"houm"の謎を解く
2011年07月28日
見上潤

原典講読をしていると、ときどき辞書を引いてもわからない単語が出てきます。そういう時、これは何語っぽいとかの勘はやはり幅広い教養が要求されます。しかし知らない言語の場合は手も足も出ない。後は粘りに粘って検索するしかないのですが、不思議なことに腰が入っていないとなかなか見つからないものです。

もう昨年のことになるかと思いますが、メシアン《前奏曲集》のCDジャケットに記載されているメシアンが書いたらしいフランス語の解説を見せていただきました。その中にどうしてもわからない単語がありました。帰ってからググッてはみたものの、さしたる成果はなく、そのままにしてしまいました。

今年12月の日本音楽理論研究会(音理研)第9回東京例会で、この作品全曲分析が行なわれることになり、チーム発表を行なう3者会談が先日開かれました。雰囲気が盛り上がって、その翌日のことです。あの気になった単語の検索に再挑戦する気持ちにようやくなりました。腰が据わったからでしょうか。ついに未知の単語の意味を解明するに至りました。

その筋の人にはきっと自明の単語だとは思いますが、学問的な新発見ということは、重力を発見したニュートンの例を出すまでもなく、まずは「驚いてみる」ことが必要でしょうから、発見に至るプロセスを追ってみます。以下はfacebookに掲載したものを若干改訂してみたものです。

メシアン・メモの謎のことば"houm"の意味がわかりました!!!
では、その謎解きのプロセス・・・検索テクニックの極意をを披露いたします。

1.まず、ウィキペディアで「オリヴィエ・メシアン」を検索します。
対象となっている《前奏曲集》のリンクを探しますが、まだこのページは作られていないようです。
でもそれであきらめずに他の言語からの情報を検索しましょう。
たいていは本国のものが詳しいですから、フランス語のリンクに飛びます。

2.「Olivier Messiaen」フランス語版を見て、<Compositions>から作品名を注意深く探します。
< Huit Préludes, pour piano [Fuligny, Aube, 1928-1929 > 1er mars 1930] >
作曲年から、これが対象となる作品であることがわかります。
< Liste des œuvres d'Olivier Messiaen>へのリンクも確認します。
ここにはメシアンの全作品の情報があるのでブックマークしておきましょう。

3.では、早速「Huit Préludes (Olivier Messiaen) 」に飛びます。
おお、ここには問題となっているメシアン・メモも掲載されていますねえ。
しかし出典が明らかになっていません。
本当にメシアンが書いたものかどうか、いっこうに疑いが晴れません(笑)。
日本でも教えていて有名なアンリエット・ピュイグ・ロジェ先生に献呈され、初演したことがわかります。

リンクを見てみましょう。残念ながら日本語版はありませんが、イタリア語版がありました。
藁にもすがる思いで飛んでみましょう。

4.おっと、「Otto preludi」と出ましたね。おお、件のメシアン・メモのイタリア語訳が掲載されています。これは極めて重要な情報です。原文でわかりくいところが解きほぐされている可能性があります。
今度、逐語的な解題をイタリア語の得意な"おりびえ・にしやん"画伯にお願いしましょう。

5.さて、この中から重要なリンクがないか探してみましょう。おお、ありました、ありました!
"Le campane mescolano una gran quantità di modi; l'aum (risultante grave), "
(フランス語原文"Les cloches mélangent des quantités de modes ; le houm (résultante grave), ")

ずーっと謎の単語だった"houm"(イタリックになっていることから、正統なフランス語ではないことがわかります。)が"aum"となっていて、しかもご丁寧にリンクまであります。ワクワクしながらクリック! 

・・・どひゃー、出ました! 

予想通りサンスクリットでした。ラーガ・ヴァルダーナ(インドのリズム)とか東洋的なこけおどしが大好きなメシアンですから想定内ですね。

6.「Om」イタリア語版は非常に詳しい。サンスクリットにはイタリア語対訳が付されていますから、がんばれば何が書いてあるかわかりそうです。あ、日本語版もありました。

7.「オーム (聖音)」・・・ううう、昨日まさに話題にしましたが、あの「オウムなんとか教」のオウムじゃありませんか。リンクもばっちり入っていますしー。
でも、 サンスクリット文字のデザインは素敵ですね。レジュメにもばっちり使っちゃいましょうか。

ओम्   ॐ
さてさて、みなさま、多言語を駆使したネット・サーフィンの極意はお楽しみいただけたでしょうか? 
メシアン研究でさえフランス語だけでは足りないこともわかりましたね。
検索テクニックがないと"résultante grave"を招いてしまいます(爆)。

あとがき

じゅりあさんからこのメシアン・メモをいただいたのはいつのことだったでしょうか? 当初からこの単語はなんじゃいと思っていましたが、他の課題に追われていて腰が入っていませんでした。この他の謎も順々に解いていきましょう。

しかし何よりも音楽そのものが何を語っているかを解明することこそが我々の課題です。”演奏”という課題も提起されましたが、演奏家に対する貢献も音楽理論家としての重要なミッションです。演奏家ではありませんから立派に弾く必要はなく、音楽理論の成果を伝える説得力のある語りかけを目指していけば良いのだと思っています。これも音楽理論家としての重要なテクニックですので真正面から取り組みましょう。

 ★ 次回予告
メシアン・メモのフランス語原文とイタリア語訳の逐語的比較研究
”オーム”の謎に迫る!
”移調が限られた”って一体何よ!
 話はどっちに向かうかわかりません。その日の風まかせってことで・・・

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日本音楽理論研究会第9回東京例会 メシアン《ピアノの為の前奏曲》(1928-29)全曲アナリーゼ
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