解離性同一性障害
診断基準の定義
2つまたはそれ以上の、はっきと他と区別される同一性または人格状態の存在(その各々は、環境および自己について知覚し、かかわり、思考する比較的持続する独自の様式をもっている)。
これらの同一性または人格状態の少なくとも2つが反復的に患者の行動を統制する。
重要な個人的情報の想起が不可能であり、普通の物忘れで説明出来ない程強い。
この障害は、物質(例:アルコール中毒時のブラックアウトまたは混乱した行動)または他の一般身体疾患(例:複雑部分発作)の直接的な生理学的作用によるものでは無い。
注:子供の場合、その症状が想像上の遊び仲間または他の空想的遊びに由来するものでは無い。
交代人格とは
通常の人格は一つの自己同一性、すなわち1人の「私」からなるシステムです。
しかしDID(多重人格障害)では、複数の自己同一性つまり、複数の「私」が全体として一つの人格システムを構築しています。この1つ1つの「私」を交代人格と呼びます。
交代人格は大抵自分の名前を持ち、自分の生活史を持っています。その為、一見した所、1つの身体の中に何人かの人間が棲んで居るかの様に見えます。それぞれの人格の間にはある仕切りが存在し、それぞれがまとまりを持っています。
多重人格の存在を否定する人はしばしば「誰でも複数の人格を持っている」とか「誰でも状況に応じて別の行動パターンをとる」と言いますが、この場合の人格は正確には交代人格と呼ぶ事は出来ないのです。
また、交代人格は人格システムに入り込んだ寄生体や異物の様に考えられている事もありますが、実際には主人格も交代人格の1つにすぎず、主人格(ホスト人格)は「ある時期において大部分の時間、身体を管理的に支配している人格」と定義されている様に単に出番の多い人格であって優劣の差異はありません。
オリジナル人格 はホスト人格に似ていますが違うものです。
オリジナル人格とは「出生直後に生まれ、重大なストレスから身体の生存を助ける為に、初めて新しい人格を初めて切り離した存在」です。つまり、様々な交代人格はオリジナル人格から派生してきます。しかし、ホスト人格がオリジナル人格とは限りません。
交代人格のそれぞれは人格システム全体の中で特有の機能と優位感情を持っています。人格が変わると言う事は、その時、患者の身体を支配しているある交代人格が別の交代人格に切り替わる事です。
患者の口調、しぐさ、感情は、その時どの交代人格が支配しているかによって決まります。
交代人格を主に機能によって類型化すると次の様になります。
子供人格、迫害者人格、自殺者人格、保護者人格、内なる自己救済者、記録人格、異性人格、性的放縦人格、強迫人格、薬物乱用者人格、身体障害のある人格、自閉的人格、などです。
原因・虐待との関連
多重人格障害患者の殆どが、小児期に重大な心的外傷体験、特に被虐待体験を持っています。これらの耐え難い外傷体験によって、普通のままでいたのではとても耐えられず、また、強い恐怖感の為自分の心を防衛しようとして、別の人格が生まれると考えられています。
虐待には身体的虐待・性的虐待・情緒的虐待があります。
しかし、それ以外にもいじめや恋愛の失敗などで起こる事もあります。強いトラウマから自分を守る為に盾をおく事を目的としています。本体を守る為に「我慢強い人格」や「攻撃は最大の防御的人格」など様々な人格が誕生します。
なりやすい性格としては、境界性人格障害と演技性人格障害です。男女比は1:5と圧倒的の女性が多い様です。多くの場合は既に自分の中に複数の人格を持っている事を自覚しています。
その状態が、周りの人にはなく自分だけなんだと気付く事によって、はっきりしてくる事が多い様です。
主な症状
解離症状では健忘があげられます(98%)。
健忘と言っても実際上はその程度も(交代人格や本人同士の)意識の共有の程度も、交代人格同士の認知の程度も様々です。A人格はB人格を知っているが、B人格はA人格を知らない、または、存在を知っているがどう言う状態にあるのか分からないなどの色々なパターンがあります。
その他の解離症状としては、遁走(55%)、離人感(53%)、夢遊(20%)となっています。感情症状としては、抑うつ、気分変動、自殺企図が多いようです。
これらの症状は多重人格に限らず、児童虐待の犠牲者にはよく見られる症状です。多くの場合、低い自己評価、自己嫌悪、自己処罰の傾向を示すようになります。虐待のフラッシュバックとして、抑うつや不安、恐怖症状が見られるようになります。
昔は精神分裂病の範疇に入っていた為、よく精神分裂病と間違えられます。精神分裂病と同じような症状として、幻視、錯視があります。悪夢のようなぞっとする光景、知っている人が別人に見える、鏡の中の自分の姿が変に見えるなどです。
身体症状で一番多いのは頭痛です。
これは、交代人格の間での身体支配権争いの時に見られたり、人格が入れ替わる時などに良く見られます。
多くの場合解離性同一障害と診断されるまでに平均6.8年程かかっています。それまでに気分障害(躁うつ病)、境界性人格障害、不安障害、精神分裂病として治療されている事が多いです。
