声明や論文・資料など

講談社「読書人の雑誌・本」1月号に常石敬一さんの投稿した文章があります。常石さんの承認が得られましたのでアップしました。

毒ガス被害と小泉内閣 常石敬一

 二〇〇三年、日本の内外で旧日本軍の毒ガスによる被害が発生した。春に明らかとなった茨城県での被害は傷害に止まり死者までは出なかった。しかし夏に起きた中国チチハルでの被害では死者一人が出た。
 
 これらの被害に対して日本政府は実質的に金銭的「補償」をした。茨城の被害については「健康管理調査協力金」を被害者個人に、またチチハルの被害については「協力金」を中国政府に支払った。日本で被害者に渡されたのは入院歴がある人に七十万円、ない人に三十万円、それに今後三年間医療費として月額二万円が支払われることになっている。これで健康保険の自己負担分はカバーできるだろう。「補償」とは言っても、これまでに支払ったおよび今後必要な医療費をカバーすをだけで、休業補償や慰謝料は含まれていない。現実には毒ガス被害で職を失った人もいる。中国へは個人ではなく政府に約三億円支払われた。
 
 毒ガス被害の救済に関する限り、小泉内閣の対応は従来の日本政府のそれとは違っている。どう変わったのか。従来の延長線上ではこうした実質的な「補償」の実行は考えられなかった。内外の被害者は多くの場合、泣き寝入りを強いられてきた。国内でもこれまでに毒ガスによる死者が出ているが、政府が補償したケースはないと思われる。一九五一年と五三年千葉県銚子市で住民四人が毒ガスで死亡していたことがニ〇〇三年に初めて明らかとなった。記録にももれているくらいだから、補償など何もなかった。また二〇〇二年秋に神奈川県の旧軍の毒ガス工場跡地の工事現場でびらん剤に被曝した人々は「労災」保険の給付を得ただけだ。また戦前毒ガス工場で働いていて、戦後健康被害を訴えている人々への補償は、その人々が加入していた共済組合からの健康管理手当てという形式で支出されてきた。それからすると今回の茨城のケースは名目はどうあれ、政府が実質的な医療保障をした。そしてするという意味で画期的だ。今思うのは、これまでに被害を受けてきた人々について遡って茨城と同じような処遇はできないのだろうか、ということだ。

 中国チチハルでの被害に対する日本政府の対応の意味を知るには、二〇〇三年に行われた二つの毒ガス被害補償裁判の判決を知ることが役立つだろう。東京地方裁判所は五月と九月、それぞれ別の裁判官が、中国人を原告とする毒ガス被害への補償を求める訴訟で正反対の判決を下した。五月には、原告の訴えを退けた。九月には、毒ガスによつて死傷した中国人とその遺族に、総額一億九千万円の賠償をするように国に命じた。九月の判決は、従来からの戦争被害補償は一九七二年の日中共同声明によって解決済みという司法判断からすれば意外な判決だった。

 日本は三権分立の民主国家だから、政府の判断と裁判所の判断とは別の問題だ。また同一の裁判所の判決でも裁判官によって判断が分かれるのも、民主主義社会では当然のことだ。

 だがそうかなとも思う。政府が茨城の被害に一定の医療費を支払うことが明らかとなったのは五月未だった。最初の東京地裁の判決は政府のこの対応決定より前だった。またチチハルの被害に対して、従来の日中共同声明で解決済みという立場を捨てて「協力金」の支払いを決めたのは、九月の判決の一ヶ月近く前だった。

 時系列で整理すると、原告敗訴の五月判決があり、茨城への医療費補助が決まり、チチハルヘの協力金の支払いが決まり、そして原告勝訴の九月判決と続いたのだ。五月判決は、原告の被害に同惰しながらも、なぜ「補償」ができないかについて非常に苦しい論理を組み立てていた。他方、九月判決は非常に明快に日本政府が遺棄毒ガス弾を回収してこなかった不作為を指摘している。こう書くと裁判所は政府の顔色を窺って判決文を書いているように読めるかもしれないが、日本政府は九月の判決を不服として控訴している。しかしこれはまた九月判決は政府の意向に沿ったものというわけではない。政府と裁判所は別であることを、改めて示そうと考えての行動かもしれない。この間題にはこれ以上立ち入らない。

 ここでは、なぜ小泉内閣が内外の毒ガス被害に実質的な「補償」を行うことになったのかを考えたい。被害者からすれば理由はどうあれ、被害の補償が得られればそれはそれで良いのかもしれないが、第三者としては、あるいは納税者としてはその背後の事情を考えることも必要だ。

 いくつかの可能性がある。一番可能性が低いのは、従来の経緯を知らなかったというのがある。少なくとも、対中国ということでは、外務省の意向やこれまでの慣行を無視して、独自に補償を決めた可能性はまったくないわけでわないだろう。しかしそれはあまりに考え過ぎかもしれない。

 次に考えられるのは人気を失いたくないという要素だ。茨城では幼児が被害をうけ、チチハルでは死者まで出ているのに、それを従来通りのやり方をすれば、つまり無視すれば、当時すでに頭にあった十一月の選挙にひびく、という配慮はなかっただろうか。茨城にっいてはこの可能性が高いのではないかと考えている。

 一番可能性が高いのは、金で済むものなら、金を支払い、後腐れのないようにしたいという意志の存在だ。これは特にチチハルの被害について当てはまるのではないかと考えている。

 三番目の可能性について少し考え、この面から小泉内閣の性格を窺ってみたい。何が見えるか。内閣官房長官はチチハルの事件や九月判決を受けて、中国での遺棄化学兵器処理の速度を上げる方針を示した。それ自体は結構なことだ。その動機は一体何なのだろうと考えると、それは中国に対してなすべきことはするから、中国は日本国内の問題に口を出すな、という意志の表れではないかと思えるのだ。その根拠は、首相が靖国神社への参拝にこだわっていることだ。

 首相にとって靖国参席は国内問題であり、外国にとやかく言われる筋合いのものではないのだろう。現内閣は、中国なビアジアの国々が靖国参拝に批判的なのは、日本が戦争の後始末をしていないことへの苛立ちの表現と考え、金銭的に後始末を付けようとしているのではないか、と筆者は危惧している。それさえ片付ければ後は「信仰の自由」であり、国内問題だ、と考えているのではあるまいか。

 そうだとすると、この間題点は何だろう。それは極めて「内向き」な姿勢・考え方だという点だ。日本はそんな内向きな、諸外国の批判を受け入れないで、それに反論せずに、ただ無視する姿勢で、今後どう進んでいくのだろうか。原料の輸入や製品の輸出を考えても、精神的な鎖国をしてどうやって、諸外国と付き合っていけるのだろうか.小泉内閣となって、国際社会での問題は米国におんぶに抱っこで済ませている度合いが一層強くなったように感じている。その点はイラクへの派兵問題が非常に明確に示している。イラク派兵の問題は、憲法九条がありながら「戦争」に参戦するということで、日本という国は憲法すらも、対米関係ではないがしろにする国だという評価につながる問題だ。つまり日本は信頼できる独立国なのか、という懸念を諸外国に植え付けることになるだろう。

 もし、筆者が推測するような「内向き」志向の結果としての三億円の「協力金」であれば、それを受け取った側は良くて「当然」としか思わず、その分の税金を苦労して払っている日本の「庶民」の負担などには思い至らないだろう。むしろ、金で済ませてよしとする「情」の無さに違和感、そして反感を持つのではないかと心配している。そうであれば日本国の納税者としては浮かばれない。

 毒ガスの被害補償からここまで考えるのは、.考え過ぎなのだろうかとも思うが、こんなマイナーなことでも、虫眼鏡で見るといろいろ気になることが出てくるものなのだ。

 このほど『化学兵器犯罪』(講談社現代新書)を上梓した。化学兵器をきっかけに、日本と戦争について読者の考えるヒントになればさいわいです。
つねいし・けいいち 神奈川大学教授


03年12月20日に講談社現代新書から発刊されました。
定価740円(税別)

■会議録第3号 平成15年10月1日(水曜日)

