しまむら ◆uBMOCQkEHY
「ほらそれはこっち!ああっそれはあっちだって言ってるでしょ!?アンタ何聞いてるのよ!?」
「う、うるせー。お前もそこで威張ってるヒマがあったらちっとは手伝え!」
「なによ?アンタ?これが見えないわけ?いいのよこれ皆にばらしても?」
そう言うと彼女。一之瀬ユカは小さな電話用のテープを荷物で両手が塞がっている俺のまえにちらつかせる。
俺はいま訳あって彼女の委員会の手伝いをしている。もとい手伝わされている。
環境委員会などといういわば用務員のような校庭の草むしりやらの用具の片付けなどの雑務係をやらされている。
そもそも俺がなんでこんなことをしているかというと。
「お姉ちゃんお疲れ様。あっ、罪藤(さいとう)さんもこんにちは」
いつみても可愛いぜ。さすがユキちゃんだぜ。といいたいところだがこんな無様姿は見られたくないぜ。
少し話がずれてしまったが俺はこの前このマイ・スイート・ハート一之瀬ユキちゃんに電話で告白した。
そう確かに俺は彼女に告白したはずだった。でも俺が告白した相手はなんと彼女の姉である一之瀬ユカだった。
性格は全く違うのにこの姉妹は双子ゆえ身長・容姿と声がとんでもなくそっくりなのだ。
違うところといったら姉のユカはセミロング。妹のユキちゃんは可愛らしいショートカットってことぐらいだけど。
それにしても俺は告白した後、姉のユカが電話越しで冷ややかなにつっこまれるまで全く気づかずにいたのだった。
今もその時の極度の緊張でそこまで頭が回らなかった自分自身があまりに情けなくてならない。
というわけで俺はこの時の告白をユカの奴に録音されていいなりになっている。
「はいこれお姉ちゃんに。それとこれは罪藤さんに。」
優しいユキちゃんは一息入れていた俺に飲み物を買ってきてくれた。なんか癒される。つい顔がニヤける。
「あ、ありがとうユキちゃん。やっぱユキちゃんだけは昔から優しいな」
無言で後ろから蹴りが飛んでくる。
「ユキ?だめよ?こんな馬鹿にジュースなんてもったいないから。こいつはそこらの水道水で充分なんだから」
「お、お姉ちゃん!だめだよ。せっかく罪藤さんが手伝ってくれてるだから親切にしなくちゃ」
というかなんでこの姉妹はこんなに差があるんだ?昔からそうだったな。見た目はそっくりのくせに。
姉のユカはどっちかというと男勝りで妹のプリンセスユキちゃんは大人しくていつも可愛かったな。
「それじゃお姉ちゃん私部活に戻るから。罪藤さん姉が無理言ってごめんなさいね」
少し申し訳なさそうな表情が俺の心をがっちり捉えた。やっぱり君は最高だ。俺はいつまでも彼女に手を振り続けた。
「コラ!エロ駄馬!いつまで休んでるのよ?さっさと片付けなさいよ」
「だれがエロ駄馬だ!お前も少しはユキちゃんを見習え!」
「アンタまだ自分の立場ってもんがわかってないみたいね?さてこれはどうしようかしら?」
「くっ。わ、わかった。わかったからそのテープ絶対誰にも聞かせるな…聞かせないでください」
それからも俺は事あるごとに姉のユカに手伝いをさせられ続けた。
ユカの使いっぱしりは徐々にエスカレートしていき、ついには学校のみならず外にも及ぶことにもなった。
「なんで俺の日曜日をお前のために割かなくちゃいかんのだ」
「どうせもてないアンタのためよ?こうして私が変わりに付き合ってあげてるのよ。ありがたいと思いなさいよ?」
「余計なお世話だしちっともうれしくない。はは〜ん?さては妹の方に先に彼氏ができるのがくやしいんだろ?」
「そ、そんなわけないでしょ!アンタは人も気持ちも知らないで…どうしてコイツときたらユキ、ユキって」
「あん?なんか言ったか?それよりどこ行くんだよ?」
「わかってるわよ!!もうっ!なんでアンタは。いいから早く行くわよ!!」
何を怒ってるかわからんがちょっといい気味だったりする。
あーそれにしてもこれがユキちゃんとだったらな。ユキちゃん今頃なにしてんのかな?
