無実の証明5 無実を示す開示証拠「逮捕当日の上申書」 

        さらなる証拠開示と再審の開始を!!


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   無実の証明  はじめに

1 無実を語る図面文字

2 非識字者への落とし穴

小豆と狭山事件
4 自白の再現実験

5 無実を示す開示証拠

   「逮捕当日の上申書」
6 四本杉の血痕反応は陰性
人工胃液による消化再現実験

8 石川さんの文字とは
9 筆記能力の時系列的分析
10 押し倒し・後頭部裂傷再現実験

11 脅迫状の詩的表現技法
12 最終食事の色調に関する消化再現実験 
13 「ソネット形式」と「万葉仮名的当て字」

14 死体埋没再現実験

15 玉石落下再現実験

16 封筒・脅迫状の4日間持ち歩き再現実験
17 封筒・脅迫状の自転車持ち運び再現実験
18 脅迫状訂正の万年筆とインク

19 両側腹部等の皮下出血再現実験

20 後頭部裂傷の凶器形状再現実験

21 頸部・頭部の皮下出血再現実験

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ジオログ:狭山事件研究メモ

(編集員)



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無実を示す開示証拠「逮捕当日の上申書」

さらなる証拠開示と再審の開始を!!

 

  2010年12月26日 藤沢 汎子(狭山部会)

 

 私は長年識字学級にかかわっていることもあり、狭山事件における筆跡問題には特に関心をもち、2001年に「石川無実を語る逮捕直後の図面文字」をまとめ、東日本部落解放研究所の『明日を拓く』41号で発表した。 

 脅迫状は、達者な文章構成、「あて字」の多用、流れるような筆致などからみてその筆者は普段から文章を書き慣れている人物であることが見て取れる。それに対して石川さんが書いた(書かされた)上申書や脅迫状の写しなどは、彼が十分学校教育を受けられず、普段ほとんど文字を書くことがなかったことを示している。しかし検察側の鑑定やこれまでの裁判所は筆跡が一致しており、そのことが石川有罪の主軸となる証拠だと主張してきた。

 私は、公判調書を読むなかで、石川さんの供述調書に添付された「図面文字」に出会った。取調の過程で石川さんは多くの図面を書かされ、その図面に説明文字を書いていたのである。

 ―『1 無実を語る図面文字』参照(クリックを)

 ほとんどかな文字で一字一字たどたどしく、また「四輪車(よんりんしゃ)を「よりしや」、「よっちゃん」を「よちん」、「駅通り」を「えきどんり」などと独特の表記がされていた。これらの図面文字は、逮捕前に書かされた5月21日付けの上申書以上に当時の石川さんの書字力をありのままに示しており、脅迫状の筆者ではないことを明らかにしていると考えた。さらに、図面文字を時系列で見ると時間を経るにつれてかな表記が読みやすくなり、書けなかった字も書けるようになっていることに気付いた。

 石川さんは何度も脅迫状を手本にして書き写す作業をさせられたと語っている。石川さんの「識字」は留置場の中で始まっていたのだ。

 ところが、裁判所は、逮捕から3カ月以上経た9月6日付けの関巡査あての手紙を取り上げ、それが「暢達」であるとして、短期間での上達は考えられないとし、だからもともと脅迫状を書くほどの書字力があったのだと結論づけている。

 こうした検察・裁判所の「机上の空論」を論破するためには、何枚も書かされた脅迫状の写しを含めて逮捕直後からの石川さんの筆跡をもっと精査することが重要である、と私は考えて「逮捕二日後の石川さんの手紙」を『明日を拓く』44・45号で紹介し、裁判長宛の手紙等でも筆跡関係の証拠開示を訴えたりしてきた。

 

 開示された「逮捕当日の上申書」について

 

 去る12月16日、「狭山事件の再審を求める市民集会」が日本教育会館で開かれた。この集会には足利事件、布川事件、袴田事件などのえん罪事件の当事者や家族・支援者も参加し発言した。その中で繰り返し語られたことは、「無実の人を罪に落とした検事や裁判官がなにも責任を問われないのは納得できない」「冤罪を晴らすために、証拠開示が決定的に重要だ」「検察はすべての証拠を開示する義務がある」などだった。