平成十五年十月一日(水曜日)    午後六時開議

国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会

○衛藤委員長 これにて児玉健次君の質疑は終了いたしました。
 次に、金子哲夫君。
○金子(哲)委員 社会民主党・市民連合の金子です。
 最初に、イラクの問題も大量破壊兵器にかかわる問題ですけれども、中国の遺棄毒ガス弾にかかわる問題で、少し官房長官や外務大臣のお考えをお伺いしたいと思います。
 御承知のように、一昨日、九月の二十九日に東京地方裁判所で、旧日本軍の毒ガス兵器及び砲弾による事故被害について、原告の請求をほとんど全面的に認める判決が言い渡されたということで、控訴を二週間の控訴期限の中で政府は判断されることになると思いますけれども、その点について二、三お伺いしたいと思いますけれども、今お考えになっているこの検討状況はどのような状況でしょうか。
○福田国務大臣 旧日本軍の遺棄毒ガスの訴訟がございまして、これは委員おっしゃるとおり、二十九日に東京地裁でもって、被告、国側が敗訴する、こういう判決が言い渡されました。これはまことに厳しい判決である、国にとっては、被告にとっては。そういうようなものであるというような受けとめ方をいたしております。
 いわゆる旧日本軍毒ガス賠償訴訟、これについては司法の判断も分かれております。五月に行われましたもう一つの裁判では、これは被告が勝訴しているんです、国側が。ということで、勝訴、敗訴と二つに分かれてしまったんです。
 というように、非常に難しい判断を迫られる問題なんだろうと思いますけれども、今後の対応につきましては、判決の内容を十分検討した上で、どういうような対応をするか決定したいというように考えておるところでございます。
○金子(哲)委員 今回の判決は、中国の遺棄弾、放置をした問題についてかなり厳しい判決の内容になっておりまして、国交回復の問題がありまして、国側も主張されておりますけれども、国交回復した後も積極的な対応をしないで、遺棄された毒ガスを放置したままであった、その行為にはわずかの正当性も認めることはできないというような厳しい内容になっております。
 ちょっと次にお伺いをしたいんですけれども、とりあえず後でもう一度お伺いしたいんですけれども、ことしの八月四日に中国のチチハルで同様の事故が発生をしまして、一名が死亡され、そして四十数名が入院されるという事故があったわけですね。
 それで、これはちょうど福田官房長官が訪中をされる直前の出来事でありまして、長官が訪中された際の温家宝首相との会談の中でもこのことが話題に上ったというふうに聞いておりますけれども、その際、長官は中国側の要請に対してどのようにお答えになったんでしょうか。
○福田国務大臣 そのときの記録がございますので、それを申し上げてもよろしいんですけれども、前提としては、まだ事故が起こってどういう内容であるかわからない、こういう状況の中で私が申したんでありますけれども、もし原因が日本旧軍の責任に帰するものであるということになれば、政府としてもそれなりの対応をする必要があるのではなかろうかと思っておると。いずれにしても、その現地調査の結果を見て判断するべきことであるけれども、この問題について誠実に対応したいということは温家宝首相に申し上げました。
○金子(哲)委員 これは九月五日の小泉総理と呉邦国全国人民代表大会常任委員長との会談の中でも取り上げられて、これに対して小泉総理も、政府として誠実に対応したいという約束をされたというふうに報道でもお伺いをしております。
 今、長官、大事なことをおっしゃったと思うんですよね。日本の遺棄弾による、責任による被害であれば誠意を持って対応しなければならないということをおっしゃっています。
 先ほど裁判の判決の件で、九月の二十九日の東京地方裁判所の件、それから、長官も五月の裁判の件をおっしゃいましたけれども、五月の裁判の件でも、この日本が遺棄した毒ガス弾による被害であるということは認めているわけですね。その点については責任があるけれども、中国に何とかしろというようなことが言えるかどうかということになると、それは別の問題だということで、あの判決は政府が勝訴をしておりますけれども、原因としての旧日本軍の毒ガス弾の遺棄毒ガスによって起こった被害だということは認めているわけですね。それが放置をされて起こった事象であるという事実関係については五月の裁判も認めている。
 今、福田官房長官がおっしゃったように、旧日本軍の遺棄した毒ガス弾による被害であれば日本政府は誠意を持って対応しなければならない、このようにおっしゃれば、今回のこの裁判で起こされた問題は、事実上同じ次元の問題ではないかというふうに思うんですけれども、その点についてはどうですか。
○福田国務大臣 この問題は、要するに、旧日本軍のことも含めまして、日中間において日中共同宣言を発しましたね、一九七二年ですね、この日中共同声明。このときに、日中間の請求権の問題は、これは放棄をするということで、以後、存在しないということになっているんですよ。そこのところがあるものですから、裁判にもなり、そして国側が勝訴する、こういうことになっているのだというふうに思っております。
○金子(哲)委員 それは、このいずれの事件も七二年の日中共同声明以降に発生した事案なんですよね、このいずれの毒ガス被害も。ということになれば、七二年の日中共同声明の問題は、今そこで幾らそれがあったと言っても、そのこととそれ以後に発生した問題は別の問題だと思うんですよ。(福田国務大臣「根源は」と呼ぶ)もちろん、もとに日本軍が遺棄した問題はそうですけれども、しかし、それを適切に処理しなかったために七二年以降に発生した問題ですから、根源としては日本に責任があると思うんです。
 今、福田官房長官は、日本に責任があるとすれば誠意を持って対応しなきゃならない、それが日本軍が遺棄した毒ガス弾だと認められれば誠意を持って対応しなければならないということを中国側との話で話をしましたというお話をされ、小泉総理も、この九月の五日の日の呉邦国常任委員長との会談の中でもそうおっしゃっているわけですね。
 そうしますと、ことしの八月四日に起きたことも、そして七二年、今裁判で争われている件も、いわば日中共同声明以降の同じような時点の問題として、これは対処しなきゃいけない問題じゃないかというふうに思うんですけれども、どうですか。
○福田国務大臣 ですから、先ほど申しましたように、一九七二年の日中共同声明、これでもってその請求権はもう存在しない、こういうことになったわけですよね。要するに、旧軍というのはそれ以前の、戦争中のことでございまして、そして、それが原因で起こったことについて、以後のことについては責任は負わない、こういうことなんです。
 ただ、誠実に対応します、こういうふうに言ったのは、とはいいながらも、やはり日本軍のものであるということが確認されれば、それは何らかの、お見舞いをするとか、何らかの措置というのはあってしかるべきではないのかな、そういう気持ちをあらわしたことでありまして、法的な問題ではないのであります。
 そしてまた、我が国は、一九九七年に化学兵器条約を結びました。そして、それでもって遺棄化学兵器の、今いろいろと調査をして、そしてそれを処理しているという作業をしているわけですよ。大きな作業をしているわけでございまして、そういうことによって、我々の遺棄兵器による被害がなくなるように努力をしている。
 したがいまして、もし問題が生ずるとすれば、九七年以降に起こったことについての責任というものは生ずるだろうというふうに思っております。
○金子(哲)委員 その見解は、私はちょっと納得できないですね。
 確かに、言われたとおり、九七年に化学兵器禁止条約ができて、その後、日本政府は、いずれにしても日本の国内にもまだ毒ガス兵器は残っていると言われておりますけれども、少なくとも、外国に残したもの、遺棄したものについては、製造国の責任で、遺棄した国の責任においてすべて処理をするということで、今中国との中でその処理をされているわけですよね。間違いないじゃないですか、それは。
 それで、しかもその中で、では今すべての遺棄弾が調査が完了しているかといえば、全部できていないんじゃないですか。できていないでしょう。そうしてまいりますと、遺棄弾によって被害が発生することは今後も予測されるわけです。それは、すべての情報が明らかでないわけですから、どこにどのような毒ガス弾が遺棄されたかという状況はありません。例えば、この作業を始める前、日本側が推定し得るのは七十万発だ、一九九七年にスタートするとき。中国側は、これに対して二百万発だと言ったと。これも調査をしなきゃわからないということでスタートを切り、できるものから始めていって、そして今、大量の場所のものを中心にして作業を進めるというのが今の過程なんですよ。
 そうしてまいりますと、この間、ことしの八月四日に起こった事象は、その処理をする過程の中で既に発生しているわけです。全部が完了していないために、まだ依然として作業に入らないままの毒ガス弾が中国国内にある。遺棄されたままの状況である。それによって住民が被害を受けるかもわからない状況にあることは間違いないんです。
 そうしてまいりますと、それはもう七二年以前の問題ということには片がつかない問題じゃないですか、その後に発生した問題は。そこに今回の問題も、私は、きっと政府は、今言われたように、九七年の化学兵器禁止条約が発効して、外国に遺棄した毒ガス弾については、旧日本軍の毒ガス弾については日本側に責任があるようになった。責任を持って処理しなきゃいけない、それは中国の協力を得て作業を進めているということになると、それによって事故が発生すれば、当然日本側が責任を持たなきゃいけないということで、大抵、私は、ことしの八月四日のものについては日本政府は誠意を持ってやらなきゃいけないというふうに考えられたかもわからないですけれども、しかし同じ、明らかに遺棄毒ガス弾で被害を受けた人は、さかのぼった場合にはそれは関係ありません、これは道義的にも成り立たないんじゃないでしょうか。
○福田国務大臣 それが要するに請求権を放棄したということで、今までそういうことで来たわけですよ。それは遺棄兵器だけのことじゃないんです。いろいろなことがあったわけですから、戦争ですから。そういうものは、まだ今でも引き続いているものはいろいろあるんですよ。だけれども、今の日中間においては、そういう請求権を放棄するという、共同声明によってお互いに請求をしないということになっているんです。
 条約上のことについては外務省の方で答えさせますけれども、どうぞ御質問ください。
