★ in the"b"room?
★
「・・・・・・・さむ」
「そうか? ―――――オレはあったかいけど」
「そりゃそうだろな。・・・おまえ、いま何してると思ってんだよ」
「・・・・・・へえ。云うて欲しいん?」
「要らない。―――――――だから、早く抜け。終わってからまで構うんじゃねぇよ。迷惑だ」
いつもと変わりない、口調。そして、瞳。
束の間の狂気から――――正気へと醒めた視線が、平次を見上げる。
熱し易く、醒め易いとは彼の為にあるような形容詞だ。
いまも気怠い疲れとともに腕の中にありながら、低い声で感情を抑え彼を睨む。
ふるふると雪原の兎のように震える姿。
その表情や仕草は、可愛いを通り越しいっそ喰ってしまいたいほどに悩ましくもある。
「服部」
「・・・何?」
ふいに名前を呼ばれ、組み敷いたカラダを覗き込む。
笑い掛けてみても、不機嫌は相変わらず。
だから、文句を云う口を塞いでみたい衝動に駆られた。
顎を持ち上げて―――― 一途な瞳は、やがて閉じられる。
口づけを交わすと、でも声までは飲まれず触れた唇の狭間で新一がそっと呟く。
「・・・・・・それから、エアコンの電源。まじで寒い。そりゃ、おまえは好きなオレのカオ見
てりゃそれだけで満足かも知れねぇけど」
女優である母親から享け継いだ綺麗に整った相貌は、体力の限界を訴えていた。
SEXの続きも、肌寒さに震えるパーツも。
・・・・・もう、これ以上は無理なのだと熱に潤んだ瞳が告げていた。
――――――ここは、新一のBed-Roomだ。
エアコンの電源は落ち、使う意思のない掛け布団は冷たい床をただ気休めに覆っている。
彼の声。
そして視線はこんな時、細い体躯を疼かせる凶器にも掏り替わる。
「くどう」
「・・・・・・何だ。オレのお願い、聞いてくれねぇんだ・・・・・・?」
どのあたりが御願いだ、とも新一を見て思うが敢えて口にはせず耳元でその名を呼ぶ。
天邪鬼な新一が平次の前だけ命令口調になるのは、恥ずかしさの裏返し。
「・・・・・っ・・、それじゃ、」
「それじゃ? ・・・・・・・・何やねん」
「――――――――実力行使で行こうかと思って」
口の端を上げて笑う。
常夜灯の下、その視線に曝されていることを強く肌で感じながら、熱の過ぎ去った腕を
持ち上げ、平次の首の後ろへと軽く滑らせる。
瞬間、びくりと褐色の肌が震えた。
――――――ココは、平次の数少ない弱点。
にやり、新一が笑みを刻む。
そして。
ときおり爪先の愛撫も交えながら、耳裏にある古い疵の痕へ。
「・・っ・・・・、相変わらず、・・・・・・・・やらしい指遣い、やな・・・」
「誰かさんのご指導がよかった御陰で」
触れられる感触。次第に艶を帯びてゆく、呼吸。
「そら、光栄の至り・・・・。っと、それ以上やるとリモコン附けるどころじゃなくなるで? 今日
はもう止めるんやろ?」
言葉とともに、大きな掌が廻り込む。
荒い息遣いの中、悪びれるでもなく肩胛骨のあたりを這い出した整い過ぎの細い指先を、
骨張ったそれが掴み止めた。
「―――」
不満げな、視線。
けれど。新一にソノ気もないのにこれ以上の戯れに付き合っていたら、ただ行き場のない
自分の熱を持て余すだけ。
解っている。
思い通りにならず、抱く腕の中からチョコレート色の眸がキツク睨んでも。
本能を抑えることが先決だ。
しばらくのあいだ、じっと見詰め合う。
「だって、寒ぃんだよ」
「さっきからそればっかやな。――――――・・ちょお、冬だからこその名残とか楽しみたいとは
思わんのか?」
「何だよ・・・・・『寒い』ってコトバで雰囲気壊れるとでも云いたいのか?」
「別にそうは思わんけど」
「じゃあ、別にいいじゃねぇか。オレはもう醒めてるんだよ」
「けど、まあこんな状態で云うセリフではあらへんかもな。・・・・・迷惑なんやろ?」
「迷惑だ。―――――だから、早く離れろ」
きっぱりと新一は云い切った。
寝室の暖房はエアコンひとつだから、構い、構われることに没頭しているうちは電源オ
フが暗黙の了解だ。
そうでなければ、真冬にぬくもりを求め、互いに触れ合える楽しみが半減する。
口にしたことは、ないけれど。
寒さに弱い新一がベッドで抱かれながらも震える様も、平次は好きだ。
だから内証でたまに焦らしもするのだが、遣り過ぎるともう甘い雰囲気ドコロではなく
なる。
今日、いまこのときがいい反省材料だ。
「・・・・・おい。服部」
「え――痛、ちょ、くどっ・・・!」
掴まれた、細い腕。
それが、限界まできて。
早くしろ、と平次の甲をかりと掻いた。
