いつからだろう 自分の気持ちを正直に言えなくなったのは
いつからだろう あいつのことを幼馴染みではなく1人の男として意識したのは
いつからだろう 言えなかった気持ちが心の底にヘドロのようにたまりだしたのは
あいつー宮下晶とは私ー加藤結衣は長い付き合いだ。幼稚園からだから・・・もう10年以上になる
親同士が親しくなったこともあって私たちはたびたびお互いの家に遊びに行った
当然地元が同じだから同じ小学校、中学校に行く。幼いころは中のいい「友達」だったと思う。
その関係が変わったのは小学校5〜6年からだと思う。小学校のときはそれほど意識しなかったが中学校に入ってそのことははっきりと認識するようになった。
私はあいつが好きだということを。
そしていつしかあいつのことを「幼馴染みの宮下晶」ではなく「かっこいい男子宮下晶」として認識するようになった。
今でもかあいつとはメールするような仲だ。でもあいつはきっと幼馴染みとしか見てない。なんとなくそれがわかる。
はっきり言って告白すれば状況は動くだろう。だが私としては振られてあいつとの関係がまずくなるのもすごい嫌なのだ。嫌というか怖い。晶と話も、メールも、遊ぶことも、出来なくなる。そんなことは嫌だ。
こうして何も踏み出せないまま2年と2ヶ月がたった。高校になってもあいかわらず学校は一緒だ。分かれるのが怖いから
「ねえすごいこと聞いちゃった!」
昼休みいなかったかと思うと5時限ぎりぎりになって友達が息せき切って教室に入ってきて私の机に来て言った。
「絶対秘密にしてよ。結衣だから言うんだからね」
「何?」
「実は・・・宮下君のことを橘さんが好きなんだってーーー!!!」
「!!!!」
まったく神様がいるなら今すぐ行っていい加減にしろと怒鳴ってやりたい。
橘といえばこの学年で1番美人じゃないかといわれている橘優の他にありえない。
女子の私が見てもかわいいと思うのだから男子にしてみれば相当なものだろう
しかしこれで私もおたおたするわけには行かなくなってしまった
橘が告白したりでもすればもうどうしようもなくなる
行動に出ざるを得なくなってしまったわけだ。
「幼馴染みとしてどう思う?結衣」
「ん・・・・よかったんじゃない?橘さんかわいいし。」
「そうだよねえ。橘さんかわいいもんね〜」
そうなのだ。幼馴染みとしては祝福したい。だが片思いの人間にすれば途方にくれているのだ。まるでピストル1個で戦車に挑むみたいで・・・
宮下が学校に行く道を歩いていると前に加藤が歩いていた。
これが小学生のころだったら後ろから走っていってかばんをたたきながら「よう!!」とか行ってたとこだろう。
だが中学生に入ったころから声をかけにくくなった。加藤がだんだん大人っぽくなるにつれ昔のような感じで話せなくなった。話してても時々見せるちょっとしたしぐさにこっちがドキドキしてしまう。
じゃあ好きなのか・・・と言われると自分でもよくわからない。でも高校に入ったあたりから結衣と話してないな・・・。そんなことを考えた晶は結衣に追いつくように足を速めていった。
「おす!」いきなりそう話しかけられて結衣は心臓が止まるかと思った。
「な、何?いきなり後ろから来ないでよ。」
「何って・・・たまにはお前と登校してみようと思ってな」
「・・・あ・・そう」
「なんだお前?今日変だぞ」
「え?そ、そんなこと無いよ。」
「そうか・・?まあいいか」
「・・・・・・晶」
「ん?」
「えっと・・・・その・・・・」
「なに?」(やっぱおかしい。いつもの結衣らしくない)
「・・・・バンドがんばってね!」
「・・・おう」
「・・・・・じゃ私ちょっと用があるから先行ってるね」
「おう、じゃあね」
結衣はそう言うと早足で学校に向かって行った。
(何やってんのよ、このいくじなし!!あともうちょっとで言えたのに!!!次は絶対言わなきゃ!!!「好き」って伝えなきゃ!!)