○川口国務大臣 今、官房長官がおっしゃったとおりでして、これは請求権を放棄しているということがあるわけです。そして、日本側が、福田長官が誠意を持って対応しますということをおっしゃられた、八月四日に起こった事件につきまして。ということの意味は、これは、日本政府としてそういう誠意を持ってどういう対応をしたかということを申し上げると、事故の処理に協力をするために、事実関係の確認、これの調査チームを送った、それから事故の原因となったドラム缶のこん包チームを送った、そして医療の専門家のチームを派遣したということであって、その事故の対応についての日中間協議をやっているということであって、それがまさに福田長官がおっしゃった、誠意を持って対応するということの意味であるわけです。
 そして、この件について日本政府が、見舞金を支出するとかそういうことを決めたということでは全くないということです。
○金子(哲)委員 外務大臣、私は重要な発言であったと思うんですけれども、その調査団を出したことが誠意を持っての対応ですか。調査チームを派遣し、医師団を派遣しただけが誠意を持った日本政府の対応ですか。
 中国の中で、例えば、今、見舞金を出すというようなことは決めていないとおっしゃっていますけれども、例えば見舞金という言葉が、どこがどう言ったかは別にして、マスコミ報道を通じてでしょう、出た。それに対して、中国の国内では百十一万人を超える人たちが署名を集めた、きちっと日本が謝罪しろと。それを、今外務大臣が答弁されたような、調査チームを出して、医師団を派遣した、これが誠意を持っての対応だというレベルでこの問題を解決するということになると、私、これは日中間の重要な問題になってくると思うんですよ。
 といいますのは、この裁判まで、実は、官房長官も御承知かもわかりませんけれども、これらの事案、ことしの八月四日以前のもの、政府間の問題になったことないんですよ、今まで。そして、民間レベルで解決しなきゃならない、日本政府に要望したが解決しないから裁判を起こしたということなんですよね。しかし、今回は、先ほど私が申し上げましたように、八月に官房長官が訪中された際の温家宝首相との会談の中でも取り上げられ、そして先ほどの、九月五日にも、全人代の委員長がお見えになったときに、小泉総理との話し合いの場所にも出てきた政治的な課題になっているわけですよ。
 そうなってまいりますと、今言われたようなことが誠意がある態度というようなことでこの問題処理は、それは一つの段階としてそういうことはあったかもわからないけれども、これで終わりということはないでしょう。
○川口国務大臣 この件への対応につきましては、日中で協議をいたしておりますし、引き続き我が国としては、中国側と密接に協力をしながら誠意を持って対応していくというふうに考えております。
 この件が外交的な案件、問題案件というふうになっているということではございませんで、日本と中国は、この点について密接に協議を今やっているということでございます。
○福田国務大臣 今の、誠意ある、こういう中身の話ですけれども、この問題が出てきまして、我が国は専門の、本当にいないんです、日本に一人しかいないとかいう、そういう医師を派遣しました、医療チームを派遣しました。それから、この調査チーム、そういうものも派遣しました。これは相前後して三回ぐらいにわたって行ったんじゃないかと思いますけれども、そういうようなことで、できるだけのことは対応していこう、そういう考え方でやってまいりました。
○金子(哲)委員 先ほど外務大臣、見舞金の話はないということでしたが、そういう金銭的なものの解決の方向というのは全くないんですか。
○福田国務大臣 今、金銭的なことでもってどうこうということではない。原因の究明とか、今後どういうふうにするかとかいったようなことも含めて日中間で協議中である、こういうことでございます。
○金子(哲)委員 もう一つだけお伺いしたいんですけれども、もう一度確認なんですけれども、七二年の共同声明で放棄をした。確かに過去のものについては放棄をされたかもわからないですけれども、しかし、その後この事故というのは発生をしているわけですよね、七二年以降に。いずれも、この今裁判になっている件はすべて七二年以降なんですよ。
 そうしてまいりますと、七二年の共同声明で放棄をするというのは、それ以前のものにかかわって放棄したのであって、それ以降に発生したものまで放棄をしたと、これはまあ裁判でも争われている点ですから、今回の東京地裁の判決では、この国側の主張は明らかに誤りであるということで敗訴をしたわけですよね。
 今日、この毒ガスの問題は大量破壊兵器にもつながる問題でありますけれども、大量に、残念ながら、当時の旧日本軍が中国大陸に持っていったものを、本来きちっと処理をして帰ればよかったものを、すべて遺棄して、どこに遺棄したかもわからないような状況で、それが放置されたままになっている。しかも、化学兵器禁止条約ができて、日本がすべて責任を持って調査をし、そしてそれを発掘し、それをすべてにわたって破棄の処理をしなきゃいけないという責任を負っているわけですね。その責任を負っている者が、その間にそれによって事故が発生すれば、すべてに日本の国の責任において破棄をしなきゃならないほどの責任を持つ者は、事故が起きたときに、日本に責任がない、こういうことにはならないんじゃないですか。これは普通の国際的な感覚の中で当たり前のことじゃないんですか。
 それほどにこの毒ガスの問題というのは、化学兵器禁止条約で、なぜ遺棄したものについて、遺棄した側の日本、例えば、今の例でいえば中国の問題ですけれども、日本側が責任を持って処理をしなきゃならないのか、財政負担を。それは、それだけの責任と問題があるからでしょう。それによって、まだ、すぐに、仮に日本が言う七十万発としたら、これを最終的に処理するまでに、実はこの条約では二〇〇七年までの間に処理しなきゃいけないですけれども、今の状況で、もう二〇〇三年ですよね、あと四年間で実質上できるかどうかわからないという状況があるわけです。
 それから、すべての遺棄弾が、すべて調査が済んだかといえば、まだやはり出てくる。それが今の中国の現状でしょう。その点についてはお認めになりますか。今、スタートをした遺棄化学兵器処理の調査で挙がっている数以外にもまだ不明な点があるということについてはお認めですか。
○川口国務大臣 幾つかの御質問がおありになったと思いますので、幾つかでお答えをしたいと思います。
 委員のおっしゃっていらっしゃる、日本が残したものだから、そしてその事件が最近起こったことだから、請求権を放棄したといっても関係ないんではないだろうかということをおっしゃったわけですけれども、これは、請求権を放棄したということによって、まさに放棄をされたということの対象になっています。それで、先ほどから申し上げているのは、請求権を放棄したので、その問題の解決のために金銭で請求権の処理をするということはもはやないということを申し上げているわけです。
 それからもう一つ、見舞金の支出、この方針を固めたという事実はないということは申し上げました。そういう方針を固めたという事実はございません。それで……
(金子(哲)委員「検討はされているんですか。固めていなくてもいいけれども、そういうことは検討されているんですか」)したがいまして、見舞金ということは、請求権を放棄していますから、それはないわけですね。
 それで、条約により遺棄化学兵器、これは二〇〇七年まで処理をしなければいけないということであります。これはなかなか大変な仕事でございまして、委員がおっしゃるように、まだわかっていないものもあるかもしれないということでもございます。これは、中国の政府と緊密に連携をしながら、この処理については日本政府として最善を尽くしていきたいと考えております。
○金子(哲)委員 再度、官房長官にぜひ御確認したいんです。
 もし、今後もこの種事故が、とりあえず裁判の件についてはいろいろ、私は控訴を断念して早く解決してほしいということを思っておりますけれども、先ほどの答弁を聞いておりますと、先ほども申し上げましたように、今既に発見されたものについては管理をし、処理をするための準備や作業は進んでいます。しかし、まだ調査をしてみれば出てくるかもわからないという状況にあることも、また間違いないわけです。
 そうすると、これから発見されるであろうものについて、また事故が起こる可能性があるわけですね。そういうものについては、日本側は全然責任を持たないということになるんですか。その辺はどうなんですか。そういう考え方でいいんですか。
○福田国務大臣 今までの考え方というのは、法的にはもう解決済みである、こういうことになっているんですよ。ですから、今後同様のことが起こったときには、今の法的な解釈の上に立って判断していくということしかないんですけれどもね、今現在は。
○金子(哲)委員 おっしゃるとおりだと思いますよ、一方で。しかし、現実にそういうことを決めた、今中国の政府の首脳は、今官房長官がおっしゃったことをそのまま言えば、七二年の日中共同声明によってあなた方は放棄したじゃないですか、この問題は今私たちに言う立場にないじゃないですか、こう言わなきゃいけないですよね。しかし、そう言えない問題があるわけですよね、現実的に、やはり遺棄した問題で今起きている問題だから。だからこそ、誠意を持ってこたえるとおっしゃったと思うんですよ。
 そうしてまいりますと、やはりこれは被害を受けた人たちに対して一定の、それなりのことをやっていくということは、私は当然考えなきゃいけないことだというふうに思うんです。見舞金を出すことを決めたわけではないということですけれども、出さないことも決められたわけではないでしょうから、まだ検討されていると私は思いますけれども、今のままで、これだけの、首脳会談で二度にも議題に上った問題が、今言われただけの調査活動だけでこれが終了、済むというふうには到底思えないわけですので、この問題は、裁判の控訴の行方も極めて、中国の側から見ると、民衆も含めて非常に関心を持って見ているという事案であるだけに、私はちょっと、言葉の上で、日中間の重大な案件になりかねないということを言っているわけでありまして、場合によれば、処理の仕方自身によっては。
 その点について、再度、官房長官、直接お会いになっておりますから、ぜひもう一度御答弁をお願いしたいと思います。
○川口国務大臣 この件につきましては、官房長官がおっしゃられたように、我が国としては、事故の対応について日中の協議を続けておりますし、引き続き中国の政府と協議をしながら、誠実にこの問題に対応していきたい、そういうことでございます。
○金子(哲)委員 もうこの問題は終わりにしたいと思いますけれども、いずれにしても、旧日本軍が遺棄したために発生した問題であるということだけは明らかでありますから、それをもって、やはり日本の政府はしっかりとした対応をするというのは、私は外交上当然のことだというふうに思いますので、その点をぜひ意見として申し上げたいと思います。
(略)

