フレーズの類型と分析
・フレーズの類型(タイプ)
パルスを充たす形のフレーズは、その動機の形、あるいは連なりの「傾向」として、おおまかに、以下の3つに分ける事が可能です。
1.音階的な動機
2.分散和音的な動機
3.狭い音域の明らかな音形の動機
4.複合的・即興的な動機
まず、1.「音階」 2.「分散和音」の2つの類型は、調性音楽の音の素材を「線」として扱う場合の原型です。音階は順次進行の連続であり、分散和音は跳躍進行の連続です。これらのタイプわけは、実際の音楽のフレーズとしては重なり合う要素を持ち、また交互・交換、組み合わせて用いられる事が普通です。また、「音階的な動機」も、「分散和音的な動機」も、パルスの3音、4音を部品とする「動機」の組み合わせである事がほとんどです。
さらに、音階的な傾向、分散和音どちらとも言えない狭い音域のフレーズは、テーマや何らかの「歌的なメロディー」、あるいは音数の少ない分散和音、コード・トーンの装飾である事が多いものです。これらも、パルスの3音、4音を部品とする動機を形成します。
1.音階 2.分散和音 3.装飾的動機、音形の動機 いずれも、明確な単一の傾向を持つ場合もありますが、いわゆる「フレーズ」とは、これらの要素が重なり合うものです。特に「即興性」つまり、同時的な変形、選択の可能性を実行するフレージングは、明確な動機の傾向に縛られず、上記の要素が自由に選択、交換されます。こういったフレーズの音形を、4.「複合的な音形」あるいは、「即興的な音形」と呼ぶ事が出来るでしょう。
また、前述の通り、「メロディー」は、楽曲のテーマとして、コード進行を決定する、もしくは開始させる要素ですが、フレーズは、確定したコード進行を、歌的メロディーを装飾する事や、ある程度機械的なパルスの音形で表現します。つまり、フレーズとは、元々、ある程度の即興的な性格を帯びるものです。メロディーの”装飾・変形”は、比較的音価の大きい音に、細分化された「揺らぎ」的な音形を与えたり、跳躍進行を順次進行で「つなぐ」事等を、その方法論とします。装飾・変形ともに、「確定した」「不動」なものと逆の意味合いとして、「即興的」であると言えるでしょう。
--さらに、西洋音楽のロマン派後期以降の音楽と、ジャズ・ポピュラー音楽に特徴的なもう一つ類型を加えるなら、ブルース等の「旋法」、つまり音階の個性による「定型」をもったフレーズのとして、上記4に加えて、旋法的な動機 が挙げられます。このメロディーの特徴は、理論編B:で述べます。--
・非和声音の類型
フレーズの類型を具体例によって見てゆく前に、メロディーの構造で触れた、「非和声音」について、簡単に整理しておきましょう。以下譜例、CMが和声音です。経過音、補助音は先に述べた通りです。非和声音が順次進行で和声音に変化する事を、「非和声音の解決」と呼びます。
経過音 補助音 倚音
また、「経過音」は、先のコードの構成音から、次のコードの構成音に挟まれる順次進行も含まれます。「補助音」の場合は、前後に共通する和声音が、コードの変わり目で、先のコードの非和声音によって装飾される場合も含まれます。
経過音 補助音
G7 C C G

「倚音(いおん: よりかかる音)」は、拍の表か、跳躍進行で現れる非和声音です。経過音、補助音の非和声音を挟む、「直前の和声音」が省かれたものという性格を持ちます。もう一つの性格は、「直前の和声音」から跳躍進行で倚音にいたる場合です。順次進行に挟まれる非和声音は、経過音か補助音だからです。
ディレイド・リゾルブ 先取音 繋留音
連続補助音 連続倚音 逸音 C F
G7 C
G7 C
「連続補助音」、「連続倚音」は、非和声音の連続です。通常、二つの非和声音が連続し、後の非和声音が順次進行で解決します。一つ目の補助音の直前の和声音を省いた形を、連続倚音と呼びます。ここでは、ジャズ・ポピュラーの音楽理論用語、「ディレイド・リゾルブ (Delayed Resolve)」=「遅れた解決」にまとめます。最も多く用いられるのは、非和声音が3度の跳躍をして、3度音程に挟まれる和声音へ解決する形ですが、この跳躍音程は3度以上に拡大される場合もあります。
「逸音(逸れた音)」は、解決が省かれた非和声音です。上記の場合、CM7の場合、9thのテンションでもあります。「先取音(先取り音)」は、続くコードの和声音がコードの変わり目で先取りして打たれ、小節線もしくはコードの変わり目をまたいで、同じ音が連続して打たれるか、タイで結ばれて持続します。
「繋留音(けいりゅうおん:つなぎとめられた音)」は、英語では、Suspented Notes サスペンション・ノートもしくは、サスペンデット・ノート と呼びます。繋ぎ止められた、あるいは、ぶら下げられた、浮かんでいるといった意味ですから、非和声音が解決せずに緊張を伴って響きを持続する形を指します。上記の場合、G7から一時的なC Sus4となり、Cへ解決しています。繋留音は、タイで結ばれて、先のコードにとってのコード・トーンが持続します。この、先のコードのコード・トーン、タイで結ばれる「先」の音を、繋留音の「予備音」と呼びます。
