腎臓の上に位置する副腎は内分泌を生成する臓器で、重要なホルモンを分泌します。そのひとつが副腎皮質ホルモンのコルチゾール(cortisol)です。コルチゾールは身体にストレスが加わると分泌され、ストレスを防御する働きをします。それを合成した薬剤がステロイドで、強力な抗炎症作用を持ち、各種病気に劇的に奏功します。
治療に必要と判断する場合は躊躇なく使用する必要があります。
一方、生体に対してさまざまな変化をもたらすために副作用も多くあります。
現実にも不適切使用による副作用が頻発しており、「ステロイドは危険である」という意識が飼い主にあることは否めません。
例えば、原因不明の皮膚炎にステロイド内服を漫然と投与された結果、糖尿病となり、皮膚は真菌症となり重症化した。などの副作用事例があります。
しかし経口でも少量投与であれば大きな問題は起こらず、また短期間では大量投与しても副作用はあまり出ません。
さらに全身投与以外に吸入や皮膚軟膏などの局所療法で投与量を軽減する方法もあります。
適切に使用されればステロイドは劇的に効果を発揮する薬剤であり、臨床での大きなメリットをもたらします。
以下にステロイドの一般的事項について記載しました。
A.ステロイドの薬理
| ステロイドの薬理作用 | |
| 作用部位 各種代謝 |
生理反応 |
| 糖代謝 | 末梢組織の糖利用低下。 肝臓での糖新生増加。 グリコーゲン合成増加。 耐糖能力低下。 |
| 蛋白代謝 | 末梢での蛋白同化 低下。 肝臓酵素誘導。 血清と尿のアミノ酸、クレアチチニン、尿酸排泄増加。 |
| 脂質代謝 | 血中脂肪酸上昇。 ケトン体上昇。 プロスタグランジンE合成酵素低下。 ホスホリパーゼA2 低下。 |
| 電解質代謝 | 血清Na上昇。 血清K低下。 アルカローシス傾向。 |
| 血液 | 総白血球数増加。 好酸球、好塩基球、リンパ球減少。 赤血球増加。 好中球増加。 血清蛋白 上昇。 |
| 神経 | 中枢神経興奮。 鬱状態悪化。 味覚と嗅覚低下。 |
| 循環器 | 心筋収縮力増強。 心拍数増加。 血管収縮増強。 |
| 消化器 | 胃液分泌増加。 |
| 内分泌系 | インスリン分泌増加。 ACTH、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモンなど低下。 |
| 結合組織 | 皮膚軟骨のコラーゲンとムコ多糖類合成低下。 |
| 免疫 | サイトカイン、抗体産性、細胞性免疫の抑制。リンパ節重量減少。 |
| 炎症反応 | 白血球遊走阻止。 血管透過性低下。 炎症性サイトカイン抑制。肉芽腫形性低下。 |
上記の作用で重要なものは免疫抑制作用と、抗炎症作用です。
その作用機序は、主にサイトカイン産性抑制とプロスタグランジン産性低下によります。
ステロイドの作用は投与量とも関係します。抗体産性抑制(免疫抑制)作用は抗炎症作用よりも多量のステロイドが必要です。
B. 合成ステロイド剤の特徴(内服、注射)
| ステロイド種類 | 組成 | 商品名 | 糖質コルチコイド作用力価比 (糖代謝に与える効果) |
電解質コルチコイド作用力価比 (NaClなどの電解質に与える効果) |
生物活性半減期 (時間) |
特徴 | ||
| 短時間作用 | コルチゾール | ヒドロコルチゾン | ・コートリル ・水溶性ハイドロコートン |
1 | 1 | 8〜12 | 電解質代謝の副作用があり、効果が弱く一般にはあまり使用されない。 しかしショックや喘息重責発作時は他のステロイドよりも優れている。 |
|
| 酢酸コルチゾン | ・コートン | 0.7 | 0.7 | |||||
| コハク酸ヒドロコルチゾン | ・ソルコーテフ ・サクシゾン |
1 | 1 | |||||