晶が学校に着くと靴箱の中に手紙が入っていた。
(いたずらか?)一瞬晶はいぶかしんだかとりあえず手にとって中を開いてみた。
中には「昼休みに屋上に来て下さい」ということが書いてあった。女文字で書いてあったのでいたずらではなさそうだった。悪戯ではないどころかラブレターかもしれない。そういう期待を胸に晶は階段を上がって自分の教室に入っていった。
晶はその時はそんなに期待していなかった。教室に入って仲間と1週間後のライブのことを話してるうちに頭の中から消えるともなく消えていった。
そのうちに昼休みになった。しかし俺には重要な役目が出来てしまった。
まず先生の机の上にあるプリントを全部教室に持ってこなきゃいけない。
しかも教師が休みで自習のせいか量がむちゃくちゃに多い。これをクラス委員の俺と橘で運ぶ。
クラス委員はなりたかった訳ではないが、何故か自主的になった橘の推薦でさせられてしまった。何の嫌がらせか知らないが、おかげで今俺は何束ものプリントを持って階段を上り下りしているのだ。
「・・・持ってあげようか?」
「・・いいですよ」
橘にプリントを持たせたりしたら「親衛隊」の面々に何されるかわかったもんじゃない。俺はプリントを教室の机の上に置くと、橘を振り返っていった。
「もうちょっと手伝えるかな」
「ええ、いいわよ」
それにしてもこうやって面と向かうと学年一の美人と言われる訳がわかる
肩辺りまで伸びた髪、パッチリとした目、小さい顔、そして全体的に華奢な体。
ぎゅっと抱きしめたくなるような女の子だ。
まあでも結いも負けてないかな・・・髪は短いけどすごく似合ってるし。などと考えて自分でその考えに赤面してしまった。
朝の会話のせいか俺もおかしくなってきたみたいだ。
「・・・・・・・?」
「ご、ごめん。さっさと終わらせようぜ。」
「大丈夫?」
「大丈夫だから。気にすんな」
そういうと俺はまた積み重なったプリントを持ち上げて教室へ向かいだした
俺がプリントの重さのあまり階段を呪っている時だった。橘が話しかけてきた
「ねえ・・宮下君さ」
「うん?」
「やっぱりモテるの?」
「・・・・そう見えるか?」
「そういう話よく聞くよ?」
「そんなんでもないぞ」
「告白されたことは?」
「2〜3回くらいなら」
「それってモテるんじゃないの?」
「そうなのかなあ・・・おまえはもっとモテるだろ。」
「う〜ん・・・・」
「いや、う〜ん、じゃないだろ。明らかにモテるだろ。つうか彼氏とかいるだろ」
「いないよ・・・。そういう宮下君は?」
「いないよ。それどころじゃないし。」
「好きな人は?」
そういわれて(何故か)真っ先に結衣の顔が浮かんだ
たぶん朝変な感じを受けたから印象に残っているのだろう
そう思って俺は自分の考えを打ち消した
「いないね」
「ふ〜ん・・・そうなんだ・・・」
「うん」
「・・・・・私じゃダメ?」
「は?・・・・・・・・・・・へ?」
「・・・・・・・・・嘘よ!!!こんな冗談に引っかかんないでよね!!」
「あ・・・そう。すまん引っかかったわ〜」
そういって二人とも笑い出した
冗談とはいえ告白されたらそりゃびっくりするよ
冷静に考えりゃ・・まあそりゃそうだわな、俺なんかを好きになるわけないわな・・・
悔しいけど。
そんなこんながあったせいで朝の手紙のことなんか頭から消え去っていった
晶が学校を出るときには空には夕暮れの気配が近づいていた。近くやるライブについて同級生と話しこんでいたらこんな時間になっていた。晶は歩きながらも今度のライブについて考えていた。
ふと顔を上げて前を見ると結衣が1人で歩いている。いつもだったらとっくに帰っている時間だ。
(何やってんだ?)晶は疑問に思って後ろから結衣に近づいた
「おす!珍しいなこんな時間まで学校にいたのか?」
「・・・・・・・・・」
「おい、どうしたんだ?」
「・・・・・・・・い」
「は?」
「うっさい!!あんたには関係ないでしょ!!」