行き着いてしまうと、新一に現実味が戻るのはあまりにも早い。
肢体と表情には艶めいた余韻をひきづりつつも、出てくる言葉は憎まれ口ばかりで。
体当たりの抵抗に、ただ苦笑を洩らすと平次は自分を睨む瞳の上にキスをした。
この関係は御互いに気持ちよくなければ、詰まらない。
流石に引っ張っておいて、繋がりに固執するのも馬鹿らしくなってくる。
「迷惑、ねぇ・・・・まあ、惜しいけど」
「・・・・・・っ・・・・・・・ん、」
――――――オトコ同士だし、それも仕方ないかな、と思いながら腰を浮かし中で脈打
っていた熱を取り出す。
今夜はもう充分なくらい、淫らで官能的な気分を堪能したから。
自分も満足したし、――――させたとばかり思っていた。
この、声を聴くまでは。
「・・・・」
「――――へ。な、何だよ?」
疼きを支配していた繋がりがなくなり、隣のシーツに肢体を預けるとばかり思っていた目
の前のオトコが、じっと新一に圧し掛かったまま動かない。
「工藤」
「ひゃ! ち、ちょっ、と・・・っ冷た・・・・・・・・・・なに、は、っと・・・り・・・!」
かと思ったら、徐に均整の取れた腕を延ばし、汗に塗れた茶褐色の髪に触れた。
新一を凝視してくる、黒い瞳。
頭皮に吸い付くように滑る掌の冷たさに、カラダを竦め瞳を閉じる。
「無意識なん? 工藤」
「は? ・・・・・・・・・そ、それよりエアコンのリモコンは・・・っ?!!」
「入れた」
「・・・・・へえ。ありがと」
素直に絡む細い髪をゆると梳きながら、最後に前髪を掻き揚げてやると新一が吐息する。
慌てて口にした疑問に、臆するでもなく顎を杓りエアコンの稼動を伝えると。途端、制止
する理由が見当たらなくなったのか、腕にある細い体躯が大人しくなった。
そのまま真摯な眼差しで相貌を覗き込み、ぬくもりを強請る。
「な、何」
「――――キス、」
困ったような、そんな途惑いを見せたのは最初だけで。
「・・・・・・・しようがねぇやつだな・・・・・・」
余韻の抜け切れない潤んだ瞳は、そのまま熱く。
仕方なさそうに新一が緩く顎を上げ、渇いた口唇で合図を送る。
平次のそれがぺろりと口角を舐め上げると、長い睫が小さく震え―――その中から綺麗
な双眸が彼をひたすらに見る。
「・・・・・・・ふ、・・・っん・・・・」
擽ったい。
だから、それを呼吸とともに拡散させるように。
新一は、薄い唇を僅かに開ける。
吸い寄せられるように触れた平次のソレが、角度を深さを変え攻めたててゆく。
「――――――っ、ん・・・、・・・・これで、満足した、か?」
こくり、喉から飲み下すおと。
掠れ上擦った声で、新一は手の甲で口許を拭い手頚を掴む平次を見上げた。
「・・・・・・御陰さんで」
「あ、そう。じゃあオレはシャワー浴びて寝るから。おまえ、タバコが何とか、って最中から
云ってただろ? 切らしてんなら買いに行けば、・・・って・・・・・おい」
大きな欠伸をひとつしてベッドを降りようとした新一が、眉を潜めた。
振り返って、腕の重さにまた眸を見開く。
・・・・・見れば。
腕から逃れようとした絹目を思わせる素肌に羽織ったシャツの裾を、浅黒い掌が
懸命に引いている。
夜布を引き忘れた窓から降り注ぐ、月の逆光。
「――――――――切らしてんのは工藤や。あんなんで足りる訳ないやろ?」
引き戻されたシーツの海。
まさぐられ月の匂いのする髪へ唇を埋めながら、耳元でそう囁かれた。
―――――――・・・だって、離れる直前にあんな淋しい顔をされたら。堪らない。
どれくらい、そうしていたのだろう。
やがて胸の中でくすりと笑う声がした。
いつまでも止まらない笑いに触れた肩口が震え、平次が躊躇う。
「工藤・・・?」
だが、恐る恐るエアコンの暖気に遊ぶ髪を撫でその表情を窺うと、白く靭やかな両腕がふ
いに首へと廻され、上機嫌の新一が笑む。
「・・・・・・・・仕方ねぇな。それじゃ面倒臭いし、それなりの手順飛ばすからバスへ連れてけ」
「風呂場で何やるかわかっとんのか、おまえ・・・・」
「ん? そうだな。―――――――まずは、あの星の数くらいのキスからはじめようぜ」
窓の外を指差したそこには、幾億万の星。
瞳を開けたまま目の前のくちびるに冷たく触れた綺麗な貌が、口端を上げて微笑った。
刹那に海の浮遊感に浮いた身体は、Bath-Roomへ。
Fin.
Million thanks
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『 in the bed-room / in the bath-room? 』