いとしのエリー


第2話


 天気は上々。初秋と言う季節柄もあって、空気が肌に心地よい。
 幸か不幸か、絶好のデート日和だ。
 そう、今日は俺と恋人の……もとい、天敵のお嬢の初デートの日だったりするのだ。
 あの悪夢の日から、すでに10日間が過ぎた。俺とお嬢の噂は瞬く間に広がり、お嬢と歩いているときはもちろん、一人でいるときですら、じろじろ見られたり噂されたりするようになっちまった。
 ヤキモチやいた連中らしき輩からのプレゼントもたくさんもらった。カミソリ入りのラブレターだの靴の中に画鋲だの。
 あと、三年のモテ系の先輩から声かけられたから何かと思えば、「どうやって沢近君を落としたのか教えてくれ」と深々と頭下げてきやがって。襟を直すように注意しただけだと言ったらどんな顔するだろうかと思ったが、これだけは秘密だ。
 待ち合わせ場所の駅前に足を進めながら、俺は腕時計を見る。
 
 9:35

 約束の10時にはまだ十分間がある。とは言うものの、待たせたらボロクソに言われるからな。
 今日の俺のいでたちは、下から順に、定番の白のコンバース、あくまでナチュラルな色落ち加工のストレートジーンズ、緑色のハイネックの裾はあえてタックインし、黒革のリングベルトを強調させている。
 ちなみに髪は、いつものようにジェルで逆立てている。俺は伸びたらオールバックに戻そうと思ってたんだが、お嬢に、こっちのほうがかっこいいと言われたこともあり、このままで行こうとも考えてる。
 ……別に、お嬢に好かれたいからとかじゃねえからな。勘違いすんな。
 あと、振られたがってるくせになんで気合入れてくるのかって言われるかも知れねえが、恥ずかしながら今日の服は昨日、お嬢に買ってもらったものだったりする。
 俺はもちろん強硬に拒否したが、今回だけだからと押し切られちまった。このままじゃ、俺、ぜってーだめになる。

 そんなこんなで俺は待ち合わせ場所の時計台前に到着した。そして俺は目を疑った。見慣れた金髪頭が、群衆の中に確かにあったから。
 なんでこんな早く来てんだ、あいつ。そして、そいつにしきりに話しかけてる男がいる。
 茶髪のロングヘアでいかにも軽薄そうな男。あえて言うなら、クラスメイトの今鳥系の男だろうか。
 そこで俺は思いついた。嫌われる男のタイプその1。馴れ馴れしい男を演じてみようかと。

 俺はつかつかと二人に歩み寄り、お嬢の肩に伸ばされようとしていたその手を払いのけた。
 そして二人の間に割って入ると、お嬢の肩を抱く。さらには意識的に寒々しい演技を込めて俺は言う。
「わりいな。こいつは俺の女だからよ。他当たってくれ」
 男は居心地悪げに視線をさまよわせ、すぐに人ごみに紛れて消えて行った。
 そして俺は、お嬢を見下ろした。こわばった顔つきで、すぐにでも俺を突き放してくることを予想して。
 だけどお嬢は、俺の胸に頬を寄せたまま微動だにしない。細い肩は心なしか震えている。
「おじょ……愛理?」
 声をかけると、我に返ったようにお嬢は俺から離れ、気恥ずかしそうに言ってくる。
「その……まあ、助かったわ。あんたって、ふだん使えないけど、こういうときは役に立つわよね」
「あのな」
 ツッコミを入れながらも悪態をつけない理由が二つあった。
 一つは言葉とは裏腹に、お嬢の顔は真っ赤で。ほんとに嬉しそうで、俺に感謝してるみてえだから。
 わかってんのか、おめー。俺はおめーに嫌われようとしてそうしたんだぜ。
 そしてもう一つ。この女、何者なんだ?