ディレイド・リゾルブ、逸音、先取音、繋留音については、理論編B:で詳しく述べます。
・フレーズの分析
ここでは、明確な傾向を持つフレーズの、それぞれの基本的な形を見てゆきましょう。
以下譜例は、モーツァルトのソナタをシンプルなコード・メロディーに編曲したものです。--コードのフォームの連結は、ギター編曲の性格上、いわゆる「和声法」に則さない部分を持ちますが、響きを確かめて下さい。--原曲はアレグロですが、響きを確かめるため、無理の無いテンポ、抑え気味のテンポで弾いてください。指弾きの場合は、要所にスラーを入れたほうが弾きやすいでしょう。
最初の4小節は、この楽曲の最初のテーマであり、「歌的なメロディー」です。古典期の器楽曲は、こういった歌的なメロディーが提示されてから、音階的、分散和音的な器楽の技巧的なフレーズを楽しむパターンが多いものです。
--こういった器楽的なフレーズの楽節は多くの場合、属調に転調した二つ目のテーマへ向うため、「移行部」または「転調部」と呼ばれます。楽曲の構造と仕組みはかなり異なりますが、バロック期の形式である「フーガ」では、最初の主題と属調へ転調された主題の間に、同じように自由な、特に器楽的な楽節が用いられ、「嬉遊部(きゆうぶ)」と呼ばれます。こういった場面では、後述する「変奏」と同じく、いくらかの即興性と、器楽的な要素の強いフレーズが現れます。--
古典期のフレーズは、それぞれの部分的傾向が非常にわかりやすいものが多く、フレーズの基本的な類型を学ぶのに都合が良い実例が豊富です。
C G7 C F C G (G7) C
F C Dm7 G7
B D B B
C Dm/A F F6/D
B G D 4 B D G G B B
G C G C G
B G B G D
5小節目以降の4小節、それぞれのコード上の「コード・トーンのオクターブの音階」の、「山形(やまなり)」の1.音階的動機のフレーズが連続します。例えば5小節目のF上でのA音からA音へのオクターブは、「Aeolian」と一致しますが、当然の事ながら、IV Lydianの3度からのオクターブです。調性音楽でのこういった「あからさまな音階のフレーズ」は、「コード・トーンを順次進行で連結する音階」、つまり、コード・スケールとして機能します。F上では、3度からオクターブ上の3度へ到り、3度へ回帰する形、以後Cは5度から5度・・・となっています。それぞれのコード上での度数に注目してください。
9小節目以降、違う形の音階的フレーズとなります。9小節目は、「上昇指向」の形をとって、同方向の音階を、コード・トーンからコード・トーンの跳躍によって「仕切り直し」をする形です。このDm上の音階は、Dorianの短7度が長7度へ変化され、D Melodic minor になっています。TMのCから、2度上の短調への一時的な転調ですが、ここでのDmの扱いは、DのTmでもありますから、「一時的な明らかな転調」とでも呼べる響きです。こういった部分的な「音階の変更」は、「モーダル・インターチェンジ」の基本的な用い方の一つです。トニックからトニックへの転調の性格は持つものの、続くFにはDmの短調、もしくはFの長調としての変化音は無く、CMのIVMとして機能していますから、やはり一時的な転調です。--古典期にはこういった「マイナーの機能和音の一時的トニック・マイナー化」は一般的に用いられましたが、後の時代ではそれほど多用されるものでもありません。しかし、ジャズ・ポピュラーの「アヴェイラブル・ノート・スケール」として、特にIIm7やIVm7等のサブ・ドミナントに活用が可能なものです。アヴェイラブル・ノート・スケールの章に詳しく述べます。--
10小節目も、山形の音階の動機が、5小節目からの動機を「縮小」した形で連続されるものです。これらも「コード・トーンをつなぐ経過音」としての音階である事に注目してください。
これらの順次進行の連続による動機が、小節線をまたぐ形、つまり「コードの変わり目でのフレーズの動き」にも注目してください。5小節目以降は、全て順次進行によって、コードの連結が表現されています。コードの変わり目という響きの変化を、順次進行の滑らかさで連結する、またぐ事は、「コード進行を表現するフレーズ」において、非常に重要な要素の「一つ」です。この楽曲の場合、フレーズそのものの順次進行の連続性と、コードの変わり目でのフレーズの動きに一貫性を持たせています。
11小節目は、大きな跳躍から逆方向への跳躍を繰り返すバランスを持った、部分的な明らかな分散和音です。この音形も動機としてのパターンを持ち、12小節目は11小節目の動機の2拍を「拡大」した形になっています。
・以下譜例は、パガニーニの24の奇想曲の24番です。奇想曲の「Capriccio :カプリッチョ」とは、気まま、自由といった意味のイタリア語で、ソナタ、ロンド・・・等の明らかな形式を持たない、比較的自由な形式、軽快な器楽曲の総称として用いられますが、この楽曲の場合、「主題と変奏=テーマとヴァリエーション」の形式を持ちます。主題と変奏の場合の主題(テーマ)とは、最初に提示される短く、歌的な要素の強いメロディーで、この主題が続く変奏のコード進行と基本的なリズムを確定させます。
