出産体験記 〜ブラジルの妊娠医療現場を垣間見て〜 トップページへ![]()
個人的な話になるのですが、2001年1月に長男、2008年5月に次男を、サンパウロ市内にて出産しました。2人とも希望通り、自然分娩で出産することができました。
◎帝王切開の多いブラジル
ブラジルに来られる夫婦、とりわけ女性なら、「ブラジルは帝王切開が多い」とか「簡単に帝王切開をする」という話題を必ず耳にします。その真実がどうであるかは、自分が出産するなり、周囲で出産した女性たちの話を聞いてみるほかありません。
ここ10年以内の間にブラジルで出産した経験のある人の話を聞く限り、やはり、自然分娩を希望していたにも関わらず、「出産予定日を過ぎた」「へその緒が首に巻きついている」「弱い陣痛が続いているのに生まれそうにない」など、他の色々な理由を医師から告げられ、やむなく帝王切開で出産したという日本人女性の話は少なくありません。もっとも、帝王切開の技術は優れており、決して産後の経過や赤ちゃんの健康状態も悪いということはないようなので、一概に帝王切開が悪いとは言えないかもしれません。でも、少なくても、自然分娩を希望している女性に対し、あの手この手で帝王切開を施す医師や病院はやはりどうかと思います。
そんなブラジルの風潮でしたが、近頃は変化の必要性が意識され始めたのか、テレビのコマーシャルで、自然分娩を推奨するPRも行われるようになっています。
◎帝王切開をする理由
ブラジルで帝王切開が多い理由はいくつかあります。圧倒的に言われるのは、帝王切開は手術なので、病院が政府からの補助金なども含め、より高い収入を得られるということです。また、いつくるか分からない陣痛を待つよりは、計画した日時に出産させてしまう方が医師にとっての心身の負担が少ないということも理由のようです。さらに、ブラジルの女性自身が、陣痛の痛みに対する恐怖が強く、30分で痛み無く生んでしまえる帝王切開を好むということも理由になっています。
しかし、身近にいるブラジルの女性に聞いたところ、ブラジル人の女性も自然分娩の方が健康的であることをよく知っていますし、実際、自然分娩を希望するブラジル人女性に多く出会いました。それにも関わらず、現在のブラジルでは日本以上に簡単に帝王切開が選択されるようです。
帝王切開だけでなく、陣痛促進剤や無痛分娩のための麻酔、会陰切開なども行われます。日本でも病院によって様々な医療処置が行われているかもしれませんが、結局、色々な理由で早く生ました方がいいという発想からそれらの医療処置が行われるようです。本当は、安産になるような日常生活のあり方を指導する方が望ましいはずなのに、少し安易な発想のような気がします。
◎出産体験記1
私事になるのですが、一人目の出産のときは、どうやって陣痛がくるのかも分からなければ、自然分娩は希望しているけれどどういう風に産むことになるのか全く未知の世界のまま、出産予定日近くに病院の検査に行きました。すると、「明日か明後日に生まれそうだ」と突然言われて、急に入院させられ、陣痛促進剤を打たれ、麻酔で無痛分娩ができる状態にされ、しかも麻酔のかいなく生まれる20分前には麻酔が切れて突然の痛みがやってきました。麻酔が効いていた約2時間、なかなか生まれないということで、医師が突然それまでの笑顔とは変わり、深刻な顔で「へその緒が巻き付いているかもしれない」と言い出し、私はベッドの上で最後まで「お腹は切らないでないでほしい」と頼んでいました。本での知識から、健康状態がよい限り、前置胎盤以外では帝王切開が必要無いということも頭にあったので、医師に何を言われても自分の生む力を信じていました。そのかいあって、無事に長男を自然分娩で出産できましたが、陣痛促進剤、麻酔、会陰切開のおかげで、実は完全な自然分娩で二人目を生んで気づいたのですが、ずいぶんと産後の体の回復は遅かったなあと振り返ることができます。
いづれにしてもブラジル・サンパウロでは、帝王切開や本来不必要なはずの医療処置は、高い保険料を払うような、人々に良いと認められている私立病院でよく行われるようです。言い過ぎかもしれませんが、ブラジルの私立病院は、自然分娩を望む人には不向きの場所といえるのかもしれません。(もっとも、病院のサービスなどは私立病院の方がかなりいいのも事実です。)
◎出産体験記2
次男は寄付を中心に運営されているという市内のAMPARO MATERNAL(通称:アンパロ)という産院で産ませてもらいました。この産院はブラジル人や永住者(ビザの種類によっては短期滞在の人でも受け入れられるかもしれません)なら、自宅近くのポスト・デ・サウージ(保健所のようなところ)で会員になっておけば、だれでも出産させてくれます。もちろん、費用は一切かかりません。というわけで、お金のかからない自然分娩が基本でお産ということになります。ただし、希望したり、緊急の場合や健康状態によっては帝王切開も行えます。
「無料だと不安」と思いがちな日本人にはあまり関心のもたれない病院なので、私も4軒隣の家に住む日系人の家族と知り合い、お嫁さんが日本人一世で8ヶ月前に女の子を生み、「自然分娩を希望するならいい病院だったよ」という話を聞いて、初めて、その病院に行くことを決意しました。ブラジル人もよく利用していて、とても評判がいい産院であることも知りました。