【資料提供】
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戦争被害調査会法を実現する市民会議
〒102−0072東京都千代田区飯田橋2−6−1 小宮山ビル201
TEL/FAX03-3288-2560 E-mail:simink@hkg.odn.ne.jp
URL http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Keyaki/5481/ 
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福田官房長官は、1997年の化学兵器禁止条約発効前と後で発生した事件の責任の取り方を分けているようです。訴訟になっている事件とチチハル事件と区別して対応する姿勢がうかがえます。
(市民会議事務局長 川村一之)

 毒ガス処理
旧軍人に情報提供を求めよ【朝日新聞03.10.10 私の視点】
常石敬一神奈川大学教授
一九四三年生まれ。専門は科学史。著書に『謀略のクロスロード一帝銀事件捜査と731部隊』など。

 旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器による毒ガス被害などに対する東京地裁の損害賠償請求訴訟で9月29日、原告勝訴の判決が出た。翌日、福田官房長官は中国での化学兵器処理について「今までのペースで全部終わるのかどうか分からないので、対応は考えていなければならない」と処理を促進する考えを示した。歓迎すべきことだ。
 しかし、どのようにすれば処理を早められるのだう。すでに発見されているものについては、今年4月に日中政府間で合意を見た「処理方法」を早急に具体化すれば処理のペースを速めることは可能だ。しかし、それだけでは発見のつど対応する「もぐらたたき」を続けるだけだ。必要なのはその場限りの対応ではなく、1945年までの戦争の後始末をすることだ。
 今回の判決が求め、また化学兵器について戦争の後始末として必要なのは、すでに発見されたものの処理だけではなく、未発見のものを早期に探し出し、処理することだ。
 それはどうしたら可能となるのか。筆者は95年、当時の日本社会党の議員団と70万発の化学弾が埋まっている中国のハルバレイを調査した。
 その報告書で、@日本の敗戦前後に化学兵器を遺棄した人を探し出し、種類・場所その他についての聞き取り調査を行うことG政府機関が保管する、日本の敗戦前後の化学兵器の配備状況を記した文書を調査・公開すること・・・・などを「提案」した。
 この報告書は、当時の村山首相に手渡された。@の実行には、政府が国際条約上、正真正銘の毒ガスである「びらん剤」使用の有無についてのあいまいな態度を改め、それを認めることが出発点であることも提案した。もし、@が実行されていれば、先ごろ起きた茨城県や中国チチハルでの被害は防げたかもしれない。
 95年の提案を自分なりに実現すべく、筆者は00年に松野誠也氏(明治大学大学院生)の協力を得て、どの程度の化学兵器が海外に送られたかを、防衛庁の戦史資料室の資料で調べた。
 そこで分かったことは、こうしたことを調べるための資料は限定的で、37年度から41年度分までしかないという事実だった。その問、海外に送られた化学砲弾の数は83万9956発で、うち中国には57万1946発、残り26万8010発は東南アジアだった。
 実際の使用状況からすると、42、43年度により大量の化学兵器が海外に送られているはずだが、それについては資料がなく、調べることが不可能だった。これは資料が存在しないのか非公開なのかは不明だ。もし後者であれば、早急に公開するか、政府が独自に調査を進め、その結果を該当する県あるいは外国に知らせるべきだ。
 こうした数量調査は、環境省が現在進める国内化学兵器の再調査にとっての基礎データを提供し、今後、アジア各国で日本の遺棄化学兵器による被害を未然に防ぐことにもっながる。
 しかし、敗戦時に遺棄された化学兵器に関しては、実際に遭棄した人からの聞き取り調査が欠かせない。
 そのためには、政府として毒ガスの使用を認め、広く旧軍人に情報の提供を呼びかけることが必要だ。国内の再調査にとって有益な情報をもたらし、アジアの国々で旧軍の毒ガス被害を防ぎ、日本が信頼を失わない道となる。

なぜ今、日本軍の毒ガスか?
日本人の健康を考えず処理
30年前の調査に問題あり
政府は徹底的調査、体制・予算に責任を
【朝日新聞03. 私の視点】
常石敬一神奈川大学教授

 茨城県神栖(かみす)町で、幼児に発達や言語の遅れが見られるなど住民の健康被害が問題になり、井戸水から、旧日本軍の毒ガス成分が検出された。これを契機に日本政府は毒ガス所在についての全国再調査に着手した。