「ア、アンタさあ。そ、その映画観ようと思うんだけど。どう?」
「おごりならいいぜ。もちろんユカのな」
「いいわよわ。じゃ行くわよ。」
「お、おい何マジになってんだよ?いいよ自分の分ぐらい自分でだすよ。何ムキになってるんだよ」
どうもユカの様子がおかしい。映画館に入ってからというもの常に周りを見渡してはキョロキョロと何かを
探しているみたいだった。そもそも今日の呼び出しもどこか強引だった。
俺はかったるいからパスと何度も言ったのにユカの奴はなかなか折れずほとんど脅迫されて呼び出された。
まぁ脅迫まがいの行為は今に始まったことじゃないがそれにしてもやっぱり変だ。
映画が始まってもろくに見ようともしない。また時々客席を見渡している。一体ユカの奴どうしたのだろうか?
「な、なぁユカ?おまえさっきから何やってんだよ?」
「べ、別に私は何にも」
「別にじゃないだろ。全く。もう映画終わっちまうぞ。何でこんなとこ来たんだよ?」
ユカは何も答えなかった。ただ映画が終わると足早に映画館の入り口に向かっていった。
「ユカ。お前一体今日は何がしたいわけ?映画終わったんだし、さっさと帰ろうぜ?」
「あっ!!おね−ちゃん!!罪藤さーん!!」
おおっ!この声はラブリーユキちゃんの声!そうかユカの奴なんだかんだ言っても俺とユキちゃんのこと・・・
「ねえっ!!ちょっと待ってよ!ねえ罪藤!!」
俺は振り返ることなくどんどん先に歩いていく。ユカの声なんて聞きたくもなかった
「アンタ待ちなさいって言ってるでしょ!!」
息を切らしながら俺の前にユカが回りこんで必死に俺の腕を掴む。
「なんだよお前、くそっ!!お前全部知ってて今日映画館に連れてきたんだろ!」
「そ、それは。だってそれはアンタがいつまでもユキ、ユキっていってるから」
「だからってあれは酷くないか!普通に口で言えばいいことだろ!?」
「じゃ、じゃあアンタはそう言ったら信じたわけ!?ユキに、ユキには彼氏がいるって言ったら信じた!?」
「それは…くそッ!いつから知ってたんだよ。ユキちゃんに彼氏がいるってこと」
「ずっと前から。アンタが告白するずっと前から。それにこれはアンタのためを思って…」
俺は今までのことがだんだん腹立たしくなってきた。こいつは人の気持ちを知ってたくせに電話まで録音して
挙句、俺とユキちゃんの彼氏を鉢合わせさせて。そのくせ俺のためだと?ふざけるな!
「ははっ。ユカ面白かったかよ?俺が振られるところが見れて面白かったかよ!?えっ!?」
「そ、そんなつもりじゃない。た、ただ私は」
「そんなつもりじゃない!?ふざけんなよ!だったらなんで!お前の態度からそんなこと信じられるかよ!」
「わ、私はただアンタに」
「言い訳ならもう聞きたくねーよ!! 二度と俺に話し掛けるな!!いいなその面も二度と見せるな!!」
俺は乱暴にユカの腕を振り払うと後ろから聞こえるユカの声を無視してその場から去った。
それから俺とユカは以前のような関係は全く無くなった。ユカも俺も一言も口を聞かなくなっていた。
でも後になってユカがどうしてあんなことをしたのか気になってしかたなかった。
頭が冷えて冷静になるたび、たんなる悪ふざけには思えなかった。ユカは一体何を考えていたんだろうか?
