叶えぬ願いの誇り




遠く、遠く見える月。
見つめるウラヌスの、瞳。

「月の王国に、何か変わったことはあって?」
「また来たのか」
守りに着くべき海王星を離れて、天王星を訪ねるネプチューンに、ウラヌスはそっけない。

座るウラヌスの肩に手をかけて、ウラヌスの肩ごしに見る、月。
遠い遠い月からは、ウラヌスとネプチューンが守る、外部太陽系の星々の様子は、装置なしでは観られない。
しかし、外部太陽系で月を守るウラヌスやネプチューンには、見えてしまう。
この場所では望むべくもない華やかな栄華を謳歌する月が。
その宮廷に集う人々の、笑顔まで、くっきりと。

そしてネプチューンには見えてしまう。
ウラヌスの視線が向けられる先のもの。
ウラヌスが、ネプチューンが、命を賭けて守るひと。
月のプリンセス。

プリンセスが、輝くような笑顔を見せる。
ウラヌスの表情が、やわらかくなる。
プリンセスの笑顔が向けられているのは、地球国の王子。
しあわせそうな、これ以上なくしあわせそうな笑顔。

ウラヌスの、やわらかな表情。
それがとてもせつないことに、ネプチューンは気づく。

ネプチューンが触れていた、ウラヌスの肩。
比類なき力で、敵をなぎ倒す腕の源。
そんな力を秘めているとは思えないほど、実は細い肩。
プリンセスと比べても、さほどの違いがないほど、細い肩。

ネプチューンは背中から、ウラヌスの肩を、背中ごと抱きしめる。

「叶わない願いなら、なくなってしまえばいいのに」

思わず漏れたネプチューンのつぶやきに、ウラヌスの背筋が、ネプチューンの腕の中で伸びる。
身体に直接伝わってくる、ウラヌスの声。

「願いを叶えないことが、僕を支える誇りだから。
なくなっては、困る」

その声はネプチューンの胸を突く。
身体に直接伝わってくるゆえに。
その声に、言葉に、ひとひらの嘘も混ざっていないことが、わかるから。
穏やかな一言の伝える覚悟のすさまじさに、ネプチューンは圧倒される。

揺るぎないウラヌスの前に、揺れるネプチューンの心。
当面の迷いは。
携えてきた、ウラヌス誕生の祝いを、どうしたものかということ…