 いつもと同じように2本にまとめた金髪は、しかしいつも以上に輝いて見える。
 素足にヒール履いてるおかげでスタイルもいつも以上に抜群に思えて。
 膝上までのデニムスカートにピンク色のタンクトップ。その上から白いカーディガン。
 胸元にはパールのネックレス。肩から提げてるベージュの小ぶりなバッグはいかにも上質そうな本革製。

 今の季節には、ちと薄着過ぎねえか? あとよ。胸の谷間が目の毒なんだが。
 お嬢の胸って周防みたいにでかくはねえけど、形が……てなに言ってんだ俺は。

 咳払いを入れて俺は言う。
「とりあえず、どこ行くよ?」
「任せる」
 まだ紅潮した顔でお嬢。
「んじゃよ、この先の打ち合わせも兼ねてお茶でもするか」
「うん」
 言ってお嬢の肩を放したものの、今度は逆に向こうから腕を絡めてくる。
「ねえ、拳児」
「あ?」
「そのね……。さっきはありがと」
 つうか、顔赤らめて視線逸らすのはやめろ。しかし、ますます気に入られちまった気がするのは俺の気のせいか? 気のせいだよな?


 俺たちが入ったのは、駅前から少し外れた喫茶店。ちなみにお馴染みのメルカドとは違う店だ。
 日曜の午前中ということもあり、店内はかなり賑わっているが、俺たちは幸い、店の隅にある二人がけのテーブル席を確保することができた。
 俺はアメリカンを。お嬢はシナモンティーのケーキセットを注文する。
 ほどなくしてそれらは届き、お嬢は上品な手つきでチョコレートケーキをフォークで切り取り、口に運ぶ。
「うん、いけるわ」
 ニッコリと笑うお嬢。
「悪いわね、私だけケーキ頼んじゃって」
「気にすんなよ、そんなこと」
 俺はあっさりと答える。そう、お嬢が気にする必要なんざない。なんせ、この場の勘定は割り勘なんだからな。
 このお嬢に金払わせた豪傑は、多分今までいねえだろう。俺のせこさにお嬢はあきれ、そして愛想を尽かすという寸法だ。
 しかも、この作戦にはもうひとつのメリットがある。四文字熟語に例えると『経費削減』。
 自慢じゃねえが今月の俺はかなりピンチだ。鬼哭丸を降りたときにもらった金があるものの、本来、こんな金のかかりそうな女と遊んでいられる立場じゃねえ。
 スタートで割り勘にこぎつけられれば、今日のデートは全部割り勘に持ち込める。
 こいつはでけえメリットだ。
 と、思案に暮れていた俺を誤解したのかお嬢が声をかけてきた。
「どうしたの? あ、これ欲しいんだ」
 お嬢がケーキを小さく切り取り、俺に差し出してくる。
「い、いや、そんなんじゃ……」
 あわてて固辞する俺だが、お嬢はテーブルに顎杖をつき、にっこりと笑ったままフォークを引っ込める様子もない。こいつ、意地でも俺に恥ずかしいマネをさせようと……。
「遠慮しなくていいのよ」
「いや、あのよ……」
「ケ・ン・ジ?」
 お嬢の瞳がギラリと光ったのを見た瞬間、俺は餌を差し出されたヒナみたいにケーキに食いついていた。なんでこう、肝心なところでびびっちまうかな?
「おいしい?」
 お嬢の問いかけに俺はうなずく。味なんてわかんねえけどな。
 気を取り直して俺は会話を進めることにする。
「おめーよ、一人でいると、いつもああやってナンパとかされんのか?」
「まあね」
 照れるでもなく答えて、お嬢はティーカップを口に運ぶ。
「ならよ、なんでわざわざあんな早く来てたんだよ?」
 俺が問いかけるとお嬢は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「別に。そうしたかっただけよ」
 ぶっきらぼうに答えたのちにお嬢は付け加えてくる。
「とりあえずひとつだけ言えるわ」
「なんだよ」
「私を待たせた男は、あんたが初めてってこと」
「んなこと言われてもよ」
 別に俺が遅れたわけでもねえし。つうかこいつ。今のセリフが言いたくて早く来てたんじゃねえのか?

