労 働 問 題
奇妙な最低賃金論争
生活保護との無意味な比較
時給換算する意味は何?(後日記載予定)
左右対立のねじれ現象(後日記載予定)
派遣労働問題を考える
派遣切りと契約切り
格差社会と派遣労働
究極のピンハネシステムか?
誰が雇用を守るか
派遣労働者が全国で荒れ狂う?
マージンとピンハネの混同
派遣会社のピンハネは酷いか
無視される派遣労働者の声
奇妙な最低賃金論争
最低賃金を巡る議論には的外れなものが多いが、詳細を具体的に解説する。
生活保護との無意味な比較
日本維新の会が選挙公約として打ち出した「最低賃金制の廃止」が話題となった。
「生活保護より低い最低賃金はおかしい」などの声に圧倒されて維新の会は最低賃金に関して声高に訴えなくなってしまった。
派遣労働問題を考える
2009年初頭に日本を襲った未曾有の不況は企業による労働者の大量解雇に繋がった。その際にクローズアップされたのが派遣労働者の解雇、いわゆる「派遣切り」だ。マスコミなどにより盛んに「派遣切り」が非難されたが、派遣労働者である私は大きな疑問を持った。
派遣切りと契約切り
「派遣切り」と一口で言うが、大きく二通りに分けられる。
@雇用期間が満了したが雇用契約を更新されない場合
A契約の雇用期間まで働いていないにも拘らず契約を途中で打ち切られる場合(いわゆる契約切り)
上記の@とAでは全く意味合いが違う。雇用契約を更新しないのはもちろん違法でも違反でもないが、雇用期間中であるにも拘らず最後まで雇用せずに契約を打ち切ったのであれば違法だ。
ところが、この全く異なる二通りの行為についてマスコミや評論家などは一緒くたにして非難している。
@の行為について「違法でも違反でもないが、道義的責任があり企業としてやってはいけない事だ」と言うのなら、そもそも派遣労働自体がいけない事になる。そういう考え方があってもよいが、それなら派遣切り批判ではなく派遣労働自体を無くす運動をしたらよいではないか。
派遣切りに対する激しい非難の一方で違反企業に対する中途半端な態度も気になる。上記Aの契約切りは重大な労働違反と述べたが、単に「企業は反省しろ」、「派遣労働者がかわいそうだ」という建前論や感情論だけで違反企業に具体的なペナルティーを課そうとする動きが全く無い。
いすず自動車に関して2008年末に藤沢工場と栃木工場の製造部門の期間従業員と派遣社員、合わせて約1400人を契約期間中なのに解雇したというような報道があった。
それより少し古い話になるが派遣会社のアイラインと大手メーカーのキャノンによる偽装請負が発覚した。
これらの企業は反社会的なので潰してしまってもよいと私は思うが、そういう非難は全く聞かれない。
「大きい組織だから潰せない」というのなら「弱者である派遣労働者を守るための批判」という大義名分も怪しくなってくる。
格差社会と派遣労働
格差社会なる言葉がいつ頃出来たのか知らないが、未曾有の不景気に襲われた2008年頃から盛んに使われだしたように思う。
格差社会と派遣労働が対比して使われる事が多くなっている。つまり「派遣労働が盛んになってから社会の格差が拡がっている。派遣労働が格差社会の原因だ」と。
この説に私は違和感がある。そもそも格差社会という言葉自体が如何わしい。格差が拡がったとされているが数字的にはバブル期の方が遥かに格差が大きかったとも言われている。どういう捉え方をするかによって大きく見方が異なるので格差と言われても多分に主観的要素を含んでいるようだ。
正社員と派遣労働者の収入格差を見て「派遣労働者が増えると格差が拡がる」と強調されるのは短絡的だ。なぜなら非正規労働者の中で派遣労働者は最下層の存在では決して無いからだ。同じ労働についてみるとむしろ非正規雇用の中では時給がかなり高い場合が少なくない。「正規雇用対非正規雇用」という対比を考えるなら非正規雇用の増加によって格差が拡がるという懸念は必ずしも間違いではないが、格差増大の原因を派遣労働の増加に求めるのは無理がある。
「雇用者全体の2%に過ぎない派遣労働が格差社会の元凶のように言われるのは間違いだ」との説明が経営者側からよくなされるが、全くその通りだ。
どう考えても失業者などをはじめとする無職の増加の方が格差の拡大に大きく貢献している事は間違いないと思うのだが、違うのだろうか。
究極のピンハネシステムか?