「ちょ、せっかく心配してんのに・・・」
「心配なんて要らないわよ!いらない!いらないよ!!」
「・・・・・・」
「何であんたに心配してもらわなきゃいけないのよ!!あんたは自分のことを考えてなさい!!」
「・・・ちょっと・・」
「あんたなんかねえ・・・・・・あんた・・・なんか・・・・・大っ嫌いなんだから!!!」バチン!乾いた音が響く。
そういうと結衣は晶の頬を力いっぱい叩いた後、家に向かって走り去ってしまった。
晶はヒリヒリする頬に手をやりながら小さくなっていく結衣を見つめていた
「意味わかんねえ・・・・」晶はそう言って家路に着いた
結衣は家に帰ると自分のベッドに寝転んだ。今日のこと思うと胸が締め付けられるようだった。閉じた目から流れる涙が枕を濡らす。
(来てくれなかったってことは嫌いってことなのに・・・なんで癇癪なんて起こしちゃうんだろ。そりゃあんなこといきなりしたって来るわけないよね。)
その時結衣は新しい考えを閃いて目を開いた。(今日の晶の態度・・・普通だった。ちゃんと私の手紙読んだのかな・・・・もし、もし読んでなかったとしたら・・・・まだチャンスはあるよね)しかしすぐにその考えを打ち消した
(そんなわけ無いじゃん・・・もう私は振られたんだ・・・その上あんなにひどいことしちゃった・・・もう晶私と話してくれないかも・・・・・)そんなことが頭をめぐるたびに目から涙が次々流れてくる。
泣いたせいだろうか、意識が朦朧としてきた。
―――どうやら少し寝ていたようだ。結衣はベッドから起き上がると洗面所に向かった。まだ少し残る眠気を冷たい水で洗い流した。そして顔を拭きながら呟いた。「明日晶に謝ろう・・・・」。
同じ日の夜。晶が勉強道具を取り出そうとカバンを漁っているとクシャクシャになった手紙が出てきた。「なんだこれ?・・・・・」
今日学校に行ったらあった手紙。昼休み屋上に来てください――――それらのことが思い出された。「あ!やっべ!忘れてた!・・・・やべえな。どうしよ。すっかり忘れてた」こういうときはどう対処すればいいのだろうか・・・。晶は色々考えたあげく1つの結論に達した。
「女のことは女に相談したほうがいいはず。一番親しい女って言うと・・・結衣かな。よし明日結衣に相談しよう」
そういう結論に達して晶は勉強を開始した。
次の日の昼休み、結衣は食事を終えた晶の机に近づいた。晶の前の席の机に座ると切り出した。
「昨日はゴメン。晶を叩いたりしちゃって。ちょっとイライラしちゃってて・・・ほんとにゴメンね」
「ああ・・・・昨日のことか。別にいいよ。そんなに怒っちゃいないって」晶は物憂げに答えた
「それよりさ・・・相談したいことがあるんだ」
「何?」
「これさ・・・ラブレターだと思うんだけど」そういって晶は結衣のラブレターを取り出した。「昨日もらったんだけど・・・『昼休み屋上に来い』って書いてあったんだよね。で、昨日行くの忘れちゃったわけ。
どうすりゃいいかな。お前くらいしか相談するやついなくてさ。・・・・・・聞いてる?結衣、聞いてる?」
「え、あ、うん、えっとね・・・・」結いはあわてて視線を戻す
「今お前ぼうっとして聞いてなかっただろ。まったく・・・人の話しくらい聞けよ」
「ごめん。・・・・これほんとに忘れてたの?」
「ああ、お前クラス違うから知らないだろうけど昨日クラス委員でやることあってさ。そのせいで忘れてた」
「とりあえず・・・・・・私がこれ書いた人探してあげるよ。で、書いた人が見つかれば私がどうにかするから」
「おお、そうしてくれるか。やっぱ結衣がいると心強いなあ」
「任しといて!」そういって結衣は教室を飛び出しトイレへ向かった。
トイレに行くと結衣は洗面台の鏡に映る自分の顔を見つめた。突如なんだかわからない感情に満たされて涙ぐんだ。そして叫びたい衝動を抑えながら呟いた。「落ち着け、落ち着くのよ結衣・・・」そしてこれからどうすればいいかを考え始めた。
