黄砂について
◎はじめに・黄砂とは
黄砂とは、中国北西部(黄土高原、ゴビ砂漠、タクラマカン砂漠など)で、黄色の砂塵が
強風に舞い上げられて空を覆い、偏西風に運ばれながら徐々に降下する現象である。
3〜5月に多く、中国北部や朝鮮半島では日本とは比較にならないほど深刻な被害を受けている。
日本では気象庁により、大陸性の土壌粒子によって視程が10km以下になる現象と定義されている。
◎各国での状況
@日本
日本で観測される黄砂は、他国ほど大きな被害はまず報告されない。一般に、大気汚染問題と認識される傾向にある。
@韓国
黄砂注意報や警報が発令されることがある。最もひどい時は「1〜2キロほどしか見通しもきかず、
呼吸ですら困難なほどであった」。一般に、健康被害・大気汚染問題と認識されている。
@中国
主に東部で観測される。発生地とされる砂漠に近い北京や天津では、たびたび
大規模な砂嵐に襲われており、ひどい時は視界が50m以下になり、死者が出ることもある。
間近にオリンピックが控えていることもあり、対策が急がれている。一般に、
気象災害と認識されている。
@その他
北朝鮮からの情報は少ないが、朝鮮中央通信は4/25に、「朝鮮は前例なく早く発生した黄砂で、
多くの被害を受けた」とし、「強い黄砂で日照量と太陽の放射率が顕著に落ち、
動植物の成長発育と自然環境、精密機械の稼動などで被害を受けた」と報じている。
また、衛星画像から判断すると、ロシアでも観測されている可能性が高い。
遠くで観測された例としては、ハワイやカリフォルニアなどがある。
◎黄砂による影響
○砂嵐による影響
中国では、猛烈な砂嵐により呼吸困難や暴風で死者が出る。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/world/20060422/20060422_003.shtml
○砂が積もることによる影響
・中国では、「まるで砂漠のようだ」と表現されるほど砂が降り積もる。
このため、直接的に農作物への被害があるほか、ビニールハウスの上に積もると遮光障害が起こる。
・せっかく洗った衣服が汚れる。
・氷雪や氷河上に落下し太陽光線を吸収することで、温暖化作用がある。
・土壌や海洋にミネラルを供給する働きがある。
○砂が舞い上がることによる影響(添付ファイル参照)
・視界が悪くなることで航空機の運行に支障をきたす。(欠航することもある)
・大気を覆うことで気象観測が妨害される。
・地上波放送などの電波が乱反射し、受信障害や異常伝播が起きる。
・褐色の雲を作ることで太陽光線をさえぎり、農作物の発育に悪影響を及ぼす。
・同様の理由で太陽からの熱放射をさえぎり、寒冷化作用がある。
・炭酸カルシウムを多く含むので、酸性雨を中和する。
○大気汚染物質を吸着することによる影響
・大気汚染物質が国境を越えて移動するのを助けている。
・酸性雨の原因物質であるNOxやSOxを運んでくることで、酸性雨を強める。
○呼吸器への影響
・鼻やのどに入り込み、咳、痰、くしゃみ、鼻水などを引き起こす。
・花粉症や気管支喘息などのアレルギー症状を悪化させる。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/science/20060429/20060429_003.shtml
◎黄砂増加の原因
古い書物にもその記録が残っているため、黄砂は昔から発生していたようである。
しかし近年発生数が増加の傾向にある。その背景には中国の砂漠化があり、過剰な放牧や
野放図な耕地拡大が原因に指摘されている。
また、今年特に黄砂が多い理由については、黄砂発生源とされる地域で、春先の気温が高く
雨が少なかったことで地面が乾燥したうえ、大陸で強い低気圧が頻発しているためとされる。
◎対策など
○長期的な対策
中国は国家林業局に黄砂対策室なるものを設けて黄砂防止に取り組んでいる。
黄砂源となる砂漠地帯を減らすため、地表の植生を増やすなどして積極的に
対策を講じており、結果として砂漠の拡大は抑えられつつあるらしい。
長期的な計画としては、2010年までに砂漠の拡大を食い止め、2020年には砂漠化した土地の