 何はともあれ会話は弾んだ。初めてのデートとは思えないほどに。まあ、ここんとこ学校でもずっと喋ってたし、一緒に帰ったりとかしてたからな。お茶するのももちろん初めてじゃない。
 それどころかあいつの部屋にまで通されちまったからな。あのときにもあいつ言ったよな。男の人を通すのは初めてなんだからと。
 なんだかよくわからんが、こいつにとって俺はそんなに特別なのか? まあ、お上品な男どもと違うから物珍しいってところなんだろうがよ。
 お嬢がケーキを平らげるのを見て、俺は声をかけた。
「おめー結構あめえもん食ってっけどよ。全然太るとかねえよな」
「ん〜、影で努力してるからね」
 フォークをもてあそびながらお嬢は言う。
「まあ、10日ほど前からは、よりいっそうがんばってるんだけどね」
「そっか」
 俺がそれだけ言ってコーヒーを飲むと、お嬢が指先でテーブルを鳴らしながら不機嫌げに言う。
「ちょっとそれだけ?」
「ん?」
「あんたと付き合うようになってから、よけいにがんばってるって言ったんだけど」
「あ……」
 ようやくお嬢の言葉の意味がわかり、俺は舌打ちする。こういうシチュエーションでどう答えれば女が喜ぶかとか、俺なりにいつも考えてたのに、なんで気の利いた言葉が出てこねえんだろうな。
 お嬢が相手でもこれだ。塚本が相手だったらどうなることか。
「ありがとな」
「別にいいわよ。好きでしてることだから」
 視線をそらして、お嬢は人差し指で頬をかく。そんな彼女を見たあと、俺は声をかけた。
「とりあえず出るか」
「そうね」
 ひとまず俺は伝票を手にした。さて、ここが勝負だ。
 レジの女は「ご一緒でよろしかったですか?」と聞いてくるはずだ。そこで俺は胸を張って「別々で頼むぜ」と答える。お嬢の俺への評価は一気に下がるはずだ。
 肩を並べて俺たちはレジへと向かう。無言で俺がレジ係の女に伝票を渡すと、女が定番のセリフをよこした。
「ご一緒でよろしかったですか?」
「いや……」
「はい、一緒でいいです」
 後ろからかぶせてきたのはお嬢だった。そしてお嬢は俺を制するように前に出ると、当然のように財布を取り出す。
 本気で支払う気になってるお嬢に俺はあわてた。いくらなんでも初デートで女におごってもらうわけにいくかよ!
「待ておじょ……もとい愛理。それはまじいだろうが」
「え?」
 不思議そうに小首をかしげてお嬢は言う。
「別にいいじゃない。あんた、今月ピンチなんでしょ。男が払わなきゃいけないって決まりはないんだし」
「いやいやいや。こればっかりはさすがによ。昨日服買ってもらって今日もおごってもらったんじゃ男としてな。ここは俺に払わせろ」
「そう……」
 お嬢は小さく苦笑しながら財布をバッグに収めた。
「まあ、そこまで言うならここはあんたの顔を立てるわ。ごちそうさま」
「おう」
 言って財布を開く俺。そして気付いた。なんで俺がおごる流れになってんだ? 割り勘のはずだったんじゃ? つってもお嬢は財布を収めて俺の後ろで微笑んでいるし。
 俺は力ない手つきで千円札を取り出した。

 店を出るとお嬢が言ってきた。
「さっきは悪かったわね。試すみたいなことして」
「お? いや別によ」
 俺が言うと、お嬢は俺の腕を取りながら言ってくる。
「あのまま私に払わせてたら、私、少し失望してたかも。今日のところはお言葉に甘えて、あんたの世話になることにするわ」
 なにやってんだ俺は……。評価を下げる大チャンスだったのによ。そのくせ俺は胸を張って答えていた。
「おう、任せとけ」
 こうやって男ってのは女にむしられていくんだろうな。今月のこのあとの生活を想像して、俺は心中で涙を流した。

 ともあれ、俺の作戦はことごとく裏目に出てるわけだが、幸か不幸かデートはつつがなく進んだ。最初に向かったのはゲーセン。対戦型のドライブゲームで乱入されて惜敗したときには、お嬢のやつ、自分のことみてえに悔しがって。つかよ、おめーが見てるから相手の男が必要以上にがんばりやがったんだが。
 そのあとダンレボすすめたら、スカート押さえながら「エッチ」とか言ってきやがって。おめーはどういう目で俺を……。で、さらにはプリクラ。出てきたシールは速効で携帯に貼られちまうし。写真の中身は聞くな。そして占いゲーム。相性最高だってよ。もう、なんつうか。