「変奏」とは、「歌曲」のテーマや、器楽的であっても明確なテーマを、コードとメロディー(フレーズ)の関係性に従って”変形”する、編曲、作曲を言います。変奏曲に限らず、テーマが、繰り返しの中で、いわゆる「フェイク」される、メロディーの一部の変形や、若干のリズムの変化を伴う事も、変奏に含まれます。
形式としての「変奏曲」では、それぞれの変奏は、明確な動機の形を一貫させる事で変奏のまとまりに一つの統一感を与える事が普通です。つまり、音階的、分散和音的・・・といったフレーズの傾向も明らかでわかりやすいものです。こういった性格は、ジャズ・ポピュラーでの、いわゆる「整ったアドリブ」に通じるものでもあります。1コーラス、あるいは楽節毎に、何らかのモチーフの統一性を持たせたアドリブは、「変奏」としての性格を帯びます。また、フレーズとはテーマによって確定した基本的なビートとコード進行の上で歌われるものであり、動機の操作によって何らかの統一性と変化、「変奏的」な要素を持つものです。
主題(テーマ)
Am E7 Am E7 A7 Dm
G7 C Bm7b5 Am (B7b5) E7 Am
テーマは「比較的狭い音域」の「3.明らかな動機」の形であり、こういった動機はそれぞれのコード・トーンを中心に動きます。動機の特徴である「繰り返し」と、それに伴った「変形」によって全体を構成していることにも注目してください。それぞれの動機は、コードの特徴的な構成音、最初の4小節の場合、8度と3度を強調し、5小節目のA7は、b9thの変化音を伴っていますから、Harm.minor P5 below か、Spanish 8th Notes をコード・スケールとするフレーズによって、8度と7度を強調しています。続くDm、G7の度数にも注目してください。
この最初の4小節は、後半にコードの8度から3度への跳躍から、逆方向への順次進行によって3度音程を「充たす」形の動機を持ちます。こういった、「コード・トーン同士の跳躍から、逆方向の順次進行によって跳躍した音程を”充たす”」形の動機は、コードの響きを表現する動機として多用されます。リピート後の動機は、A7、G7に、この跳躍が「縮小」され、順次進行による補助音と逆方向への順次進行の動機に変形された動機が交互に現れます。
また、このメロディーの小節線は、大きな跳躍によってまたがれている事も特徴的です。コードの変わり目の跳躍進行は、多くの場合「コード・トーンからコード・トーン」への動きです。コードの4度進行とその転回の5度進行が多用されています。
リピート後の7小節目の1拍目のF音、D#音は、オクターブのE音へそれぞれ半音で解決しています。音域の広い「連続倚音」と言えます。F音はD#音を挟んでE音へ半音下降で解決していますが、D#音はオクターブ下のE音を挟んでから解決しています。二重の意味で「解決の遅れ」です。--こういった音形は、後述する「ニ声の原型」を持つものです。--また、7度、9度の音程は転回すると2度上下ですから、これらの音程の跳躍は、順次進行が「別の音域でなされる」、別の音域で「仕切りなおす」といった性格を帯びます。
--この二音を、E7の二次的V7、B7の減5度、長3度と捉えるなら、4度進行の典型的な解決ですから分散和音と言えます。フレーズには、こういった細分化された、また部分的なコード・トーンの「分散」が多用されるものです。コード付けする際にはこの1拍をB7b5とする必要はありませんが、D#がE音への導音であり、二次的ドミナントの特徴的な音でもあります。--
続く変奏1.は、明らかな分散和音による器楽的なフレーズです。
変奏 1.
Am E7 Am E7
A7 Dm G7 C Bm7b5
Am E7 Am
譜割が少々複雑に見えますが、原曲の記譜は以下の様に装飾音譜を伴った3連符です。ちなみにこういった装飾音は「複前打音(ふくぜんだおん)」、--複数の装飾的な前打音--と呼びます。古典期以降の前打音、複前打音は、装飾される音「主音譜(しゅおんぷ)」が拍子に合うように弾く事が一般的ですから、上記譜例の場合、小節線をまたいで先の小節の最後の拍の3連譜の最後の音から前打音が始まる形となります。
構成音も、各三和音を2オクターブの音域で繰り返すだけですから、非常に単純なものです。主音譜の動きは、最初の4小節は下降傾向の連続、リピート後は、2小節の単位、つまり二つの和音にまたがっての、下がって上がる「山形」を形成しています。最後から二つの小節は、「締めくくり」として、E7の大きな跳躍の分散和音と導音からAmのトニック音への解決をしています。コードの8度からルートへの8度の跳躍はテーマにも現れる音使いですが、特に「締めくくり」に現れる音形です。それぞれオクターブの同じ音を強調するわけですが、下降してルート音に落ち着く形が多用されます。
変奏2.