「宮下君、この問題わかる?」
「ああ、これはな・・・」
何でか知らないけど最近橘によく話しかけられる。橘は普段からいろんな人と仲良くしてはいるけど、今まであまり話しかけられなかったのに最近は休み時間になると話してるような気がする。おかげで周りからの視線が痛い・・・。
「ねえ、聞いてる?」
「ん、ああごめん。考え事してた」
「もう・・・ちゃんと教えてよ。宮下君ぐらいしかいないんだよ、こういうこと聞けるの」
「そうか・・・」こういうこと言われるのはやっぱり嬉しい。実際橘は学年の中でもずば抜けて可愛い。こうやって近くにいるだけでドキドキしてくる。
「ねえ、ここってさあ・・・」顔をくっつけるようにして橘が話しかけてくる。
そんな晶の状況に結衣は1人冷たい視線を投げていた。教室でみんなが見てる中自分の好きな男が他の女の子とイチャイチャしてる―――そんな状況が気に食わない。その不愉快な気持ちの中にはやっかみや嫉妬も含まれているのだが―。
しばらく二人を見ていた結衣は不意に立ち上がり晶のほうへ歩いていった。
「ねえ晶、ちょっといい?」
「ん、ああいいけど・・・」しぶしぶという様子で晶は立ち上がる。
「ちょっと・・・」そういって教室の外へ晶を連れて行く結衣。教室から出るとき、橘をちょっと睨んだ。橘の顔に嫌悪の色が浮かんだのを見ると、教室の外へ行った。
「あのさ・・・前頼まれてたラブレターのことなんだけど」
「ああ。見つかったのか?」
「ううん。色々捜したけど見つかんなかった」当たり前だ。結衣が出した本人なんだから。
「そうか・・・まあいいよ。ありがとな」そういって橘のところに戻って行く晶を見てなんだか結衣は寂しさを覚えて教室に入ろうとしていた足の向きを校庭のほうに方向転換した。
「今の子誰?」橘が晶に問いかける
「ん?今のは加藤結衣。俺の幼馴染みみたいなもんだ」
「ふ〜ん。何話してたの?」
「大したことじゃないよ」
「あのさ、今私こうやって教えてもらってるわけじゃん。それを邪魔してまで話すべきことだったのかな?」
「・・・どういうこと?」
「宮下君はどう思った?今の」
「別に・・・なんとも思わなかったけど」
「そう。私は・・・あんまり気分良くなかった。やっぱり教えてもらってるわけだし。そういうの失礼だと思うんだ」
「失礼か失礼じゃないかは立花が決めることじゃないだろ。俺が誰と話そうと俺の自由だと思うが?席外したのだって1分程度だし」
「そう・・・かもね」
「いや、そうだろ。それに教えているのは俺なんだし。俺のやることについてあんまり色々言われたくないね」
「わかったわよ」橘は教科書に視線を戻しながら言葉を投げた。
晶にしてみれば教えている側としては当然の権利だと思っているしそれについて相手が橘であろうと譲る気はなかった。
その後の会話はなんかギクシャクしたものになってしまって5分くらいで勉強をやめた。
晶にはよく解らない感触だけが残った。ただ、それは心地いいものではなかった。
校庭に出てきたらしい。サッカーをやっている男子生徒をぼうっと眺める。
「加藤さん?」いきなり声をかけられて結衣は飛び上がらんばかりになった
「うわあ!!お、大島君!?」目の前にいるのは同級生の大島だった
「ご、ごめん。びっくりさせちゃった?」
「ううん、ちょっと考え事してて・・・どうしたの?」
「あの・・・話があるんだ」
「何?」
「実は・・・」
「おい、マジでか!見に行こうぜ!どこでやってんだよ!?」
「知らねえよ!俺は今日告白するって聞いただけだから!」
教室で数人の男子が騒いでる。ちょうど暇になった晶は近寄ると話に加わった
「なあ、それ何の話?」
「実はさあ、大島がよ、今日告白するって言うんだよ!」
「マ、マジでか?誰にだ?」
「加藤だとよ」
「加藤に?」
「そうらしいんだ。おい、みんなで探しに行こうぜ!」テンションの上がった男たちは扉から飛び出していった。
