The Twins,Star Shower

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えるか?」

「ん。双子座ゆうても、あんまり明るい星はないねんな」

「けど、冬の空にはちょうどいいぜ」

 

 

 

 

苦笑とともに、翳された細い手元。

凍るような空の下、鈍い青光が慎ましやかに彼と公園を包み込む。

 

 

 

 

 

「双子座の少し下にある、あれが土星」

「あぁ」

平次を振り返り、

イヤーウォーマのファーに手を掛けて笑む。

冬の新一は寒がりだ。

「・・・・・・だから、ほぼ隣に位置するオリオン座から見て、左上45°にあるのが放射点ってことになる」

「・・・暗くてよう見えへんねけど」

「服部」

「何や?」

 

 

「―――――オリオンの小銀河じゃねーんだからさ」

 

 

流星群、とは云っても、

決して、無数の星たちの集まりではないと云うことだ。

この真冬の夜に、ムリヤリこんな児童公園まで連れてこられた憾みも少なからず彼にはある。

けれどごねてみた処で、

この強気の天体観測者は、頬を衝く外気の冷たさに被ったダッフルの大きな襟の中から、

意味深長な瞳で平次を見上げる。

 

「―――」

 

目は口ほどにものを云う。

プラグを覆うファーに寒いのかと思い、到着後すぐ自販機から買って寄越した缶コーヒーは、

疾うに彼の掌の中で冷めていた。

 

 

 

 

「でもさ。服部」

「ん?」

答えると、応えるように頭上を星が流れる。

ふたご座の、流星群。

「おまえには、土星が見えてんだろ。等数の決して高くない惑星が見えてるってことは、視力の確かな証拠だぜ?」

「―――――工藤に褒められると、ウラがある気がするんはどうしてやろな」

「さあ」

「なあなあ、工藤」

「・・・本能、ってヤツじゃないのか?」

「・・・・・・・・これも、本人が涼しい顔していうんも困りモンやな」

 

 

「おまえの代わり」

 

 

 

 

嵌めたつもりで、いつも巧くかわされる。

つれない言葉を庇護するかのように、ふわり靴先から頤を通り過ぎた光の帯は、

空を見上げた、

新一の指先に淡い皮膜の炎を点している。

 

その様は、まるで夏の一夜のいのちの耀きだ。

綺麗で、儚く。

 

 

 

 

 

 

「――――――蛍みたいやな」

 

「え?」

「工藤の持っとる、ケータイの発光。明るくて、ちょお季節はずれの蛍飼うてる気分や」

「・・・・・これから見る光は、こんなモンじゃないけど」

手にしている、

ケータイの発光ダイオード。

淡い光を放つ美しさに瞳を落とした新一が、困惑したように電源のボタンを押した。

「これでいいだろ」

「勿体な、」

「――――何?」

「・・・いえ」

何でもございません、と口の中でもごもごしている傍から冷たい機体へ光の熱が吸収される。

 

 

 

 

 

 

「撮影終了」

 

 

 

 

 

 

やがて、無音の塊は、

新一のダッフルのポケットへ消えた。

 

 

*  *  *

 

 

「せやな。流れ星にはお願いすることいっぱいあるし」

「願い事?」

 

 

 

ぬくもりの消えたショート缶を、

両掌の中で弄ぶ。

促されて喉元へ無糖のコーヒーを流し込むと、

胸の何処かに痞えていた何かが苦味とともに取り払われてゆくのが分かった。

 

呟いた願い人は、満面の笑みだ。

 

 

 

 

 

「随分ロマンチストだな。何か願い事があるんなら、聞いてやるぜ」

「んー善意は嬉しいけど、ちょお工藤にはムリかも」

 

「いいから。――――云ってみろよ」

 

 

 

 

 

公園の冷え切った砂利の上に寝転がった平次の相貌を、

覆い被さるように覗き込む。

 

「・・・それじゃ。お言葉に甘えて」

 

克ち合った新一の瞳に少しだけイタズラな表情でそう答えると、

その両頬を引き寄せ、

唇の縁をなぞり、平次は啄ばむだけのキスをした。

 

 

引かれたダッフルからケータイが、ことり落ちる。

 

 

 

 

 

「『世界平和』」

「―――――協力くらいは、」

 

 

 

 

 

おまえが願うことが自分の願いだ、とはこの頭上に降り注ぐ星のカケラたちには聞かせられまい。

答えたあとで、

この約束は月日を要するものだと気付いて、腹を括った。

 

 

 

贅沢なエゴイズムだ。

せめて、自分とその周りが幸せであるのなら。

 

 

 

 

 

Fin.

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