米軍の処理方針は…
 
 これは近年毒ガス被害が相次ぎ、三十年前の調査の信頼性が問題となったためだ。毒ガス発見の経緯はまちまちで、重大な健康被害発生によるものが一件(神栖町、二〇〇三年。くしゃみ剤の成分)、当事者の告白によるものが一件(北海道屈斜路湖、一九九五年。びらん剤)、なすべき調査を怠っていた末に調査を行った結果というのが一件(広島県大久野島、九五年。ヒ素汚染)、事前に毒物の存在が分かっていた例が一件(広島市、九五年。神栖町と同じくしゃみ剤の成分)で、工事によるもの三件(二〇〇〇年福岡苅田港、〇二年神奈川県寒川、〇三年同平塚。主にびらん剤)だ。
 三十年前の「旧軍毒ガス弾等の全県調査報告」は次のように書いている。「旧軍毒ガス弾等の処理は、在日米軍司令部の命ずるところによって実施された。処理方法は焼却破壊及び海中投棄が・:・・採用された」。占領軍の作業は「当時の在日米駐留軍の資料の存否も調査したが当該資料は皆無に近い状況であった」ため、その実態は分からないというのが現実だった。
 それにもかかわらず、三十年前の調査の基本的なトーンは、米軍が処理済だが、漏れているものはないかというものだった。大筋としてはその通りだろうが、ひとつ誤解があったように思える。それは米軍の意図だ。米軍による日本軍の毒ガス処理の方針は、日本人が米軍を攻撃する武器を廃棄する、ことだった。日本人の健康や安全を意図したものではなかった。その典型日本人の健康考えず処理30年前の調査に問題ありが周防灘など比較的浅い海への毒ガスの投棄だ。結果として米軍は「くしゃみ剤」などは重視しなかった。大久野島ではさらし粉と海水で処理し、防空壕(ごう)に埋めるという処理をした。

分解しても健康被害
 
四六年の米軍文書によれば、米軍は神栖町にあった海軍の飛行場で、化学剤として焼夷弾(しょういだん)の存在は確認したが、くしゃみ剤については不明だ。くしゃみ剤は致命的な化学兵器ではなく、第一次大戦末期に戦場に投入されたが、それはびらん剤などと併用するためだった。くしゃみ剤は当時のガスマスクを透過するので、敵はくしゃみ剤の刺激でマスクを取り、そこをびらん剤が襲うという使用法がなされた。第二次大戦時のガスマスクであればくしゃみ剤を防ぐことができ、また存在すれば刺激が強く、びらん剤のように使わ/政府は徹底的調査、体制・予算に責任を旧日本軍の井戸のあるれたことが半日以上分からないということもなく、米軍にとって危険性の低い毒ガスだった。
 〇二年、寒川ではビール瓶(びん)に詰まったびらん剤が出てきた。米軍は寒川では鉄カメに入ったびらん剤約五十ノを押収している。これで満足して、地中に埋められたビール瓶には気付かなかった、ということだろう。半世紀以上前に製造された毒ガスが今でも毒性を持っている。実際、寒川町で発見されたびらん剤の毒性は全く衰えていなかったという。
 しかし、神栖町の事例は毒ガスの毒性もさるながら、それが分解して元の原料剤となっても、健康被害をもたらすことを示している。大久野島のくしゃみ剤もくしゃみ剤としての毒性は消えたが、ヒ素の毒性は残る。神栖町の例に戻ると、くしゃみ剤のままであれば刺激が強くその存在は察知し易(やす)いが、刺激が少ない原料に戻ったこで察知し難く、それが長い年月飲料水を汚染することになった。これは盲点だった。
 こうした事態を繰り返さないため徹底的な調査が、必要だが、そのためには、政府は必要であれば各自治体に予算をつけ、問題が明らかになった場合には、きちんと処理する体制・予算を事前に用意しておくことが必要だ。また各自治体は、この際毒ガス疑惑があれば十分に調査し、その結果を積極的に政府に伝え、より総合的な分析を求め、疑惑が事実であれば、毒ガスの廃棄を政府に強く求めるべきだ。さもないと神栖町のような被害はあとを断たないだろう。

平成十五年九月二十九日提出
質 問 第一七号
旧日本軍遺棄毒ガス問題に関する質問主意書
提出者  中 川 智 子
旧日本軍遺棄毒ガス問題に関する質問主意書・
 昨年から今年にかけて、旧日本軍遺棄毒ガス問題が、寒川町、・平塚市及び神栖町で相次いで発生し、国民の安全を脅かしているが、これについて環境省は∵旧日本軍による毒ガスの調査を行うとともに、関連する情報の提供を各自治体や国民に呼びかけ、その結果を今秋公表するとしている。
 しかし、そもそも政府は、一九七三年に行った調査では多くの地域で危険予測材料はないとしていたにもかかわらず、今日新たな被害が発生したという経緯を考えると、七三年当時の調査が不徹底であったことは否めず、当時の調査が徹底的になされていれば今日の被害を防ぐことができたと思われる。その意味で、現在環境省が実施している調査はきわめて重要であり今後被害を未然に防止し、国民の生命・安全を守るために、今回こそ徹底した調査と対応が急務であると考える立場から以下の事項について質問する。

第一 環境省が国民から提供を求めている情報について

一 終戦から今日までの毒ガスによる被害と被害者に対する補償・救済状況に関する情報の提供は受け付けているのか。受け付けていないとすれば、その理由は何か。また、情報を受け付ける範囲を明確に示されたい。

二 外国に遺棄したとされる情報について受け付けているか。受け付けていないとすれば理由は何か。
第二 環境省の調査体制と調査状況について

一 現在の環境省肉の調査担当部署と規模を明らかにされたい。その部署の人員体制には、旧日本軍の毒ガスに関する歴史的かう専門的知識等を有している人員を配置しているか。外部からの調査協力がある場合、どのような協力体制であるのか。また、環境省は、毒ガス問題について環境学者・歴史研究者・軍事研究者・科学者・医師などの各界の専門家が総合的に検討する場を設置しているか。設置しているのであれぼ、そのメンバーと検討内容を公開されたい。
ニ 現在の調査・検討の進捗状況と今後の見通しはどのようになっているか?報告書はいつ発表される予定か。仮に中開報告となる場合は、継続的に調査報告を行うのか伺いたい。

三 得られた情報はどういう方法で公開するのか。公開しない事実があるとすれば、その理由は何か。
四 今後も毒ガス問題が発生する恐れがあり、継続的に調査・分析を行うことが不可欠と思われるが、・旧日本軍毒ガスの専門調査室を設置する考えがあるのか、見解を伺いたい。

五 内閣府大臣官房遺棄化学兵器処理室との協力体制はどのようになっているのか。これまで、情報提供を受けたことがあるのか、あるとすれば内容をお示し願いたい。

第三 環境省の防衛庁との関係について

一 環境省はこれまでに防衛庁に睾ガス関連情報・資料の提供を求めたことがあるか。あるとすればどのようなものであるのか、お示し願いたい。

二 七三年の「報告書」は、どの省庁が作成したものと判断しているか。また、基礎となる資料を防衛庁から交付を受ける、または照会したことはあるか。あるとすればどのようなものであるのか、お示し願いたい。

三 自衛隊による毒ガスの処理・掃海作業の報告書、または被害に対する補償状況について、防衛庁から提供を受けたものがあるとすれば、明示されたい。

四 戦後、アメリカ政府から返還され、防衛庁に収められた戦後史資料と所蔵資料の総目録の提供を防衛庁に求めたことはあるか。

第四 寒川での被害およぴ補償・救済の状況について

一 寒川・平塚での被害者の被害状況と補償・救済および医療上のケア状況を明らかにされたい。

二 環境省は厚生労働省にこの件に関する情報を求めたことはあるか。ないとすれば、その理由は何か。

三 寒川・平塚で発見された不審瓶は、どこでどのように保管されているのか、明らかにされたい。

右質問する


内閣衆質一五七第一七号
  平成十五年十月七日
内閣総理大臣臨時代理
国  務  大  臣 福 田 康 夫
衆議院議長 綿 貫 民 輔 殿
衆議院議員中川智子君提出
 旧日本軍遺棄毒ガス問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院蔑具申川智子君提出旧日本軍遭葉書ガス問題に関する質周に対する答弁書