 そんなわけで俺たちはゲーセンを出ると肩を並べて歩いた。さて、ここらで思い切った作戦に出るか。そう、ついにスケベな男を演じるときだ。なにやら喋りながら歩いているお嬢に調子を合わせながら、俺はお嬢の……その、ミニスカートに包まれた部分を盗み見た。
 スカートの上から見てもそれは形よく引き締まっていて……て、何言ってんだ俺は。
 決して好きでやるわけじゃねえ。これは演技なんだ。俺がお嬢のそこをさわれば、間違いなくそれだけで俺は嫌われる。簡単な話だ。
 俺は悟られないように気を付けつつ、右手をお嬢のそこへと伸ばしていく。そして……。
 さわれねえ……。女のそこを意識してさわったことなんてねえし、それにお嬢のやつ、さっきからほんと上機嫌で。いくら嫌われるためでも、これは無理だ。気弱な自分を呪いながらあきらめて手を引っ込めうとした瞬間だった。お嬢が不意に立ち止まったのは。
「拳児、お昼あそこで……ひゃっ!」
 お嬢が悲鳴を上げた理由はもちろん……。さわっちまった。やわらかくて、なんとも言えない甘美な感触が残った右手を俺はあわてて引っ込めた。そして……。
「あんた、なにすんのよ!?」
 お嬢が怒鳴りつけてきた。結果オーライか。もともと、触ろうとしていたのは事実だし。
 これで終わりだ。すっきりすると同時に、ちょっぴりさびしくも思えた。すっげーもったいねえことした気もするけどよ。だが、違う声が聞こえてきて俺は視線を上げた。
「ぼ、ぼく?」
 自分を指差して硬直しているのは、黒髪を分けた平凡な顔立ちの男。見覚えはねえが年のころは俺らと同じぐらいだろうか。
「他に誰がいるってのよ! あんた、どういうつもりなのよ!」
 両手に腰を当てて、お嬢は怒鳴りつける。
「な、なんのこと?」
「とぼけないで。あんた、私のお尻、触ったでしょ!!」
「し、知らないよ! てゆーか、さわち……」
「あくまですっとぼける気? 拳児、あんたも何か言いなさいよ」
「い、いやよ……」
 さすがにこの流れで俺が触りましたとは言いにくいぞ。
「なんとか言ってよ、僕がそんなことするわけないでしょ?」
「いや、おめーのことなんて知らねえし」
 俺が言うと、その坊主はなぜかひどくショックを受けたみたいで泣きそうな顔になる。
「僕だよ、な……」
「とにかく!」
 そいつの言葉をお嬢がさえぎった。
「拳児がそんなことするわけはないのよ! だって私たち、行くところまで行ってるんだから!」
 待てこら! おめーいきなりとち狂ったことを……。胸中で突っ込んだ俺をよそに、お嬢は見せ付けるように俺に腕を絡めてくる。坊主は愕然とした表情で俺たちを指差し、口をパクパクとさせた。
「そ……そうだったの? まさかそこまで……」
 まるで知り合いみたいな物言いしやがるな、こいつ。
 ともあれ、この場を丸く治めるには……。
 俺がない頭をひねっていると、おもむろにお嬢がバッグを開いて携帯を取り出した。
「なにすんだ?」
「決まってるでしょ。警察呼ぶの」
「待て!」
「待ってよ!」
 俺と黒髪の坊主が同時に叫んだ。さすがにそれはシャレにならねえ。なんとか、なんとかしねえと……。ひとつだけお嬢を止める方法を思いついた。けどこれはよ……。
 だけどお嬢はキンキン怒鳴って全然譲る気配もねえし。やるしかねえのか……。
 俺は覚悟を決めて口を開いた。
「だけどよ、愛理。おめーもわりーんだぞ」
「はあ? なんで私が?」
 当然のように目を吊り上げるお嬢に、俺はそのセリフを放った。
「おめーがかわいすぎるからいけねえんだよ!」
「な……」
 たちまち顔を赤らめるお嬢。恥ずかしがんな。俺のほうがもっと恥ずかしいんだからよ。そんな気持ちを抑えて、俺は黒髪の坊主に視線を向ける。