2階の階段を下りたとき、1番先頭の男が叫んだ。
「大島!!!大丈夫か?どうだったんだ!?」
みんなが駆け寄って見ると大島は放心状態だった。嬉しくて放心状態・・・って訳ではなさそうだ
「大島・・・」
「・・・・・俺帰るわ」焦点の定まらぬ目で大島は呟いた。
「そうか・・・」気の毒すぎて誰も何も言えない。
ふらふらと去っていく大島を見て晶はいぶかしんだ。
(さっき大島が告白するって聞いたとき、なんか嫌な気持ちになった。大島がふられて帰ってきた姿を見たときホッとした。なんでだ?俺は別に結衣のことなんか・・・)
晶は釈然としない気持ちを抱えたまま教室に戻っていった。
明日買い物に付き合ってくんない?―――そんなメールが結衣から晶に送ったのは告白があってから3日後の夜だった。10時に結衣の家の前で。
そして今日10時を目前にして結衣は悩んでいた。どの服を着ればいいのか―――このことだった。
「これは・・・今の季節にはおかしいわよね・・・。これは派手すぎ。これはおしゃれじゃないし・・・。もう、なに着てけばいいのかなあ。わかんなくなってきたよ・・・」
「結衣ーーー晶君が待ってるわよーーー早く行きなさーーい」
「わかったーー、今行くーーー。・・・・・もうこれでいいや!」
「遅い。5分遅刻」
「5分ぐらい大目に見なさいよ!細かいわね」出てきた結衣は普段と同じで、シャツにデニムという簡素なやつだった。
「5分はでかいぞ。いろんなことが・・」
「わかったわかった。早く行こうよ」
「お前が遅れてきたんだろうが。偉そうに・・・」
「はいはい。行こ行こ」
晶の背中を押してムリヤリ歩かせる結衣。晶も歩き始める
「ええっと・・・・今日どこ行くの?」
「秋服を選ぶのに付いてきて欲しかったのよ」
「そんなの女同士で行けばいいだろうが」
「たまには男のシビアな目線も必要なのよ」
「そう・・・で、2時間ぐらい荷物持ちなわけか」
「そんなにかかんないから。せいぜい1時間だって」
「女ってせいぜい○時間とか言ってさらに1時間ぐらい付き合わせるよな」
「そんなことないって、大丈夫だから」
「まあ、俺も家にいても暇だしな・・たまにはいいだろ」
「そうだよ。暇なんでしょ?」
「早く終わるに越したことはないがな」
「・・・で早くも目標の1時間に到達したわけだが試着すらしないで2件回ったな」
「だって〜可愛い服ないんだも〜ん」
「それぐらい下調べしとけよ・・・・・・お前服買うのが目的じゃなくて買い物するのが目的だろ」
「まあ・・・半々くらいかな?」
「ハア・・・・いつになったら終わる?」
「次で終わりだから。大丈夫」
「何も大丈夫じゃねえよ・・・・」
重い体を引きずって次の店を目指す。(にしても結衣元気だなあ・・・。普段は俺のほうが体力あるのに・・。楽しいからか?)
「早くしなよ〜」
「今行くよ」
店に到着。早速結衣が服を選ぶ始める。疲れてイスに座り込む晶。すると結衣が晶を呼んだ。
「ねえ、試着するから。そこにいて〜」
「は〜い」カーテンの前で待つ晶。
「お待たせ〜これどうかな?」
出てきた結衣を見て晶の疲れは吹き飛んだ。
普段は履かないようなチェックのスカート。長かったがそれがまた似合っている。いつもとは違いすごく女っぽい。まさかこんなに変わるもんだとは・・・・
「久しぶりにスカート履いたけど・・・・・どう?」
「すげーいい。いつもと違って・・・いい」
「ホント?良かった〜いつもこんなの着ないからさ〜大丈夫かなーって思ってたけど」
「うん、普通に似合ってる」
「ありがと〜じゃあこれ買おうかな」
そういってそれともう何個か服を買って店を出た。
「ああ〜今日は充実した時間だったね〜」
「疲れた・・・どっかで休みたい」
「じゃあどっか寄る?」
店の近くにあった。カフェに二人で寄る。2人席を見つけて座る。
「ああ〜おいしい〜」
「さすがにのど渇いた・・・そして疲れた」