第一の一について
 旧軍事ガス弾等による被害の未然防止を図るための基礎資料を得ることを目的として、現在「昭和四十八年の「旧軍事ガス弾等の全国調査」・のフォローアップ調査」(以下「フォローアップ調査」という。)を実施しているところである。フォローアップ調査の調査項目は、@終戦時たおける旧軍毒ガス弾等の保有及び廃棄の状況、A戦後における旧軍事ガス弾等の発見、被災及び膚海等の処理の状況、Bその他旧軍事ガス弾等の保有又は発見の可能性が示唆される場所の現在打状況であり、調査においては、旧軍事ガス弾等による被災に関する救済及び補償につい・ての情報も含めて収集している。
 なお、フォローアップ調査においては、広く国民に対し情報の提供に.ついて呼び掛けている。

第一の二について

 フォローアップ調査は、国内における旧軍毒ガス弾等による被音の未然防止を図るための基礎資料を得ることを目的としたものであることから、外国に旧軍事ガス弾等を遺棄したとされる情報は、調査対象としていない。

第二の一について

 環境省総合環境政策局環境保健部内に、二十一人から成る「旧軍事ガス等問題に係るプロジェクトチーム」を設け、専門性をいかしつつ対応を行っているところである。また、外部の調査協力者として、御指摘の各界の専門家の協力を得ることとしており、今後、こうした有識者の助言を得ながらフォローアップ調査を取りまとめてまいりたい。

第二の二から四までについて

 フォローアップ調査の結果については、本年十一月未に公表することを目指し七、現在、作業を進めているところである。公表の方法や継続的な調査の必要性等については、フォローアップ調査の結果の取りまと.めと並行して検討していくこととしている。

第二の五について

 フォローアップ調査は、第一の二についてで述べたとおり、外国に旧軍事ガス弾等を速棄したとされる情報を対象としておらず、内閣府大臣官房遺棄化学兵器処理担当室の事務の所掌外であるが、関連する技術情報を相互に提供するなど、同室と環境省の「旧軍事ガス等問題に係るプロジェクトチーム」の間で緊密な連携を保っているところである。

第三について

 お尋ねの防衛庁に対する情報・資料の要求等については、フォローアップ調査の一環として、第一の一についてで述べた調査項目について、環境省から同庁に調査を依頼しているところであり、これにより提供された情報・資料については、現在、整理中である。
 また、御指摘の「七三年の「報告書」」とは、昭和四十八年に取りまとめられた「旧軍事ガス弾等の全国調査の実施について」を指すものと考えるが、当該資料は、当時設置されていた 「大久野島寺ガス問題関係各省庁連絡会議」 が取りまとめたものと認識している。

第四の一について

 寒川町の事案に関しては、被災したとして病院で診察を受けた方は計十二名であり、このうち十名に対しては、業務上の疾病として、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)に基づく保険給付が支給されている。さらに、当該工事を発注した国土交通省関東地方整備局横浜国道事務所において、工事請負業者と損害について協議を進めているところである。なお、今後とも健康診断を定期的に受診していただく等、適切に対処してまいる所存である。
 また、平塚市の事案に関しては、被災したとして病院で診察を受けた方は計三名であり、これら全員に対し、業務上の疾病として、同法に基づく保険給付が支給されている。なお、これら三名の方については、これまでの数回の検査では異常は見られないところである。

第四の二について

 厚生労働省に対しては、フォローアップ調査の一環として、第一の一についてで述べた調査項目について、情報の提供を依頼しているところである。

第四の三について

 寒川町で発見された不審物については、国土交通省関東地方整備局に、平成十四年十二月十二日に設置した「さがみ縦貫危険物処理に関する有識者委員会」の検討を受け、現在、仮囲いに囲まれ、大型テントの中にある空気浄化機能を持った密閉型の保管庫に収納されているところである。
 また、平塚市で発見された不審物については、同局に、平成十五年五月十三日に設置した「平塚第二地方合同庁舎危険物の調査等に関する有識者委員会」の検討を受け、当該不審物を財団法人化学物資評価研究機構に持ち込み、瓶を割って内容物を分析した後、有害な内容物は同機構で保管ぎれ、空気浄化機能を持った現場内に設置した密閉型の保管庫に保管しているところである。
 なお、寒川町及び平塚市の現地では、二十四時間体制の現場管理、化学剤検知器による大気のモニタリング等を実施しており、新たな被災者が生じないよう万全を尽くしているところである。

     茨城県神栖町における毒ガス被害に関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
            平成十五年七月二十五日
提出者 田中 甲
衆議院議長 綿貫民輔 殿

茨城県神栖町における
毒ガス被害に関する質問主意書

今次の大戦の終結直後に、旧日本軍により不法遺棄された化学兵器が茨城県神栖町の住民の身体・生命に危害を及ぼしていると思われる事件の対策は、緊急を要すると同時に徹底的に原因の究明をする事が必要であると考える。

従って、次の事項について質問する。

一、事件の原因究明のため、有機ヒ素化合物が地下水脈に運ばれて拡散していると考えられる範囲について、地質についての専門家の参加を含めた調査委員会を組成して調査を実施し、浸透・拡散している区域を明確にする事が今後新たな被害者を出さないために必要であると考えるが、政府のご見解をお伺いしたい。

二、防衛庁、環境省をはじめ政府機関が所管する以下の資料を全て開示すべきだと考えるが、政府のご見解をお伺いしたい。

  1茨城県神栖町付近に展開した旧日本軍の部隊に関する全ての資料
  2昭和二十年以降に日本政府・省庁等が主体となって行なった旧日本軍の遺棄化学兵器についての全ての調査に関する全資料

三、防衛庁保有の旧日本軍に関する資料と、総務省が保有する恩給受給者の名簿等に基づいて今次の大戦当時、旧日本軍の化学兵器の取扱いをしていた者を特定し、不法遺棄の事実などについてアンケート調査及び聞取り調査を実施すべきであると考えるが、政府のご見解をお伺いしたい。

四、今回は環境省の調査協力金という形で、事実上被害住民に対して速やかな対応が行なわれた。しかし、今後旧日本軍の遺棄化学兵器との因果関係が明確となった場合補償が行なわれるべきであると考えるが、政府のご見解をお伺いしたい。

徹底的な原因の究明を行ない、問題の本質を突き詰めることこそが今回被害を受けられた住民の方々に真に報いることになるはずである。

右質問する。

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内閣衆質一五六第一四一号
平成十五年九月九日
内閣総理大臣 小泉純一郎

衆議院議長 綿貫民輔殿

衆議院議員田中甲君提出

茨城県神栖町における毒ガス被害に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


衆議院議員田中甲君提出茨城県神栖町における毒ガス被害に関する質問に対する答弁書

一について

 環境省においては、茨城県神栖町の地下水汚染地域における汚染源を特定するための調査を行っているところであり、当該調査を進める中で、有機ヒ素化合物の浸透・拡散状況についても把握してまいりたい。当該調査については、関連する分野の専門家からなる「さがみ縦貫道路周辺地域等化学物質調査検討会」から指導、助言等を受けているところであり、次回の検討会から新たに地質の専門家を同検討会の検討員として追加することとしている。

二について

 現在、旧軍毒ガス弾等について、終戦時における保有及び廃棄並びに戦後における発見及び被災状況等を把握し、旧軍毒ガス弾等による被害の未然防止を図るための基礎資料を得ることを目的として「昭和四十八年の「旧軍毒ガス弾等の全国調査」のフォローアップ調査」(以下「フォローアップ調査」という。)を実施しているところであり、この調査結果については、今秋に取りまとめ、公表することとしている。

三について

 フォローアップ調査においては、関係省庁が保有する資料等に基づき、旧軍毒ガス弾等の取扱いをしていた者の特定に努め、終戦時における保有及び廃棄の状況等について聞き取り調査を行うこととしている。

四について

現在、環境省において汚染源特定のための調査を行っているところであり、政府としては、当該調査結果の判明後、必要な対応について検討を行ってまいりたい。

【資料提供】
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戦争被害調査会法を実現する市民会議
〒102−0072東京都千代田区飯田橋2−6−1 小宮山ビル201
TEL/FAX03-3288-2560 E-mail:simink@hkg.odn.ne.jp
URL http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Keyaki/5481/ 
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                          要 求 書
平成15年10月8日
内閣総理大臣 小泉純一郎殿
環境大臣    小池百合子殿
茨城県鹿島郡神楢町
A.B.C.D.E.F
上記6名代理人        
弁護士 坂本博之
同    泉澤 章
同    藤澤 整
同    南 典男
同    五来則男