誤診されているケースが多く、違った診断名で治療を受けていますが、改善していません。
経過と治療
10歳前に発症した場合は極めて治療が難しい様です。一方10歳以降であれば自然に解消されていく事もあります。人格の数が多ければ多いほど、治りにくい様です。
・治療の目標
治療の目標によって、治療内容は変わってきます。
ここで注意して欲しいのは、多重人格の全てをひとつの人格に統合しなければならないと、考えられがちですがそうではありません。多重人格システムのまま治療も受けず、高度な機能を発揮している人もいるからです。
共通の治療目標は、患者の機能レベルの安定と向上、心的外傷の解消です。患者の多くが、小児期に重大な心的外傷や葛藤にさらされてきた人たちです。
症状を改善していく為にはその心的外傷に接触しなければなりませんが、その事が患者を不安定にし、機能レベルの低下を引き起こす事もあります。
・治療の原則
- 治療者と患者の関係
治療同盟を育てつつ、患者自身が治療に積極的に取り組む。
- 多重人格状態
特定の交代人格をひいきせず、公平に扱う。
問題行動のある人格を排除したり、援助的な人格に全体の管理を押しつけたり、特定の人格と取り引きしたり、特定の人格を中傷してはいけない。
人格システム全体の一部である事を忘れてはいけない。
- 心的外傷
安全にあせらずに取り扱う事。場合によっては悪化する事がある為。
- 治療者の態度
患者は暗示を受けやすく、多くの否定的な認知の歪みを持っています。
誤解を与えない様に、認知のゆがみを解除していく。
治療者のちょっとした態度を、悪い様に取りやすい。(ため息をつくと、諦められたと感じるなど)
患者は自分の安全を守る為に、治療者を常に厳しくチェックしています。
一貫した責任ある態度でないと足下をすくわれます。
・治療の段階
心的外傷の回復を3段階に分けて考えます。
第1段階は「安全の確立」、第2段階は「回想と服喪追悼」、第3段階は「通常生活との再結合」です。第2段階で患者が心的外傷と直面し、それを消化していきます。第1段階はその準備段階、第3段階は心的外傷からの再出発です。
これらをさらに細かく9段階に分けます。1,2は安全の確立、3〜6は回想と服喪追悼、7〜9は日常生活の再結合です。
経過と治療 第一〜第三段階
第1段階
精神療法の基礎を築く安全な雰囲気を作り出す事です。
解離性同一性障害(多重人格)の診断がついたら、患者にその事を告知しなければいけません。ホスト人格がなかなか診断を受け入れなかったり、診断を受け入れない交代人格が居る事も多い様です。
治療はあくまでも患者自身の自発性によってなされるもので、患者もしくは治療者のどちらにも治療を中止する権利がある事を患者に理解して貰います。
その上で、治療の目標、治療の段階、催眠療法や集団療法などの併用、限界などを説明します。治療の主体は患者であり、患者が自己決定していく事が基本です。
第2段階:予備的介入
接近しやすい交代人格から接近していく事です。
治療の突然の中断、自傷、自殺などの患者が放棄したいと思っている行動について交代人格と協定を結ぶ事です。交代人格間でのコミュニケーションを育て、(治療に)賛同する交代人格を増やしながら、治療同盟を確立していく事です。
契約はホスト人格だけではなく、人格システム全体と交わす必要があります。
しかしこの段階で全ての交代人格と接触出来る事は稀です。この場合、トーキング・スルーと言う方法を用います。人格システム全体に呼びかけるのです。「全員聞いてください」などの前置きをしてから、伝えたい内容を簡潔に述べるのです。
こうする事は、治療を人格システム全体に対して行うと言う治療者の態度を患者に印象づける効果もあります。この段階で必要な事は患者がひとまず落ち着く事です。その為には交代人格間の内部のコミュニケーションを促進し、様々な選択を人格同士の話し合いによって決定していく事です。
コミュニケーションを促進する方法には、日記や掲示板などを書くと言う事があげられます。こうする事は、健忘のある時間帯の行動を後から理解するのにも役に立ちます。
第3段階:病歴収集とマッピング
交代人格、その起源、人格同士の関係についてより多くを学ぶ事です。この段階では交代人格の5W1H、つまり、交代人格の名前、出現した年齢と現在自分が感じる年齢、出現し存在し続ける理由、患者の生活史の中での関係と位置、特別な問題、機能、関心事などです。
一般的に、健忘の為患者名一貫した生活史を話す事が出来ません。通常、失われた生活史の部分は別の交代人格が保持しています。
交代人格間の内部コミュニケーションが活発になり、多くの交代人格と治療者との交流が進むにつれて、生活史の空白が埋められていきます。その中で、各人格の起源や役割などがより明らかになっていきます。
精神世界内での交代人格たちがどの様な関係で存在しているのかを図式化する事をマッピングと云います。