Am E7 Am E7
A7 Dm G7 C
Bm7b5 Am E7 Am
変奏2.は、比較的狭い音域の「音階的な動機」と、順次進行を挟んだ分散和音によって、「明らかな動機」を形成させています。1小節の単位の動機は、コード・トーンを装飾する半音変化した装飾音の連続と、次のコードの最初の拍のコード・トーンへ順次進行する音階的なフレーズとの組み合わせです。半音変化した補助音を取り除くなら、最初の四小節は、以下譜例の様に、「四分音符と、16分音譜の音階的な動機」として単純化されます。各動機の最後の16分音譜は、「次のコードの和声音への経過音」です。
Am E7 Am E7
この「次のコードのコード・トーン--8度--への音階的動機」は、最初の小節からリピート後の5小節まで、「上昇・下降」と逆方向になっています。部分的な動機操作です。またリピート後の2小節目、4小節目の音階的上昇の動機は、直接順次進行によって小節線をまたがず、一度コード・トーンの8度へ跳躍してから、次のコードのコード・トーンへ跳躍しています。この場合も、「先のコード・トーンから次のコード・トーンへの跳躍」によってコードの変わり目を表現するフレージングです。DmからG7へのフレーズは、Dmの短3度からG7の8度へ順次進行が可能ですが、動機の形とつじつまを合わせるように一度8度へ回帰してからG7の8度へ跳躍しています。強い進行感を持つ四度進行をコード・トーンの8度から8度の跳躍が表現しつつ、やはりDmのF音からG7のG音への順次進行の連続性も隠しているといった響きです。続くBm7b5はFM6の転回でもありますから、同じようにメロディーの四度進行によって小節線をまたぐ事で、強い進行感をあらわしています。
また、Bm7b5、Amの動機とも、後半の2拍は5度-3度-2度-Rの、2度を経過音とする「順次進行を挟んだ分散和音」です。5度からルートへの下降のフレーズを4音の動機で直線的に結ぶ場合、4度、2度のいずれかが経過音として扱われるわけです。
最後の2小節は、変奏1.と同じく、後半の2拍にE7の大胆な跳躍を、E7のb9のテンションから8度のリゾルブの形を絡めています。コード・トーンから跳躍で現れる非和声音として、「倚音」の響きです。E7の3度からトニックのA音への解決はこの楽曲に通じて見られるメロディーの「締め」です。
以下は変奏4.です。この変奏は、経過音を細分化した、半音階的なフレージングと、分散和音の組み合わせとなっています。「経過音的な半音階」とでも言うべきフレーズです。
変奏4.
Am E7 Am E7
A7 A7 Dm G7 G7 C
Bm7b5 Am E7 Am
変奏2.と同じように半音変化した装飾音(この場合経過音)を取り除いて、コード・スケールの音を骨格として残すなら、以下のようになります。要はAmの8度から5度、E7の8度の装飾と分散和音の跳躍を、半音単位の音使いで装飾したフレーズというわけです。
Am E7 Am E7
R G D G GDBR
一見複雑に見える音使いほど、コード・トーンを明確な軸とし、また明確な方法・傾向の細分化された装飾音を持つものです。
この変奏4.では、下降傾向の半音階的な経過音を伴った音階的動機に加えて、下降傾向の分散和音が特徴的です。リピート後の4小節は2小節単位の動機の繰り返しで、コードにとっての度数が同一です。テーマのコード進行から若干の変更が加えられ、前のコードが2拍食い込む形になっています。リピート後の2小節目のような、A7の3度-5度-8度-3度のような動きは、3度を中心とした上昇と下降の若干複雑な形ですが、それぞれが和声音であり、コード・トーン同士であればこういった大胆な跳躍を自由にする事が可能であることも分散和音の特徴です。最後の4小節は、1小節単位の動機の反復による二小節と、1小節ごとの音階的動機、分散和音の下降のフレージングです。Amの音階的動機が、直線的にE7に引き継がれ、結果的に倍の範囲の下降傾向の音階的フレーズとなっていることも見逃せません。
「反復の範囲、繰り返しの数を狭めて行く」事、「次第に同方向のフレージングを強調、反復する」等の操作で緊張感を高めているわけです。
以下変奏7.は、「補助音」による明らかな動機の形です。A7上のBb音は、b9th、短2度として、Harm.m P5 Below か Spanish 8th Notesの構成音です。この半音の補助音もアクセントになっています。
変奏7.
