Last updated : Friday, September 24,
2004 9:41:50 pm

彫刻のある空間
黄昏コレクション
わたしの美術館

その道は、想い出の深い道です。

当時はまだそれほど大きなビルもありませんでした。バラックに毛が生えたような建物がほとんどで、ただひとつ、ガスビルが目立つ程度だったと思います。大阪駅の1番線ホームから南を見ると、ガスビルが見渡せていたような気がいたします。中ノ島の図書館や日銀大阪支店は、当時からあったかもしれませんが記憶に残っていません。南に下って心斎橋あたりには、大丸やそごうが戦前から在ったかもしれません。しかし、わたしの記憶にあるのは、5階建てくらいの乳白色をしたガスビルのみでした。

そのガスビルの近くに、道修町という医薬品の店ばかりの界隈がありました。番頭さんと丁稚ドンの時代で、地下鉄は勿論動いていましたが、丁稚ドンは主に自転車で荷物の運搬をしていたような気がいたします。御堂筋のど真中を50キロ近くの荷物をのせて配達に明け暮れていたような気がいたします。本町界隈ではガスビルが一番大きく目印になる建物で、人に道を聞かれたときなどこのビルをポイントに説明していました。

ガスビルの西あたりに旧陸軍の飛行場跡地がありました。飛行場といっても滑走路が1本の小さなものでしたが、あちこちに草が生えていて、昼休みには近くの会社に勤めるサラリーマンが、キャッチボールや散歩をしていました。その跡地が現在の靱公園でしょうか。

安保闘争で国内は騒然としていました。国会が若者に取り囲まれ、大学は学生に占拠され、全共闘、民青、共産党、社会党などが、この道でもデモを繰り広げました。中の島からなんばに向けて、機動隊に囲まれ小突かれながらデモがありました。いつも道頓堀を渡る辺りからデモは道幅一杯にひろがり、蛇行してシュプレヒコールを繰返しました。それを規制しようとする機動隊に追っかけられて現在の歌舞伎座辺りまで逃げ惑うのが、いつものパターンでした。逃げ惑った群集が引き上げた後には、路上に下駄や靴などが散乱していました。それが大抵片方でした。

高度成長期という時代がありました。高さ制限をもうけて、整然としたビルが立ち並んでいました。いつのころからか、この道に面したウインドウをギャラリーにみたてて展覧会が開かれるようになりました。出品者は一夜主催者の大阪21世紀協会に招かれて記念パーティがありました。立食パーティでスコッチやブランディを呑ましてもらいました。オードブルの中にクラッカーの上にのった黒いキャビアがあったような気がしましたが、記憶違いかもしれません。

その後しばらくして、大阪市がモデリアニの裸婦を買ったというような記事が新聞を飾りました。中の島の阪大跡地に国立の美術館を建て、目玉として16億円のお金を出したと話題になりました。あれから30年あまりも経って、万博跡地にあった国立国際美術館が中の島に移転オープンしたと、やはり新聞で拝見しましたが、モデリアニも安住の場所を得たのでしょうか。国立国際美術館は、市立科学館の前庭に巨大な金属パイプのモニュメントと出入口が在るだけで、建物は3階建てですべて地下に埋まっているそうです。これも瀬戸内の直島に 「地中美術館」 を建てた建築家・安藤忠雄の作品なのでしょうか。

時は流れて、御堂筋ギャラリーのオープニング・パーティは何時しかなくなり、やがて美術展そのものも立消えてしまいました。御堂筋とともに並木の銀杏も歳を経て、秋には蒼々とした空に黄色い葉がさざなみのように輝いています。銀行や商社のビルばかりだった御堂筋の歩道の一画に彫刻が並ぶようになったのは、10年余り前からでしょうか。これらの作品は大部分が企業からの寄贈ということです。ブルーグレイのブロンズ像は、この道や街に品格を漂わせて鈍い光彩をあげています。休日の朝早く自転車で散策したり、地下鉄をなんばで降りて淀屋橋辺りまで散歩をし、テラス形式のコーヒーショップで道行く人々を眺めたり、いろいろな楽しみのある道になったように想えます。

画像に添付しているコメントは 個人的な感想です。

「休憩する女流彫刻家」

アントワーヌ・ブールデル

御堂筋東側


作者の助手であり後年妻となったクレオバトールの像です。強固な意志と力強い肢体がコスチュームに包まれて、作者の緻密な計算と造形への追求が感じられます。
休憩する女流彫刻家」(頭部)

アントワーヌ・ブールデル


御堂筋東側
「姉妹」部分

中村晋也

御堂筋東側

姉妹の優しい絆や独特な感情が伝わってくるように思えます。ごく自然なポーズの中に、それとなくかばいあうような姿は、優しさや詩情に溢れていて見飽きない作品です。
「姉妹」

中村晋也

御堂筋東側

ジル」部分

朝倉響子

御堂筋東側

テラスでコーヒーを飲みながら、ふと向こうのテーブルを見ると、彼女がもの思う姿で座っている。そんな光景を思い浮かべます。都会的なセンスに溢れたこの道にふさわしい作品のように思えます。札幌芸術の森野外彫刻に、やはり椅子に座る2対の女性像がありましたが、都会の洗練された感覚に充ちた作品でした。
「ジル」

