3.メロディー、フレーズとコード・スケール
ここまで、音階の基本的な構造と、コード・スケールの性格、長調と短調の基本的なコード・スケールと、二次的ドミナント、二次的II−Vのコード・スケールの内容を確認しました。つまり、音楽の基本的な「素材」、特に調性音楽の素材・基準としての音階の位置づけをコード・スケールとして整理したわけです。
コード・スケールのそれぞれの構成音の位置づけは、「調性の部分としてのコード・スケール」であり、「コード・トーンを軸として動く」、「四和音、テンションの構成音の基準となる」、「二次的ドミナントや二次的II−Vでは、調的な重なりから、前後にとって最も変化の少ない音階がコード・スケールとなる」といった、コードとの関係、調性の中での関係によって理解されるのは前述の通りです。これらは、「縦の響き」、コードとの関係、「調性の中」での音階の位置づけです。コード進行によって形作られる「調性」の全体像と内部構造、「コードとの関係で見る、メロディーの動きの傾向」は、理論編B: でさらに詳しく述べます。
ここでは、これらの「素材としての音階」が、実際の音楽の中で、「横の形」つまり、「メロディー・フレーズ」として、「どういった形を帯びるのか、どう用いられるのか」についての基本的な事柄を、特に「メロディー」に注目して整理します。また、メロディー、フレーズに関してのごく基本的な概念(考え方)と方法についておさえておきましょう。
繰り返し述べている通り、調性音楽の「メロディー・フレーズ」の動きの「縦」の条件は、「コード・トーンを軸として動く」「コード進行の一部として動く」という原理に集約されます。
もう一つの条件、「横」の条件は、メロディー・フレーズの「音の向きとリズムの形・配置」です。これを「動機」と呼びます。
・動機
「調性音楽のメロディー、コード進行上のメロディーは、コード・トーンを軸として動く」という原則は、「コード進行」を中心にメロディーを見る場合の「コードとメロディーの関係」です。
この原則を「裏返し」、あるいは「逆」に捉えて、「作曲」あるいは、「メロディーに対するコード付け」として、「メロディー」を中心に、メロディーとコード進行との関係を考えるなら、楽曲の「歌」「テーマ」として、メロディーは、「コードを進行させる」、あるいは「コード進行を決定させる」条件でもあります。
つまり、「歌・テーマ」としてのメロディーは、楽曲の「基本的なリズム」と「基本的なコード進行」を形作る、決定する絶対的な基準、楽曲全体の個性を決定する要素です。
メロディーは、明らかな「動機 :モチーフ Motif(仏) : Motive(英)」の形と配置を個性とします。動機とは、1小節から4小節ほどの単位のメロディーの「向きとリズム」の「形、部品」であり、これが「繰り返される」こと、「つながれること」、「変形される」ことで、より大きな単位のメロディー、「テーマ」が形成されます。インストゥルメンタル曲、楽器的な楽曲であっても、「テーマ」は比較的明確な動機を持ちます。
・「Motif : Motive」とは、デザイン、模様の単位、「モチーフ」と同じ意味の言葉です。例えば、モザイク模様や床のタイルの組み合わせ等の幾何学模様も、小さな単位の「モチーフ」が組み合わされて敷き詰められる事で、より広い平面としての「規則性とパターンの集合」となります。
モチーフとは、全体を形作る、共通性・類似性を持つ「部品・部分」であり、全体に統一感を与える単位であるとも言えます。また、一つの単位は、必ず隣接する単位とより大きな単位を形作り、それも「模様のパターン」の個性となります。これは、必ずしも人為的、人工的なものだけではなく、「結晶」や「細胞」、爬虫類や鳥、昆虫等の「模様」、植物の葉脈などのパターンや法則性として、自然界に既に存在するものです。特に進化の過程の古くから存在する動物(鳥類、爬虫類、魚類、昆虫等々)は、羽、鱗(うろこ)、鱗粉(りんぷん:蝶や蛾の羽を彩る粉)の配置によって、明確で幾何学的な「模様」を持つ傾向があります。人間、あるいは「動物」も、それを「視覚的なパターン」として「認識・理解」するわけです。
音楽、メロディーのモチーフも、同じ、あるいは「似た」「音の形、リズムの形」が繰り返し用いられ、これらが「関わりあう」事で、「テーマ」を形作り、楽曲に「統一感」を与えます。
・形式