Am E7 Am E7
A7 A7 Dm G7 G7 C
Bm7b5 Am Bm7b5 E7 Am
補助音で装飾された和声音を抽出するなら、以下のように、ごく単純な分散和音となります。各和声音がフレーズの軸となるわけですから、跳躍進行するわけですが、例えば、5度 3度 ルートの三和音のそれぞれの3度音程の音域が、順次進行の装飾音で「補充」される響きとなります。また 、このフレージングは、「高音域・高音弦 : 低音域・低音弦」の音色の違いを交互に楽しむ器楽的な動機であり、後述する「ニ声(複数のライン)を単旋律で歌う動機」でもあります。 -- なので、こういったフレージングは、記譜の上では、歌っている音域と実質上休符になっている音域として、譜尾(ふび: 音符のしっぽ)の向きをかえて「書き分ける」事が普通です。--
Am E7 Am E7
変奏4の場合は、後半に従って同方向の動機の反復で緊張感を高める形でしたが、変奏7の場合、全体的に下降傾向に配置された各和声音を、2オクターブの広い音域の跳躍を反復する事で、フックを与えています。しかし単に反復の音形というだけでなく、交互に歌われるニ声(高音域・低音域)のリズムが変化されて徐々に緊張し、最後の2小節が、明らかに小節線をまたぐグルーピングとなっている所も見事です。
・複合的なフレーズと即興的なフレーズ
前述の通り、フレーズはいくつかの類型に分けることが可能ですが、実際のフレーズ、特に即興的な音形を持つものは、音階・分散和音・明らかな動機全てが混在した性格を持ちます。ここまで挙げたものは、明確なフレーズの傾向、動機の形が練られ、意図的に統一感をもたせて組み上げられたものです。
「即興」の「興 (きょう)」とは、”興味””興じる--楽しむ事--”等、心に生じる何らかの積極性を指し、「即」とは”即座--すぐに”、”即する--一致する、合う”といった意味です。調性音楽の「即興」演奏とは、単旋律であっても、何らかのコード進行を想定してなされる、むしろ単旋律や独奏ほど、「伴奏」の和音に「依存」せずに、コードの響きと進行感を積極的に表現するものです。
この「即興性」とは、必ずしも、「好き勝手に、指の(?)おもむくまま」という意味ではなく、当然「でたらめ」ではありません。また、「その場で思いついたフレーズのみ」であるかとか、「同じパターン、動機を使わない」といった意味もありません。実際、どんなに複雑なフレーズであっても、いわゆる「演奏形態」としての「即興演奏」であっても、それが調的に有効に響いているものであるなら、結果的には、調的にふさわしい形で、なんらかの動機の操作、反復の性格、フレーズの傾向を持つものです。しかし、ここでは、演奏形態としての即興演奏の方法論と、「即興”的”フレーズ」とは分けて考えるようにして下さい。
つまり、「即興的なフレーズ」とは、「明確な音形・動機に縛られない」という意味合いを持ちます。アドリブ・フレーズ、あるいは即興的なフレーズとは、「部分的には」それぞれが音階的、分散和音的・・・何らかの傾向を持つものの、必ずしもそれに縛られない自由な音形、あるいは「複合的な音形」ということになります。しかし、「即興的」に、動機が反復される事も、巧妙に動機が操作される場合もあります。
特に、「テーマをコード・スケールとしての分散和音と半音変化した装飾音によって変形する」、「コード進行をフレーズで表現する」といった、調性音楽の即興演奏とは、ジャズのアドリブも含めて、「フレーズの事前作曲の同時編曲・同時変奏」といった性格を帯びます。
以下は、奇想曲の変奏10.エンディングの二つ前の変奏で、パルスは16分音譜ですが、一般的にゆったり、たっぷりと歌われます。もちろんこの変奏も、恐らくはじっくりと練られたものですが、他の変奏と比べて、狭い範囲での単純な動機を持たず、広い音域をトレースする、音階と分散和音の複合的なフレーズとなっています。他の変奏が、比較的機械的な動機の技巧を楽しむものであるのに比べて、細かいパルスですが、「歌う」「聞かせる」といった変奏で、変奏曲としての全体の構成、展開、つまりは「形式」の中での、ある種の意図、計算を感じさせるものでもあります。この変奏の後は、やはり技巧的で最も派手な変奏が続き、息をつかせずにフィナーレ(エンディング)へと向います。
最初の4小節は、二小節の単位で、下降傾向、上昇傾向の音階的なフレーズによって広い音域をトレースしています。4小節目の1拍目のD#音は、付点8分音譜の「粘る」倚音です。E7の構成音、あるいはコード・スケールとしては長7度として決定的に矛盾する音ですが、8度への半音変化された倚音として用いられています。リピート後の4小節は、二小節単位の比較的広い動機の反復ですが、6拍が分散和音、最後の2拍が、倚音からの音階的順次進行が複合されたものです。
変奏10.