「見ろよ、こいつのツラァ。おめーみてえな女には一生縁のなさそうなツラしてんじゃねえか。つい出来心でってことだろ」
「ちょっと、はり……」
 抗議しようとした坊主にかぶせるようにお嬢が言う。
「それは私も同感だけど、だからと言って、やっていいことと悪いことがあるでしょ!」
 やべ、こいつ完璧てんぱってやがる。こうなりゃ実力行使だ。
「愛理!」
 怒鳴りながら俺は力任せにお嬢を抱き寄せた。
「悔しいのは俺だって同じだけどよ。せっかくの初デートに警察沙汰とか、ごめんだぜ、俺は。ここは目ぇつむれ」
「拳児……」
 お嬢はかすれたような声とともに俺に背中に両手を回してきた。とりあえず、ひとつの危機は脱したみてえだが、なんか、墓穴を掘った気が……。
 それに、お嬢の髪から漂ってくる何とも言えない香りとか、胸の辺りに感じる柔らかい感触とか、熱い息とか、いろんなもんで頭がクラクラと……。
「あの、いつまで抱き合ってるの?」
 坊主が知り合いみてえな気安さで話しかけてきやがった。いいところで……もとい、なれなれしいんだよ、こいつは。
 俺はお嬢から離れると坊主に詰め寄る。そしてその襟首をつかむと昔とった杵柄ですごんだ。
「おい、今日のところは見逃してやんよ。とっとと失せろ。それからよ。二度と俺たちの前にツラァ見せんじゃねえぞ。いいな?」
「い、いや、そんなこと言われたって僕たち同じク……」
「わかったな!」
「は、はいっ!!」
 言ってすごすごと立ち去っていく坊主。それを見送って俺はお嬢に声をかけた。
「行こうぜ」
「う、うん」
 軽くうつむいたまま、歩き出すお嬢。今日初めて、俺たちの間を沈黙が支配した。
 さっきのはやりすぎだった。作戦うんぬん以前に俺は反省せざるを得ない。好きでもない女にあんなことしてよ。最低じゃねえかよ。
「なあ、愛理」
「ん?」
 物憂げな瞳を向けてきたお嬢に、俺はおずおずという。
「あのよ。おめーに触ったのが、もし俺だとしたら、おめーどうすんよ?」
 俺が言うと、お嬢は驚いたように俺を見つめ、そして……にっこりと笑った。
「優しいとこあるんだ」
「は?」
 まったく意味不明な言葉に首をかしげる俺にかまわず、お嬢は言ってくる。
「私があいつに触られて落ち込んでると思ってくれたんでしょ。私は平気だから」
「おめえ……俺は」
「いいわ。そういうことにしとく。ところで、また触られたりとかしたらたまらないし」
 言うとお嬢は俺の手をつかんできた。
「ちょ……」
 抗議の声をあげる間もなく、お嬢はしっかりと指を絡めて俺と手をつないできた。
「こうしておけば安心よね」
 こ、ここまでやられるとさすがに俺も顔が赤くなるじゃねえか。にしても、俺はもうダメなのか? なにしてもお嬢から逃げられねえのか? 正直、もうお嬢に絡めとられたいと思っている自分がいるような気がしてきた。
 だけどよ。俺が好きなのはやっぱり天満ちゃんで。しかし、さっきのお嬢のセリフ。行くところまで行っちゃってるって。
 あれは俺とそうなってもいいって意思表示なのかと俺はバカなことを考える。
 なんにしても、さっきの坊主が赤の他人でよかったぜ。もしあれがクラスメイトだったりしたら、とんでもねえことになるところだった。

 これだけは不幸中の幸いだな。とりあえずまだデートは始まったばかりだ。俺は絶対あきらめねえ。なんとしても、愛理……もとい、お嬢に振られてみせるぜ!


〜続くみたい。僕っていったい……(by奈良健太郎)〜

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