モチーフの配置や配列の「外枠」となるものが、「形式」です。例えば、「ヘビの皮の模様」は、バックやベルトといった人工物に用いられている場合は、純粋に「デザイン」の一部ですが、「ヘビの皮の模様をした、にょろにょろした生き物」は、当然、「ヘビ」です。
このように、モチーフは、その配置、配列が、「全体としてどんな形を帯びるか」、「どこにおかれるか・どうあつかわれるか」で、意味合い、あるいは役割が全く異なります。音楽の場合、モチーフの内容が置かれ、全体を構成する「大きな外見」が「形式」です。
ビートのパターン、コード進行、あるいは演奏する楽器の音色や合奏の編成、「ジャンル」なども、広い意味での「形式」です。また、リズムのパターンもコード進行も、やはり「モチーフ」の集合(あつまり)です。コード進行とベース・ラインのように、「繰り返しのパターンや響きが、メロディーよりはっきりと確定したもの」、打楽器のリズムのように、「音色の高低が、メロディーの高低と干渉しないパターン」が、メロディーやフレーズの下地となる「形式」となります。これらは、楽曲の基本的なビートを担い、また、「コード進行の変化の周期」、「響きによる、より広いリズム」を担います。
*注釈:
クラシックの音楽理論一般では、メロディーの単位、形を形成する「動機」に関して、「形式論」「楽式論(がくしき:音楽形式)」の中で取り上げられます。
音楽理論とは、本来的な意味では「作曲・編曲の方法論」です。クラシックの音楽理論では、「調性」を、コードの連結を中心に考える和声法、旋律と旋律の関係を中心に考える対位法に分けて扱い、さらに、「形式論」によって、メロディー、フレーズのリズムの面、楽曲の構造、ソナタ形式、ロンド形式・・・組曲、舞曲、カノン、フーガー・・・変奏曲・・・などの形式と組み立ての方法を論じます。形式論は、さらに、フレーズの内容、グルーピングや、リズム論、旋法等の作曲編曲上の方法論、あるいは演奏上の方法論に細分化されます。また、これらをあわせて、特に「メロディー」の分析と方法論を論じる、「旋律法」という分野も、それほど大きな規模ではありませんが、独立しています。
いわゆるスタンダードの楽曲は、クラシックの形式論で言うなら、「歌曲形式」と呼ばれる、比較的単純な形式です。Aメロ、Bメロ・・・といった「楽節(がくせつ: 歌、コード進行のまとまり)」の分け方で足ります。Aメロ、Bメロの場合、「二部形式」、Cメロがあれば「三部形式」です。Aメロが反復された後でBメロが現れる場合等、A・A・Bと表記します。多くの場合、A・A・B・Aの配置となります。この場合のBメロは、テーマのAメロを「つなぐ」という意味から「Bridge ブリッジ」と呼ばれます。
演奏上、イントロ、アウトロ、間奏(アドリブ・ソロ等)が用いられる場合でも、原曲のコード進行やメロディーの従うものです。スタンダード・ジャズ以降のポピュラー音楽は、比較的「三部形式」以上のリフレインの配置が多くなります。
しかし、スタンダード期の実際の「歌もの」の演奏では、特に「ミュージカル」からの楽曲の場合、「Verse ヴァース」と呼ばれる、「歌の導入としてのセリフ・芝居の部分」としての長い前奏的な歌の楽節が前置きされた事が多く、その場合はリード譜に表される「テーマ」が「サビ」的に扱われる形式と言えます。リード譜集は、ヴァースを含まないものがほとんどでしょう。
ポピュラー音楽、特に日本の歌謡曲は、Aメロ・Bメロ、サビといった形式が多いでしょう。多くの場合、Aメロ・Bメロは、二部形式の「民俗音楽」から発展したものか、スタンダード期の「ヴァース」や「ブリッジ」が、サビとの共通性を強化して整えられたものといった性格を帯びますが、Aメロ・Bメロそれぞれに独自性、あるいは強い印象を持つ楽曲も多いですから、スタンダード期より形式的には複雑化、あるいは発展しています。スタンダードの楽曲は、二部形式が多く、その後のポピュラー音楽に比べて、動機の統一性が高いものが圧倒的に多いのも特徴です。また、明らかな転調は、楽節の単位でなされる事が一般的ですが、スタンダード・ジャズ期は転調の可能性を突き詰めた感があり、一つの楽節内で複数の明らかな転調を行う場合もあります。その後の時代のポピュラー音楽は比較的転調も少なく、より「わかりやすい」「歌いやすい」形式が中心となります。