Am E7 Am E7
A A7 Dm G G7 C
Bm7b5 E7 Am Bm7b5 E7 Am
最後の4小節は、先の2小節単位の動機の終わりの2拍が分散和音に変形され、以下のようにグルーピングが小節線をまたぎ、下降傾向のフレーズが、大きな跳躍進行でつながれる、やや複雑なシンコペーションとなっています。複合的なフレーズです。
以上、この変奏10.のように、音階的な動機と分散和音を織り交ぜ、動機の反復を持ちつつも、何らかの対比を見せるフレージングは、比較的即興的な要素を持つものであると言えるでしょう。また、現代では、「古典」の音楽は、確定した、不動の伝統音楽としての「古典」として扱われ、演奏者による即興演奏の機会が少ないものですが、リアルタイムでのこの時期の西洋音楽は、特にバロック期に盛んだった即興演奏の習慣を引き継いでおり、こういった変奏曲に、「演奏者による変奏」が挟まれたり、他の形式の楽曲でも、例えばオーケストラ曲の独奏協奏曲(バイオリン協奏曲やピアノ協奏曲等々)のフィナーレ、カデンツァ(楽曲の最後)に、いわゆるアドリブ的な演奏がなされる事は普通に行われていました。--カデンツァでの即興は、楽曲によっては、演奏者によっては現在でも稀になされるものです。普通は、過去の演奏家が即興的に演奏した内容を「書き留めた」もの、いくつかのヴァージョンの中から選択して演奏します。-- また、前述の通り、変奏曲とは、そもそも、ヴァリエーションを楽しむといった意味での”即興性”をもつものです。
しかし、この変奏がおそらくある程度「練られたものである」という事は、「動機の操作」という点においても明確なものです。これまで触れていなかった動機操作を補足してから、各動機とその変形、操作を確認しましょう。
まず、基準となる動機を、五線譜で言えば「180°回転させた音形」を、「動機の転回」と呼びます。
180°回転
●上昇●下降●下降● の音形を転回させると、●下降●上昇●上昇●となります。
基準となる動機を、「後から読む」音形を、「動機の逆行」と呼びます。
●上昇跳躍●順次下降●順次下降 の音形を逆行させると、●順次上昇●順次上昇●跳躍下降となります。
基準となる動機の、「上昇・下降」の進行を、一音づつ「逆」にしたものを、「動機の反行」と呼びます。
●上昇跳躍●順次下降●順次下降 の音形を反行させると、●下降跳躍●順次上昇●順次上昇●となります。
これらの音形の中での「順次進行、跳躍進行」の音程の内容は、「拡大・縮小」される事も可能です。また、変形される動機の音の選択は、和音の進行の文脈に従って、柔軟に変化されます。いずれにせよ、上記のように「音の線形」が、一つの動機を基準として、なんらかの幾何学的・規則的な変形がなされるわけです。
では、変奏10.の動機操作を見てゆきましょう。
動機1. 動機2. 動機1.の転回(動機1’)
動機3.
最初の4小節で、この変奏の基本となる動機が全て提示されています。まず、長い音価の後の、「大きな跳躍のあとの逆方向の順次進行」を、動機1.と捉えます。後半の2小節の内容は、「順次進行の連続上昇の後の逆方向の大きな跳躍」であり、動機1.の「転回」です。この動機1.の転回の前半は、「長い音価からの順次上昇」の音形を持っており、これも独立した動機として、変奏の後半で変形されて用いられます。また、動機3.は、動機1.の後半に含まれる、単純な「順次進行の連続下降」ですが、この順次進行が跳躍進行に拡大される形で、変奏の後半に用いられています。
動機1.の変形(縮小) 動機3.の変形と反復
変奏の後半の1小節目は、「大きな跳躍の後の逆方向の順次進行」であり、4拍の動機であった動機1.が2拍に「縮小」されています。続く下降の連続は、動機3.が「分散和音」として跳躍の連続として変形され、そのまま「順次進行の連続下降」である動機3.の原型どうりに反復されています。続く2小節は、当然前半2小節の内容をそのままに、「コード・トーン」がシフトした構造です。
動機1’前半の転回 動機3. 動機2. 動機1.の縮小の反復
最後の4小節は、前述の通り、少々複合的、即興的な音形ですが、やはり最初に提示された動機の操作です。1小節目は、動機1’を「180°回転」させた音形であり、「転回」です。2小節目の「上昇の連続と順次下降」の音形は、動機2.の順次上昇が、分散和音に変形されています。最後のシンコペーションを含んだ分散和音は、先の動機1.の変形(縮小)の後半を反復させる事で、連続する分散和音の境目に順次進行を与えています。
以上、「動機の操作」という面でも、「即興的な音形」あるいは「変奏」を解釈する事は可能ですし、ある程度の意図をもって、作曲者・演奏者が動機操作を行っていることも間違いありませんが、前述の通り、「動機の操作」は、意図・作為であると同時に、やはり「音感」でもあります。
つまり、必ずしもパズル的な思考・発想というより、動機の「印象」が「使いまわされている」わけです。純粋に幾何学的、パズル的、組み合わせ的に音形を組み上げる事は、かえって難しいものです。--しかし、特に「バロック期」の旋律の組み立ては、形式によっては、非常に厳格で意図的な動機の操作によって楽曲全体を構成します。--
