8 8.8 8.6 8.6
500ml 25℃ 力価 100 97 95 95
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 8.8 8.8 8.7 8.7
生理食塩液 100ml 25℃ 力価 100 96 95 92
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 8.9 8.7 8.7 8.6
500ml 25℃ 力価 100 102 99 97
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 9.0 9.0 8.9 8.9
5%ブドウ糖
注射液
100ml 25℃ 力価 100 97 85 74
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 9.0 8.8 8.5 8.0
500ml 25℃ 力価 100 96 90 85
外観 無色透明 無色透明 無色透明 無色透明
pH 8.9 8.8 8.5 8.2
力価残存率は、溶解時の力価を100とした。

Cチエナム筋注用(イミペネム、カルバペネム系抗生剤)
(萬有製薬株式会社
2006年3月 改訂第3版)

注射剤の調整法
筋肉注射に際しては、本剤0.25g(力価)/0.25g及び0.5g/0.5g(力価)に対し、添付の日局リドカイン注射液(0.5w/v%)をそれぞれ1ml又は2ml用い、よく振とうして懸濁する。
懸濁液調整後は速やか(30分以内)に使用すること。

溶解後の安定性
製剤 溶解液 温度 試験項目 測定時間(H)
調整直後
チエナム筋注用
0.5g(力価)/0.5g
0.5%
リドカイン注射液
2ml
25℃ 力価 イミペネム 100 98.9 97.6 94.8 91.4
シラスタチンNa 100 98.8 97.5 93.8 91.0
リドカイン 100 100.1
外観 白色の懸濁液 微黄白色の懸濁液 微黄白色の懸濁液 微黄褐色の懸濁液 黄褐色の懸濁液
pH 6.84 6.70 6.57 6.30 6.06



製剤の各種条件下における安定性

例)注射用メロペネム
試験項目
性状、確認試験、pH、浸透圧比、純度試験、含湿度、重量偏差試験、不溶性異物試験、無菌試験、発熱性物質検査、力価

製剤 安定性試験 保存条件 保存形態 保存期間 結果
点滴用0.5g
(バイアル)
長期保存試験 室温(15〜30℃)
21〜81%RH(相対湿度)
無色透明
ガラスバイアル
37ヶ月 変化なし
過酷試験 40℃ 無色透明
ガラスバイアル
6ヶ月 変化なし
40℃、75%RH 無色透明
ガラスバイアル
6ヶ月 変化なし
蛍光灯
(1000 LUX)
無色透明
ガラスバイアル
30日 変化なし
倒立保存 40℃、75%RH 無色透明
ガラスバイアル
6ヶ月 変化なし
点滴用0.25g
(バイアル)
加速試験 室温(15〜28度)
21〜81%RH(相対湿度)
無色透明
ガラスバイアル
6ヶ月 変化なし
40℃、75%RH 無色透明
ガラスバイアル
6ヶ月 変化なし
光安定性試験以外の保存庫内は消灯されている。




関連リンク


(1)薬事法

(2)HACCP(財団法人食品産業センター)関連用語解説 温度





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2007/02/02 作成
(抗生剤 品質について)