本書では、理論編A: は音階を中心に、音階とコード進行との関係について扱い、理論編B:は、コード進行とメロディーの関係を、コード進行を中心に述べます。メロディーのグルーピング等は、理論編B:でコード進行との関係で分析します。また、基礎編の「リズム・コードのタイプとコード/メロディーの実践」で、基本的なリズムの扱いによるタイプ分けと方法に触れました。
コード/メロディー、「リズム・コード/メロディー奏法」も、「リズム、ベース・ラインとハーモニーを担うコード部の上でメロディーを動かす」という、ある意味での「形式」です。楽曲全体を扱う方法論、「編曲」に属するものでもありますから、本書では「形式」に関しては理論編全体に分散させて取り上げます。
また、アドリブの方法論、イントロ・アウトロ等の、独奏、合奏上の最終的な形としての「形式」についてはは第二巻の内容とします。--
・「動機」は、「犯罪の動機(理由:わけ)」、「志望の動機」や、「Motivetion(モチベーション:動機付け。理由付け)」と同じ言葉でもあります。文学などで「モチーフ」という場合、物語を始めさせる事情、物語の背後に隠れた事柄、登場人物の心情や性格、「繰り返し登場する」小道具、単語、場所、あるいは、文体、語り口など、非常に広い意味を持ちます。--例えば、本書の理論編で度々用いられる、「調性音楽のメロディーは、コード・トーンを軸として動く」という文、センテンスも、ある種の「モチーフ」です。同じ事が別の言い方で言われ、あるいは別の文脈で繰り返されるという事です。--
音楽の「動機」も、メロディー全体の「きっかけ」であり、メロディー全体に共通する「方向性、志向性」でもあり、そのものがメロディー全体を展開させる、また、「動機自身」で、姿を発展させる「意志」、「期待」を感じさせるものです。あるいは、そういったものを「感じる」、音楽、リズムに関する感受性が、「動機」を成立させると言っても良いでしょう。つまり、動機も、広い意味での「音感」です。
物語、小説で言えば、「登場人物・主役」が同一性(アイデンティティー)を保ったまま、様々な環境、出来事、対人関係、つまり「シーン」の「中」でどう動くか、どう扱われるか、成長・変化するか、同時に、「登場人物・主役」自身が、環境や出来事、関係を、どう扱い、意味づけ、変化させてゆくか、といったことも、広い意味での「モチーフの扱い」であり、これは音楽の「モチーフ」とも通じるものです。音楽の動機も、「背景・場所・環境・関係」であるコード進行、ビートの上で動くものです。ほとんどの場合、一つのメロディーは一つの音色、同一性・統一性を保って歌われます。場合によっては全く同じ形、音程のメロディーが繰り返され、コード進行上を横断して動き続ける場合もあります。この場合、「登場人物・主役」であるメロディーの形は全く変わりませんが、「背景・場所・環境・関係」であるコード進行との相互関係によって、全体の響きの性格をがらりと変えるわけです。
「詩」の場合は、より音楽に近く、言葉のリズムや、「韻 (いん: 言葉の音としての共通性を繰り返すこと)」、「文字数」なども「モチーフ」です。例えば、「短歌」は 五・七・五・七・七 「俳句」は 五・七・五、の「文字数」によって、あらかじめリズムが確定された、つまり音数が共通したリズムのモチーフによって形作られる「定型詩」と呼ばれる表現です。これは、モチーフの配置のパターンそのものが、「形式」でもあるという例です。そういう意味では、音階の構成音の内容、配列がメロディーの動きをあらかじめ規定する、「旋法」と似た性格を持ちます。旋法とは、元々、メロディーの構成音とリズムの「定型」「常套句」が規定されている音楽です。これらは、比較的古い時代に誕生した表現方法としての共通性です。また、多くの文化で、「定型詩」は、何らかの「ゆらぎ」、「言語のイントネーション」に近いメロディーを伴って「歌われる」ものでした。日本の短歌も、「和歌 :わか」と呼ばれた、「歌」のメロディーを伴ったものです。--百人一首などの「読み方」は誰もが耳にしたことがあるでしょう。--
調性音楽の動機は、この旋法のもつ「リズムとメロディーの定型・常套句」が、コード進行上での関わりと響きの上で「自覚された」もの、あるいはコード進行の上に「引き継がれたもの」と言えます。
