去りがてに



「みちるのセレクトだと、どうしても客層の年齢が高くなるんだよな」
憮然とした顔でそう言うと、はるかは、柚子の香りのきいたシャーベットに、くちびるをつけた。
「あら、私のせいだけかしら。私より《年上》の、天王はるかさん」
みちるにしれっと返されて、はるかは、シャーベットでひんやりしたくちびるを、とがらせた。

──高校生みたいなデートがしたいな。
誕生日の今朝、はるかはそんなことを言い出した。
ディナーはとっておきの店を予約してあるけれど、それまでの時間はフリーにしてあった。その間、高校生みたいなデートをしよう、というはるかの言葉通り、二人は街を歩いている。
ゲームセンターでドライブゲームをして。
公園を歩いて(さすがに、バイオリンを弾いたりはしなかったけれど)。
喫茶店でお茶を飲んで。
……高校生の頃、確かにしていたことをやってみたけれど、どこか勝手が違っていた。
あの頃は、行く先々で、うさぎ達、中学生の女の子たちとはちあわせしていたけれど。
今日、二人が時間を過ごしたところにはなぜか、中高生の姿は見えず、はるか達よりも年上……かどうかは断定できないにしても、少なくとも、はるか達の外見年齢よりは上の人々ばかりが、二人の周りにいたのだった。

──アイス食べるとか、そういうことしたら、ちょっとは状況が良くなるんじゃないかな。
はるかがそう言うので、みちるははるかを、この店に連れてきた。
季節ごとに変わる、和の素材を取り入れたアイスが食べられる店だ。この季節は、りんごを使ったアイスクリームやシャーベットが何種類も出ていたりして、好みに合ったものを探すのが楽しい。ぶどうやみかん、柚子といった果物、ほうじ茶、きなこ、かりんとう、焼き芋などというフレーバーもあるなかから、さっぱりしたシャーベット系のものばかり3種をはるかが選んだのも、みちるの予想通りだった。
ただし、小さな店内に中高生の姿はなく、上質な素材を使ったアイスを味わっているのは、大人ばかりだった。
口をとがらせたはるかは。
「みちるのほうが大人っぽいって、昔からよく言われてただろ。こういう《場》をつくってるのは、絶対みちるだ」
「しかたないじゃない。思い切り甘くてクリームが重いアイスなんて、はるかは食べてくれないから、こういうところを選んだのよ。サーティーワンやハーゲンダッツを喜んで食べるはるかだったら、今頃中高生の女の子と一緒に列に並んでいたかもしれなくてよ?」
「……まあ、甘ったるいのもクリームごってりも、確かにゴメンだけど」
旗色が悪くなってきたはるかに、みちるはたたみかける。
「そもそも、どうして今頃『高校生みたいなデート』?」
そう、問いかけたみちるは、こう続けようとしていた。
──四捨五入したら不惑、っていうの、抵抗があって?
しかし、みちるがそれを、声に出す前に。

「僕達の姿が、歳をとりすぎていて、その場から浮く、っていう気分を、味わってみたかったんだ」

……セーラー戦士として、最も激しく戦っていた、高校生の頃。
あの頃から、はるかの……みちるの、そして内部戦士達の肉体の時は、止まってしまっている。
いつから時空の扉を護っているのだかわからない、プルートを見いるのだから、遅かれ早かれそうなることは、皆、理解していたと思う。しかし、はるか、みちる達は、太陽系の辺境でぽつねんと暮らしているわけではないのだ。周囲はどんどん見た目も歳をとっていく、そのなかに、異分子でしかない自分達をとけこませることに、どれだけ腐心してきたことか。見た目が歳をとりすぎていて、その場から浮く、そういう状況には、みちるも確かに飢えていた。

……いつかは、離れなければいけない日が、くるのだろう。
この人間世界での、天王はるか、海王みちるの、日常から。
みちるにとって、それはなんでもないことだ。はるかさえ一緒なら、ほかに何もいらない。
けれど。
……いっそ、あの激しい戦いが終わった直後に、『その日』が来ていればよかったのに。
たとえ自分の手を汚してでも、世界を沈黙から守る。
そう宣言していたわりには、はるかは、この世界をそれほど好きではなかったように、みちるには思える。モータースポーツにかける夢と、その夢を追うに十分な才能を持ちながら、その夢を実現する場であるこの世界の中に、はるかは自分の居場所を、みつけきれていないように見えた。
それから長い月日が経った。たくさんの誕生日、たくさんのクリスマスを、この世界で過ごした。
はるかは多分、高校生のあの頃よりずっと、この世界に愛着を抱くようになったと、みちるは感じる。はるかに言えば否定するだろう、こんな世界、いつでも旅立てると笑うだろう、それでも、みちるには、わかるのだ。

アイスを食べるはるかの腕に、みちるはそっと、身体を寄せる。
これだけで、この胸の痛みも、全部伝わってしまうんだろうな、と思いながら、みちるは雪のようなリンゴの氷菓を、くちのなかで、とかした。