| 中時間作用 | プレドニゾロン | プレドニゾロン | ・プレドニン ・プレドニゾロン |
4 | 0.8 | 12〜36 | コルチゾールよりも電解質副作用がなく、高血圧、心不全などの誘発が少ない。 | |
| メチルプレドニゾロン | ・メドロール ・デポメドロール |
5 | 0 | |||||
| コハク酸メチルプレドニゾロン | ・ソルメドロール | 5 | 0 | |||||
| トリアムシノロン | トリアムシノロン | ・レダコート | 5 | 0 | 24〜48 | 他のステロイドと異なり、食欲増進ではなく食欲低下となる。皮膚への効果が強い。 | ||
| トリアムシノロンアセトニド | ・ケナコルト-A | |||||||
| 長時間作用 | デキサメタゾン | デキサメタゾン | ・オルガドロン ・デカドロン |
25 | 0 | 36〜54 | これらはもっとも強力なステロイドで、プレドニゾロンが効かないときでも効果が期待できる。 しかし、副腎の萎縮も強く、ステロイド離脱を検討するときは使用するべきではない。 |
|
| パリミチン酸デキサメタゾン | ・リメタゾン | |||||||
| ベタメタゾン | ベタメタゾン | ・リンデロン | 25 | 0 | 36〜54 | |||
C.適応症と使用方法(代表例)
| 適応疾患 | 注意事項 |
| 副腎不全 ショック ステロイド離脱症候群(体内のステロイドが不足する) |
絶対的にステロイドが必要な適応 点滴静注または急速静注 |
| 感染症 | 強い炎症に対して短期間のみ使用 感染悪化のための十分な抗生剤を投与する |
| 薬物アレルギー 皮膚疾患 ネフローゼ 甲状腺炎 細胆管炎性肝炎 間質性肺炎 再生不良性貧血 溶血性貧血 ITP(特発性血小板減少性紫斑症) 重症筋無力症 |
1週間で効果を判定しその後増減する。 長期間使用は控える。 ただし血液疾患などでは効果判定まで2〜3週間要することがある。 |
| 悪性腫瘍 | 他の抗癌剤も使用する |
| 膠原病(関節リウマチ、多発性筋炎など) | 初期量後漸減する |
| 頭蓋内圧亢進症 | マンニトールやグリセオールが無効の例 |
| 気管支喘息 | 症状が強いときのみ 吸入ステロイドを第一選択に考え、全身投与は漫然と続けない |
D.ステロイド治療のポイント
@. ステロイドは、発熱などの身体所見が強く、炎症反応や免疫反応が強いほど効果的です。
A. 逆に、臨床的に評価できる指標がないときは効果よりも副作用が多くなるため、慎重使用が必要です。
B. ステロイドはおよそ2時間で十分な血中濃度になり、普通の炎症は1〜2日で改善します。
C. 検査所見や症状改善には2〜4週間かかることもあります。
D. 重症炎症時は短期間の大量使用が可能です。一般的な慢性炎症には少量投与が原則です。
E. 症状や検査指標を確認しながら減量します。
F. 症状悪化がわずかなときは、すぐに増量せず経過をみます。ただし、増量必要時は、やや多めに増量します。
G. ステロイド離脱の時は、漸減します。
E.ステロイドの投与方法(代表例)
| 投与方法 | 投与回数 | ステロイド種類 | ||
| 全身投与 | 連日分割投与 | 1日2〜4回 | 各種ステロイド | |
| 朝1回投与 | 1日1回 | 主にプレドニゾロン | ||
| 隔日投与 | 隔日朝1回 | 主にプレドニゾロン | ||
| 間欠投与 | 週1回、3投4休 | 各種ステロイド | ||
| 筋注 | 1日1回 | コハク酸プレドニゾロン | ||
| 持続療法 | 2〜4週に1回筋注 | トリアムシノロン(ケナコルトA) | ||
| パルス療法 | 1日1回大量投与 | メチルプレドニゾロン(ソルメドロール) | ||
| 点滴静注 | 必要時 | ヒドロコルチゾン(ソルコーテフ) | ||