旋法の「メロディー」は、「確定・限定された素材」としての音程構造と順次進行の差異と全体の音程構造によるものですが、これに「リズムの形」が加わって、「音楽」としての全体像を形成するわけです。
西洋の場合、前述の「教会旋法(チャーチ・モード)」の代表的作品群は、「グレゴリオ聖歌」と呼ばれる、単旋律か完全音程の重音による旋法です。グレゴリオ聖歌は、「ネウマ」と呼ばれる「フレーズの定型」を「横に引かれた四本の線」の上に、「記号」的に表す、五線の「記譜法」の原型・元祖とも言えるシステムを持っていました。古い時代の旋法の音楽は、洋の東西を問わず、これに類似したシステムを持ちます。ちなみに「ネウマ」とは、ギリシア語で「身振り・合図」という意味の言葉ですが、同じくギリシア語の「プネウマ=息・霊・息吹」を語源とするという説もあります。
広い意味で言えば、調性音楽も、ある種の「メロディーの定型、リズムの型」によって形成されるものです。コード進行とは、「複数のメロディーによる"響き”の型」であり、「響きの動きとしてのメロディーの束」だからです。特にルート進行、ベース・ラインは、調性の中で最も「型」のはっきりしたものとして、旋法の性格を帯びます。音楽の「定型・型」は、より古い時代からの連続性を持っているということです。
短歌・俳句は、リズムのモチーフの配置、順序は確定していますが、表現される内容は「言葉」ですから、より自由です。五・七の文字数より一音〜二音多い語句も用いられます。俳句の場合は、「季語を用いる」というルールを、言葉の「内容」に対して適応させ、一つの限定性を設けます。言語表現の芸術も、音楽と同じように、モチーフがつながる、関わりあう事によって、「テーマ(主題)」となります。歌詞を伴った「歌」は、この「詩」としてのモチーフのリズムと、「音楽」としてのモチーフとによる協働ということになります。
普通、「この小説・映画のテーマ・・・」と言う場合、全体を読み終える、観終えなくてはわからない、伝わらないもの、作者が意図しているメッセージ性を指すでしょう。しかし、そういったものは、鑑賞する立場によってまちまちなものです。音楽の「テーマ」は、「歌」の場合は、いわゆる「サビ」、楽曲の中心的な明確なメロディーを指しますが、クラシック等の比較的規模の大きな楽曲の場合、「テーマ」は、異なった形式の中で繰り返し変形されて用いられる、「少し規模の大きな動機」として扱われるメロディーを指します。いずれにせよ、「テーマ」は、ある程度の時間の経過と共に「全体像」を現します。
・メロディーとフレーズの違い
日本語では、一般的に、メロディー(Melody)を「旋律」、フレーズ(Phrase)を「楽句(がっく)」と訳します。Phraseのもう一つの意味は、「語句」ですから、「楽句」とは、「音楽の語句」といった意味です。
メロディーも、ある一部分を指す場合に、「フレーズ」と呼ぶことも一般的ですが、メロディーを構成するのは「動機」なので、「フレーズとメロディー」は、ここでは分けて論じます。
前述の通り、「メロディー」とは、「歌」です。楽器で演奏される場合のメロディーでも、「歌える」「歌的」なものが、「メロディー」です。こういったメロディーは、「声楽(声の音楽、歌)的メロディー」と呼びます。
対して、「フレーズ」とは、主に「楽器的、楽器だからこそ可能な音使い」を指します。楽器は、一般的に音域が一人の人間の声域(せいいき:声の最高音と最低音の音域)より広いものです。また、連続性に優れ、大きな音程の跳躍を伴った分散和音、重音、音階的な表現等々、「声」の傾向と「楽器」に可能な音使いは大きく異なります。
こういった、「楽器的、楽器だからこそ可能な音使い」を、「声楽的」に対して、「器楽的(きがくてき)」と呼びます。アドリブについて、「歌うようなフレーズ」と言う場合は、「歌的、声楽的なメロディー」を、「楽器」で演奏するという意味です。また、「歌」も、場合によっては技巧的な、器楽的なフレーズを持つ場合もあります。しかし、「歌」としてのメロディー、テーマは、前述の通り、楽曲の基本的なコード進行とメロディーを形作る絶対的な個性です。対して、「アドリブ・フレーズ」とは、メロディーによって決定された基本的なリズムとコード進行の上で、より自由に、細かいリズム、「パルス」を充たす形で、「コード進行を表現する”器楽的” ”パルス的” メロディー」となります。フレーズは、大なり小なり、即興性、つまり明確な「形」からの自由と変形の可能性を帯びるものです。あるいは、歌の「メロディー」が、意図的に・適度に「崩され・変形」されたり、「装飾される」事も、「フレーズ」の原型の一つです。
