「紙が主体の作品の保存額装について」

紫外線・酸・悪性ガスから版画などの作品を守る

保存額装では「作品の劣化は、あとに戻ることはできない」という認識が最も重要です。
一度紙焼けしたり、褪色したりしたものは元に戻すことができません。
またこのような作品の悪化は加重的に起こります。
この点が機械のように修理できるものとは異なります。
数百円や数千円のコストを惜しんで、取り返しの付かない危険を冒すことは愚かなことです。
保存科学者や修復に携わる人々の研究結果や経験を生かすのが、私たちプロフレーマーの役割でもあります。

マットは作品に有害な場合もある。

「再生紙などの不純物を含まず、バージンパルプで作られていること。」

25年くらい昔、マットは殆ど品質の 悪いものでした。この頃に額装されたもののマットを作品と離したときに、作品の所々に黄色い点々が見られるのは、悪 質なマットを使用した悲しい結果です。マットは100%バージンファイバーで作られ、金属片.ワックス類.可塑剤.残留漂白剤過酸化水素などの不純物を一切ふくんでいてはなりません。また低品質のマットには物理的な影響もあります。たとえば表面紙の紙の色が染料で染められていると、色が褐色しやすいだけでなく、湿気によって滲んでそれが作品に付きやすくなります。表面は布のマットは保存額装に使われない一因です。表面紙は、顔料を使っていなければなりません。また、ボードのひずみやそりを防ぐために、水分は4〜7%含まれるのが望ましい。

