平成12年(西暦2000年)末から平成13年年頭にかけて,ある公開論争がおこなわれた。
当事者の一方は栗本薫(中島梓)氏。 代表作『グイン・サーガ』で世に名を轟かせた小説家であるとともに, ジェンダーに関する論考で知られる評論家でもある。 男性同性愛をテーマにした女性による女性向け文芸創作, いわゆる「やおい」に関して古くから深く関与しており, 日本における開祖の一人に数えられる。
他方はpanko(PAN子,パン子)氏。男性同性愛者である。
栗本氏が『グイン・サーガ』第76巻後書きで述べた一言から,本論争は始まった。 『グイン・サーガ』は当初,主人公グインの英雄譚としての色彩が強かったが, 巻を重ねるにつれ男性同性愛についての記述が増え, あたかも「やおい」小説であるかのように変化していった。 一部の読者はこうした変化について批判の声をあげたが, 栗本氏は批判に対して,(やおい化に怒るのは) 「あなた自身のホモに対するゆえなき偏見」のためであると述べたのであった。
こうした栗本氏の主張に対し, みずから「ホモ」としての立場から,panko氏は異議を唱えた。 主張を電子メールにしたためて栗本氏に送付するとともに,WWWに公開し, また栗本氏の同意のもと,彼女からの返信も同様に公開した。
まことに残念ながら,開始後まもなくpanko氏は急逝され,文書の公開も停止してしまった。 2009年には栗本氏も亡くなった。 しかし,当事者の双方が亡くなられた今も, 本論争は不朽の資料的価値をもつものと,筆者は信ずる。 現実のホモセクシュアリティと, 幻想であり商品化されたエンターテインメントである「やおい」との関係を考察する上で, 本論争はきわめて重要な示唆を与えてくれることだろう。
本サイトは,一連の論争のログを提供するものである。 原文を尊重し,表記ゆれや誤字の類について修正していない。 段落分けがなされず可読性に劣る箇所もあるが,手を加えなかった。 panko氏の個人情報が○字に伏せられているのは原文どおりである。 「栗本薫様宛のメール」など各項のタイトルもpanko氏の手になるものである。
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