★ ハコニワ ノ フウケイ ★

+++++after story.Noah the ark.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中に、目が醒めた。

 

 

 

 凭れていたソファの裾からは、彼の細い腕が深い眠りとともに落ちている。

 気だるい疲れに、前髪を掻き揚げ。

ケータイの光を頼りに目を凝らし、窓の外を見れば。

 

其処は、降り頻る雪に覆われた世界。

 

 

 

 

 


「――――雪、降っとる」


 

 

 

 

 

 被っていた毛布を背後で眠る新一へと上掛け、その相貌を覗き込む。

 皺の多くなったシャツは、ご愛嬌だ。

 穏やかな寝顔に思わず腕を延ばすと、スプリングへ零れた髪がさらり褐色の指先に触れる。

 

 

「・・・冷た、」

 その指の感触に触発されたのか、冷えきった彼は、

けれどむずがるように眉根を寄せる。

平次に背を向け寝返りを打つと、裸足のクルブシがソファにある毛布から僅か覗いた。


しどけなく横たえられた、白い足指。

その先へそろり視線を動かせば。



 


 ―――――綺麗に整う指先に、情慾の痕がひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 






この部屋の中に、違和感を感じ室内を見廻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閉じられた、リビングの扉。

 消した、室内灯。

 机の上には、昨晩仕舞い忘れたホールケーキの函がひとつと、赤ワイン。

 オーブンで焼かれたピザのチーズの匂いは、クロスから微かばかり馨っている。

 

 

 

「――――」

 

 

 

 更に、先にはソファの向こうにしつらえられた瀟洒な暖炉。

 

 最後に視線を落とすと、闇のなかに自分の足先と、

 毛布に包まれて浅い息を吐く、白く細い肢体が仄か世界の端に浮かんでいる。

 彼とは似ても似つかないカラダのパーツは、愛おしさを越して、

いっそ骨まで喰らうことが出来たら、と思うのに。




「ふん。・・・アホらし」

 

 

 

 

 

 

  自嘲の笑みを口角に昇らせると、床に落ちていたタバコにライターを近付けた。

暗闇のなか、掌に囲われ揺るぐ炎。

一息深く吸い込んで、ふと心に留まっていた違和感の原因に思い当たる。

 

 

振り返ると、暖炉から火力が失われている。

 

 

 

「・・・・道理で」

 

 

 

 思わず、口をついて洩れ出でた。

 

 触れた肌が、冷たい筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










「――――工藤、起きれるか?」

 

「ん、・・・なに?」

「雪、降っとる。部屋行って、ちゃんとベッドで寝え。―――・・このままじゃ、風邪ひいてまう」

 

 

 

 

 頬を軽く叩き、耳元で優しく誘う。

慣れた声に覚束ない瞳で彼を見上げた新一は、そこにあったモノを視認すると―――途端、

 薄い唇に笑みを刻み、硬めの髪へ腕を延ばした。

 

 

 

 

 

 

「このままで、いい。――――おまえがいるし」

「せやかて、」

 

 

「っせぇよ。・・・・・たまには、オレの我儘くらい聞いてくれてもいいだろ?」

 

 

 

 

 

 

 思い切り顰めた眉。

 コトバと同時に、寄せられた視界が暗転した。

 

 

「ん、――――っなあ・・・・欲しくねぇの・・・・?」

「・・・くど、」

 



 唇の合間に囁く。


啄ばみから、上唇の縁をなぞるキスを仕掛けられる。

 細い腕は、だが抱いた彼を離そうとしない。

臥せた睫のなかに眠る黒瞳は、

 けれど眠りから醒めた刹那、目の前のオトコへ対する確固とした意思を持っていた。

 

 

 

 ジーザス=クライストの生誕祭を祝おうと云う気になったのか。

 白昼の月に、理性をそのひとときのみ奪われたのか。

 

 

 今日の彼は、とことん甘いらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――辛、」

「キツうて当然や。さっきまで飲んでたのん、グレシィのヴィンテージやで」

 

 

 

 

 

 名残惜しげにキスを交わし、唇が離れると漸く息を吐いて新一が笑む。

 暖炉の前に跪き、平次が薪をくべる。

 

 暖められてゆくそれにひそやかに呼吸を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くどう、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前を呼び後ろを振り返ると、肌から直接の暖を取り満足したのか、

 背後にいた毛並みのよい猫が、ソファの毛布に潜り込んでふたたびの眠りに就こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓の向こうは、白銀の世界。

 

 

 晴れたら、きっと函庭に出て嬉しそうに遊ぶのだろう。

 貰ったばかりの淡雪色をした手袋を嵌めて。

 

 

 

 

 

 

 End.

 ――――H.H.side.after Xmas./050413up.re-played.