朝倉響子


御堂筋東側
「ジル」

朝倉響子

御堂筋東側
「みどりのリズム」

清水多嘉示

土佐堀通り

少女のダイナミックな動きと軽やかな声の響きまで聞こえてくるような気がします。
「みちのく」

高村光太郎


御堂筋東側

いつか十和田湖畔で見た作品と同じものでしょうか。柔和な表情や量感あふれるフォルムは智恵子への思慕に充ちているように思えます。
「腕を上げる大きな女」

アントワール・ブールデル


御堂筋東側

ブールデルといえば「弓をひくヘラクレス」を思い出しますが、「休憩する女流彫刻家」や、この作品からはコスチュームに包まれた生命の量感が感じられます。彼は構築性を重視した独特なスタイルを築いたとものの本にありました。
「渚」

淀井風夫


御堂筋東側

この作品の周辺には繊細な空間があるような気がします。細長い胴や手足は、その空間の微妙な揺らめきに呼応しているような緊張感があるように思えるます。
「若い女」

桜井祐一


御堂筋東側

少女のありふれたポーズの一瞬に健康的な初々しさが感じられる作品だと思います。モノクロのブロンズのなかに人間の魅力が充ち充ちていると感じました。
「道東の四季・春」

船越保武


御堂筋東側

少し斜めな顔、自然に下ろした両腕、やや開いた足、このごく自然なポーズから女性の初々しさや優雅さを表現した作者の豊かな感性に感動しました。
「フレンタのヴィーナス」

フランチェスコ・メッシーナ


御堂筋東側

まだ未発達な肢体とあどけない表情は、見るものの心を和ませてくれる。「彼の力量はデフォルメやカルカチュアの危険に陥ることもない。彼の作品は美より先に決して急ごうとはしない」 という詩人ジャン・コウトーの言葉を思い起こさせます。
「ヴェールを持つヴィーナス」

オ-ギュスト・ルノアール

御堂筋東


ルノアールの華麗な色彩の絵画とは対極にあるような知的な構築性を感じます。肉体のバランスと情感にあふれた存在感に圧倒されるような思いです。
「少年と少女」

リン・チャドウィック


御堂筋東側

抽象的な表現のなかに詩情を漂わせた作品で、このストリートの中のもっともお気に入りの一作です。そぎ落とされたフォルムは少年の素朴な心情を感じさせます。
「布」

佐藤忠良

御堂筋西側

さりげない女性のたたずまいと抑制のきいた表現は作者の豊かな感性と人柄を感じさせます。思わず足を止めて見上げている自分を発見する思いです。具象という表現手段の意味を思い知らされるような気がいたします。
「分断された人体」

ヘンリー・ムーア


御堂筋西側

人体のなめらかなフォルムをユニークな感覚でとらえたムーアの作品は存在感にあふれている。
「髪をとく娘」

バルタサール・ロボ


御堂筋西

人体の豊満な体と上を見上げてゆったりと髪をとく姿が大胆なフォルムで象徴的に表現されていて生命感にあふれている。
「アコーデオン弾き」

オシップ・ザツキン


御堂筋西側

直線で構成されたユニークな作品で、穏やかなリズムを感じます。キュビズムやアフリカ美術の影響を受けたといわれますが、ザッキンの作品は静かな力強さがあるように思えます。
「レイ」

佐藤忠良


御堂筋西側

(寄付者:三井不動産株式会社)

佐藤忠良の作品は、どこまでも素朴で穏やかで健康的である。ゆったりとした胸、命を宿したような腹、それを支え片方に重心をあずけた腿と自然な飾らない姿態に惹きつけられるものがあります。
「踊り子」

フェルナンド・ボテロ


御堂筋西側

機知に富むユーモラスな作品で思わず微笑んでしまう。南米の陽気な気質と大胆な生命感が大胆に表現されていて楽しい。
「イブ」

オーギュスト・ロダン


御堂筋西側

巨匠ロダンの40歳台の作品といわれる。「地獄の門」と制作時期の重なる最も充実したころの作品だそうです。
「大空に」

桑原巨守


御堂筋西側

今まさに飛び立とうとする鳩と、大空に腕を伸ばした肢体が、少女の夢を象徴した作品でしょうか。
「ヘクテルとアンドロマケ」

ジョルジオ・デ・キリコ


御堂筋西側

主題はギリシャ神話で戦場に赴くトロイの王子とその妻の肖像だそうです。象徴的な絵画の延長線上にある彫像でしょうか。
「ダンサー」

ヴェナンツオ・クロチェッチィ

御堂筋西側

削がれた肉体、しなやかな肢体、鍛えられたダンサーの誇りを感じさせるような作品です。モノクロの世界の知的な美しさがあるように思えます。
......... 「水浴者」

マルチェルロ・マスケリーニ

御堂筋西側


小さな顔とはちきれるような胸の対比、水浴をおえた瑞々しい少女の初々しさが、布で隠れた腕や細く長く伸びた足を通して直線的に伝わってくるような作品です。

彫刻のある空間 わたしの美術館 黄昏コレクション