 集会前日の12月15日、狭山再審弁護団は5月に開示された証拠の中の2つの筆跡資料にもとづいて鑑定書・意見書を作成し、新証拠として裁判所に提出しており、その新証拠について弁護団から説明があった。

 なによりも、その日資料として配布された「石川さんが逮捕された当日に書かされた上申書」のコピーは大変インパクトがあった。それは当時の石川さんの文字を書く力の実態を如実に示す、「図面文字」にも連なるものであり、脅迫状の筆者ではありえないことを物語るきわめて重要な証拠であると思った。

 

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  今回新証拠として出された5月23日付け「上申書」と脅迫状を対比して眺めるだけで、その違いは明らかだ。

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 あえて相違点を列挙すれば、

1.使われている漢字が極めて少ない。脅迫状および封筒では漢字で書かれている「命」「金」「二十万円」「中田」もすべてひらがなで書かれている。

2.文字1文字力を入れて書かれており、勢いがない。流れるような速い書き方の脅迫状とは似ても似つかない。

3.全体が1つの長い文になっており、読点は1つも打たれていない。

(石川さんとしては「よしえさんのじけんはわたしのやったことではありません。」だけですむことだが、「五月1日のばんの〜〜〜とりそこねたこと」くわしく書かれているのは、警察が脅迫状と照らして筆跡を見るために、誘導して書かせたものと思う。)

4.「いさく」(えいさく)、「ところい」(所へ)、もでいて(持っていって)、「まいまで」(まえまで)、など土地の言葉がそのまま書かれている。

5.「お」が1字書かれているが、そのほかは「を」が多用されている。

6.脅迫状において肝要なフレーズである「金二十万円」を書くことができず、「かねを20まいん」あるいは「きんに10まんい」と書いているのは、決定的である。

7.石川さんの他の文書と共通して、「え」は「エ」(脅迫状では江・え)と、「や」は「や」(脅迫状ではヤ)、「つ」は「ツ」(脅迫状もツ)と表記されている。

 

 石川さんが逮捕された日に、自分は事件に関係ないということを一生懸命に書いたであろうこの上申書について、このように列挙することは、自分としては抵抗もあるのだが、要するに、日常的にほとんど文字を書くことがなかった石川さんを、「ツ」を書くという共通点を過大視して、脅迫状を書いたと嫌疑を掛けて逮捕したことがとんでもない間違いだった。

 逮捕され、「刑札」どころか「けエさツ」と書く石川さんを見て、取調官はさぞかし焦ったことだと思う。そこで自分達の間違いに気付き、彼を釈放していたらまだしも、あろうことか警察は、石川さんに脅迫状の書き写し作業や多くの図面文字を書かせるなどして、彼の書字力をなんとか脅迫状の筆者に近づけようとしたのだ。

 

 もし裁判員裁判なら? もしあなたが裁判員なら?

 

 今回の上申書を見て、私は狭山再審の実現に明るい光が射したように感じた。この上申書を脅迫状とくらべたとき、裁判員裁判ならばどんな結論を出すだろうか。もし私が裁判員ならば、当時の石川さんが脅迫状を書けたはずがない、彼は無実だ、と強く主張できると思う。もしあなたが裁判員ならどうだろうか。ぜひ考えていただきたい。

 この証拠を手にしたことを喜ぶと同時に、こんな重要な証拠を47年間も隠してきたことに対して強い憤りを感じずにはいられない。これが最初から出されていれば一審・二審の裁判も違っていたかも知れないのだから。

 しかし私たちは、決して油断することはできない。検察は、証拠開示勧告を受け、さりとてルミノール検査報告書を出したら致命的なので、この証拠なら「逮捕されて緊張状態で書いたものだから」とか「わざとたどたどしく書いて筆跡をごまかそうとしたのだ」などと言い逃れをする余地がある、と考えて出してきたと思う。

 だから、こうした言い逃れをする余地がないほど、検察を追い詰める必要がある。それには、この明らかな筆跡の違いを広く世論に訴えることが不可欠だと思う。また、筆跡関係でもさらなる証拠開示を求めたい。

 私としても、図面文字とこの「逮捕当日の上申書」について分析を行うとともに、「ツ」書きの問題など、脅迫状そのもののさらなる分析によって、脅迫状の筆者は石川さんではないこと、 当時の石川さんには脅迫状を書けなかったことを証明していきたい。