一分間の選択肢




 風が騒いでいる。
 海が荒れている。
 その気配を感じた、しかし、どこで何が起こっているのかはまだわからない、それが今、2006年1月26日23時59分の状況だった。

 とにかく部屋を飛び出して、敵の気配を探しに走るためバイクへと急ぐ、それが、その状況でのはるかの常の行動だったけれど。
 目の前にはみちるがいて、はるかをじっとみつめている。
 みちるの身体は、ドアへと向かってはいない。

 2分後にはふたりとも、戦いに向かって走り出していなければならない、それは動かない事実。
 問題は、この1分間を、どう過ごすかだった。

 ふたりが出会った頃なら、はるかは、今この瞬間にも走っていた。
 みちるが動かなければ、みちるを、責めてさえいたかもしれない。
 でも今、はるかは、走っていない。
 ただ、みちるの視線を、感じている。

 1秒、1秒、時が過ぎていく。
 走り出すかわりにはるかは、みちるの前に、みちると向き合うように立つ。
 そして、日付が変わるその瞬間が来た。

 「お誕生日おめでとう、はるか」

 みちるの言葉に、はるかは笑顔で応える。
 そしてみちるの手を取って言う。
 「行こう」
 みちるはうなずいて、はるかと共に走り出す。

 “沈黙”の予感に怯えていた、ふたりが出会った頃。
 立ち止まる1分間…1分間にも満たない、数十秒の間にも、取り返しのつかないことが起こるような気がして、たとえあては何もなくても、はるかは、その数十秒を待てないでいた。
 でも、今は。
 そんなはるかを案じる、みちるの悲しげな顔。
 はるかを案じる過ぎるあまりに無理をしてみちるが冒す、恐ろしい危険。
 そのまま二人が二度と会えなくなってしまったときに襲いかかるであろう、激しい後悔。
 数十秒を待てなくするものよりももっと重いものをはるかは、みちると共にあった歳月…みちるを永遠に失ったと思った瞬間もあった、ともにこの世界から消えたことさえあった、月の歴史と比べるとほんの一瞬の、しかし長い長い歳月の間に、知ってしまった。
 何も考えずに走り出せたあの頃には、戻れないのだ。

 2006年1月27日、0時過ぎ。
 みちると二人、乗ったバイクを駆っていたはるかは、敵の存在を感知した。