「は〜・・・しかし晶とこうやって休みの日遊ぶのも久しぶりだね」真実は結衣が誘わなかったってだけだが。
「そうだよな〜中学のころは良く遊んでたよな〜。まあ俺がバンド忙しいってのもあるんだがな」
「そうだよね・・・」
「あのさあ・・・・・お前大島に告白されたんだって?」
「ゴフッゴフッ・・・・なんで知ってるの?」
「聞いた話」
「まあ・・・・そうね」
「断ったんだ」
「まあ・・・・好きでもない人と付き合うのはね・・嫌だし」
「へえ・・・いるんだ。好きな人」
「まあね・・・」
「告白しないの?」
「う〜ん・・・・今はまだ・・かな」
「ふ〜ん」
「あんたはいるの?」
「う〜ん。熱烈に好きな人はいないかな」
「そう、橘さんとか可愛いと思うけど?」ここでいじわるなことを言う結衣。
「う〜ん。可愛い・・・確かにな。・・・なんだ?お前あいつと俺をくっつけたいのか?」
「そんな訳ないじゃない。あの子はあんたみたいなへタレじゃなくてもっといい男と付き合うべきなのよ」
「言ってることが滅茶苦茶だな・・・・まあでも、好きとは違うかな。なんか手の届かないところにいる感じ」
「ふ〜ん・・・・まあ可愛いもんね。ホントあんたにはもったいないよ」そう言って結衣はケラケラと楽しげに笑った。
その様子を見て晶は自分の心が和んでいくのを感じた。そして心の奥からなんか変な―――感じたことの無い気持ちが浮かんでくるのを感じた。でもそれは今の晶にはなんだかよくわからないものだった。そんな気持ちを抱えたまま晶は家路に着いた。
3日後。
「ねえ、ちょっと来てくれない?」
いつもとは違う感じの橘が昼休みが始まると晶に声をかけてきた。晶を校舎の裏の人気のないところへ連れて行く。橘は周りに人がいないのを確認するとこっちを見つめてきた
「その・・・宮下君」
「何?」
「付き合ってくんない?」
「・・・・・・・・・・・・はい?」突然のことで言葉が出ない
「だから・・・あなたのことが好きだから付き合ってっていってるの」
「・・・俺と?」まだ混乱しているようだ。
「そうよ」
「・・・待ってくれよ・・・・・。俺とお前であってそんなに時間経ってないだろ。まだ俺お前のことよく知らないしさ。もっともっと時間経ってからのほうが・・・」
なぜそんなことを言ってるのか自分でも良くわからない。昔の―――仲良くなり始めたころの晶なら即答していただろう。ただ前みたいに可愛いってだけでは付き合えない・・・・・・そう思った。晶の中で何かが変わった。何が?
「何で?何でダメなの?」
「だから・・・お前のことまだ良くわからないし・・・」
「・・・何?他に好きな人でもいるの?誰?」
「いや、だからそういう訳じゃ・・・」
そこまで言って晶は理解した。
(俺は結衣が好きなんだ。橘よりも、ずっと)
いつから?・・・わからない。でも昨日今日じゃない。心のどこかでいつでも思ってきた。今、それがわかった。気が付いた。
「・・・ごめんな。好きな人がいるんだ」
「・・・・」
「そういうことで、じゃ」
呆気にとられている橘を置いて一人教室へと戻る。
「さて・・・・どうすっかな」晶は呟く。
問いかけるまでも無く晶はやることを決めていた。
同じ日の夕暮れ。晶は教室にいた。
夕焼けが世界を赤く染める。木々の陰が教室まで延びていくつかの机を黒く塗りつぶしていた。晶は地のように赤い夕日を眺めていた。
誰かが教室に近づく音がして、晶が扉のほうを振り返ると結衣が教室に入ってきた。
「何?今日委員会があって忙しいんだけど・・・」
「ごめんな。すぐ終わるからさ」
夕日のせいで結衣の方向から晶の表情は読み取れない。でも声色は優しかった。いつもと違う晶に結衣は戸惑った。
「・・・・どうしたの?」
「・・・・あのさあ」
晶が口を開くと涼しい風が開け放たれた窓から流れ込んできた。結衣の髪が揺れる。
明日の天気予報は知らない。でも2人の明日はきっと明るいのだろう。
抱き合う二人を初秋の風が包み込んだ。
-fin-