| ターゲット療法 | 2週間に1回 | リポステロイド(リメタゾン) | ||
| 局所投与 | 噴霧 | 経鼻投与 | ベクロメタゾン(ベコナーゼ)※ フルチカゾン(フルタイド))※ |
|
| 口腔内投与 | ベクロメタゾン※ トリアムシノロン(ケナログ) | |||
| 経気管支投与 | ベクロメタゾン※、フルチカゾン(フルタイド))※ | |||
| 点眼投与 | フルオロメトロン(フルメトロン) | |||
| 経皮投与 | 外用ステロイド | |||
| 関節内投与 | ステロイド懸濁剤 | |||
| 局部注射 | 各種ステロイド | |||
| ※アンテドラッグ (ベクロメタゾンなど) :局所作用は強力であるが、吸収後に代謝されて不活化するステロイド製剤。全身性の副作用は少ない。鼻アレルギーや気管支喘息時の噴霧剤などに使用される。(リンク参照) | ||||
投与方法の補足説明
ステロイド投与は漸減法(徐々に減らす)が一般的です。十分な初期量を投与した後、症状の改善を評価してから減量を始めます。投与2週間以上の長期投与後の減量は、離脱症状(体内ステロイド量が不足して全身脱力など)や、反跳現象(リバウンド、症状が一気に悪化する)が起こるため、少量ずつでゆっくりと行います。
特にプレドニゾロン10mg以下は慎重に減量します。
ステロイド使用中は、症状が治まっていてもある程度安静にする必要があります。
また真菌症やウイルスなどの重症感染症が誘発されることがあるので十分な観察が必要です。
投与法は通常1日2〜3回食後投与します。少量投与の場合は朝1回とします。その理由は、本来の生体リズムは朝方ステロイド分泌が多く、そのリズムを崩さないためです。ただし、1日1回よりは1日3回分割の方が有効性は高くなります。
ステロイド離脱の時は、プレドニンのような半減期が短い製剤を用いて漸減します。
隔日投与や間欠投与は副作用を軽減させますが効果は減弱するため症状にあわせて使用します。
F.ステロイドの剤形
さまざまな剤形があり、病態や投与しやすさによって使い分けます。
| 投与経路 | 剤形 | ステロイドの一般名 (代表例一部) |
商品名 | 特徴 | |
| 経口剤 | 錠剤 | 各種薬剤 | 各種 | 多数あり | |
| 散剤 | 各種薬剤 | 各種 | 微量調節可能 | ||
| シロップ | ベタメタゾン | リンデロンシロップ | 服用しやすい | ||
| 注射剤 | 水溶性 | コハク酸ヒドロコルチゾン | ソルコーテフ | 内因性ステロイドの水溶性薬剤 | |
| コハク酸メチルプレドニゾロン | ソルメドロール | 大量注射(パルス)可能 | |||
| デキサメタゾン | デカドロン | 静脈注射、筋肉内注射など可能 | |||
| 懸濁剤 | トリアムシノロンアセトニド | ケナコルトA | 筋注や局所注射で持続効果がある | ||
| メチルプレドニゾロン | デポメドロール | 同上 | |||
| ターゲット製剤 | パルミチン酸デキサメタゾン | リメタゾン | 静脈注射。 リポ化製剤で選択的に病巣へ高濃度に移行する。副作用が軽減される。 |
||
| 外用剤 | 皮膚外用剤 | 各種薬剤 ・軟膏・クリーム・ローション |
各種 | 多数あり | |
| 点眼薬 | 各種薬剤 | 各種 | 眼組織に高濃度に移行 | ||
| 噴霧剤 | 気管支 | ベクロメタゾン | ベコタイド | エアロゾル(吸入)。持続性あり | |
| フルチカゾン | フルタイド | ドライパウダー(吸入) | |||
| ブデソニド | パルミコート | ||||
| 口腔 | ベクロメタゾン | サルコート | 噴霧式口内炎治療薬 | ||