派遣労働システムを派遣会社によるピンハネのシステムと思い込んでいる人が少なくない。確かに派遣労働者は結果的に派遣会社と派遣先の両方から金を取られる。
「直接雇用にすれば労働者は雇われている会社一社だけに上納すればよい事になり、労働者の負担も減り給料も上がる」という考えは間違いだ。
そもそも派遣会社は人材探しや労務管理を代行しているのであり、企業が直接雇用した場合はそれらの金や時間を自分たちで全て負担しなければならない。
労務費の負担を全て自分でしてくれる奇特な企業があれば話が別だが、殆どの場合は労働者に金銭的負担が転嫁される。
労働者からすると「労務管理費などの負担金を徴収される会社が二ヶ所になったから負担も二倍になる」という訳では決して無い。
派遣会社を使う方が全体としてはむしろ労働者側の負担が少ない場合も少なくないし、そうでなければ雇用主だって派遣会社など利用しないで直接雇用だけにするだろう。
格差社会と派遣労働の項でも少し述べたが、派遣労働は同じ様な仕事をした場合に他の非正規労働と比べてむしろ賃金が高い場合が少なくない。直接雇用の方がむしろ給料が下がる場合が少なくない。
この様に「派遣労働者は2重に金を搾り取られるから損だ」と考えるのは大きな間違いだ。
誰が雇用を守るか
2009年初頭は企業による解雇の嵐が吹き荒れた。そこで盛んに聞かれた声が「企業は雇用を守れ」という合唱だった。
トヨタ自動車前会長の奥田碩氏は、「経営者よ、首切りするなら切腹せよ」と経営者を恫喝してきたが、そのトヨタ自動車は派遣切りや期間社員切りを真っ先に進めた。
現代の日本社会で雇用を守るのは企業の責任とされている。しかも「雇用を守る」の意味が「社員を解雇せずに雇用し続ける」という事と同義として扱われているが、いかに非現実的であるか奥田碩氏の発言とトヨタ自動車の労務管理の矛盾を見れば分かる。
私が考える「雇用を守る」の意味は社会全体として失業者を極力出さない事だ。企業の責任は解雇しないだけでは済まない。経営の実態に見合った人員を雇っているかどうかと働きに見合う給料を出しているかという事に企業の責任がある。例えば極端な話をするがトヨタ自動車の様な売り上げが兆単位の大企業が社員を百人しか雇わずに恐慌が来ても解雇を一切しなかったとして企業の雇用責任を守ったと言えるだろうか。
経営者から聞かれた一つの意見として「売り上げが1割減れば社員全体で痛みを分かち合い、減給し解雇者を出さない様にする」という事がある。売り上げ1割減位なら、それも可能だろうが、売り上げが半分に落ちたなら果たしてやっていけるのか。社員が共倒れになるだけではないのか。つまり企業経営が健全である事が大前提となっているが、例えば自動車にしても消費者の気まぐれで購入されるものであり企業努力だけではどうにもならない場合もある。例えばエネルギー革命で潰れた石炭産業などがそうだ。
「雇用を守る」というといかにも立派に聞こえるが単に既得権益を守っているだけではないのか。「簡単に解雇しない」という事は裏返すと「簡単に雇わない」という事でもある。
つまり新卒者、主婦、失業者などが容易に就職できないという事でもある。
未曾有の世界不況に襲われても解雇しなかった会社は日頃、社員を酷使していただけだという見方も出来る。
雇用を守るのは政府の仕事であり、それを企業に押し付けているから労働者に対する歪んだ人権侵害が発生するのだ。
政府が責任を持って新たな雇用の場を作り出したり、失業しても一定期間は生活や職業訓練が出来るような政策を打ち出すべきだ。
派遣労働者が全国で荒れ狂う?