また、両者の違いは、「形の違い」であり、メロディー、フレーズ両者の「部分・部品」である動機の形、扱いの違いでもあります。本書は「歌」としてのメロディーを、コード/メロディー化する方法論を中心的に扱いますから、アドリブを含めた「フレーズ」の原理、組み立てについては第二巻の内容とします。「メロディー」の原理を、コードとの関係を理論編Bで扱い、リズムと音形との関係をここで扱います。これらの仕組みを理解すれば、自ずと「フレーズ」についても理解が進みます。動機の形の違いはあっても、コードとパルス的メロディーの関係は、やはりコードと歌的メロディーの関係に順ずるものだからです。
それでは、「メロディーの動機」について詳しく見てゆきましょう。
・メロディーの動機
下記は、Autumun Leaves のリード譜です。一般的に、リード譜が記すのは、「テーマ」の全体です。リピートされるAメロ、つづくBメロの二部形式です。
「4分休符と、4分音符三つ|全音符」が、この楽曲の中心的な動機です。動機とその形、変形に注目する時は、楽譜全体を、「模様」の様に眺めて見てください。そうすると、「形」「模様」としての、全体の音形のバランス、規則が見えてきます。「模様」としてのメロディーを確認したら、楽譜の下に数字で示した、メロディーのルートからの度数にも注目してください。調性音楽の動機は、「コード・トーンを軸としたメロディー」の「動きの向き・リズムの形」です。
「 1.
G7 Cm7 F7 BbM7 EbM7 Am7b5 D7 Gm G7
R 2 B B R 2 B B R 2 B B R 2 B B
「 2.
D7 Gm6 Am7b5 D7 Gm6 Cm7 F7 BbM7
DF6 R M7 R D4 D B B R GF B
EbM7 Am7b5 D7 Gm6 Am7b5 D7 Gm6
Fb7(+6) D B D F D R B D 6 G G
その楽曲で最も多く用いられ、中心となる動機は、大抵、楽曲の始まりに現れます。これを、「動機の提示」と呼びます。動機の第一の特徴は、「繰り返される事」です。前半の8小節では、コードにとってのメロディーの度数、「4分休符、ルート 2度 3度|3度」の二小節を、四度進行の連続の中で繰り返しています。また、「順次進行で3度音程の和声音を音階的につなぐ隣接音」を「経過音」と呼びます。--非和声音の分類と動きについては、理論編B:非和声音とメロディーの章で詳しく述べます。--
@
動機は、ほとんどの場合、リズム、音形のいずれかが異なる、さらに小さな部分によって構成されます。この楽曲の場合は、「4分休符と4分音符三つ」と「全音符」です。休符で始まる動機は、メロディーの起点が「弱拍」ですから、「弱起(じゃっき)」と呼びます。弱起の動機は、ほとんどの場合、小節線をまたいで一つの動機の単位、「メロディーのまとまり」となります。Aメロは、この動機が四回「繰り返される」ことで形成されています。
リピート後のAメロの「締めくくり」は、リズムは同一で、4分音符の形が「変形」されています。最初の動機は、順次進行の上昇から、四度の跳躍でしたが、この変形は、4分音符で跳躍し、全音符へ向って下降しています。
@’
こういった「変形」が動機の第二の特徴です。変形されるのは、第一に音の向き、第二に音程の広さです。第三に、音の向きを変化させず「リズム」を変形させる場合は、動機の形全体が、広がるか、狭まるので、こういった変形を、「動機の拡大」、「動機の縮小」と呼びます。上記の楽曲で言うと、上二段は、最初の動機と同一のリズムで、最後の段で、下降傾向のメロディーとして、音程、音価共に、ゆったりと大きなリズムに「拡大」されています。
動機の形、リズムを変形させる事、また、動機を「部品」として配置する事を、「動機操作」と呼びます。
リピート後の8小節、Bメロの動機は、最初の動機の「変形」です。最初の動機が、4分音符の上昇の順次進行「/」の形からの同方向の跳躍、直線的な音形であったのに対して、次の動機は4分音符が「凹」の形からの同方向の順次進行、谷型です。こういった非和声音の形、「同一の和声音に、2度進行、順次進行で挟まれる隣接音」を、「補助音」と呼びます。
