洛西のヴァージョン





■嵐電

 京福電鉄は、いちおう「鉄道」の範疇に含まれる鉄道だ。何度かの合併を経て「京福」を名乗っていたものの、時代が進むに連れて分社化され、京福電鉄として残った路線には開業当初の社名「嵐電」を通称として与えている。起点・四条大宮の駅ビルなどは造作が実に立派で、大手私鉄のような趣さえある。

四条大宮
四条大宮駅


 終点・嵐山もつくりが瀟洒で、観光地らしさをよく演出している。

嵐山
嵐山駅


 ちなみに、嵐山駅のホーム上には足湯があって、些か「出来すぎ」のきらいはあるものの、観光の一アイテムを提供している。

嵐山
嵐山駅ホーム上の足湯


 そんな嵐電、路面電車としての雰囲気を残す鉄道としても知られている。併用軌道区間が残っているため、「趣味的」に着目されることも少なくはない。

西大路三条−山ノ内
西大路三条−山ノ内間の併用軌道


 併用軌道といえども、最近開業した嵐電天神川ほどのスペックがあれば、許容範囲にはいちおうおさまる。より正確にいえば、嵐電天神川は併用軌道上の駅として、現時点での最高スペックと評価できる設備である。ではなぜこれが標準化されないのか、という部分に大きな問題が残るのである。

嵐電天神川
嵐電天神川


 一方の対極たる山ノ内のような、あまりにも時代離れしたようなスペックでは、如何なものかと指摘せざるをえない。安全島の幅員はあまりにも狭く、まるで平均台のようだ。接近する電車にも接触しそうだし、脇をすり抜けていく自動車ともぶつかりそうだ。信号表示を見ればわかるとおり、電車到着時には必ず赤信号となって、最低限度の安全が確保されているとはいえ、本質的な危険はまったく緩和されていない。利用者に曲芸師の素養を求めるような駅など、あっていいのだろうか。

山ノ内  山ノ内
山ノ内(左:嵐山行ホーム 右:四条大宮行ホーム)


 併用軌道上の駅に関しもう一点。西大路三条の四条大宮行ホームは、併用軌道上にまさに取り残されている状態だ。幅員こそ相応に確保されているものの、つくりがあまりにも素寒貧で、「このホームから利用者が乗車することはない」という大前提条件があるのではないかと疑ってしまう。

西大路三条
西大路三条の四条大宮行ホーム


 利用者の視点から離れてみても、この乱雑な動線の錯綜具合を見ると、好印象など持ちようがない。狭い道路上に嵐電が走る、自動車もバイクも走る、歩道が狭いから歩行者は車道上にはみ出して歩かざるをえない。……いくら旧い時代のこととはいえ、どのように設計すれば混沌を生み出すことができるのか。

蚕ノ社
蚕ノ社付近にて


 「鉄道」部分の設備にしても、スペックが低すぎる部分が残っている。この狭いホーム幅は、最新のレギュレーションでは認められないはずだ。

蚕ノ社
蚕ノ社


 少なくとも筆者は、以上のような状態を「趣味的に面白い」と礼賛することはしない。過去に趣味的礼賛をしたと受け止められる表現をしていたならば、それは捨ててもいいとさえ思う。利用者の利便性に沿った形での改善を求める方が、むしろ本筋というものだ。改善により「趣味的な面白さ」が失われたとしても、なんの痛痒があるものか。「趣味的な面白さ」を優先して、利用者の利便性、なかんずく安全を犠牲にするような価値基準は、断固排斥されなければならない。





■京都市東西線

 もっとも、筆者ごときが力説せずとも、利用者は既に近代的交通機関を選択する傾向を示している。

嵐電天神川
嵐電天神川


 太秦天神川での写真をもう一葉。この降車客の大部分は、京都市東西線への乗換である。京都市東西線が目的地まで直通していれば、これら利用者は嵐電を選択したのか、どうか。もとから嵐電を利用しておりターミナル手前で抜けていく……、のであれば典型的な競合問題となる。しかし、いままで嵐電は眼中になかったが京都市東西線と接続したから利用するようになった……、という可能性もあるのだ。ベビーカーを押す女性が嵐電天神川で乗り換えていく状況を目撃すると、その可能性をも考慮せずにはいられない。

太秦天神川
太秦天神川


 京都市東西線の終点、太秦天神川。外から見ても立派なターミナルである。

太秦天神川
太秦天神川


 地下駐輪場も併設されており、駅周辺における交通拠点として位置づけられていることがわかる。

西大路御池
西大路御池


 バリアフリー設備も完備している。背景に溶けこんで見えにくいが、エレベーター前にはベビーカーを押す女性が待っている。この女性は、例えば山ノ内から嵐電に乗ろうなどとは思うまい。乗車する際のハードルが高すぎるし、乗換先の阪急でも地下駅にはバリアが多いのである。

太秦天神川
太秦天神川


 そのかわり、地下駅の構内は無機的で寒々しい。利用者の往来がないとなおさら。利用者数の実数は嵐電をはるか上回るにもかかわらず、器が大きすぎて、空虚な印象を与えてしまう。

太秦天神川
太秦天神川


 ホームドアが設置され、利用者の安全が「絶対」に近いレベルで確保されている。ただ、風景としての美しさや潤いがないのが難点ではある。





■JR山陰本線

 せっかくだから、JRとも対比してみよう。嵯峨嵐山は、嵐電嵯峨にほど近い。

嵯峨嵐山
嵯峨嵐山


 いかにも「国鉄時代の遺物」然とした車両がやってきた。これだけを見ると、時代から取り残されているような感じもなくはない。

嵯峨嵐山
嵯峨嵐山


 こちらの車両は、最新型ではないとはいえ、やや新しくなる。しかしながら、跨線橋のオンボロさ加減ときたらどうだろう。

嵯峨嵐山
嵯峨嵐山


 その跨線橋も装いを新たにしようとしている。完成すれば駅南北を結ぶ自由通路となる様子だから、都市計画事業の一環だろうか。たとえJR自力の事業ではなくとも、それは決して本質ではない。利用者にとっては供給されるサービスが全てである。

 このように見比べてみると、最新のサービスを提供している京都市、自力・他力を織り交ぜキャッチアップに努力しているJR、一点豪華主義で全体には手が回らない嵐電、と色わけができようか。

 あるいは嵐電は、四条大宮−嵐電天神川間の利用者逸走を覚悟のうえで、敢えて京都市東西線と接続を果たし、他力をもってレベル向上を果たそうとしているのかもしれない。それにしても、都市型鉄道へと成長するためには、まだまだ先が長い。



西大路三条
西大路三条を出発する嵐電






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