2008年6月18日に秋葉原で当時25歳の加藤智大による刃物を使った無差別殺傷事件という衝撃的な事件が発生する。
彼が自動車工場の派遣労働者だった事が注目された。同僚の証言では週休2日で税引き後の手取りの月収は18〜19万円。大型連休で工場の休みが多くなる月は13〜14万円になることもありボーナスはなかったそうだ。
マスコミは劣悪な労働条件が引き起こした犯行と強調したが、上記の条件を見る限りパートや直接雇用のアルバイトなどでもっと酷い事例は多数あり最悪の労働環境では必ずしもない。
また、ほぼ同時期に派遣労働者と称する若者が人通りで刃物を出して脅す事件が発生しているが、これは親が金持ちで模倣犯だった。
加藤智大の事件から一時期、派遣労働者が全国で荒れ狂っているかの様な報道がなされたが、派遣労働者に関する大事件はこの二つだけであり、しかも一つは模倣犯で仕事に対する不満が動機ではないようだ。
つまりたった一人の派遣労働者が起こした、たった一件の凶悪事件を基に如何にも全国で大勢の派遣労働者が荒れ狂っているかの様な印象を垂れ流されたのだ。しかも加藤智大の起こした事件にしても本当に派遣労働が主たる動機だったのかどうかも確固たる検証に基づくものではない。
凶悪事件の犯罪者数では正社員や無職の方が圧倒的に多いにも拘らず、元派遣労働者による犯罪行為をやたらと強調するのは極めて悪質だ。
マージンとピンハネの混同
派遣労働のマージンとピンハネについて理解せず混同している人が少なからず存在する様だ。
「ピンハネ率」なる妙な言葉がよく使われる。根拠を明確に示さないのでどういう基準でピンハネ率なる数字を算定したのか知らないが、そういう人の文章を読むとマージンの額をそっくりそのままピンハネと呼んでいる気がする。
例えば「ピンハネ率が50%になる」という匿名の投稿があったが、それは恐らくマージンの事を言っているのではないだろうか。(マージンだってそんなになるかどうか怪しいが)
派遣会社がマージンを取る事について「名義貸し」とか「丸投げ(これ自体は必ずしも違法ではない)」などと混同しているのではないのか。
派遣会社は人を探したり労務管理するなど地味だが意外に金がかかる重要な仕事を担っている。
派遣労働におけるピンハネ額は派遣会社が派遣先から受け取った額の内、社会保険などの必要経費として正当な額を差し引いた額と考えられる。
ボランティアではないのだから派遣会社は派遣先から受け取った金を全て派遣労働者に渡してしまっては商売にならない。
派遣労働をピンハネと決め付けている人たちは派遣会社の取るマージンが何%でどの程度なら適正なのか示すべきだろう。そうでなければピンハネがあったかどうか決められまい。
現実には仕事の内容や派遣会社の規模などにより必要とする金額がかなり違う可能性があり簡単にどれ位が適正とは言えないだろうが、マージンをそっくりそのままピンハネ額と決め付けられては派遣会社もたまらないし、そういう人は小学生からやり直した方がよいのではないか。
この様にピンハネという言葉もまた「派遣切り」と同様に定義が曖昧で人によって違う使い方をされており、あたかも言葉が独り歩きしているようだ。
ピンハネについても意味をきちんと理解して使ってもらう必要がある。
派遣会社のピンハネは酷いか
「派遣労働=ピンハネ」と決め付ける人が多いが、建設業などにおける暴力団関係者の手配師などを除くと派遣産業はむしろピンハネが発生しづらい業界ではないかと私は思う。
なぜならピンハネすれば派遣会社が必ずしも儲かるとは限らないからだ。
スーパーがチョコレートを売る例を考える。1個百円で利益が十円のチョコレートを値上げして110円にすれば1個辺りの利益は2倍の20円という事になる。
値上げすれば儲けが増えるかというと、もし売れる個数が半分以下になれば逆に全体の利益は下がる事になる。
同じ事が派遣業についても言えるが、不当にマージン率を上げれば派遣社員の給料が減って当然質は落ちる。バブル期の様に誰でもよいならともかく「あそこの派遣社員は質が低い」という評判になれば客は減る。
売り手市場なら話は別だが、派遣先企業としてみれば直接雇用という選択肢もある訳で派遣会社がそんなに強い立場にあるとは思えない。
そういう状況でピンハネなどしたら競合他社との競争に勝てないから極端なピンハネは発生しづらいと思う。
それではなぜ派遣業界がピンハネの代名詞の様に言われているのか。思い付く例を挙げる。