いつしかユカのことばかり考える日々が続いたある日の夜、俺の家に一之瀬宅から電話がかかってきた。
「も、もしもし。あ、あの罪藤さんのお宅ですか?」
「ユ、ユキちゃん!?どうしたの?こんな時間に」
「い、いまから会えませんか?どうしても、そ、その!大事な話があるんです!」
「大事な話って?ど、どうしたのユキちゃん?電話じゃダメなの?」
「が、学校の近く公園で待ってますから!それじゃ!」
俺は妙な違和感を覚えたが、こんな時間に一人で公園にユキちゃんを待たせるわけにはいかないと急いで外に出た。
誰もいない公園に一人ぽつんと座るいつものショートカットのユキちゃんの姿があった。
「ごめん待ったゆきちゃん?ゆきちゃん?どうしたの?なんか暗いよ?」
「…ごめん罪藤。ユキじゃないんだ」
よく見ると髪形こそ同じだが顔つきはユカ本人のものだった。
「…なんだよ。こんな髪まで切ってまた俺をからかいにきたのかよ」
「これ返そうと思って。ごめんね罪藤。私罪藤のこと傷つけて」
俺は今にも落としそうなほど震えながらテープを差し出す彼女からゆっくりとそれを受け取った。
「ユカおまえなんでそんな髪型にしたんだよ。会うだけなら声似てるんだからそんなことする必要ないだろ」
まだ小刻みに震えるユカの姿に俺は今までしてきた事に心が痛んだ。
「そ、そうだよね。アンタに会うだけなら声だけで充分だよね」
うつむいたまま喋るユカはあまりにも弱々しく俺は見ていることができなかった。
「ユカ。俺もう怒ってないから。考えてみれば俺が勝手に浮かれてただけだったしな。 …じゃあな」
「待ちなさいよ。またそうやって勝手にどっかに行かないでよ!!」
帰ろうとする俺の腕をユカは力ずくで引っ張る。涙を溜めた目で俺の顔を睨むように見上げた。
「アンタってホントずるいよ。自分のことばっかり言って。何様のつもりよ!?」
「アンタが誰かのことを想っているとき他の誰かがアンタの事想っていることだってあるんだから!!」
ユカは突然俺にしがみつくとせきを切ったようにまくしたてた。
「私だってずっとアンタのこと好きだった。小さい頃からずっと。でもアンタはユキのことが」
「だから、だからユキに彼氏ができた時アンタには傷ついて欲しくなかったの!」
「私はユキの代わりでもいいからアンタに私のことを見て欲しかった!」
「アンタをつなぎとめるにはあんな風にするしか私にはなかった。アンタのそばに少しでも長くいたかったから!」
ユカはそう言いきると小さな肩を震わせてずっとしゃくりあげていた。
俺はそんなユカの気持ちがたまらなく守りたくなった。俺は自分勝手だと思ったがそっとユカを抱きしめた。
「なによ。同情ならいいわよ!!馬鹿みたい…なんで私!こんな、こんな奴のこと好きなっちゃたんだろう!?」
「ねえ教えてよ!どうしたらユキみたいになれるの!どうしたらアンタに振り向いてもらえるのよ!!」
「髪型だって同じでしょ!?話し方だってそっくりにできたでしょ!?ねえあとは、あとはどうすればいいのよ…」
ユカは俺に必死に抱きつきながら俺を見上げる。涙でくしゃくしゃな顔が俺の心をぎゅっと締め付ける。
「罪藤…偽者でいいから。ユキの偽者でいいから。あの時みたいに告白して…そしたら私もう罪藤のこと忘れるから」
ユカは一度顔を離すと俺の胸に横顔を押し付けその言葉を待ちながらじっと目を閉じている。
俺の体にユカの鼓動がかすかにそれでも確実に伝わってくる。俺はユカを抱きしめたまま呟くように口を開いた。
「ユカ…俺は勝手かも知れしれないけど。それでも俺は一之瀬ユカが今は好きだ。」
「偽者とか言うなよ。ユカはユカでいいよ。いつものユカで俺はいい。俺のせいで髪の毛切らせちまってごめんな…」
「いいの?私ユキみたいに優しくないよ?すぐ怒るよ?ぜんぜんユキみたいに可愛くないよ?」
俺は答えなかった。ただユカの目をじっと見つめていた。
どちらからともなく自然と顔と顔が近づく。お互いの唇の先に温かな温もりが伝わり二人を包んだ。
-fin-