どの様に図式化するかは自由ですが、全交代人格がその中に描かれている事が大切です。マッピングは経過とともに変化していきます。治療が進むと、人格同士の共有部分が多くなっていきます。空白部分があれば、隠れている交代人格の存在を疑います。
経過と治療 第四段階〜第六段階
第4段階:心的外傷の消化
原因となる体験に接近し、解決しようとする段階です。
病歴収集を行っていく過程で、心的外傷の全貌は少しずつ明らかになっていきます。ある外傷的出来事の記憶が強い感情を伴って意識に浮上し、その心的外傷を再体験する事があります。これを除反応と言います。
外傷的出来事を連想させるような外部からの刺激(テレビや人の会話など)によって、除反応が誘発される事もあります。除反応を治療的なものにする為には、心的外傷が何であったかを理解し、それに纏わる感情を表現する事が大切です。
心的外傷を触れる前に、体験をできる限り時間の流れに沿って整理します。交代人格間で記憶を分けて持っている事があるからです。
混沌とした外傷的体験を秩序化した後、その内容について十分に面接で取り上げます。そうする事で患者はその時の感情はなんだったのか、どう言う意味があったのかと分かります。
しかし、真実を知る事は辛い事でもあります。そして外傷以前の自分が本当に取り戻せない事を知ります。その喪失感情を受け入れる為には、悲嘆し、喪失感を体験する事が必要でもあるのです。その過程を経て、心的外傷は少しずつより大きな生活史の一部となっていきます。
心的外傷の消化とはこのような過程で行われます。
第5段階:統合-解消への動き
交代人格を通して快復した記憶の材料を経験していく過程です。
また、交代人格間のコミュニケーションが増し、多くの内部葛藤が減少、解決されていきます。交代人格たちは個別的であったそれぞれの性格の違いをぼかしてみせるようになります。同一性の混乱(わたしはAとBの両方だと思う、など)を体験する事もあります。
通常、心的外傷の塊はひとつだけではありません。除反応を繰り返し、大きな外傷体験をひとつひとつ処理していく事で、記憶の空白をなくしていきます。
除反応後、迫害人格や問題行動を起こす人格が不活発になる事もあります。交代人格間の葛藤も少なくなります。
患者の視点は生活自然体に一貫性を見いだそうとします。マッピングでは、各交代人格間の共有部分が増えていきます。健忘が少なくなり、意識を共有することが多くなっていきます。そのうちに、人格間の解離障壁が取り払われて、自然な融合を起こす人格も出てきます。
この多重人格システムから、単一人格システムへ移行は、ある種の不安定さを伴います。精神内の大変動であるとともに、回復する事への寂しさ、不安があるからです。
今まで悩みの種だった症状は軽快していき、自分がよくなってきている事を自覚します。それに伴い、現実に直面していく事、将来への不安などもでてきます。
「病者としての自分への別れ」です。
第6段階:統合-解消
解消とは、それぞれの同一性は残しながらも、交代人格間の解離障壁がなくなって、円滑に人格システムが機能する状態です。しかし、それぞれの交代人格は分離したい時には何時でも分離できる状態でもあります。
統合とは、二つ以上の同一性をひとつにあわせて、単一体にする事で、融合とも云われます。
統合は、まず、統合したいと言う交代人格の意思を確認する事から始まります。交代人格は自分と云う存在が消滅するのではないかとの不安も抱きます。ここで、統合によって、決してどちらかの交代人格が消えてなくなると云う事ではないと云う事を理解して貰います。
また、統合は永遠に続くのではなく、ストレスがかかれば再分離する可能性もあります。
人格の統合は続けられていきますが、最終的に患者の人格システムが単一か、いくつかの交代人格が共存するシステムと取るかは、患者自身が選びます。
経過と治療 第七段階〜第九段階
第7段階:新しい対処技術の学習
解消や統合は治療のゴールではありません。統合後の状態はとても不安定で、強いストレスがかかると再分離する可能性もあります。
今までは危険な事があると、それぞれの交代人格が担当していましたから、ひとつの人格としての行動を身につけていかなければなりません。かつての友人・知人と疎遠になる事も多く、一方、新しく出会った人と親密になっていったりもします。
このような人間関係の再編成も行われます。
第8段階:獲得したものの定着化
対処技術が磨かれ定着していくにつれ、再分離の可能性は遠ざかります。しかし、自分自身の「個性」に直面します。
今までは、交代人格の中に存在していたその人の個性が、ひとつのかたちとなっていきます。治療も心的外傷から、葛藤へとテーマが変わっていきます。
第9段階:フォローアップ
長期的には再分離の可能性はあります。統合したと思われたが、未接触の交代人格が潜んでいたりする場合もあります。
取り敢えずここで説明は終わりです、お疲れ様でした。
since 1999- (C) yushi All rights reserved.