@ピンハネがあれば分かり易い業界だから。
Aマージン率が高いから
B弱小業界なので責め易い
@についてだが、そもそもピンハネはあらゆる企業で存在し得る訳だが、多くの会社員はチームワークで成り立っているので車や生命保険のセールスマンなどを除いて給料の額の正当性を客観的に評価するのは難しい場合が多い。
例えば日産車のエンジンを設計している技術者が幾ら貰うべきかと問われても会社と社員の力関係で決まってしまうので正当な額を客観的に決めるのは難しいし、仮に素人が明細を見たところで給料が正当かどうか判断できないだろう。
その点、マージン率という分かり易い数字がある派遣業界ではピンハネ額がイメージし易い。
Aのマージン率については本当かどうか知らないが中には50%程度取っている派遣会社があるという噂もあるが、一般に日本の派遣会社のマージン率は欧州などのデータと比べてかなり高い事からピンハネと判断する人もいるようだ。
しかし、逆に言うと分母が小さい、つまり派遣先が派遣会社に渡す金額が小さいからマージン額は正当だが、結果的にマージン率が高くなっている可能性もあるのではないか。或いは経営効率が悪いためにピンハネはないが、マージン率が高くなっている可能性もある。
Bについてだが、@で直接雇用の場合のピンハネが分かり難い事を説明したが、分かり易い場合でも見逃される場合がある。
例えばサービス残業などがある。大企業の正社員でもサービス残業が日常的に行われている事はよくあるが、マスコミは積極的に叩かない。
それは恐いからだろう。強力な法務部を要する大手メーカーなどを糾弾すれば訴訟に持ち込まれたり宣伝費を削られたりする恐れがある。
その点、派遣業界は弱小勢力に過ぎないので安心して叩けるという面があるのではないか。
派遣労働者の素朴な疑問
無視される派遣労働者の声
私は派遣労働者や契約社員など非正規労働者として長年働いてきたが、正社員至上主義者の主張には常々疑問を感じていた。
彼らは非正規労働者がいかに差別されているかを強調し救済を唱えているが、「悲惨な非正規労働をなくすために正社員を増やすべきだ」という主張は全くもっておかしい。
なぜなら深刻な不況期に突入した現在の日本では多くの企業が業績悪化に陥り比較的低コストな非正規社員ですら雇用が困難な状況だ。
この状況で正社員を増やせば更に失業者が増えるのではないか?(こんな事は経済学者でなくても小学生でも分かりそうなものだが・・・)
格差や貧困に反対すると言いながら現状より更に格差や貧困が拡がる事が確実な方法を押し付けるのはおかしくないか?
非正規労働者の中には非正規労働が無くなれば失業する人も多いから自分がなれれば別だが、必ずしも正社員増加を好んでいる訳ではない。
それではなぜ上述の様な矛盾する論理がまかり通っているのか、私なりに推察する。
非正規労働が増えて最も困るのは収入的には中間層辺りだろう。人口でも中の下辺りが多い。
非正規労働者が自分たちと大差のない仕事をすれば企業は当然、高コストの正社員など使いたがらないので、そういう人たちにとっては非正規労働者は自分の立場を脅かす存在だ。
それに対して企業の経営者と最下層の立場から見てみよう。
よく聞く主張に「派遣労働は企業の立場から出来たものだから駄目だ」というものがあるが、それなら正規労働だって元々企業に都合が良いから好んで使われていたのだから同じ事だ。
極右と極左など対極の思想や立場にある人たちの意見や利害が部分的に一致する事はよくある。(例えば反米などがそうだ)
オーストラリアの白豪主義について中学で習った時に私は単なる人種差別だと思っていたが、恐らくそんな単純な話ではない。
低賃金で働く中国人移民に対して大衆層は「自分の生活が脅かされるのではないか」と警戒した人は多かったかもしれないが、逆に白人富裕層の中には積極的に受け入れたい人もいただろう。
派遣労働などの非正規労働についてよく企業の経営者から「多様な形態がある方が労働者にとっても好ましい」という主張を聞く。
これは自分たちの利益だけを考えて経営を正当化する事が目的なのだろうが、結果的には正しく貧困層のためになり得るので、あっていけない考え方ではない。
皮肉な事に弱者の立場を一方的に思いやる中途半端な人権活動家より自分の利益を最優先する経営者の方がよほど弱者のためになっている例が少なくない。
労働者の権利を極端に侵害しない限り極力、非正規労働を認めて拡充する事が労使双方の幸福に繋がると思う。