中性のマットが保存額装に使えるわけではない。

「ラグボードも精製木材パルプもアルファ・セルローズで作られたボードであること」
phが7の中性マットで有れば、作品保存の額装に使えるという、誤解が広く存在しています。中性であっても、木材パルプに含まれるリグニンや不純物をふくんだままのボードは急激に、悪化してゆき、酸によって作品にダメージを与えたり色を失わせたりします。少なくとも一定期間保存する作品なら、マットはリグニンを取り除いたセルローズから作られたマットボードしか使えません。一方、最初からリグニンを含まないのがラグペーパーです。高級な水彩紙や版画用紙の多くはラグペーパーであることは知られています。しかし、材料・製造法ともにコストが高くどうしても高価格になります。
アルファ・セルローズならコットンラグも木材パルプも強度・耐久性は同じ
「リグニンや不純物を含まないこと。」
木も草も植物はセルローズとヘミセルローズが主たる構成物質です。木と草の違いは木には、リグニンがあり草にはないと言うことです。リグニンは木の中でセルローズとヘミセルローズの間にあって幹を太らせたり、キノコのような微生物が木に付くのを防いでいます。木にとっては無くてはならないリグニンは、紙にとってはやっかいな不要物です。リグニンは酸を発生させ、これによって紙自体や接触している物質を劣化させ、破壊するからです。綿には元々リグニンは含まれていませんが、もう一つの紙の原材料パルプにはこれが含まれていてます。また、木材パルプは19世紀以来硫黄酸で処理され、これが残留物として紙に残ることになります。しかし現在では、生産技術の発展で、木材パルプを砕き樹脂分からセルローズのみを取り出すことが可能になっています。このような純粋な繊維を、木材パルプやラグのパルプから取り出した物をアルファ・セルローズと呼びます。木材パルプからこのようにして作られた紙はドイツのハーネミューレ社などの最高級美術用紙として知られ、マットボードとしては、ベンブリッジのアルファマットとして知られています。ラグ・ペーパーも不純物などを除いた純粋な繊維はアルファ・セルローズで、保存科学者は、ラグも精製木材パルプもアルファ・セルローズに関しては、紙の強度と耐久性について同一とみなしています。作品の保存や保護のために使えるボードはコットンラグであれ精製木材パルプであれ100%に近い未使用の高品質セルローズ、アルファ・セルローズ繊維で作られていなければなりません。
アルカリ緩衝剤はマットボードの必需品
「中性またはアルカリ性のサイジング剤(染め込防止)が使われ、レジンやミョウバンが使われていないこと」
1950〜60年代ある種の紙が永い期間を経ても良い状態にあるのは何故か、をウイリアム・バローが研究し、その原因は紙作りに使われた石灰質の水にあると結論した。紙にまざった炭酸カルシュームが緩衝剤となってセルローズの加水分解を防いでいたわけである。その後国立議会図書館の購入する紙・ボード類の規定にアルカライン・バッファー(アルカリ緩衝剤)を含んでいること、と定められました。通常緩衝剤としては炭酸カルシュームか炭酸マグネシュームが使われ重量にしてボードの2〜5%添加されます。これにより紙自体の自然劣化、酸性のインキ、その他ボードに接触する酸性成分の影響を防ぎます。
紫外線だけが褪色の主原因ではない
「アルカリ性の緩衝剤でphが8.5程度に処理されていること」
アルカリ緩衝剤は悪性ガスも中和するということが、それまで長い間保存科学者に信じられていましたが、1991年、アメリカの国立公文書館の研究で、アルカリ緩衝剤は悪性ガスに関しては役立たない、ということが明らかになりました。有害ガスはアルカリ緩衝剤を施したマットボードや保存箱を通過して作品に到達するというショッキングな事実が立証されました。これらのガス水分と合体すると、酸を生じ作品を害し、変色、シミ、等の原因ともなります。一方、最近のインクジェットや感熱昇華式などデジタル画像の増加にともない、その耐光性の評価が種々行われてきています。写真画像の耐光性の評価方法はANSI/NAPM IT9.9-1996規格で一定の規定がありますが、規定された方法でインクジェット画像の耐光性をテストして照度と照射時間の積を同じくしても、高照度で短時間と低照度で長時間では褐色程度が大きくずれてくることが2000年に報告されました。この現象は「相反則不軌」と呼ばれ、褐色については光照射による紫外線など光の影響だけでなく、空気中の汚染物質による影響も指摘されはじめました。その後、「相反則不軌の原因はガス褪色」「オゾンガスによる劣化は大きいが、SO2、NO2、による劣化はほとんど無い」などが報告されています。
活性炭やゼオライトがマットボードを進化させた。
「ゼオライトなどで悪性ガスへの対策がなされていること」
悪性ガスの対策としては活性炭やゼオライトが美術館・博物館で吸着シートや吸着フィルターなどで使用されています。活性炭は多孔性の構造と持たせるために高温のすチームで処理された炭素で、優れた吸着性を持つことで一般にも良く知られています。ゼオライトは最初に保存箱に使われ、パテントのマイクロチャンバー技術と呼ばれました。マットボードとしてはベンブリッジ社のアルファマット・アートケアに使われ、オゾンガスに対応できる唯一のマットボードとなっています。
ガラス・アクリル
ツヤのあるガラスが一般的に使われていますが、作品の保護とよりよく鑑賞させるという役割の二つの矛盾した目的を達成しなければなりません。ガラスは周囲の環境に対して安定的であることから、アクリルよりも額縁に適していると言えます。
アクリルの特徴 ガラスの特徴
よりよく鑑賞できること 温度・湿度の変化で大きく伸縮し、透過光を屈折させて作品の鑑賞を妨げる 伸縮はほとんど無く平面性も高い
静電気について 静電気を帯びやすくホコリが付着しやすい ほとんど無い
重さ ガラスより比重は、2分の1 重い
破損 割れにくく、強度は約15倍 簡単に割れて安全性に疑問がある
紫外線の透過 ガラスに比較して少ない 透過しやすい
大きさ 大きさ厚みともに自由に使える 2ミリ厚のガラスは91.4x81.4(通称 角13)と122.0x61.0mm(長13)が最大寸法です。
紫外線防止
紫外線が絵画などの作品に悪影響を及ぼし、紙の弱体化、色の劣化、光沢の低下などさまざまな害を及ぼします。美術館用のガラスは紫外線防護のガラスである方が望ましい。
作品を固定するためのテープについて
作品をマットに固定するときに注意しなければならないことは、酸を含まない接着剤を、無酸のフィルムなどに塗布しているテープが最適です。何年経っても接着力が落ちず、黄変が無く作品にしみ込みが無い物をお使い下さい。また一方で、一般事務などに使われているセロテープなどは、絶対に使ってはいけません。接着剤が作品にしみこんで変色させてしまって、取り返しの付かないことになるからです。作品の表面まで染み込んでしまって、簡単に変色させてしまいますので絶対に使わないでください。セロテープは初期接着力はありますが、半年くらいの経過で作品が落下してきてしまいます。
布などの作品を固定するために使う両面テープも、同様に酸を含まない接着剤を使っていて作品に染み込みのないものをおすすめします。