以下は、バッハのリュート組曲2番、プレリュード (リュートはギターの先祖の撥弦楽器の一つ。)のギター編曲です。バッハの器楽曲は、非常に高度に計算された、しかし自由度の高い複合的フレーズ、即興的フレーズの宝庫です。--プレリュード(前奏曲)は、舞曲の組曲の最初、あるいはフーガの前に演奏される、リズム、コード進行ともに比較的自由な、しかし、後に続く組曲やフーガのテーマ、基本的なコード進行の印象を提示する楽曲です。組曲のそれぞれの楽曲は、当時のドイツ、フランス、イギリスの地方の舞曲で、拍子、リズムのパターン、また、2部形式、3部形式として形式が決まっていますが、一般的に前奏曲は一貫した拍子で演奏され、繰り返しの単位で楽節を分ける形での形式としての明確な形は持たず、連続的、無窮動的(むきゅうどう: 休みなく動き続ける事)です。明確な動機の反復で全体を構成する場合もあれば、非常に自由に複合的なフレーズが展開する場合もあります。--
調はAm。テーマ的で導入的な4小節を含む8小節の単位を終えて、9小節目からEmへ転調します。
Am Am/G Am/F (F) Am Am/E Am/D (Dm) Am Am/C
Dm E7 Am Am/C Dm Dm/A G7/B Dm G7 G7/B
C G7 C/E G7 C (F) E7/B E7 Am C6/G B7/F# Em
最初の3小節は明らかな動機を繰り返す主題的なフレーズ、あるいはメロディーです。Amの順次進行を含んだ分散和音が反復され、ベースラインが順次進行で下降するクリシェです。それぞれバスのラインが、コードのルートとなることが可能な部分では、コードが進行しているとも取れますが、Amの一貫した響きの下で、バスが下降する部分と捉えて差し支えないでしょう。
それぞれのコード上でのフレーズの度数に注目して分析してください。前述の非和声音の形いずれかに当てはまります。全体の傾向に注目すると、1小節の単位の動機が反復されるのは、1〜3小節、5,6小節で、他はそれぞれ印象的な動機を1小節の単位でぜいたくに用い、息の長いフレージングで展開してゆきます。
上声のフレーズが、コードの変わり目に、「しつこい」位に順次進行で結ばれている事にも注目してください。こういったコードの変わり目のフレーズの傾向は、バップ期のジャズのアドリブとも通じる性格です。
--バロック期のフレーズを、「コード進行とフレーズの関係」として分析する事は、古典期のそれと比べると、それほど容易ではありません。この時代の調性、あるいは和声の捉え方が、古典期以降のように、「フォームとして捉える事が可能なコードの進行と、その上で動くメロディー・フレーズ」ではなく、「完全に独立した、複数の声の関係によって和声を表現する」、「調性対位法」によるものだからです。古典期以降の調性音楽は、「主旋律と伴奏の和音」という発想を持っていますが、バロック期には、そういった意味での旋律の「主従関係」はありません。「完全に独立した、複数の声」とは、「同等」といった意味を持ちます。これらの複数の声は、それぞれが「コード進行を表現するメロディー、フレーズ」であり、各々が要所で、「コードの各声」を担当し、コード進行の各声の動きの規定に沿って絡み合うわけです。
この対位法の方法論が、調性というシステムを構築させ、定着させたわけですから、当然、後の時代の調性・和声は、調性対位法の規則を基にしています。しかし、特に古典期には、調性対位法が確定させた複数の声による和声の表現を、主に強拍から強拍の単位にハーモニック・リズムを拡大、あるいは単純化し、「コードとメロディー」を二元化した性格を持ちます。古典期はバロック期に方法論として定着した「複数のメロディーの音程関係によるコード進行」つまり「和声」を、型として捉え、ある程度単純化した上で発展させているわけです。バロック期の互いに独立した複数の声(メロディー)は、互いの動きを、音程関係の規則によって作り上げています。この基準が、複数の声の最小単位であるニ声です。--理論編B:で詳しく述べます。--
バロック期の「相互に独立した複数の声」は、さらに、「一本のラインで、ニ声以上のメロディーを表現する」形を頻繁に用います。例えば、7小節目の上声は、拍の表にコード・トーンが打たれ、それを下方からの装飾音がはさみ、4音目にG音の連続からF音が現れますが、この音形は、「拍の表のコード・トーンと装飾音」 「4音目の高音」のニ声が「一本のラインで歌われている」といった性格を持っています。
つまり、7小節目から上声下声のニ声に加えて、さらに、上声が「ニ声のライン」の性格を持ったフレージングになっています。以下譜例は、7小節目8小節目の上声のラインの装飾音を省いてニ声化し、音価をそろえたものです。つまり、以下のような3声を構成音として、上声のニ声が、ある意味「分散・分解」されて一本のラインとして歌われているわけです。
C G7 C G7 C(9) (F) E7/B
後半のカッコ内に記した表記は、部分的に付加音、あるいはコードとしての構成音となるものの、「コード進行」としては、あくまで経過的な性格のものです。上記の場合のC9のD音は、すぐにC音に解決していますし、バスからC音 A音 F音は、Fの5度バス配置ですが、上声構成音は、Cの構成音からE7へ同音進行と順次進行する経過的な音の束です。こういった半拍程度の音価で、構成音が和音としての形態を帯びるのが、バロック期の音楽の細分化された和音進行の特徴でもあります。