建物の外観はなんとなく古い感じもしますが内部は整っており(昔はもっと古めかしかったそう)、大きな産院で、ぱっと見るだけでも100人近くが一度に入院できるようなベッドが用意されていました。毎日ポンポンと赤ちゃんが生まれているというような雰囲気で、2日間の入院は母子同室が基本で、8人の相部屋で入院期間を過ごした私の部屋ではいつも新生児の鳴き声が聞こえていて、その非日常さがとても面白く、生命のエネルギーを感じました。
寄付ということで、病院のシーツや毛布に、それぞれ市内の名門病院から譲られたことを証明する病院のロゴマークが入っていました。病院に高級感は無いものの、決して不潔感も無ければ不快な感じもなく、毎日係りの人がシーツを取り替えたり、部屋を隅々まで掃除してくれ、快適に過ごさせてもらいました。食事もブラジル食ですが、おいしくいただきました。しいていえば、事務の人があまり愛想が無かったかなあと思いますが、やるべきことはきっちりやってくれているわけで、贅沢もいえません。
そして、最も重要な分娩時の話ですが、これが私にはうれしい限りの状況でした。陣痛が8分間隔で訪れることを自宅で確認してから病院へ行き、午後11時前に受付窓口で簡単な手続きを済ませ、すぐに医師の診察を受けて、子宮口が7センチ開いているということですぐに陣痛を待つ部屋で胎児の心電図を20分くらい取りました。病院見学を一度行っただけで、産院に足を運んだのは2回目だったこともあり、一体誰が子どもを取り上げてくれるのか不安でしたが、運よく当直の日系2世の女医さんが担当してくれることになりました。ベテランの雰囲気を感じさせる女医さんは、見ての通りで、陣痛を待つ部屋に入ってから約一時間、分娩室に入ってから約15分ほどで赤ちゃんを取り上げてくれました。会陰切開をしないでほしいとお願いしたため、その通りにお産も進めていただき、全く特別な医療処置を行わない出産になりました。おかげで、退院してからも体の回復は早く、産後5日目には赤ちゃんを抱いて長男の幼稚園に歩いて迎えに行けるくらいで、一人目よりも体の回復は圧倒的に早いと実感しました。
ちなみにお産の間、女医さんのほかにも多くのスタッフに囲まれていました。看護婦さんなどはもちろんですが、医学部の学生さんたちも研修のために勉強しているような感じでした。
◎懐の深いブラジル
長男誕生のときも思いましたが、やっぱり妊娠医療の現場で働く人たちには感謝の気持ちでいっぱいになります。陣痛と戦う女性を目の前にして、いつ生まれるか分からない赤ちゃん誕生まで付き合ってくれるなんて…しかも日本人という、ブラジルでは外国人である私のお産を温かく見守ってくれるなんて、本当にブラジルの懐の深さを感じます。
今回の産院ではブラジル社会で活躍する日系人女性にまたもや出会い、私まで勇気付けられました。たとえ流暢な日本語ではなくても、土壇場になって日本語で「もうすぐ生まれるよ」と一言言ってくれると、なぜか安心でき、ブラジルの日本人の子孫の存在は日本人にとって貴重だなあとつくづく感じます。
ちなみに、AMPARO MATERNALでは、出生証明書を発行してもらってから、病院内にある登記所で、退院後すぐに次男はブラジル人として登録をしてもらえました。長男のときは要領が分からず、病院のあった地区の登記所をあちこち駆け回ってようやく登録してもらえたので大変でしたが、事務手続きの面でもAMPAROは助かりました。
お産に関しては、自然分娩が主流のAMPAROは、寄付で運営され無料だからといって全く悪い病院ではなく、むしろ次回もお世話になりたいと思える場所でした。運がよかっただけなのでしょうか?いずれにしても、百聞は一体験に如かずでした。
◎「駆け込み出産」できるのが正常な社会!?
日本のニュースで「駆け込み出産」が受け入れられず、妊婦さんがたらいまわしにされたという事件があったような記憶があります。サンパウロは大都市ということもありますが、ほぼ駆け込み状態のような日本人の私の出産(保健所や他のクリニックで簡単な検査は受けていましたが)でも当たり前のように受け入れてくれました。普通に健康である女性なら、“検査はほどほどに、等間隔で訪れる陣痛を確認してから病院に駆け込んで自然分娩で出産”というのが、自然なあり方といえばあり方とも思います。もっとも、妊娠医療は100パーセント命に別状無いような環境を作り出すことが使命かもしれません。だけど、妊婦さんたらいまわし事件があるようでは、妊娠医療の使命が本末転倒ではないでしょうか?
多様な人種、民族の暮らすブラジルですが、今回、医療制度も多様であることを実感しました。
日本の医療制度問題に関して、アメリカ型だとか北欧型だとか議論されている話題を耳にする中で、ブラジル型というのがあってもいいのではないかな?と思わされました。もっとも、社会構造が根本的に違うような気もするのですが。
一つ確かなことは、お産は病気ではないということです。できるだけ母子が幸せな新しい人生を出発できるような場にめぐり合えるのが理想的なはずです。
次男の妊娠発覚から出産まで、決して身辺の状況が落ち着いていたわけではないのですが、運よく多くの産婦人科の先生や友人知人に助けられ、とても良い状態で新しい命を授かることができました。神様からのお恵みを大切にしたいと思います。