                  神栖町の有機ヒ素汚染事件の件

 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
本年3月に、茨城県神栖町において、井戸水が有機ヒ素に汚染され、且つそれが原因と思われる住民の健康被害が存在することが明らかとなりました。
 本件要求人らは、この事件によって、甚大な健康被害を被り、生活を破壊されてきました。原因が明らかになる前は、未来の見えない、苦悩の毎日を過ごしてきました。そして、原因物質が有機ヒ素であることが判明し、人為的なものであることが明確になるに及び、要求人らは、やり場のない激しい憤りを感じております。この憤りは、正当なものであると信じます。
 要求人らをはじめとする住民たちに生じ、さらに今後生じ得る健康被害は重大な人権の問題です。化学物質による地下水の汚染は、広範囲に亘る住民たちにとって、生命・身体・財産に対する大きな脅威です。
 そして、この度の原因物質は、旧日本軍が遺棄した毒ガス兵器に由来する疑いが濃厚であると言われています。旧日本軍が遺棄した毒ガス兵器は、神楢町だけではなく、日本各地で発見されており、これまでも人的な被害をもたらしてきましたし、今後も甚大な被害を発生させる可能性が高いものといえます。のみならず、旧日本軍の遺棄毒ガス兵器は、中国をはじめとしたアジア各国に存在し、被害を発生させています。
 要求人らは、この度の事件による被害が完全に救済されることを強く希望します。そのため、貴職らに対して、下記の事項を要求いたします。これらの要求は、この度の事件の救済を目指すだけではなく、これまで発生し、あるいは今後も発生する可能性のある旧日本軍の遺棄毒ガス兵器による被害を救済または予防し、さらには毒ガス兵器による脅威から開放された、平和で安全な世界の実現のためにも重要であると信じます。              
                            
1 汚染原因の現地調査
 現在までに環境省によって調査が行われてきた地点を含む、広範な汚染地域全体についての、汚染原因、汚染経路、汚染の範囲について、地下水の流動状況や地下水層の分布状況なども踏まえ、汚染原因が解明されるまで、徹底的な調査を行うべきです。

2 被害調査
 要求人らも含めた、広範囲の住民らの健康被害等の被害調査を、継続して実施して行くべきです。
                        
3 汚染原因に関する情報収集
 汚染原因の由来等について、旧軍関係者からの聞き取りや、軍事資料の収集など、本件に関する広範な情報の収集を行うべきです。

4 情報公開
 明らかになった汚染原因、被害の実態等、集められた情報は、プライバシーの侵害などに亘らない限り、全て、要求人らをはじめとする住民たちに公開すべきです。
 1973年の、環境庁(当時)が責任者として行った毒ガス兵器の調査の際には、情報 公開がなされず、究明が頓挫したという経緯もあります。
 そのようなことを未然に防止できるよう、的確な情報公開が行われるための方策が採られることも重要です。

5 医療措置
 毒ガスによる健康被害は、未だその全容が解明されているとはいえません。このこ とを踏まえて、毒ガスによる健康被害を狭く限定することはせず、これをできるだけ広く捉えることが必要です。
 そして、要求人らをはじめとする健康被害が生じている住民たちに対しては、毒ガスに起因すると疑われる健康被害の全てについて、無料での医療が受けられるよう措置されるべきです。
 また、このような措置は、被害が残存する限り、「3年間」などと言う期限をきるべきではありません。
 さらに、被害者に対して取られた医療措置ないし調査に関しては、被害者各人に対して、迅速且つ適切な結果開示および説明がなされるべきです。

6 被害補償
 要求人らをはじめとする、被害を被った住民らに対しては、過去の医療費、休業損害、今後の休業損害、逸失利益、慰謝料等を含む、完全な被害補償がなされるべきです。

7 汚染除去
 汚染原因は除去されるべきです。のみならず、汚染された土壌、地下水も完全に除去して浄化されるべきです。                      
 上水道を引いて汚染された土壌や地下水をそのまま放置し、お茶を濁してしまうようなことは、絶対にしないで下さい。

8 対策チームの編成
 本件汚染の原因究明、被害調査及び情報収集を徹底して行うための専門チームの編成を行うべきです。そのチームには、化学者、地質学者、歴史学者、軍事専門家、医師、法律家など、様々な関係分野の人が参加すべきであり、且つ、住民たちまたはその推薦する者の参加も認めるべきです。
 そのための予算措置を溝ずることも必要です。

9 公式謝罪
 要求人らをはじめとする、本件によって被害を受けた住民たちに対して、国は、非を認めて、公式の謝罪を行うべきです。

以上、要求いたします。
 なお、今後は、以下の代理人が窓口となりますので、ご連絡等は、同代理人宛にいただけますよう、お願い申しあげます。

              声 明

1 2003年10月3日、日本政府は、国の責任を全面的に認め1億899万円の賠償を命じた9月29日の東京地方裁判所判決につき、東京高等裁判所に控訴した。原稿ら、弁護団、毒ガス被害者をサポートする会は、日本政府の控訴に対し、怒りと抗議を表明するとともに、控訴の取り下げと遺棄毒ガス被害問題の全面的な解決を求める。

2 原告らは、日本軍の遺棄・隠匿した毒ガス・砲弾によって長い年月にわたり苦しんでんできた。日本政府の控訴は、今までの原告らの苦しみに背を向けその苦し継続させるものであり、人間として断じて許すことができない。原告李臣は、目を赤く腫らして「事実と歴史を認めない日本政府に、中国の被害者を代表して強く抗議します。」と強い怒りを表明し、原告劉敏は、「父は戦争が残した兵器によって平和な時代に死にました。どんなにつらくても、どんなに時間がかっても絶対に諦めません。」と泣きながら闘う決意を明らかにした。

3 日本政府は、同様訴訟で司法判断が別れていることを控訴の理由としている。しかし、控訴にはいささかの正当性もない。9月29日の判決は、5月15日の判決を明確に論破しているからである。すなわち、5月15日の判決が請求棄却の理由とした日本政府に主権がないので危険な結果回避可能性がないという点について、9月29日の判決は、「積極的に危険に危険を作り出した」被告国には「被害発生防止のために、可能な限りの措置をとることを強く期待され」ており、部隊の配置や毒ガス兵器の配備状況などの情報を収集して中国政府に対し調査や回収の申し出をし、被害の発生を回避できた可能性があると正当な判断をしたのである。

4 私たちは、今後日本政府が控訴審でどのように争ったとしても9月29日の判決がが維持されることを確信している。判決後の国内外の報道をみれば、この確信は内外の良識ある人々によって共有されていることは明らかである。
 したがって、私たちは、日本政府に対し、これ以上原告ちと遺棄毒ガス被苦しみを継続させることなく、控訴を取り下げ、早期に被害者に対し全面的な解決をはかるべきであると強く要求する。この私たちの要求は、今後日中両国民の強い支持を呼び起こすであろう。

5 私たちは、遺棄毒ガス被害問題が解決されれば日中の友好は前進するであろうと確信する。逆に日本政府がこれ以上争いを続けるならば、日中の友好にとって回しがたい弊害をもたらす危険性が強い。
 私たちは、日中両国民め信頼と友好を強めるため遺棄毒ガス被害問題の早期解決を実現するまで正義の聞いを進める決意である。

2003年10月6日

原 告 李 臣
原 告 劉 敏
ほか
遺棄毒ガス・砲弾被害賠償請求事件弁護団
中国人戦争被害賠償請求事件弁護団
毒ガス被害者をサポートする会
中国人戦争被害者の要求を支える会

