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目が覚めたとき、はるかが思ったのは、“明るい”ということだった。 “明るい”ではいけない、と気づいたのは、しばらくぼんやりと、光の明るさだけを感じていた、そのあとだった。 「なんで!?」 今日、1月27日、はるかの誕生日。 はるかはみちると、夜明けの海を観に行こうと約束していた。 もちろん、夜が明けるずっと前に起き出して、車を走らせて。 そのために、昨夜は早くやすんだはずだったのに。 「おはよう、はるか」 「みちる」 はるかはぼうぜんとみちるをみつめる。 「ごめん」 はるかは大きなため息をついた。 「夢では、確かに、海にいたんだ」 顔を両手で覆って、夢の世界を再現するように。 「藍色の海に、空に光がさしてくるにつれて、薔薇色が、薄い紗をかけたようにのせられていって。 そして、陽の光がさしたとき、光の粒が海の上に撒かれたんだ。 夜明け前に冷え切った風は冷たかったけれど、海はきれいで、単なる“きれい”を越えて、心が晴れ晴れするほど、輝かしくて…」 はるかはがっくりとうなだれた。 「みちると、ほんとうに、観ることができればよかったのに」 すっかりしおれたはるかの背中に手をあてて、みちるは、はるかに問いかけた。 「はるかの夢の中の夜明けの海に、私は、いたの?」 なんでそんなことを聞くのか、という顔で、はるかはみちるを見た。 「当たり前じゃないか。 みちるがいなかったら、悪夢だろ。すぐに目が覚めてたよ」 そしてまた、深いため息をついた。 「夢だなんて、夢にも思えなかった。 冷たい風のなかで、隣にいるみちるの体温が、あまりに気持ちよくて。 ずっと、ずっと、そのままでいたかった」 そんなはるかに、みちるは、うれしさがあふれたように微笑みかけた。 「素敵なプレゼントをありがとう、はるか」 はるかはきょとんとしている。 「はるかの夢の中の海に招待してもらえるなんて、ただの海に行くよりずっと素敵だわ。 はるかが見た風景は、はるかの言葉で、はるかの声で伝えてもらえたから、私にもちゃんと見せてもらえた」 …みちるにとっての、ほんとうの“素敵なプレゼント”は。 みちるとの約束にも寝坊するほど、はるかが、ぐっすりと眠っていたこと。 このところ、また、不穏な気配がうごめいている。風が騒ぎ、海が荒れる日が続き、はるかの眠りは浅く、眠れないまま朝を迎える夜もあるようだ。そんななか、はるかが、寝過ごすほどぐっすりと眠ってくれた。いい夢のなか、心地よい眠りで、疲れきった心と身体を癒してくれた。 そして、その夢の中に、みちるがいた。 夢の中のみちるの体温が、はるかの眠りを心地よい、ゆったりと長いものにした。 こんなにしあわせなことが、あっていいものだろうか。 でも、そんなことは、はるかには言わない。 みちるは、その白いたおやかな手を、ぐっと握り締める。 「はるかの誕生日なのに、私が先に素敵なプレゼントをもらってしまって、黙ってはいられないわ。 倍返しの誕生日を、これから、行くわよ」 みちるのその勢いに、さっきまでしおれていたはるかは、今はどちらかというとおびえている。 驚愕の誕生日をはるかにプレゼントすべく、みちるにとって大切な、大切な、はるかの誕生日が幕を開けた。 |