寝台特急「出雲」廃止か?
夜行寝台特急「出雲」が廃止される方向性にあるという。筆者はたまたまこの秋、鳥取に所用があり「出雲」に乗車する機会があった。その当時の印象をまじえながら、一文を記しておきたい。
「出雲」(東京)
なぜ夜行寝台列車が廃止される傾向にあるかという背景の分析については、既に「夜行寝台列車衰勢に示される鉄道の構造的課題」にまとめているので、ここでは繰り返さない。敢えて付け加えれば、大都市圏では加減速度にすぐれる電車ダイヤの支障になり、大都市圏以外でも貨物列車のダイヤと競合しがち、という点を挙げることができるだろう。近い将来、夜行列車が存続することはあっても、夜行「寝台」列車についてはその限りでなく、電車化された「サンライズ」など一部例外を除き全廃に近い状態になるのではないか、とも思われる。
「出雲」はその一部例外になりうる、と筆者は考えていた。伯備線経由となった「サンライズ出雲」がカバーしない鳥取に、朝のちょうど良い時間帯に到着するからだ。
筆者が「出雲」を選択したのはまさにその理由によるもので、仮に航空もしくは新幹線+「スーパーはくと」を選択していれば、前日まで鳥取入りして宿泊しなければならない。移動はいずれも半日行程、それならば前日は別の所用に充てることが可能で、しかも寝ている間に移動が済んでいる夜行寝台列車の効用は高い、と判断したのである。
東京まで「出雲」を牽引してきたEF65(東京)
実際のところ、当日の「出雲」は混んでいた。観光シーズンであることに加え、連休中であったことから、家族連れの姿も多く見られた。その一方で、利用者の少なからぬ部分を趣味系の人数が押し上げている観は否めず、平日の実需がどれほどのものなのか、疑問を持たざるをえなかった。
「出雲」は21時10分定時出発。横浜に停まり、検札を受けると、そのまま寝てしまった。眠りに就くには早い時刻ではあるが、明日の起床時刻もまた早いので、早寝に限る。途中、24時前に目が覚めて外を見たところ、静岡に停車中で、終電に近い列車を待つ利用者の姿が見られた。なにかおかしい、と直感したものの、眠気に負けて再び寝てしまった。
「出雲」を牽引するDD51(浜坂)
携帯電話のアラームよりも早く目が覚め、起き出してみる。朝食をとるため、休業中の食堂車に足を運ぶ。先客が一名。外はまだほの暗い。持ちこんだ弁当を食べているうちに、福知山に着いた。これでわかった。この「出雲」は遅れている。通りかかった車掌さんに尋ねたところ、東海道本線での信号故障のため京都出発時点で約20分遅れているという。この先の見通しはと重ねて尋ねると、「交換列車を優先するのでさらに遅れることは確実ですが正確な時間は読めません」との由。
福知山から先は遅れること遅れること。交換駅があるたび運転停車という感じになった。朝のうちで列車がまだ少ないため救いはあったが、駅毎に遅れは蓄積していく。このぶんでは遅刻は確実、なんのために「出雲」を選択したのかわからなくなってしまった。
足の遅い客車列車とはいえ、かりにも「出雲」は特急である。交換相手が特急であればまだしも、普通列車にまで道を譲るというあたりに、「出雲」の軽さがよく現れている。「出雲」が重要な列車であれば、普通列車のダイヤを乱してでも、優先的に先に進ませるはずだ。そうではないというあたりが、「出雲」の全てであろう。
鳥取到着時点での遅れは約40分。京都出発時点の遅れをほぼ倍増させたわけだ。筆者は結局所用に遅刻してしまったが、「出雲」の位置づけを身をもって体験できたという意味では貴重であった。
食堂車車内の様子(左:福知山付近 右:浜坂出発直後)
「出雲」の利用実態について、別の観点から気になったことがある。まず、東京側では車内販売が乗車していない。利用者は事前に食事をすませておくか、食料飲料を持ちこまなければならない。山陰側では浜坂から鳥取まで弁当屋が乗りこみ、だいぶ繁盛したものだが、繁忙期でさえわずか一区間でさばききれてしまう程度の需要しかないと考えれば、日頃のさびしさはどんなものであろうか。
「出雲」の電源車(浜坂)
もう一点、ハード面で気になることがある。「出雲」は客車寝台特急列車の常として、電源車を連結している。しかしこれは、電車列車であればまったく無用の車両といえる。ほんらいオールマイティの車両であるべき客車列車が、このように余分な車両を一両必ず連結しなければならないというのは、どのように理解するべきであろうか。
発電器を床下に搭載している14系客車などには騒音振動に課題があるとは承知しているが、電源車という存在そのものが無駄である事実は否定しがたい。なぜ機関車から電力を供給するシステムを採れなかったのか、理解に苦しむ。
二世代以上前の旧い設計思想でつくられた機関車、極めつけに特殊な電源車、老朽劣化が進みしかも日中は使えない寝台客車。夜行寝台列車を支えるハードは、旧いという以前にまず特殊なのである。しかも需要が減り続けているとあっては、衰勢の下り坂をたどるのも無理なきことであろう。