バロック期も、基本的には、ハーモニック・リズムはあくまで強拍から強拍へ、2拍〜4拍の単位ですが、その上に動くフレージングは、例えば、「リズム・コードのタイプとコード/メロディーの実践」の章で述べた、3度、6度の平行音による重音や、ダイアトニックの平行進行のように、コードの響きを壊さず、複数の声が動く事が可能ですから、ジャズ・ポピュラーでも、「ある程度のリハモをフレーズのみに施す」事や、「3度、6度の平行音を分散させるフレージング」も即興的に多用されます。しかし、バロック期のコード進行の細分化は、高度に意図的で計算されたものです。
以下は、同じくバッハのインヴェンションの1番の冒頭、原曲は鍵盤曲ですが、その右手のパートです。長はCMですが、4小節目からGMに転調しています。
C (G7) G7 (F) C (Dm) (AmG7)
C (G) D7/A D7 G C (D) Em(D7)G(C) G/B D7
原曲は以下のように、ニ声によって、先に歌い出すパートを模倣して追いかける形です。部分的な動機、あるいは動機の部品を、様々な方法で模倣・変形しながら用い、楽曲を展開させてゆく、高度な内容です。例えば、3小節目、4小節目のの2拍の単位の動機は、1小節目の最初の動機を「反行」させたものであったり、6小節目では、この2拍の単位の動機の後半半分の動機の部品を反復したり・・・と、「二つの独立した旋律の間で」、非常に興味深い動機の操作がなされていますが、ここでは動機の操作ではなく、「ニ声の原型を持つフレーズ」に注目してください。
基準となる動機 反行
こういった分析の場合、ニ声の重なりを基準として「コード付け」あるいはコード進行を抽出しているわけですが、上記カッコ内のフレーズは、下声との関係、つまり「8分音譜一音と16分音譜二音」の構成音が、半拍であっても、独立した「コードの構成音の分散」と捉える事が可能な部分です。下記譜例では四角で囲んでいます。
この楽曲に多用されている、ニ声を原型とする動機、「経過的な重音によるコード進行の細分化」がなされているのは、1小節目の動機の後半の以下の特徴的な音形です。
@C AG7 BC CC
上記のように整理すると、各コード上で、非和声音のペアが3度音程で「順次進行で平行するニ声」を原型とするフレーズである事がわかるでしょう。@ C上のD音F音の3度音程は、順次進行で平行して両方ともCの構成音へ解決しています。A G7上のC音A音も同様です。@Aの場合、拍の表に「倚音のペア」が現れていることになります。
BCの場合も、位置関係が変わるだけで、弱拍に現れる3度音程による経過音、あるいは補助音のペアです。しかし、3小節目、4小節目のような形で、後半に非和声音のペアが現れる場合、最後の音が順次進行して和声音に吸収されるわけで、4音の単位で「和声音 和声音 倚音 倚音」という順序、つまりディレイド・リゾルブになります。
以下は下声(原曲の左手のパート)のコード付け、もしくはコード進行の抽出です。8分音譜の動きに注目してください。この下声の8分音譜との関係から、上声と合わせて細分化されたコード進行が生じていたわけですが、下声の方も、ハーモニック・リズムに対して、それぞれが「強拍の和声音と、弱拍・裏拍の非和声音」としての意味合いを持っています。こうして、単独の声部としてもコード進行を表現するフレージングが二重に合わさって、全体のコード進行と細分化されたコード進行が生じている、あるいは「生じさせている」わけです。
C G7 C (補) (経) 3度5度(経)(経)
C (経) D7 D7 G (経) Em (経) G (経)
--欄外注釈:
バロック期の場合、こういった、「フレーズによって細分化されたコード進行」が、ニ声の絡みによって論理的に組み上げられています。いわゆるジャズがその合奏の即興演奏の形態の中で、「複数の自由なラインによるコード進行の表現」を可能とするのは、バロック期に完成された「調性対位法」が、「結果論的」に応用されているからです。各々のパートが、コード・トーンを中心にフレーズを組み立て、バスはルート進行を中心にした順次進行によって「ライン」のパターンを持っているという事が、コード進行が共有されるアドリブの合奏での基本的な構造だからです。
バロック期の音楽の複雑さからはにわかに想像出来ない事ですが、この時代の演奏習慣の中心は、「即興演奏」と「即興演奏の合奏」であったと言われます。バロック期は、現在のコード表記の原型でもある、「数字つき低音」、ルート進行のみが記譜され、和音の形(フォーム)が数字で表された楽譜の内容を共有して、他の楽器が和音、フレージングを即興演奏する習慣を持っていました。
和音の構成音、ビートや形式の違いはもちろん大きいものですが、コードの響き、コード進行を表現する複合的・即興的フレージングが、まさに即興でなされること、異なる機能のコードの変わり目のフレージングに順次進行が多用される事など、演奏形態の質だけでなく、フレージングの内容、あるいは原理も、バロック期とビ・バップとは、非常に近いものがあります。
これは、両者が、コード進行、コードの構成音、コード・スケール・・・つまり「調性の素材」を、和声法という法則性、方法論に従って組み上げているという共通性でもあります。そこで、「コード進行を表現するフレージング」には、コード進行についての理解と音感が欠かせません。理論編B:では、和声法、コード進行とメロディーの関係性について論じます。--