A
また、4小節、8小節の単位でメロディー全体の流れを見てみると、アウフタクトの0小節目から7小節目までの4分音符の動機全体が、順次進行で下降している事がわかります。リピートの後の8小節は、逆に、順次進行で上昇して行きます。
G7 Cm7 F7 BbM7 EbM7 Am7b5 D7 Gm G7
R 2 B B R 2 B B R 2 B B R 2 B B
これらのメロディーの構成音は、それぞれのコード上の同じ度数です。このコード進行、四度進行の連続は、Gmのキーとして捉えると、I7‖:IVm7|bVII7|bIIIM7|bVIM7|IIm7b5|V7|I7 となり、これを一つとばしでならべると、I7−bVII7−bVIM7−V7、IVm7−bIIIM7−IIm7b5−I7となります。
I−bVII−bVI−V と、 IV−bIII−II−I という二重の2度下降進行を内包しています。二つのコード進行の単位で、コードの構成音全体が、2度下降してゆくわけです。
「整った楽曲」あるいは「わかりやすい楽曲」とは、こういった「コード進行の内側の目立たない順次進行」を、楽曲の広い範囲にまたがって持つ事で、より広い範囲での、「上昇・下降」の「志向」とでも言うべき、メロディーの大きな山形を形成しているものです。また、メロディーのまとまりの「最高音」を、「頂点」と呼びます。Aメロの頂点は最初の小節に現れるE音です。テーマ全体の「頂点」は、リピート後に現れるF音であり、やはりこれらの頂点が、全体の上昇・下降の傾向の開始点・到達点となります。一般的に、テーマの頂点は楽曲の後半に現れます。一般的に、メロディーの音域・傾向が「上がってゆく」ことは、ある種の緊張・興奮が増して行く感覚、「下がってゆく」ことは、緊張が鎮まり、何らかの帰結の感覚を促し、より広い範囲、「楽節・形式」の響きとして作用します。
また、小節線のメロディーのまたぎ方は、最初の動機では、コード進行の四度進行に従って、3度から3度への跳躍ですが、リピート後の動機は、順次進行で小節線をまたぐ傾向です。
リピート後の二段目最後の二小節では、F7のルートから8度への積極的な跳躍が行われ、逆方向へ順次下降して、やはりBbM7の3度へ進行しています。
B
この動機は、@’ リピート後の最初のD7の動機の変形です。跳躍の音程は「拡大」されています。こういった「部品」的な動機の形が、「物語の”伏線”」のように、「目立たず、あらかじめ」用いられるのも動機の特徴です。
最初の動機の繰り返しの「締めくくり」と、このF7の小節の動機の突然の変化、「積極的な変化」は、繰り返された動機の形が、ある種の「慣れ」、先が読める、安心できる雰囲気を聴き手に与えてから、「慣れ」が「飽き」になる寸前で、大きな変化、「展開」を与えるという「手法」、あるいは、「動機自身」が持つ、求める、促す、「志向」です。
こういった事を、方法として作曲者が意識しているかどうかは別として、動機の「操作」とは、もちろん、「意図」「作為」です。しかし、曲を作っている、書いている者自身が、先ず、「最初の聴き手」であるわけですから、繰り返しの与える、慣れと変化の、いわゆる心理的、音感的な欲求に従って、動機は変化されるわけです。
このF7の小節の大きな上昇の跳躍と、逆方向、下降への順次進行の形は、「拡大」される事で、最後の8小節の動機の「原型」となっています。つまり、全体的に上昇の大きな跳躍の後、下降傾向となる、「大きなメロディー」となっています。一般的に、メロディーもフレーズも、「大きな跳躍の後では、逆方向の順次進行でバランスを取る」といった形を多用します。
EbM7 Am7b5 D7 Gm6 Am7b5 D7 Gm6
--メロディーの動機の扱い、個性については、理論編B: の最後に、複数の楽曲をコード進行とメロディーの関係を中心に詳しく分析しますが、様々なリード譜を、「読む」だけでなく、「模様」として「デザインとして」、一歩引いて眺める、見るようにして下さい。--
・コード・スケールとアヴェイラブル・ノート・スケールの内容
さらに、Autumun Leaves 全体のコード・スケールにも注目してみましょう。歌のメロディーは、「音階の構成音」の一部分、場合によっては「一音」しか現しません。大きい休符の場合は、コード進行上に「メロディーが無い」場合もありえます。