半分くらいを整備し、2050年には砂漠化したほとんどの土地を整備し、砂漠地区の生態を
効果的に保護する、としている。
そのためには、
@無闇な伐採や放牧、開墾を厳禁し、自然の植生を回復すること、
A対象地域の植生カバー率を増やすこと、
B国際的協力を強め、海外の資金と技術を導入して、ともに黄砂対策に取り組むこと、などを挙げている。
このうちBについては、黄砂源とされる砂漠のうちゴビ砂漠はモンゴルにあり、
中国だけの努力では黄砂を完全に防止することはできないことや、黄砂が国境なき
環境問題であることが関係している。
以上のことを実現するための問題点として、
@砂漠面積は国土面積の18%にも及び、対策の見込みのある土地はそのうち3割ほどであること、
Aすでに対策が行われている土地では、生態系が脆弱なため、砂漠に逆戻りしやすいこと、
B砂漠化に直面する地域では、人々が生計を立てるために生態資源を消費せざるを得ない状況があること、
C中国は(自称)発展途上国であり、重い課題を抱える一方で、対策資金が不足していること、
がある。これら4点から、中国の砂漠化・黄砂対策の道のりは長いと言える。
○短期的な対策
黄砂による健康被害対策には、対花粉症マスクが有効である。
また、中国では「黄砂よけネット」を使うことがある。(添付ファイル参照)
◎補足
○黄土高原、タクラマカン砂漠、ゴビ砂漠
位置関係は下のURL参照。
タクラマカン砂漠は砂砂漠であるが、ゴビ砂漠は砂礫砂漠である。
黄砂は砂砂漠のような極乾燥地だけでなく、半乾燥地でも発生する。
つまり、黄砂の発生には強風などの気象条件だけでなく、強風下の地表の状態が関係する。
具体的には、地形、植生、土の粒度、土中の水分、などである。これらの要素は季節変化や
年々変化の幅が大きい。土中水分は黄砂発生前の降雨が関係し、強風の頻発や地面の
凍結融解の繰り返しでサラサラになる。岩肌等では、岩石の隙間に浸透した水分の
凍結融解の繰り返しで破壊が進み、鉱物粒子を作り出す。冬季に降雨が少ないこと
及び冬から早春まで植生がないことが、黄砂の舞い上がりに適した条件となる。
http://www.alrc.tottori-u.ac.jp/core/LP01.pdf
○エアロゾル
大気中に浮遊している固体あるいは液体の微細な粒子のこと。
自然発生したものと人為起源のものがあり、前者には黄砂や火山灰、海塩粒子などがあり、
後者には排気ガス、煙草の煙、アスベスト粒子などがある。後者のラインナップを
見てわかるように、微細粒子であることから呼吸器に入り込み、悪影響を及ぼすことがある。
また、エアロゾルが大気中に増えると、太陽光を反射して地表面に到達する量を減らし、
地球を寒冷化させる働きがあるといわれる。このため、地球温暖化論が盛んになる前は
地球寒冷化論が叫ばれていた。
ちなみに日本に到達する黄砂は中国より小さなものである。(大きい粒子のほうが早く降下するため)
○黄砂警報
大気中のエアロゾル濃度が高くなると3〜4日後には急性死亡率が
増加することから、健康保護のため韓国で02年に導入された。その濃度により
黄砂情報・黄砂注意報・黄砂警報の3段階に分けられ、高齢者や子供、呼吸器疾患者に対し外出の自粛や禁止を勧告する。
○グリーンオリンピック
2008年北京五輪では、「グリーンオリンピック」を三大テーマのひとつとしている。
オリンピックは国家の威信を賭けたものであるから、開催期間中に砂嵐に見舞われるようなことがあると、
マイナスイメージにつながりかねない。ちなみに2000年のシドニー五輪でも
グリーンオリンピックのスローガンが掲げられ、また、トリノ五輪もグリーンオリンピックだったとの
評価を受けている。環境問題への関心が年々高まり、五輪開催のたびに環境への配慮が問題になってきている。
○アルベド
入射光エネルギーに対する反射光エネルギーの割合。地表が雪に覆われていると、
アルベドは8割にも達する。雪の上に黄砂が積もるとアルベドが低下し、太陽エネルギーが
反射されにくくなり、結果として地表が暖められることになる。黄砂による寒冷化作用と
温暖化作用のどちらが大きいのかは、専門家の間でも結論が出ていない。