男のごつごつした手が紗夜の細い首を絞めあげる
「やめろ!その手を放せ!」
しこたま殴られ力の入らない体で精一杯の金切り声をあげる。
「お…にいちゃ…たすけ…」
妹の紗夜が苦しそうに呟き、そして…


「ひあっ」
俺は突然のくすぐり攻撃で目を覚ました。
「おっはよぅ!起きた?」
麻夜姉が俺に馬乗りになりながらにこにこと微笑む。
「お、起きた。起きたからどいて…重い…」
「重い?失礼ねぇ〜。このスタイル抜群のお姉様のどこが重いって?」
言いながら俺の頬をぐりぐり引っ張り回す。
この人は俺の従姉でいつも俺にこうやってベタなちょっかいを出してくる。
「あ、こんなことしてる場合じゃないや。遅刻しちゃうから早く起きなさい」
言うやいなや、たたたっと軽快な足音を残して麻夜姉は部屋から出ていった。
取り残された俺も、もそもそと着替えると簡単に身支度を整え居間に降りた。

居間に降りると既に俺以外のみんなは朝食を食べ始めていた。
朝から元気な麻夜姉とおっとりした叔母の葉子さんと
低血圧でぼーっとしながら目玉焼きを箸でつつきまわしてる従妹の結衣。
「おい、ぼーっとしてると黄身が制服につくぞ」
「んん…?」
眠そうな眼で俺を見る結衣。
「言われなくてもわかってる」
結衣がぶっきらぼうに答える。
どうも俺はこの家でこの子にだけ良く思われてないようだ。
「あらあら朝から二人とも仲がいいわね」
一瞬にして気まずくなった俺達を見かねてか葉子さんがちゃちゃを入れる。
「「どこが!?」」
俺と結衣の声がハモったのを見て葉子さんはくすくすと笑う。
「ごちそうさま!」
結衣はバンっと箸をおいて席を立ってしまった。
去り際、少し顔が紅いように見えたのは怒りのせいだろう。
「じゃあ、さっさと支度して学校行くよ」
やれやれと言った様子で麻夜姉が言う。
いつもの日常。いつもの朝の風景。
けれど、俺は春の始まりとともに少しずつ変化の足音を感じていた。