今日も今日とて見習い騎士達は稽古に精を出している。
その様子を遠くで眺めながら絵を描いていた。

やはり僕には剣よりこっちの方が性にあってる。
描きあげた絵が思いの外、良い出来で思わず頬が緩んでしまう。

「また稽古をさぼって絵など描きおって…」「あっ」
キャンパスを後ろから取りあげられて振り向くと
凛々しい少女が立っていた。
こいつは多くの名将軍を輩出している名門ウィンチェスター家の娘
女ながらに神速の剣を使いこなし、
いまや見習い騎士の間でもトップクラスの成績をおさめている。
「今日という今日は軟弱な貴様に騎士道精神を叩き込んでやる!剣を持て!」
彼女は練習用の竹剣を投げて寄越すと、
自身も一回り細い竹剣を構えた。
やれやれと肩をすくめながら、僕も剣を構えた。
こいつが僕を目の仇にするようになったのは
僕らここに来て間もない時に開かれた剣術大会からだ
あの時は妹が病気にかかっていてお金が必要で
僕は無我夢中で戦っていたら
知らぬ間に勝ち上がり、決勝でも彼女を一瞬で倒し
新人戦とはいえ見事に優勝し賞金と
図らずも10代最強の名声という余計なものまで手にしてしまった。
彼女にしてみれば僕は始めて負けた同年代の相手であり
名門家の名を傷付けた平民出身の騎士ということだろう。
それ以来、彼女は必要以上に僕につっかかってきてはなにかと勝負を挑む。


「ゆくぞ!」
言うが早いか彼女は素早く太刀を払った。
相変わらず速い。
練習用の竹剣とはいえまともにくらったらタダではすまない。
僕は彼女の剣を捌き、いなすと間合いをとった。
さて、どうしたものか…
やはり女相手だとどうも攻撃できない。
何かいい手はないかと思案していると
遠くからの視線に気付いた。
窓辺から王女様が僕を見てる。
その刹那、僕の鼓動は跳ね、顔は熱くなり

「隙あり!」

意識が飛んだ。
「98!・・・99!・・・100!ふぅっ・・・。」
日課の素振りを終え、大きく息をついて辺りを見回してみる。
他のみんなはまだそれぞれの稽古を続けていたが、
俺は一足先に木陰で休憩する事にした。

芝生にごろりと寝転び、空を見上げる。
木々の隙間から射し込む、やわらかな午後の日差しが心地好かった。
そのままうとうととし始めていた時、

「今日という今日は軟弱な貴様に騎士道精神を叩き込んでやる!剣を持て!」

少し離れたところからそんな怒声が聞こえてきたものだから、
俺の眠気はすっかり吹き飛んでしまった。
「?・・な、なんだ?」
声がした方に顔を向けると、そこには見覚えのある男女の顔があった。
何やら凄い剣幕で捲し立てている女子の方は確かあの名門、ウィンチェスター家の令嬢だ。
名前は・・ええと、なんていったっけ?昔から女子とはとんと縁が無かったものだから、
どうにも女子の名前を覚えるのは苦手だ。

あっちの男の方は・・・そうそう、ここに来て始めて開かれた剣術大会で優勝した奴だ。
そのくせ普段は剣の稽古もせずに絵ばっか描いてる変わり者。
あれで最強なんて言われてるんだから嫌になる。(因みに俺は二回戦であっさり負けた)
名前は・・・こっちも思い出せない・・・おかしいな、寝ぼけてる?
などと考えている内に二人はいつの間にか組み打ちを始めていた。

片や瞬きも出来ないほどの連続攻撃を浴びせる女子。
片やその攻撃をのらりくらりと器用にかわす男。
(・・・レベル高ぇなぁ。)その様子をうんざり半分、感心半分で見つめる俺。
と、その時、男の動きが一瞬止まった。何かに気を取られたように見えた気がした。
「あ。」
次の瞬間、女子の振り下ろした一撃が男の頭にまともに入った。
受身も取らずにどさりと崩れ落ちる男。
おいおい・・・いくら刃引きしてあるとはいえ、今のはちょっと・・・。
ぴくりとも動かない男を見て、流石に女子の方も大慌てで
「お、おい!コラ、しっかりしろ!」と男の体をガクガク揺さぶる。
(あぁ、こんな時はあまり動かさない方が・・・。)
俺はどうしたものかと考え、このままもう少し様子を見守る事にした。
すると・・・
俺は医務室で目を覚ました。
目の前では心配そうに見つめる彼女の顔。
彼女は慌てて俺から飛び退き、医務室の出口へ駆けていった
が、動揺して足がもつれ派手に転んだ。
「大丈夫?」
僕は彼女に声をかけた。
「き、貴様に心配される筋合いはない!」
彼女は肩をビクリと震わせ振り向くと涙目でこたえた。
「あ、ごめん。その、ありがとね」
「何がだ?」
「気絶してる間、看ててくれて」
「なっ…」
「それに君がここまで運んでくれたんだよね?ぜぇぜぇ言いながらさ」
「そんなわけなかろう!
私はただ…そう、額を怪我したからここに寄っただけだ」
と、今さっき目の前で転んで出来たこぶをこれ見よがしに指差した。
「じゃあ、そういうことにしておくよ」
彼女がうろたえる様子がおかしくて笑いながら答えた。
「わ、笑うな!」
朱くなった頬を膨らませて彼女は抗議する。
こうして見ると彼女はまだまだあどけなさが残りずいぶんと可愛い女の子だな
少しの間、彼女に見とれてしまった。
「じ、じろじろ見るな…」
彼女は恥ずかしそうにうつむいた。
「あ、ご、ごめん」

気まずい沈黙

暫くして彼女が珍しく微笑んだ。
でもその笑顔がやけに辛そうで胸がざわつく。
「良かったな…おめでとう」
「え?」
言葉とは正反対の悲しい響きを残し
彼女は何かを吹っ切るように走り去って行った。


その翌日
教官から彼女は一ヶ月の謹慎処分を受けたことを知る。
何やら王女が直々に告訴し追放処分を宣告されたそうだ。
教官の嘆願で追放は免れたが、それでも彼女の受けた心の傷は測り知れない。
処分の理由は同僚の誰にも知らされず、様々な憶測や中傷が飛び交ったが
どれも僕には信じられず、教官に真相を問いただしたが
「お前には言えない」と切り捨てられた。

そして稽古にも絵にも身が入らず、ぼんやりと過ごしていた俺は
王女のもとへ参上するようにとの命が下った