しかし、調的に複数の可能性がある場合のコードに対しては、メロディーの「変化音の有無」によって、メロディーのコード・スケール、アヴェイラブル・ノート・スケールの内容と、前述の「浮動音的なオルタード・テンション」の有無がわかります。
G7 Cm7 F7 BbM7 EbM7 Am7b5 D7 Gm G7
最初の8小節、まず、ゼロ小節目のG7は、平行長調のトニックBbM7のIImへの二次的ドミナントVI7です。原則的なコード・スケールはMixolian b6 ですが、トニック・マイナーのルートから短3度へのフレーズとして、B音がフラットされています。このBb音はGmの短3度であり、#9thのオルタード・テンションです。このテンションを持つコード・スケールは、Spanish 8th Notes、Alterd V7 ですが、両者はb9(短2度)を持つものの、長2度を持ちません。そこで、長2度、短3度を持つ音階としてBlues Scale がコード・スケールとなるでしょう。
このI7は、リピート後はTmの終止からの引継ぎですから、「IVmの二次的ドミナントとして変形されたI7上で、Tmのフレーズが歌われる」といった形になります。前述の通り、長3度を持つT7上で「短3度」が歌われるのがブルースの特徴ですから、ある意味ではその性格に一致しますが、ここでは特に「ブルースの響き」を狙うものではありません。リード譜の版によっては、このコード進行 Tm I7|IVm7 〜 の進行は、Tm |IVm7 〜 と、Tmのままの場合もあります。その場合は、Tmのメロディーとして全く矛盾しません。
Tm−I7|IVm7〜 というコード進行の流れから考えると、短調から平行長調への転調ですから、「転調部」にあたり、こういった調的な重なりの強い部分には、特に、前述のオルタード・テンションの「浮動性」が現れます。--「転調部」に関しては、理論編B: 「明らかな転調のパターン」の章を参考にして下さい。--
しかし、上記の例を「利用」する事も含めて、短調は調的に、ブルース的な音使いが容易な形式でもありますから、ブルー・ノートの音使いについては詳しく後述します。
6小節目のD7、GmのV7のコード・スケールは、Harmonic minor P5 Below か Mixolydian b6 ですが、このメロディーは、長2度を持つため、Mixolydian b6 が充てられています。つまり二次的ドミナントの原則的なコード・スケールが用いられているわけです。
他のコード・スケールは、変化音を持たず、ルートから3度をつなぐのみですから、全てダイアトニックの原則的なコード・スケールです。
下記のリピート後のAメロの締めくくりには、GmのT音への導音F#音が現れます。トニック・マイナーのコード・スケールとしての、Harmonic minor か、Melodic minor がメロディーに充てられています。
D7 Gm6 Am7b5 D7 Gm6 Cm7 F7 BbM7
こういった音形、「コード・トーンに挟まれて現れる、半音音程の非和声音」、「すぐにコード・トーンへ半音進行して解決する」非和声音は、「半音変化した補助音」である場合もあります。下記1小節目のEbM7の増6度は「半音変化した補助音」にあたります。半音変化させられた補助音は、トニックへの上昇の導音と同じく、半音進行の強い進行感でコード・トーンを修飾します。
EbM7 Am7b5 D7 Gm6 Am7b5 D7 Gm6
理論編:B で詳しく述べますが、「半音変化した補助音」は、「半音的補助音」と呼ばれます。これは、「コード・スケール」、「アヴェイラブル・ノート・スケール」の構成音ではなく純粋に「装飾的」な音使いとしての場合が多いものです。かといって、「飾り」だから「要らない音」というわけではありません。メロディーの個性に非常に強く関わっています。
半音の変化音が、コード・スケールの構成音であるか、「装飾音」であるかの判断は、音使いが装飾音の形をとっているか、いないか、また、その変化音を含むコード・スケールがあるかどうかといった単純な判断で差し支えありません。上記のEbM7に対する増6度=短7度は、M7のコード・スケールとしてのIonian、Lydianとも矛盾するので「半音変化された補助音」です。