| 皮膚 | ヒドロコルチゾン | コルテス | スプレー | ||
| 口腔内用剤 | トリアムシノロンアセトニド | ケナログ | 軟膏 | ||
| アフタッチ | 口腔内粘膜付着型二層錠 | ||||
| 経皮吸収型 浸透性外用剤 |
ファルネシル酸プレドニゾロン | ファルネラート | ゲル(糊状)。関節などに使用。 | ||
| 座剤 | ベタメタゾン | リンデロン座剤 | 潰瘍性大腸炎など | ||
G.ステロイドの副作用
| 副作用の程度 | 副作用症状 |
| 特に注意すべき重症副作用 | 感染症の誘発、悪化 |
| 消化性潰瘍、消化管出血 | |
| 副腎不全、離脱症候群 (ステロイドの欠乏によるショックなど) |
|
| 糖尿病の誘発、悪化 | |
| 動脈硬化促進 | |
| 精神障害(精神変調、鬱状態、けいれん) | |
| 骨粗鬆症、骨折、骨頭無菌性壊死 | |
| うっ血性心不全 | |
| 中等症副作用 | 白内障、緑内障、眼球突出、失明 |
| 中心性漿液性網脈絡膜炎 | |
| ステロイド筋症 | |
| 肝機能異常 | |
| 浮腫、高血圧、不整脈 | |
| 高脂血症 | |
| 尿路結石 | |
| 高頻度の軽度副作用 | 多毛、皮膚萎縮、皮下出血 |
| 月経異常(無月経,過多、過小) | |
| 白血球増多 |
副作用への対処
ステロイド副作用はステロイド総量に比例するので、副作用の観点から考えると極力少量にする必要があります。
ステロイドの副作用は投与量と製剤によって異なります。重症副作用の頻度は約10%以内です。
副作用発見のために、状態の観察(高血糖による多飲や多尿、食欲の変化、行動の変化、体調変化)と、定期的な血液検査などが必要です。
特に糖代謝や電解質代謝に関する血糖、電解質、腎機能(BUN,Cr)などの測定はとりわけ重要です。
症状が出現した場合はできるだけステロイドを減量または中止するように努めます。感染症には強力な抗生剤投与を、糖尿病にはインスリンを使用するなどの処置が必要です。
軽症な副作用では、対症療法を行うことでステロイドを継続できることはありますが、その場合でもできるだけ減量に努めます。
一方、ステロイドが体外から投与されると、その間は自己の副腎からのステロイド分泌は抑制されます。長期間ステロイド治療された後では、ステロイド減量が早すぎると副腎からの分泌が間に合わなくなりステロイド(コルチゾール)が欠乏します。これが副腎不全、離脱症候群と呼ばれる状態です。コルチゾールは肉体を活性化する作用があり、その不足は全身倦怠感や低血圧を引き起こします。
そのため長期ステロイド剤の減量は慎重さが求められます。コルチゾール不足を疑った場合は、採血で血液中コルチゾール値を測定して過不足を確認します。
まとめ
獣医師は、良く効くからと言ってステロイドを漫然と使用することは控えなければなりません。
一方飼い主は、副作用を心配するあまり予定投薬を勝手に中断または変更することは病態を複雑化させるため、大変危険です。上記に記載されているように、途中で急に減量中止すると、ステロイド離脱による副腎不全(ステロイドの欠乏による倦怠感、ショックなど)が起こり、致死的です。
獣医師と飼い主は十分に意志疎通をはかり、計画的なステロイド使用が必要です。
参考リンク
1.テレスファミリー オンライン(ファイザー)
アンテドラッグステロイドについて
2.ステロイド (フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
3.プレドニゾロン (お薬110番)
4.ステロイドホルモン/副作用/糖質コルチコイド/鉱質コルチコイド/
5.ビジュアル生理学-副腎
ご意見、ご質問は管理人までお寄せ下さい。
2006/03/16 作成
(副腎皮質ステロイド)