
手術成功の大きなポイントは、出血のコントロールにあるといえます。
正しい手技、広い手術視野、直視下操作などの基本に基づいた手術操作を行っていても、思わぬ出血が起こることがあります。その時に沈着冷静に対処できる能力は極めて重要です。
出血量が増えると身体への侵襲は増加し、その後の合併症(全身感染症や臓器の機能低下)の頻度が増加します。出血量は術後の回復を左右する重要な因子です。
(T)止血の一般的注意事項
1.血液の凝固機能を確認します。
術前の凝固系の血液検査や血管穿刺時の止血時間などから出血傾向の有無を確認しておきます。予定手術では凝固系をできるだけ正常化させる対策を講じておくべきです。
2.出血させない愛護的な手術操作を心がけます。慣れている手術であっても解剖を再確認し、無理な操作を避けます。
3.予想外の出血では不用意に鉗子を使わず、まず手を用いて(用手的に)圧迫します。同時に術野全体を見渡し、解剖に基づいた位置関係を確認します。
出血部を探すために1カ所だけに深く入っていくと結果的に術野が狭くなり止血がますます困難となります。
4.出血のパターンは、組織や血管の状況によって異なります。
出血の性状から出血源を推定します。
動脈性出血は拍動性に噴出します。
静脈性出血は連続的に流れて広がり出血点確認は困難です。
肝臓や腎臓などの実質臓器出血は創面から大量にあふれてきます。
(U) 出血コントロール
確実な止血をするためには、出血の状況把握と止血手段の選択が必要です。
1.出血を一時的にコントロールします。
出血部位をただちに圧迫または遮断してして出血を減少させます。
圧迫にはガーゼや指を用います。出血血管が明らかな場合はその血管を鉗子でつまむか挟んで一時的に止血します。
出血点を確認しながら、的確な止血操作に必要な作業スペースとルートを確保します。
2.次いで永久的な止血の準備をします。
手術全体の流れを考え、永久止血の時期と方法を決定します。
出血した時点で止血することが基本です。しかし、出血が少量で止血の緊急度が少ない時はガーゼをあてたまま一旦止血操作を中断し、手術を進行させる場合もあります。
3.永久止血操作を行います。
(V)永久止血法
永久止血には大きく以下の方法があります。
1.圧迫止血
もっとも基本的な方法です。出血部位にガーゼをあてて圧迫し、出血量を減らします。
広い創面からの静脈性出血などでは、圧迫止血を5〜15分間続けると永久止血することがあります。
圧迫しながら他の手術操作やより効果的な止血等を考えます。あせってやみくもに電気メスや鉗子を使うとさらに出血量が増える危険性があります。
2.電気メス凝固
電気メスの高周波電流による熱凝固によって止血します。細い血管や小範囲組織の出血には最適です。
なお血液がたまっている場所では通電は不十分となります。血液を吸引または拭き取ってメス先端を接触させます。
血管付近で電気メスを使用すると血管に穴が開くことがあるので要注意です。
出血点を攝子(セッシ、ピンセット)や鉗子でつかんでから通電すると周囲組織への影響を軽減し、止血効果を確実かつ安全にできます。
細かな出血を即座に止血しながら手術を進めると良好な視野が確保され、手術操作がスムースに進みます。

攝子を介した電気メス凝固止血
3.結紮止血 縫合止血
(A)
組織からの出血の場合は、出血点を攝子や鉗子で把持したのちに周囲組織を結紮します。 糸がはずれるのを防ぐために、出血点の組織に針糸を通す(刺通結紮)と、いっそう確実です。

組織の結紮止血 刺通結紮止血
また、脆弱な組織や実質臓器からの出血では縫合によって止血します。2カ所で糸を通して組織を縫い縮めるZ縫合は比較的広い範囲の止血に効果的です。

Z縫合止血
(B)
血管からの出血は、血管を結紮または縫合によって止血します。
太い血管では、血管走行と分布を慎重に確認して血流遮断が可能かどうかを決定します。その判断のために血流を一時的に鉗子やテープで遮断して組織の変色を見る方法もあります。

血管の結紮止血
一方、結紮できない血管は一時止血の後に縫合して修復します。

鉗子で遮断後の血管縫合
4.局所止血剤
止血用の薬剤や製剤を用います。この方法は広範囲の少量の静脈性出血に有効です。
血管収縮剤(アドレナリン)の100〜1000倍希釈液を散布または局所に注射する方法が代表的です。
出血面を止血用薬剤(フィブリン物質(粉、シート)、接着剤)で覆う場合もあります。
「止血」