             声明

1 本日、東京地方裁判所民事第35部(片山良広裁判長)は、原告らが、被 告日本国に対し、旧日本軍が中国に遺棄してきた毒ガス・砲弾の被害によ る損害賠償請求に対して請求を全面的に認容する画期的な判決を言い渡した。
2 本件は、旧日本軍が侵略した中国から敗戦時逃げ帰る際に、当時の国際法 に違反する毒ガス使用を隠蔽するために、中国国内の地中に埋め、或いは 川に毒ガス・砲弾を投棄し、戦後になって一般の中国の市民が、被害を受 けたという事件である。毒ガスによる被害は猛毒性のイペリットによるも ので、原告らは皮膚にびらんを起こし気管支にも障害を与えられ、筆舌に 尽くせない苦しみを何十年にもわたって受けてきており、原告らは被害者 一人につき2000万円の慰謝料の支払いを求めてきた。
3 これに対し、裁判所は、第1に、日本軍による毒ガスの生産・配備及び戦後の遺棄・隠匿並びに 陸軍による機密書類の焼却・隠蔽の各事実を詳細に認定した。
  第2に、本件各寺ガス被害及び砲弾被害について、被害者の今日に至る までの深刻な被害について事実認定を行った。
  第3に、国家賠償法1条の判断に関し、被告の違法な先行行為を踏まえ、 作為義務を厳しく判断し、その法的責任を明確にした。とりわけ、危険の 存在、予見可能性を認め、結果回避義務についても、日本政府が被害発生 防止のためのふさわしい役割を果たせば結果を回避できたことを明確に判 断し、国賠法上の責任を認めた。
  第4に、本件で国は、時間の経過のみで責任が免責されるという除斥期 間の適用を主張したのに対して、その主張は正義と公平の理念に反し、そ の適用を制限することが条理にもかなうと認められるとして除斥期間の適用を制限した。戦後補償裁判において、国は一貫して除斥期間につき主張しており、今後の戦後補償裁判に与える影響は大きい。
   第5に、睾ガスの被害者が進行性被害にあい、今なお続く深刻な被害を真摯に受け止め、請求金額2000万円の全額を、また砲弾の被害者についても、死亡者には全額2000万円、負傷者に対しては1000万円の各慰謝料を認定した。
 4 本年8月4日には中国黒竜江省チチハルにおいて、本件と同様の日本軍遺 棄毒ガスにより、死傷者を出す大惨事が発生した。中国国内では、日本軍 遺棄寺ガスによるすべての被害者に対して救済を求める署名が短期間に100万を越す状況にまでなっている。
  我々は、日本軍による遺棄毒ガス弾の全面解決なくして真の日中友好の 確立はあり得ないという立場から、本判決に先立ち、中国内の全ての遺棄 毒ガス被害につき、被害者への謝罪・賠償・医療ケア、遺棄毒ガス兵器の完全な撤去等を求める要請書を政府に対し既に提出している。
  我々は本日の画期的な判決を踏まえ、国が、控訴を断念し、本判決を踏 まえ、原告らに対して誠実に謝罪を行い、賠債することによって、全面的 に解決することを求める。
  同時に、国が、本判決の意味するところと日中両国民の声を真摯に受け止め、控訴を断念し、これまで2000人を越えると言われている中国の遺棄毒ガス被害事件の全面的な解決することを強く要求する。
2003年9月29日
遺棄毒ガス・砲弾被害賠債請求事件弁護団
中国人戦争被害賠償請求事件弁護団
毒ガスの過去・現在・未来を考え、旧日本軍の被害者をサポートする会

            要 請 書 

内閣総理大臣 小泉純一郎殿
外務大臣 川口 順子殿

2003年9月12日

  中国人戦争被害者の要求を支える会
   運営委員長 井上久士
 毒ガス被害者をサポートする会
    (毒ガスの過去・現在・未来を考え,旧日本軍の被害者をサポートする会)
代表 矢口仁也
  東京都豊島区南大塚3-44-14村田第二ビル3階
TEL03-5396-6067 FAX03-5396-6068

 中国黒龍江省チチハル市で8月4日、旧日本軍が遺棄した化学兵器の毒ガスを浴びて1人が死亡、37人が入院した事件がおきた。我々はさる3月8日に「毒ガスの完全廃絶」を求めて中国の研究者と共に国際シンポジウムを開催し、日中ともに今後、旧日本軍が製造、使用した毒ガス兵器が新たな被害をもたらす可能性は依然残っており、「日本の毒ガス史」は未だ現在進行形であることを国際アピールとして確認したばかりであるが、今度の中国での悲惨な事件を耳にし、強い怒りの念を禁じ得ないのである。
 小泉首相は5日、首相官邸で中国の呉邦国・全国人民代表大会常務委員長と会談した。
 席上、呉委員長はチチハル市で起きた旧日本軍の遺棄化学兵器による毒ガス被害について、遺族や患者らへの支援で「日本側の善処」を求め、首相は事件への遺憾の意を表明した上で、「外交当局と話しながら、誠実に対応したい」と述べたと報道されている。しかし日本政府が一億円の「見舞金」を出すと伝えられたことについて、中国では、「毒ガス事件というのは“戦後の事件”なのであり、中国が戦時賠償を放棄したから賠償しないという日本政府の言い分は成り立たない」との強い批判もでている。
 我々は、兵器というモノの廃棄だけではなく、被害者への補償や実効性のある再発防止策が講じられてこそ「毒ガス兵器の全廃」が実現されると訴えてきた。
 日本政府が@旧日本軍と日本政府の犯した過ちを認めて、被害者に対する真摯な謝罪をすること、A十分な医療ケアを行うこと、B完全な補償をし責任を果たすこと、C今後二度とこのような悲劇を繰り返さないために遺棄化学兵器に関する徹底した旧軍関係者の情報収集と情報開示により調査・発見につとめ、真相を究明すること、を強く求める。そのためには国内外の歴史学者と毒ガス問題研究者の協力を仰ぐべきである。とりわけ、今現在も毒ガス被害に苦しみ,生命の危機にさらされているチチハルの被害者のための医療ケアは急を要する。日本政府は、医療スタッフを現地に派遣したが、これまで国内における毒ガス被害者の治療に当たった医療関係者を加え、被害者が万全の医療ケアを受けられる体制を作ることを強く要望する。

要 望 書
東京地方裁判所民事第35部 御 中
2003年9月12日

  中国人戦争被害者の要求を支える会
   運営委員長 井上 久士
    毒ガス被害者をサポートする会
     (毒ガスの過去・現在・未来を考え,旧日本軍の被害者をサポートする会)
  代表 矢口 仁也
  東京都豊島区南大塚3-44-14村田第二ビル3階
TEL03-5396-6067 FAX03-5396-6068

 中国黒龍江省チチハル市で8月4日、旧日本軍が遺棄した化学兵器の毒ガスを浴びて1人が死亡、37人が入院した事件がおきた。
 我々はさる3月8日に「毒ガスの完全廃絶」を求めて中国の研究者と共に国際シンポジウムを開催し、日中ともに今後、旧日本軍が製造、使用した毒ガス兵器が新たな被害をもたらす可能性は依然残っており、「日本の毒ガス史」は未だ現在進行形であることを確認したばかりであるが、今度の中国での悲惨な事件を耳にし、強い怒りの念を禁じ得ないのである。
 今月5日、小泉首相と会談した中国の呉邦国・全国人民代表大会常務委員長は、その席上、チチハル市で起きた旧日本軍の遺棄化学兵器による毒ガス被害について、遺族や患者らに対する「日本側の善処」を求めている。いわゆる毒ガス事件は“戦後の事件”であり、中国が戦時賠償を放棄したから賠償しないという日本政府の言い分は成り立たない。また、兵器というモノの廃棄だけではなく、被害者への補償や実効性のある再発防止策が講じられてこそ「毒ガス兵器の全廃」と遺棄化学兵器問題の本当の解決が実現される。
 折しも、御庁に継続中の「日本軍毒ガス・砲弾遺棄被害賠償請求訴訟」が今月29日に判決を迎える。 
 今、この問題を解決しなければ、再び同じ悲劇が繰り返されることは明らかであり、今こそ、良識の府たるべき裁判所が、行政府及び立法府に対し、この問題解決への道標を示すべきときである。
 御庁におかれては、このような悲惨な事件が二度と繰り返されないためにも、良識ある公正な判決を下されるよう熱望する。